黒鴉と親殺しの神 (更新停止中)   作:ウィキッド

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王の軍勢

「キャスター!」

 

 落ちた彼女に駆け寄る。幸いにもライダーは攻撃をせず、ただこちらを眺めているだけだった。そのおかげで無事にキャスターの下にたどり着くことができた。

 そのままの勢いで滑り込み、彼女の体ごとライダーから離れる。体が擦れて血が噴き出たが気にせずに今はとにかく距離をとる。

 

「おい、大丈夫か!?」

「うっ……」

 

 ある程度離れ、腕の中で横たわる彼女に声をかける。

 息はある、ただ安心はできない。彼女の体は血まみれ、腕はありえない方向に曲がり骨が折れていることがわかる。服も一部が破れボロボロだ。だがそこに色気はなく、見えた肌も痛々しいほどの青い痣になっている。

 

「ふふ、アバラが数本……逝っちまったぜ」

 

 せき込みながら血を吐き出す彼女を見て少し安心する。少なくとも冗談は言える力はあるらしい。

 

「ふざけているのかマジなのかわからないことはやめい」

 

 急いで最後のエーテルの欠片をキャスターに使う。

 青白い光と共に彼女の体の傷が徐々に治っていく。完治したとは言えないがいくらかマシになったのだろう。痣は消え、骨も元に戻ったらしく腕を振って調子を確かめている。

 

「それで? まだやるのか」

「いえ、これでもう私の作戦は終了しました」

 

 つまり、撃退の準備ができたということだ。肩を貸して彼女を立たせる。

 

「貴方の戦車。弱体化してますね」

 指さされて指摘されたライダーは答えない。だが続ける。

 

「本来だったら最初の突撃で私の体は爆散、グロテスクな姿をお見せすることになったでしょう。ですが私は生きています。瀕死に近い状態ではありますが」

 

 ライダーに対して数度の突撃をした彼女はボロボロだ。だが、死んでいないのだ。宝具に対して強化した状態での衝突、それを繰り返したのに死んではいないのだ。つまりは宝具である戦車も大幅に弱体化しているということがわかる。

 

「それで? 余の戦車が本来の実力を出せていないから先の決死の突撃で破壊しようと? さすがにそれは甘く見過ぎというものだ」

 

 しかしその事実を突きつけてもライダーは鼻をならし心外とでも言いたそうに眉間にしわを作る。

「ええ、先ので仕留められるほど貴方を甘く見ていませんよ征服王。ですから細工をさせていただきました」

「なんだと?」

 

 驚いたように眉を上げるライダーに彼女はにっこりと笑みを浮かべ応え、胸の谷間から一枚の札を取り出し軽い口づけをする。その後、唇を離し、札をライダーに向ける。それはまるで剣を向ける騎士のふるまいのようだ。

 そして札が燃えると同時に戦車の周囲に魔力が渦巻くのが見えた。そのうねりが一段と大きくなるのと彼女が叫んだのは同時だった。

 

「結べ!! 封界! そして、せっつだーん!!」

「なんとっ!?」

 

 ライダーの戦車の前方と後方。その両方から二つの光が溢れる。直後、その光から二枚の札の間に光線が走る。そしてその光線は戦車を貫通しながら上昇し、光が戦車を通り過ぎる頃、線は壁となって停止した。当然、戦車は底から荷台まで無惨にも切断された。

 

  これがもう一つの作戦。正確にはメインの作戦といえるだろう、戦車の破壊だ。

 彼女の話してくれた封界の性質は間に挟まれたものは容赦なく切断される、所謂ギロチンという奴だ。確かに強力なものだがその術を発動させるにはライダーの戦車に対照になるように札を張り付ける必要があった。

 だがそれは困難なものだ。わざわざ接触すれば危険である戦車に近づき札を貼り、そのうえでライダーに察せられないようにしなくてはいけないのだから。

 そこで俺とキャスターは一つの作戦を考えた。

 内容としては簡単なものでキャスターに対して現在できうる限りのスピードで戦車に突撃して札を張り付けるものだ。ただしライダーにバレないようにするという条件をクリアするために全力で戦車を破壊しに突撃する必要があった。当然、普通のままでは耐久Eの彼女は持たないだろう。そこで俺が強化を施すことによって僅かながらも持たせるようにしたのだ。

 流石に最後の突撃は肝を冷やされた。完全に意識を飛ばしていたようだったからな。

 

 作戦といってはおざなりなものだったが手数が少ない俺らにしては十分な出来だったともいえる。ライダーも巻き込まれてくれれば御の字だったが流石にそれは望み過ぎたようだ。

 

「ふむ、まさか余の戦車が破壊されるとはな」

 

 彼は異変を感じた瞬間に切り札である戦車から飛び降り、生き延びた。その状況判断の早さに驚き、俺はより一層気を引き締めた。

 だがキャスターはそうではなさそうだ。

「さて、流石に使えないでしょう?その戦車。それとも貴方自身がその牛に乗りますか?」

 完全にガラクタと化した戦車を指さし煽りの意味を含めてキャスターは笑みを深くする。短いながらも彼女の性格、行動および言動を見てきた俺の勘が告げている。――調子に乗っている、と。

 まずい、嫌な予感がする。なのでキャスターに忠告しようとするとライダーが動いた。

 

「なるほどな。確かに絶体絶命の状態に余はある」

 

 そう言い戦車を労るように荷台に手をのせる。すると光の粒になって戦車は跡形もなく消え去った。だがその表情に焦りが浮かぶ様子はない。むしろ予想だにしない強敵とまみえたことに楽しんでいるようにも見える。

 

「だが、甘く見るなよ? キャスター」

 

 押しているのは、相手の攻撃の要だった戦車を破壊したこちら側のはずだ。それなのにこの危機感はなんなのだろう。むしろこちらが追い詰められているこの焦燥感は。

 その答えはすぐにやって来た。

 

「……最悪」

 

 キャスターの呟きに同意する。自分たちには本当に運がない。

 

「肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち」

 

 そんな俺らの心情を余所にまるで呪文のように呟くライダーの周囲に魔力が集まっているのが自分にも見える。その魔力の塊がライダーを中心に風を巻き起こす。

 

「時空を越えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち。幾千もの盟友との絆こそ我が至宝! 我が王道!」

 

 離れているにも関わらずこちらの体を震わせられるように感じるほど強い、雄叫びにも似た呼びかけ。大きく腕を広げ見えない何かに歓迎の意を示すかのような笑みを浮かべてそれは発動した。

 

「イスカンダルたる余が誇る最強宝具――『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり!!」

 

 そして光と共に――世界が書き換えられた。

 

 

 決戦前のライダー対策についての出来事、こんな話し合いもしたことを思い出す。

「ライダー戦ではあの戦車を撃破することが勝利へのカギです」

「ああ、だから今その作戦を考えているんだろ?」

 

 それでようやく成功する可能性が高い作戦を思いついたところだ。

 

「ですが、一つ問題があります。下手をすればライダーが使用できる宝具は一つじゃない場合です」

 

「ああ複数の宝具所持者ということか。確かにそれは俺も考えていた。実際、どうなんだ?」

 

 宝具はその英霊の象徴だ。ゆえに逸話の数によって宝具の数が異なる。有名なものであれば強力で、量も多いだろうし、逆にそこまで有名でなければ性能は劣り、数も少ないだろう。

それが俺が知っている宝具についての知識だ。

 より深い知識を持つであろう同じ英霊であるキャスターに聞いてみるが彼女は困ったように唸っている。

「正直に言いますと複数あるかどうかすら想像がつきません。……ガラスの樽とかですかね」

 

 ガラスの樽。たしかライダーことイスカンダルは海底の景色を見たくて透明な硝子の樽に入って部下に沈ませたという逸話がある。だがそんなものが宝具になるだろうか?まして宝具になったところで戦車を超えるものではない気がする。

 

『余の宝具を受けてみよ!!』

 

 そう言いながら俺とキャスターに突っ込んでくるライダー(in樽)。そして爆発。……なんだこれ。自分で想像しておいてなんだがこれはない。こんなものが宝具とか認めたくない。というよりこれを宝具として認めてしまったら色々な英霊から怒られる気がする。

 

「まぁ、想像がつかないので考えることはやめましょう」

 

 そんな俺の想像をよそに煎餅にかじりつきながらも真剣そうな眼差しを俺に向ける。

 

「ただ、これをライダーが切り札として隠し持っていた場合。それは神威の車輪を上回る性能でしょう。そのことだけは覚えておいてくださいね。――隠し持つ切り札っていうのはたいてい逆転が容易に起こせる力を秘めたものですから」

 

 彼女に息をのんでしまいそうなほどの真面目な声色と顔で警告される。かと思えばすぐにほにゃっとした柔らかい笑みに変わった。

 

「まぁ、こうフラグをいっぱい立てておけば折れるでしょ」

「現実と二次元を一緒にするなよ」

 

「これは……固有結界?」

 

 照りつける太陽、先程とは違い、元々の決戦場よりも広大な砂漠。岩のような遮蔽物ごと書き換えられて現れたその光景に口を開きながら呆然とみていた。

 

「黒野くん!手を!」

「っ!」

 

 名前を呼ばれ伸ばされた手をとり、上空に引っ張りあげられる。軽い浮遊感と風に驚く、がすぐにその驚きはさらなる驚愕によって簡単に塗り替えられた。

 つい、偶然下に視線を向けてしまったからそれは目に入ってしまった

 

「「「「「然り!! 然り!!」」」」」

 

 大勢の兵士の叫び、その熱に、迫力に恐怖し意識が遠のきそうになる。もう負けたと思ってしまいそうになる、心が折れそうになるその瞬間――

 

「えいやっ」

 

 バチンという乾いた音と共に鈍い痛みが頬に襲い意識が少しもとに戻る。まだおぼろげな意識でとらえたのはどこかで見たような、見とれたような深紅の瞳。その二つの赤がこちらを覗き込んでいる。

 

「きゃす、たー?」

 

 絞りだせた声に瞳の持ち主、キャスターは安心したように息を吐く。

 

「しっかりと集中してください。呑まれてましたよ」

 

「これを持ってれば少しはましになりますから」と赤い札を額に張られる。すると氷が溶けていくような感覚と共に落ち着いてくる。なにかのまじないだろうか。ぺりりと額からはがして胸ポケットに札をしまい、キャスターに礼を言い落ち着くために深呼吸する。

 

 状況を整理しよう、ライダーの戦車は無事破壊した。これで第一の目標は達成した。戦車が復活しないことから再発動は行えない、もしくは行える魔力がライダーには残っていない。

 そして新しく展開されたこの宝具。形式としては固有結界、兵士を多く召喚し、微細な変化だが決戦場にも障害物が消失するなどの書き換えが起きている。戦車を失ったライダーには新しく黒い馬が召喚されある程度の機動力が戻ってしまった。こんなところだろうか。

 視認できる限りでは兵士の数は百人近い。圧倒的な数の差、まるで大波に立ち向かうような気持ちだ。

 

「予想外の展開ですねへタイロイ(マケドニアの重装騎兵戦士団)とは。可能性の一つとして考えてはいましたが、まさか固有結界という形で宝具になっているなんて思い付きませんでした」

「っていうとあのライダー、イスカンダルは生前魔術師だったってことか?」

 

「魔術師が全員こんなこと使えるわけではないです。それに、あの筋肉ダルマがこんな魔術、使えるものでもないでしょう」

 

 見た目から判断するのはどうかと思うが確かにあのライダーの容態では魔術の行使などとはほど遠いものだと思える。魔術師である彼女が言うならなおさらそう思う。

 

「それに……私の予想ではこの結界は……」

 

 固有結界とは術者の心象風景で現実世界を塗りつぶし、世界そのものを変えてしまう結界のこと。

特徴としては結界の形を思うままに決定できないこと、結界の内部の世界の法則は術者の心象世界を体現するが、術者のただ一つの内面を形にするだけであり、それを術者の意志によって手を加えて自由にはできないことがあげられる。

つまりは応用が効かず、必ずワンパターンになるのだ。また世界自身を書き換えると言う行為は楽なものではない。大袈裟にいうなら世界を作っているのと同意義なものだから。

 

 このため、維持には莫大な魔力を要し、大魔術師でも数分しか維持することはできないと言われている。だからこそ名のある魔術師にしか行使できないものだ。

 

「通常の人間による固有結界はほとんど無理なものです、まぁサーヴァントですが。どちらにしろ例外を除きよっぽどの魔力がないと維持は不可能です」

 

「だけど、ライダーは魔力をほとんど保有していないんだろ?」

 

 つまりはなけなしの魔力を絞って召喚したということだろうか? 

 

「だから、その間逃げ回って時間を稼ぎましょう。案外すぐバテルかもしれません」

 

 そう言い俺の体を一度中に投げ上げ落ちてきたところを腰に手を回されしっかりと抱えられる。

 

「……なんで俺もつかむんですかねぇ。しかもお姫様だっこ」

 

 正直足手まといにしかならない俺は離れていた方がいいと思うのだが。しかし彼女は無邪気な笑みで答えた。

 

「運命共同体でしょう? 私たち。なら死ぬのも生きるのも一緒に」

 

 一切の照れも感じていないように恥ずかしいセリフを難なく口に出す彼女にドキリとする。

 

「あとお姫様だっこ一度でいいからやってみたかったんですよ。本来だったら逆なんでしょうが世の中にはこういう趣味の方もいるらしいです。需要、ありです」

 

 一瞬、ほんとに一瞬だけだがときめいた自分がアホらしい。

 

「不安にならないでください、この高さにいれば」

 

 大丈夫、そう続けようとしたキャスターの頬を何か掠め、後に赤い線ができる。どうやら下からの槍による投擲らしい。

 

「前言撤回、案外気が抜けませんね」

 

 一ヶ所にとどまるよりも移動し続けた方がいいと判断したキャスターに抱えられ共に空を舞う。

 ――戦況はいまだこちらが若干の不利のまま動き始めていた。

 

 数分、数十分たった頃。俺とキャスターの体に段々と攻撃が当たり始めた頃だ。一つの不安が走る。

 

「まだか?」

 

 長すぎるのだ。正確な時間はわからないが予想していた発動時間はすでに過ぎているはずだ。なのにいまだ彼の兵隊は弱る様子も見せずにこちらを仕留めようと執拗に狙っている。ライダー自身も獅子のような眼光に衰えはなく、本当に魔力が少ないのかどうか怪しく思えるほどだ。

 キャスターも同じ疑問を抱いているようだ。

「おかしいですねぇ。ここまで長いはずは」

 

 キャスターが汗を流しながら動き回る。その動作は最初とは大違いでぎこちない。空を飛ぶというのは疲れを感じるのかどうか翼がない俺にはわからないが元々体を動かすことに不向きなキャスター。そのうえ俺という荷物を抱えているのだからその疲労は辛いものだろうことは想像に容易い。

 

「なぁ、一つ気になったんだが竜太がコードキャストを使えない理由って才能がないからだよな?」

「え、ええおそらく」

 

 乱れた息を整えながら答えるキャスターに俺の疑問を述べる。

 

「だったらライダーとのパスもうまくつながってないんじゃないかと思うんだが」

 

 俺の考えにキャスターは沈黙する。的外れなことを言ってしまったかと不安になるがそれこそ的外れだったようだ。

「確かにあるかもしれません。でも実際に固有結界を発動させています。固有結界(それ)は保有している魔力だけで長持ちするものじゃ――」

 思考の邪魔をするように兵士の攻撃がキャスターを襲う。それに対して堪忍袋の緒が切れたようにこめかみに筋を浮かばせながらキャスターは激怒した。

 

「ええい! ウザったい! こちとら考えてんですよ! 邪魔すんな! ……あれ?」

「どうした?」

 

 怒鳴り散らす最中、なにかに気づいたような様子の彼女に問う。

 

「あの兵士たちも固有結界の一部なんでしょうか?」

 

 固有結界は心象風景の具現化だ。しかしそこに『人』は心象風景に属するのだろうか?

 

「私自身固有結界を持つサーヴァントをあまり知りませんし数少ない該当者にも人を具現化している方はいませんでした」

「だとしたら固有結界を維持して、なおかつあれらの兵士を召喚しているってことか?」

「それはないです。魔力が持ちませんし」

 断言される。魔術の専門家ともいえる彼女が言うならば正しいのだろう。

 

「逆に考えてみるか?」

「逆に?」

「ああ、よくあるだろ? 詰まったら結果から考え直すって」

 

 地上で暇なときに読んでいた推理小説でもよくある話だ。推理が進まず行き詰ったときに探偵役が助手役に事件の解決への道を教えてくれていた際に使われていた推理方法。過程から結果を求めるのではなく、結果から過程を導きだす逆算的な考え方だ。

 

「固有結界が発動し、心象風景が具現化されると共に兵士が召喚されたのではなく、兵士が召喚されたから固有結界が発動した、と?」

 

 そうして呟きながら彼女はハッとなにかに気づいたように顔を上げた。

 

「――兵士が固有結界を作ってる?」

 

 キャスターは真剣な表情で俺を見る。

 

「黒野くん。私の考えを聞いてください。実際に指示をするのは貴方ですから」

 

 わかったと返事をし、続けるよう促す。

 

「ライダーの保有魔力ではあんなに大量のサーヴァントを召喚したうえで維持するなど絶対無理です。マスターからの補助もなしに近いですし」

 

 それはそうだ。魔術に優れているキャスターのクラスならばいざ知らず、機動力が優れている特性のライダーのクラスでは不可能なことだろう。

 

「だから最初の基盤だけをライダーが作り、そしてそこに召喚。正確に言うなら勝手に来ているでしょうかね。それで呼ばれてきた兵士たち一人一人が固有結界を維持しているんでしょう」

 

 つまり彼女はこの固有結界は兵士一人一人(・・・・・・)の心象風景が、具現化したものだと言いたいのだ。

 なるほど、それなら起動さえできたら維持は容易だ。なぜなら周りの兵士、つまり呼ばれた戦力が戦いやすい風景を作り出しているのだから。自分は魔力を提供する必要がない。

 

「というと周りを片付ければ」

 

 俺の結論に肯定の意を示すように首を縦にふる。

 

「固有結界は消えるでしょうね。たぶんライダーも2回目の発動はないでしょう」

 

 しかし問題があります、とキャスターは続ける。

 

「あいつらは全員サーヴァントです、弱いけれどもその力は紛れもない本物。逸話に違わない英霊です」

 上空からを見下ろしてみるとそこには蟻のようにワラワラとこちらに狙いを定めている兵士たちがいる。あれ一体一体がサーヴァント、考えるだけでゾッとする。

 

「だから、ライダー本人を叩くほうが勝率は高いと思いますがこれはあくまで私見、判断は任せます」

 

「できるのか?」

 

 自分自身ライダー本体を叩くこと、周りを叩くことのどちらの意味で聞いたのかはわからない。だが彼女は詳しいことは聞かずに一言つぶやく。

 

「さぁ? できるかもしれませんし、できないかもしれません」

 

 ……彼女自身の命もかかっているというのにまるで他人事のような言いぐさに怒る、怒るはずなのだが。緊張感からか不思議と冷静な思考を保つことができた。

 

「俺に考えがある」

「へぇ、言ってみてください」

 浮かんだ作戦をキャスターに伝える。すると彼女は少し焦っているようにうろたえた。

「い、良いんですか?黒野君の安全は保証できませんよ?その作戦」

「運命共同体なんだろ?俺ら。だったら俺もある程度の危険は承知で動かないと」

 

 決死の攻撃でライダーの切り札を一つ潰した彼女にこの程度の働きで報いることはできないだろうが、それでも自分も何かできることはしたいのだ。

「キャスター?」

 反応がない。さすがに自分でも恥ずかしいセリフを言った気もするが……何もないといたたまれない。というより顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

 

「ふ、ふふふ」

 うつむいた顔は前髪に隠れてよく見えない、が彼女は笑っているようだ。

「おーい?」

「はっ!」

 目の前で手を振っているとようやく意識がこちらに戻ってきたようだ。だったら早く作戦を開始しよう。

 

「成否はどれくらいだと思う?」

「五分ですね。うまくいけばライダーの固有結界を破壊できます。だけど失敗すれば――」

 

 敗北、つまり死ぬのだ。俺もキャスターも。だが、それがどうした。現状、これが一番勝つ可能性が高いのだ。

だったらそれに縋る。

 

「魔力を絞れば強化の数回はできるぞ? いるか?」

「それも任せます。最善を尽くして最良の結果を得てくださいね」

 

 少し疲労によって崩れているがいつものようににやけた笑みを浮かべた彼女に

 

「上等だ、そっちこそ見逃すなよ? 」

 

 不敵な笑みで返し――作戦を開始した。




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