黒鴉と親殺しの神 (更新停止中)   作:ウィキッド

12 / 16
兵どもが夢の後

「ライダー……」

 自らの口から自然とこぼれた声がサーヴァントを心配するような声で竜太は驚い自分のことながらも驚いていた。そこまで仲が良くはないのに。

 思えば彼との出会いは最悪だった。あの趣味の悪い予選を乗り越え、契約の場にたどり着いた際に自分の呼び出しに応えたのはライダーだった。

 

『小僧、お主が余のマスターか?』

『そ、そうです』

 

 何もない空間から大きな巨体が突然現れ腰を抜かしてしまうが威厳を保つためなんとか返事をする。目の前の男はこちらを見定めるように眺め、そして口を開いた。

 

『……お主は何のために戦う?』

『それは――』

 僕はなんと答えようとしたのかわからない。意図してない質問が来て虚を突かれたこともあるが、何よりも自分の中でその答えを模索するが出てこなかったことに驚いていた気がする。

 応えることができず、沈黙が続く。その様子に落胆したのか。はたまた憐れんだからか。ライダーは目を強く開き、怒鳴った。

『胸を張って言えないのならば余のマスターを名乗る資格はありはせん!』

 

 そう怒りの表情を浮かべた目の前の巨体は僕の額を弾いた。いわゆるデコピンというやつを食らわせられたのだ。痛みに額を押さえているとライダーがマントを翻す音が聞こえた。

 

『先は長い、今はただ余の背中を見ておれ。そうすれば見えてくることもあるだろうよ』

 

 その言いぐさに一言二言文句を言おうとしたがしなる指をみてこの場は同意しておこうと決めた。それに、自らが何のために戦うのか、それを見直したい。そう思ったからだ。

 

 

 髪を力強くかきむしる。あぁ、またイラついたときにでる悪い癖が出てきている。兄にも注意され、地上での監視員にも注意されたことだが癖とはなおらないから癖なのだ。幸い、地上での薬剤投与の副作用からか興奮時は痛覚はないに等しいものとなっているのでなにも感じずただ肉がはがれていくだけだ。

 爪に溜まった赤黒い肉を見て舌打ちをする。深く入り込んでしまっていて取れそうにない。見た目が悪く、不快に感じる。

 

「小僧!見ておるか!」

 

 ライダーのデカい呼びかけに顔を上げる。アリーナでもよくあったことだがこのサーヴァントは自分を見ているかの確認をしてくる。自己顕示欲が強いのだろうか?

 

「ええ、見てますよ」

 

実際は見ていないが状況が一切動いていないので問題はないだろう。適当に返事をする。

そもそもライダーの宝具、アイオニオンへタイロイを展開してから黒野さんとそのサーヴァントは上空に移動したっきり降りてくる様子はない。おそらく固有結界の時間切れを狙っているのだろうか? 

 だが、それは無意味だ。なぜならこの宝具を維持するために使われる魔力はほとんど必要ない。僕自身聞かされたときは驚いたが、この固有結界は兵士たち一人ひとりが維持しているというのだ。英霊の座に直接ライダーが呼びかけるために展開するときの魔力はそれなりに食うらしいがそれだけだ。

 召喚した際はいきなりマスターに攻撃をする変なサーヴァントを引いたと嘆いたが宝具の詳細を聞いた際には当たりだと喜んだ。

「まぁ、僕に才能があればもっと呼び出せたんだろうけど」

 自虐ぎみに笑う。現在ライダーが呼び出せている兵士の数は100に届くか届かないかだ。本来ならば数千以上もの兵士が呼び出せるらしいが僕の実力不足、そしてなによりムーンセルからの制限によって大分弱体化している。最低限結界を維持できるようにはできているが実際の性能の10分の一も出せていないのではないだろうか。

 ――だがそれでも強力なものであることに変わりはない。

 宝具の一つである戦車を破壊されてしまったときは大分焦ったがこの宝具があれば大丈夫だと言うことを肌に感じるこの張り付くような圧力から再確認できた。

 

「さて、どうするんでしょう?」

 遥か上空ではキャスターが黒い羽を羽ばたかせながら飛んでいる様子が見える。その顔色まで見えないが恐らく焦っていることだろう。その証拠に彼女は上空から降りてくることはなく、また魔力が尽きたのか攻撃もしてこない。

 確かにスピードは驚異的なものだ。だがそれでも疲れが出始めたからか段々とキャスターに攻撃が当たり始めている。このまま時間を無駄にしていけば先に崩れてしまうのはあちら側だろう。黒野さんも、何よりキャスター自身がそれくらいは理解できているはずだ。

その時だ。

 

「キャスター!!」

「疾っ!」

 

(落ちた?)

キャスターが黒野さんを勢いよく地面に落とした、いやあの速さでは投げ捨てたといってもいいかもしれない。当然その速さではマスターは無事ではない。あり得ないだろうが仲間割れでもしたのだろうか?

「っぷ」

 考え事をしていたために砂煙をまともに食らい、口の中に砂が入ってしまう。だがそんなことはどうでもいい、今は黒野さんだ。

 ライダーの固有結界によってできるのは砂漠のように辺り一面砂の平野。これでは決戦場と変わりがないではないかと思うが、完全に遮蔽物がなくなるなどの違いができる。それだけかと思うがこれが結構重大な違いになる。なぜなら障害物がなく結界内には果てもないということは隠れることを許さず大量の兵士によって袋叩きができる状態なのだ。

 だが砂煙が晴れて現れるはずの彼の姿がどこにもない。周囲を見渡す。当たりには腹が立つぐらいの青い空が広がっているだけだ。

 

「小僧!」

「え?」

 

 今までで一番緊迫したライダーの声を聞き急いで前を向くとそこには雷を帯びた札が迫っていた。呆けた声を出すことしかできなかった自分には当然その攻撃を避けることなど到底無理なことで。

「っ!」

 反射的に顔面をかばう。しかし――

 

「やっぱりマスターは狙えませんか」

 

 その言葉とともに恐る恐る目を開くと目の前にムーンセルによる障壁が展開されていた。札は眼前数センチで固定され消滅した。

 ムーンセルのルールでは決戦時にはサーヴァントは敵マスターを狙うことができないと定められている。それが範囲攻撃や偶発的なものにも対応されるかはわからないが少なくとも今回の彼女による攻撃は防いでくれたようだ。

「ふん、逃げるのをやめておとなしく首を差し出す気はないのだな?」

「ええ」

 

 そうして意地の悪い笑顔を浮かべたキャスターが札を数枚とりだす。それが示すことは徹底抗戦ということだ

それに答えるようにライダーも大剣を向ける。

 距離はおよそ百メートル弱。遠距離からの兵士による投擲は遠距離が主体の彼女には防がれてしまうだろう。だが近距離の大勢による攻撃は躱すことも、防ぐことも難しいのではないだろうか。

 

(自棄にでもなったか?)

 

 対抗手段がないからまぐれによるラッキーパンチを狙っているのだろう。だがそれはもうこちらが勝ったも当然ということだ。僕のサーヴァントライダーはそんな破れかぶれで倒すことができるほど弱くない。

 しかし僕とは違い経験が豊富であるからかキャスターの行動にライダーは警戒の色を強くする。

 

「……貴様、何を企んでいる?」

「さぁ? あれやそれや言えないことを企んでるかもしれませんよ」

 

 軽口をたたくキャスターは上空からこちらを見降ろし、降りてくる様子はない。安全地帯で攻撃を続けるようだ。色とりどりの光を放つ札が彼女の周囲を旋回している。

――ザクリ。

 不意にそんな音が聞こえ後方を見てみるがそこには何もない。風の音だったかそもそもそんな音すら幻聴だったのだろう、砂でも入って聴覚が弱ってしまったからかもしれない。耳の穴をひとほじりした後キャスターに視線を戻す。

 それにしてもキャスターは口ぶりに対して後がないように見える。札を用い術を発動こそしてはいるが一発一発に火力がほとんどない。放つ光は強いが兵士たちが直撃してもかすり傷を負うぐらい程度の物しか使っていないのだ。考えられるのは魔力不足によって強い魔術を発動できる余裕がないということだろう。だったら放っていてもいずれ落ちる。だが違和感が残る。

「……まるで合図を送っているような」

 いちいち札を光らせる必要はあるのだろうか? 大した威力もないのに大げさに光ってないか? などいくつもの違和感が浮いてくる。だがその思考を遮るように、状況が動いた。

 

「痛っ!」

 

 一本の槍が彼女の翼を貫き悲鳴を漏らす。彼女はバランスを崩し、地面に不時着する。着地の際に切ったのか頭から血が流れ出ている。

 満身創痍。片膝をついて息を荒げている彼女を見てこれで終わりだとほくそ笑む。彼女はもう空中に逃げることはできないだろう。恐らく魔力も底をつき、戦うことはできない。まさに翼をもがれた鳥のようだ。

先ほどの違和感も気のせいだろう。そう勝ちを確信した瞬間、

 

「――キャスタァアアッ!!」

 

 唐突に響く叫び声、発生する場所はライダー率いるへタイロイの少し後方。僕よりもほんの少し離れたその場所で黒野さんの声が聞こえた。

 振り向くと、黒野さんが大きく手を振りながら叫んでいる。その様子、その声に一瞬、ほんの一瞬だが周囲にいる人物は気がそれた。一人を除いて(・・・・・・)

「まずい!」

 ライダーがその行動の真意に気づきキャスターに肉薄しようとした瞬間、すでに彼女はいたずらっ子のような幼い笑みと共に印を結んでいた。

「呪法、流星」

 

 静かな宣言と共にライダーとへタイロイたちがいる地面が光る。その輝きは何処か既視感がある。これは、アリーナでの対決でのものだ。

 思い出すと同時に光弾がライダーと兵士たちを襲う。回避することができずに、そしてあまりの衝撃に耐えられることもできずに歴戦の兵士達は吹き飛ばされる。響き渡る轟音と共に兵士たちの悲鳴が上がる。

光弾の量も大きさもアリーナの時に見たものとは比が違う。当然威力も段違いだろう。打ち上げられた兵士たちは光の粒になって消えていく。その消失は本来ならば微々たるもので何の影響も与えられないものだろう。だが今のライダーの弱体化している、僕がマスターである今ならば致命的なものだ。

 固有結界の維持に必要である千人も届かない兵隊の半分が消滅する。つまりそれはどういうことかというと、

「どうやら終わり、ですね私達の勝ちです。ライダー」

 景色が、ライダーの固有結果が音を立てて崩れた。

 ――それが答えだった。

 固有結界が崩れる。それはライダーの敗北を表しているようなものだ。宝具は完全に破壊され、あれほどいた兵隊たちもライダーを除きすべて消え去った。

「上手くいったな」

 

 辛そうなキャスターのそばに駆け寄り肩を貸す。

 

「ええ、ですが倒せませんでしたね。すいません、いい作戦だったのに」

 彼女はそういうが実際に俺が立てた作戦は簡単なものだ。

 

 彼女の持つ術の中で一番広範囲の技は流星だ。しかし彼女が言うにはこの術には四枚の札が必要であり、なおかつ威力を出すならば札同士の距離を開ける必要がある。その代わり距離が長いほど威力も大きいものになり彼女の見立てではそれならへタイロイを潰すことができるかもしれないとのことだ。

 だがわざわざキャスターが札を配置することはライダーたちが許さないだろう。だから俺の出番だ。勿論いくらマスターに攻撃ができないといっても完全ではなく、一人で動くことは危険を伴う。そこで礼装の”姿消しのマント”を使ったのだ。

 氷室からもらった礼装によって作成したこれは見た目は成人男性の背中にフィットするぐらいの大きさのマントだが、身に着ければ姿を隠すことができる効果を持つ優れものだ。キャスターに砂煙で視界を隠すように大げさに地面に投げ飛ばすよう指示し、周囲の視界が晴れるよりも早くマントをまとい、姿を消す。あくまでも消せるのは姿と気配だけなので音を立てないように慎重に動く必要があったがどうやら気づかれることはなかったようだ。

 そしてそのまま兵隊たちを囲うように四枚の札を配置する。細かい配置場所はキャスターが札を光らせ教えてくれたので難しくはなかった。その配置が終了したと同時に、周囲の気を引く意味と合図の意味を込めて大声で叫ぶ。あとはキャスターが溜めていた魔力をすべて開放して流星を発動させれば超特大の攻撃が出来上がる。これが一連の流れだ。

 成果としてはライダーを含めて致命的なダメージを与えることが出きたのだから即興の作戦にしては上出来ではないだろうか。

 これでライダーは宝具を使うなら再展開しなければいけなくなる。当然魔力はまた新しく用意する必要があるだろう。だがそれは今の弱体化したライダーでは無理だ。

 ライダー自身も傷を負い愛馬も消滅し、自慢のマントも所々穴が開きボロボロになっている。こちらの損傷としては俺は投げつけられた際に足を痛めてしまったが折れてはいない、軽傷だ。

 不安要素としてはキャスターがまともな術は使えないかもしれないぐらいに弱っていることだがそれは相手も同じだろう。

 ライダーの攻撃が当たるよりも早くキャスターの攻撃で倒すことができれば勝てる。逆にライダーがキャスターの攻撃に耐えきることができてしまったら待っているのは言うまでもなく死、だ。

 

「ライダー、ここまでです」

 竜太が悔しそうにうつむきながら降参するよう促す。それにライダーはゴツン、と拳を鈍い音を立てながら竜太に突きたてた。

「小僧、お主は今まで余の何を見ていたのだ」

 涙目を浮かべながら竜太は呆け気味にライダーを見上げる。その姿を見てライダーは頭をひと撫でし、キャスターに向き直る。

「もう勝負は決まったようなものなのにまだ挑むのですか?」

「自らの欲望を理解できていない、夢を持たないわっぱが余の後ろに控えておるからの。ならばそのきっかけを作るのが余の王としての使命だからな!」

 

相も変わらず人懐っこい笑みを浮かべるライダー。その姿をみてキャスターは笑うことはなく真剣な眼差しでみている。俺は彼女が言う前に距離をとる。

 

「では行くぞっ!! キャスターよ!」

 勝ち目のない目前の敵に立ち向かっている。その姿に微塵の恐れはなく、躊躇いもない。搦め手もなく、ただ一直線にキャスターの首を刈り取ろうとする。その姿はまさに逸話通りの英雄そのものだ。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 肺の中にある空気をすべて出すように大声を出し自らを鼓舞させながら走る。相対するキャスターは静かに扇を構える。

 ライダーがキャスターに剣を振り下ろすかどうかのその刹那、風を切る音を聞こえた。動作は見えない。しかし、扇を振り終えた姿のキャスター、ライダーに三本の太い赤い線が走ったことから何が起こったのかを理解した。そして理解したと共に刻まれた線から鮮血が飛び散った。

 

「見事だ、蹂躙の王よ。そなたの健闘、そして散り行く様。私は忘れることはないだろう」

 

 彼女の言葉のわずかあと、ゆっくりと、だが確実にライダーの体は崩れ落ちる。

 ――それは同時に一回戦の勝者が決まった瞬間だった。




今回も粗いので後日修正いたしますが大幅な変更点はございませんのでご安心を。
感想、アドバイス等ございましたらお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。