天は歩む。桃源郷へと   作:十三

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登場人物 その①

・天城黎(アマギ レイ)
 本作主人公。ソウルデヴァイス「アメノハバキリ」適合者。
 テンションが高い熱血系主人公……という訳ではなく、客観的に物事を見る目に長けており、《適格者》としての戦闘能力は高い。
 所属は《ゾディアック》。東亰大学の3年生。


・佐伯吾郎(サエキ ゴロウ)
 本作準主人公。原作とは違い恋人が死んでいないためノリが歳相応。ソウルデヴァイス「アーク=トリニティ」適合者。
 肉体的に天性の才を持つレイとは違うものの、飲み込みが以上に早い為、同様戦闘能力は高い。
 所属は《ゾディアック》。東亰大学の3年生。


・蒔那双葉(マキナ フタバ)
 ゴロウの彼女。《適合者》ではないが、ゴロウと心身ともに支える良妻。女神枠。この作品の良心。







大学生編
何てことはない賑やかな日常


 

 

 

 

 

 

 

「なぁゴロウよぉ、最近俺マジでタバコ止めようと思ってんだけどさぁ。なんかこう、良い感じの禁煙方法ねぇかなぁ」

 

「それは現在進行形でタバコ吹かしてる奴の言う事じゃないよなぁ。腹いっぱい食べた後にダイエット宣言するくらい今のお前の言葉には価値がないぞ」

 

「的確に心抉ってくるの止めろよ……というか俺と並んでタバコ吹かしてる時点でお前も同罪だからな」

 

「フタバに言いつけたら俺もサラとクレアに言いつけるから問題ないな」

 

「これ絶対どっかから綻びが出る共犯関係だな‼ 俺は詳しいんだ‼」

 

「落ち着けよヘビースモーカー。頭にニコチンが回ってるぞ」

 

「1日で5、6本程度しか消費しない奴がそう呼ばれたら世の中のどれくらいの喫煙者がヘビースモーカー扱いされるんだろうなぁ」

 

 そんな事を言いながら、レイは随分と短くなったタバコを喫煙コーナーに大量に設けられていたスモーキングスタンドの中へと放る。

 空を見上げれば、広がるのは雲一つない青空。3月の外は未だ厚着をしなければ寒々しいが、それでもこの引き締まるような感覚は嫌いではなかった。

 

 くぁ、と一つ欠伸を漏らしながら、レイはいつものようにゴロウと並んでキャンパス内を歩いていく。昼明けの3限が終わった後に喫煙所の一つで落ち合うのは既に習慣じみたものになっていたが、良く考えなくても暇人の行いである。

 

「そう言えばレイ、お前今日は3限までだったよな」

 

「うーい、正直1限から必修ある日はクソみてぇにダルいから午後の授業とか死んでも出てやらん」

 

「お前本当に執念燃やすべき場所間違えてるよ……でもお前の事だから単位の取得ミスとかはないんだろうなぁ」

 

「当然。自分が学びたいものを最大効率で吸収して後は好きにできるのが大学生活の良いところだからな‼ というか単純に効率化プレイが好きなだけかもしれんけど」

 

「お前にレベリング型RPGやらせたら本当に効率作業しかしないからな……」

 

 馬鹿野郎、と、レイは心外だとでも言わんばかりに吾郎の言葉を否定する。

 

「確かに俺は効率厨なところはある、そこは認めてやろう。だがガチじゃない。ガチな効率厨ってのはアレだ、クレアみたいな奴の事を言うんだ。初見でガチメタプレイが出来るアイツに比べたら俺なんぞ生温いわ‼」

 

「海外のガチ天才と同じ土俵に立たせたら可哀想だという俺なりの温情だったのが気付かなかったのか。……彼女のアレは若干未来視に突っ込んでるから別物だろ」

 

「最近そのガチ天才の影響がお嬢にまで波及しかかってんのが怖いんだよなぁ……あのままお嬢が悪影響拾い続けたら中学生くらいからとんでもねぇ黒幕系女子に変貌するぞ……」

 

「あんまり考えたくないよなぁ」

 

 世話になっている組織のトップが一番溺愛している孫娘がいずれとんでもない腹黒系女子にジョブチェンジする様は見たくないという共通見解ができたところで、二人は目的の場所の扉の前に立っていた。

 多少広さこそあるが、何の変哲もないただのサークル室。既に室内の電気は付いており、いつも通りの動きでドアノブの近くの電子ロックを解除する。

 

 

「おいーっす、おつかれーっす」

 

「相変わらずそのチャラいコンビニ店員みたいなノリはどうにかならんのかね……あ、お疲れさん」

 

 さみぃなぁと呟きながら首に巻いていたマフラーを取ると、傍に設けてったハンガーに雑に引っかける。そしてそのままソファーに全体重をかけるようにして座り込むと、突然準備室に繋がる部屋の方から少し冷えた缶コーヒーが投げ込まれる。

 それを視線を向けずにキャッチしてプルタブを開けると、お道化たような適当な拍手が聞こえてきた。

 

「お見事。今度こそは顔面シュートかと思ったんだけどなぁ」

 

「お前後で一秒十六連斬の刑な。良かったな、師匠直伝の悪ノリ技だから苦しまずに逝けるぜ」

 

「顔面に缶コーヒーをぶつけようとしただけなのに対価として処刑されるとかお前相変わらず頭おかしいな‼」

 

「我が家の家訓は『受けた恩は倍返し、受けた仇は千倍返し』だからな」

 

「修羅の家系過ぎる……」

 

「お前の先祖ってもしかして島津とかいうジャパニーズ・ウォーモンガーの系譜だったりしねぇの?」

 

 流石にそれはねぇよ、と思いながらも、自身の両親の武力チート具合を見るにどこかしらで血が混ざっていてもおかしくはないと思ってしまうあたりは末期なのだろう。

 馬鹿馬鹿しいと思いながら一気に缶コーヒーを呷ると、それを投げつけてきた同期の脱色した銀髪の青年の方を見やる。

 

「つーかクロウ、お前4限出じゃなかったのか? 油売ってて良いのかよ?」

 

「生憎と教授が昨日オイスターバーで生牡蠣一気食いして腹下したから休講だとよ。アホみてぇだから教授の研究室の机の上に嫌がらせで腐ったサザエ放置してきた」

 

「明日臭い凄ぇだろうなぁ、研究室」

 

「ゼミ生も大爆笑してたし問題ねぇだろ」

 

 くつくつと笑いながら、クロウは額に巻いたバンダナを軽く押し上げる。

 

「サラとクレアは?」

 

「昼食い損ねたから売店行って何か買ってくるってさ」

 

「京香ちゃんは今日は確か講義ナシで、フタバちゃんは?」

 

「フタバはもう少ししたら顔を出すってさ」

 

「愛されてんねぇ、お前」

 

 俺だったら面倒くさくて絶対行かねぇわというレイの言葉に真横から吾郎の肘打ちが返ってくるが、それを掌で受け止めて対処する。

 そうして男三人衆がようやっと全員ソファーに座ったところで、レイはテーブルの上に放り出されていた新聞の記事を見やった。

 

 

「……そうか、今日で《東亰震災》からちょうど2年なんだな」

 

 呟くように口にすると、吾郎もクロウも口を噤んだ。

 

 その名称がつけられた大災害が東亰やその近郊に住まう人々に与えた打撃、残した傷痕は大きく、2年が経とうとしている今でも完全な復興は成されていない。

 稀に見る大震災というだけでも都心部を直撃したとあっては大打撃だが、それに伴って竜巻、落雷、寒波などの異常気象、二次災害としての火災や津波も発生したとあっては、幾ら日本を代表する大企業や国営機関、果ては海外からの大きな援助があったとしてもたった数年程度では元通りにすることはできない。

 実際、震災直後は10年かそれ以上の月日が復興に必要となるだろうと言われていた。―――だが、世界でも有数の大企業の本社が集う国の首都の復興が遅くなれば、それはそのまま世界経済への打撃にもなる。それが憂慮されたのか、震災から2年経過した今、インフラ設備や表向きの倒壊現場の復旧などは既に終わっていた。

 

 だがそれでも、全てにケリが着いたわけではない。

 

 特に、この震災に超常的な存在が関わっていたことを知っている”裏側”の人間は。

 

 

 

「…………」

 

 窓の外に目を向ければ、先程と全く変わらない青空。だが脳内に、あの日の禍々しい緋色の空がフラッシュバックする。

 あの日に《適格者》として目覚められたのも、生き残ることが出来たのも、全て”運が良かった”で片付けるには出来過ぎている感じがある。

 

 知覚できない何かに戦う事を宿命づけられたのならば、それはただの最悪の節介だ。反吐が出る。

 だが、戦う力を手に入れられたお陰で喪っていたかもしれない命を救うことが出来たのならば、最低限抗うことが出来ているのならば、戦っていた意味はある。

 

 あのクソッタレな化け物共を殺す意味が、ある。

 

「今日も今日とて東亰東部に異常なし、か」

 

 平和である事に越したことはない。平和に大学生活を送って、平和に人生を歩めるのならばそれに勝るものはないだろう。

 退屈な場所に身を置き続けるのは性分ではないが、こういったノリの良い友人たちと共に居られるのならば退屈はしない。

 

 そんなしんみりした事を考えていると、バタバタと扉の向こうが騒がしくなる。

 何を慌てているのか電子ロックの解除番号を何回も押し間違えて解錠を拒否されている光景に、今まで真面目な顔をしていた3人が揃って噴き出す。

 

 仕方がないので代表してレイが内側から解錠すると、外からまず一人の女性が飛び込んできてすぐさまテーブルの方へとダッシュすると、置いてあったティッシュの箱の中身を全滅させる勢いで取り出し、豪快に鼻をかみ、涙を拭いていく。

 凡そうら若い女性が男性の前では見せてはいけない行動に対して、しかしレイは何も言わずに冷静な手つきで流れるようにサイフォンのカメラ機能でその様を連写する。

 

「あ”ッ”、ぢょっどレイ‼ 何撮ってるのよ‼」

 

「いや相変わらずこの季節になると面白れぇなって思って。今年もこの季節(花粉症シーズン)が来た記念にお前のヤバい姿を親父さんに送ってやろうかと」

 

「や・め・な・さ・い‼ それやられると帰郷する度にパ……父さんに「お前も大きくなったなぁ」とか言って昔の黒歴史を親戚の前で暴露されんのよ‼」

 

「娘が花粉症でヤベェ時の写真で成長を実感するとか親父さんの娘離れ出来なさ具合もいよいよ極まって来てんな。そしてさり気なくパパって言おうとしてる時点でお前のファザコンは既に極まってんな‼」

 

「表出なさい。その写真ログごと葬ってあげるわ」

 

 流石にからかい過ぎたかと両手を挙げて降参の意を示すと、赤毛の女性―――サラも殺気を静める。箱のティッシュを小脇に抱えたままで。

 そんなサラに次いで部屋に入ってきたのはもう二人の女性。色素の薄い青髪に臙脂色の双眸を持った長身の外国人女性と、それとは対照的に淑やかな雰囲気を醸し出す大和撫子。

 

「クレア。それに、フタバちゃんも一緒だったのか」

 

「えぇ、売店から出た途端にサラさんの鼻炎センサーが反応してしまったみたいで……運悪く私もフタバさんもポケットティッシュを持っていなくて」

 

「サラちゃん移動してる間、ずっと「駆逐してあげる……スギの木を、一本残らず」って呪詛漏れてたからすっごい怖かったけどね……」

 

「こんな時にまでネタに走る必要ねぇだろお前」

 

 う”る”ざい”わ”ね”、と、どうやら第二波の鼻水を出し切る事に専念してるサラの姿が余りにも憐れに映ったのか、クロウがその背をさする。

 すると大きな咳をした反動で腕が背後に伸び、肘が思いっきり鳩尾に入って悶絶するクロウの姿を再びサイフォンのカメラ機能で撮ってから、レイは冷気が入ってくる扉を閉めた。

 

 

「さぁて、これで今日集まれるメンバーは全員か? 誰かー京香ちゃんが何処に行ったか知ってる奴挙手ー」

 

「あ、雪村はどうせ講義休みだから北斗本社の方に顔を出すと言っていたぞ」

 

「おぅし、どんな厄ネタが舞い込んでくるか大体察したところで、それはそうと春休みの旅行で行くところ決めんぞー‼」

 

「オレらも大概厄ネタが降り注いでくる事に動じなくなったよなぁ……あ、オレ神山温泉行きたい」

 

「あそこは去年行ってヤクザの集団とマッチングしちまったからもう止めようぜって言ったよなぁ?」

 

「それじゃあ1合目からの富支山(ふじさん)登山旅行……」

 

「黙ってろ山登りフェチ」

 

「ゴロウちゃん、流石に2泊3日の旅行で趣味に全力で走るのは良くないよ……」

 

 最愛の彼女にも見捨てられ四つん這いになって落胆するゴロウの頭を撫でながら「よしよし」と言って貰っているフタバの姿を見ていると何かが浄化される気分になる。

 しかし意見が纏まらない、どうしたもんかと思っていると、そこでスッとクレアが手を挙げた。

 

 

「あの、それについてなんですが、北斗の会長様から以前「頑張っている若者へのプレゼントだ」と仰って咫海(あたみ)の高級旅館の招待状を頂いて……」

 

「2泊3日咫海(あたみ)高級旅館温泉巡り&美味いもの巡り&地酒巡りに異論ある奴手ぇ挙げろー‼」

 

 その瞬間、ピタリと時間が止まったかのように全員の動きが停止する。この最高級プランに異論を掲げる者が居れば、その場でそれ以外の面々からミンチにされる事だろう。

 しかし同時にこれでまた北斗会長とお嬢に頭が上がらなくなったなぁと思う。―――まぁ、今更恩を仇で返すつもりなど毛頭ないのだが。

 

「今年の春休み旅行は贅沢が出来るな……‼」

 

「おいそこの万年飲んだくれ女子、旅館で吐き散らかしたら北斗会長の顔に泥を塗る事になるからな。吐くならいつものように路傍で吐け」

 

「何でアタシが吐くまで飲む事前提なのかしらねぇ……」

 

「テメェがいつも飲み会でMAX醜態晒してそれを処理してる俺にはボロクソ言う権利があると思うんだよな‼」

 

 ワイワイ、やいのやいのといつものように騒がしくなってから、レイは徐にホワイトボードに備え付けられていた黒いペンを手に取る。

 

 

「よし、ひとまず目先の楽しい事は決まった。正直もうこれ以上話し合いとかしたくねぇんだけど、一応サークル代表としてクソ面倒臭ぇ議題にも手ぇ出して行くぞー」

 

「うわ、心底面倒臭いって顔してるな」

 

「これ実際面倒臭い話題なんでしょうねぇ……」

 

 切り替えの早いメンバーで助かると思いながら、レイは綺麗な字でホワイトボードに文字を書き連ねていく。

 その文字を目で追った一同はフタバを除いた全員が「あぁ、なるほど……」と遠い目になる。

 

「さて、今年もいよいよこの時期が来た。……来てしまった」

 

「去年は……クレアと京香ちゃんだったからまだマシだったがなぁ」

 

「恐らく京香ちゃんが本社に戻ったのもこのせいだろうな。……俺達に何も言わずに行っちまった感じだと、《教会》か《ネメシス》かどっちかが介入してきそうだ」

 

 ホワイトボードには『新入部員歓迎会(物理)』の文字。

 基本的にこの世界の”裏”に浸った者しか集っていないこの場所では、通常の新入生を受け入れる事はない。受け入れる生徒は、自動的にマトモな人間ではないという事だ。

 サークル代表としては、全く頭の痛い話でもある。

 

 だが、そんな頭を悩ませることも日常の一環だ。

 

 

 

 東亰大学内文系サークル《X.R.C(Xanadu Research Club)》―――その日常は、いつだって退屈させてはくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







登場人物その②

・鴉葉九狼(カラスバ クロウ)
 東亰大学3年生、《X.R.C》所属。基本的に能天気でバカな振る舞いで場を和ませる天才。幸運値が低いのか、割と理不尽な目にも遭う。今のところ多分死亡フラグは建っていない。

・立花・バレスタイン・沙羅(タチバナ・バレスタイン・サラ)
 東亰大学3年生、《X.R.C》所属。ファザコン。三度の飯より酒好き。ただし超絶強いわけではない。
 酒癖はサークル内満場一致で「メッチャ面倒臭い」。

・クレア・リーヴェルト
 東亰大学2年生、《X.R.C》所属。ドイツからの留学生。軍人でシスコンの従兄弟がいる。マトモそうな美女に見えて色々と振り切った天才。人は見かけによらないという事を体現している。

・雪村京香(ユキムラ キョウカ)
 東亰大学2年生、《X.R.C》所属。北斗グループの秘書課の人間でもあり、サークルと《ゾディアック》の橋渡し役。この作品で一番胃がキリキリしている人。苦労人その1。
 でも何だかんだで学生生活を楽しんでいる。



 大体こんな感じ。
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