英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

12 / 38
ついに物語のターニングポイントに到達。果たしてどうなるか?


第10話 狂気の絶対正義

「麻薬の密売組織、ですか?」

「うん。ありがちだけど、規模が大きいからナイトレイドの標的になりそうな感じだよ」

 

ある日、ミリアムが持ってきたその情報を基に、ノエル達が夜の帝都を行く。ナイトレイドは報いを受ける覚悟で殺し屋稼業をしていると、彼ら自身が言っていた。しかし、それでも人柄は真っ当で付き合いもよく、とても死んでいいような人間とは思えなかった。そのため、出来るだけそのリスクを減らすために麻薬組織の壊滅に乗り出したという訳だった。

メンバーはノエルとミリアムを筆頭に、前回帝都を散策したメンバーであった。

 

「情報によれば、ここなんだけど……」

「……何やら騒めいているようだな」

 

情報元であるミリアムが目的の場所に到着したのを確認するが、その中でガイウスが様子がおかしいことに気づいた。そしてその時、屋根から屋根へと飛び移る二つの人影を見つけた。そして、その影の一つを見てエマが真っ先に反応した。

 

「あれは……シェーレさん!」

「ということは、もう彼女たちが仕事を終えた後という訳か」

 

シェーレについて駆けるのは、マインだった。もともと狙撃手という立場だったため、大きな組織の中心人物を始末するのには最適なのだろう。故に、イヲカルの暗殺も彼女に任されたというわけだ。

 

「……深追いするのは危険ですが、追いかけましょう!」

 

そのままノエルに先導される形で、一行はシェーレとマインを追った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「見失ってしまったな」

「俺達は委員長の転移があるから緊急脱出が可能だが、二人はそうもいかないだろう」

「打算的な意見になっちゃうけど、やっぱり彼らに恩を売っておいて損はないと思うんだよね。まあ、レオーネ辺りにただ死んで欲しくないのは僕も一緒なんだけど」

 

そのまま見失ってしまったマイン達を捜索する一行だが、揃って追跡を払うことに慣れていたようで難航していた。

しかしそんな中、ある物を感じ取った。

 

「!? これは、殺気か?」

「みたいだな。恐らく、誰かと戦ってるんだろう」

「なら、急がないと!」

 

ガイウスとジンが真っ先に気づいたかと思うと、それを二人から聞いたノエルは急いで駆け出す。そして、全員がそのまま続いて行った。

 

そして殺気の放たれた現場、ノエル達の目に映ったのは戦闘中のマインとシェーレの姿だった。戦っているのは、警備隊のプレートメイルを纏った女性、あのセリューだった。しかし、彼女の表情は先日ノエル達があった時の快活な様子は微塵もなく、憎悪と憤怒に染まった醜い表情を浮かべていた。そしてその傍らには、剛腕を振るう白いズングリ体型の異形の怪物がいた。僅かだがコロの面影があるため、あれが帝具ヘカトンケイルとしての真の姿と思われた。

マイン達のことも気にはなるが、それ以上にセリューから尋常でない何かを感じ取り、静止に入ることに決めた。

 

「止まってください!」

 

ノエルは叫びながらサブマシンガンを乱射し、両チームの動きを止める。

 

「あんた達、また邪魔を……」

「……ノエルさん、どうしたんですか? 私の断罪の邪魔をするなんて」

 

攻撃を妨害され、マインとセリューがそれぞれノエルに視線を向ける。セリューとノエルに面識があることに、一瞬マインが反応するが二人はそっちのけで話に入る。

 

「セリューさんこそ、どうしたんですか? そんな悪魔みたいな顔して、殺気もそこの二人より濃密で……」

「何って、当然じゃないですか。この二人は国を乱す、凶賊のナイトレイドなんですから」

しかしノエルの問いに、あっけらかんとした様子でセリューはとんでもない答えを出したのだ。

 

「こいつらは、私のパパを殺した連中と同じ凶賊。だから、もう二度と殺せないように、私が断罪するんですよ」

 

悪=即死刑。これがセリューの持論だった。快楽のために殺しを行う人間、そのような心理の犯罪者が異常に多いのが帝国の歪みだと思っていたところ、このような形でも歪みは生じてしまっていたのだ。

父の最期の言葉「正義は悪に屈してはいけない」、これは恐らく腐敗した政治の現状でも大臣を始めとした悪徳文官に屈するなと言いたかったのかもしれない。しかしセリューは何を間違えたのか、世間一般で悪と言われる者達を駆逐しろと解釈してしまったらしい。

思えば、セリューはオーガが極刑確実と言っていた際に顔を伏せていたが、もしかしたらいい気味だという表情をしていたのかもしれない。そしてあの「自分より強い物や親しい物が悪になっても正義を執行する」も、同じ帝具持ちで各上の相手に玉砕覚悟で抹殺に向かう、親兄弟でも犯罪者だとしたら容赦なく惨殺する、といった意味だったのだ。

 

「……そうですか。セリューさん、どうやらあなたと私は相容れないみたいですね」

 

そして、ノエルはセリューに銃口を向け、大々的に宣言した。

 

「ノエル・シーカー少尉、クロスベル独立国警備隊の名にかけて帝都警備隊のセリュー・ユビキタスを止めさせてもらいます!」

「な!?」

 

そしてノエルは牽制目的で、セリューの足元に再度発砲する。

 

「ノエルさん!? 一体どういうつもりで……」

「はぁあ!」

 

更にすかさず、ガイウスが飛び掛かって槍を振るうが、セリューは持っていたトンファーでそれを防いでしまった。

 

「アステルフレア!」

「雷神脚!」

 

続いてエマが魔導杖に炎を灯して、振るうと同時に放って巨大化したコロにぶつける。そしてすかさず、ジンが気の力で発した稲妻を纏ってコロを貫いた。

 

「あんた達、どうして……」

「個人的にあなたたちに死んで欲しくないのと、彼女を止めたいのと二つですね」

「うん。委員長達、昨日あのおっかないお姉さんに会ったらしくてね」

 

そしてエマとミリアムがマイン達の前に躍り出て、ミリアムはアガートラムを召喚して構える。

 

「その時に見た、まっすぐなセリューさんでいて欲しい。直接会った私達、特に同じく警備隊についているノエルさんはあんなことして欲しくないんです。完全に私達の独りよがりなんですけどね」

 

エマがかいつまんで事情を話し、そのまま勝手に共闘を申し出る。それによる答えは……

 

 

 

「仕方ないわね。あたし等とタイマン張れるようなアンタラじゃ、戦力として申し分ないし」

「エマさん、誘いに乗らせてもらいます」

 

そのままマインもシェーレも、自信の帝具を構えなおしてコロとセリューに向き合い、戦闘に入る。するとその直後、ジンの蹴りでコロの腹に開けられた風穴が、メキメキと音を立ててそのまま塞がってしまった。

 

「おいおい、そりゃねえだろ」

「文献によると、生物型帝具は核を破壊しない限り再生するらしいわよ」

「じゃあ、どうにかしてその場所を割り出さないとね」

 

うんざりした様子のジンに、マインがわざわざ説明を入れる。そしてそれを聞いたミリアムが、真っ先にアガートラムを嗾けて殴り合いを始めた。

 

「……そうですか、ノエルさんも悪に染まってしまったんですね。もしくは、私を騙すために正義のふりをしていた」

「どうとでも言ってください。それでも、私はあなたを止めます!」

「俺も微力ながら、協力させてもらう!」

 

セリューを牽制するべく、愛用のサブマシンガンを彼女に目掛けて乱射する。しかし、セリューは大きく横に跳んで攻撃を回避し、そこからノエルに飛び掛かってきた。

 

「ノエルさん、残念ですが悪とみなしてあなたを断罪します!」

 

そしてセリューは手にしたトンファーを振るい、ノエルに殴りかかる。

しかし、ノエルは咄嗟に腰に携えていた物体に手を伸ばすと、そこから長い柄が伸びてハルバードを連想する武器になった。クロスベル警備隊の標準装備スタンハルバードだ。

 

「な!?」

「甘いです!」

 

ノエルがハルバードを振るい、迫ってきたセリューを迎撃しようとする。しかしセリューも、ハルバードが迫った瞬間に手にしたトンファーを交差させ、攻撃を防いでしまった。

 

「ゲイルスティンガー!」

 

続いてガイウスが穂先に風を纏わせたかと思うと、刺突と同時に真空の槍がセリューに目掛けて飛んでいく。しかし、セリューは咄嗟に飛びのいてしまい、大してダメージも与えられなかった。

 

「今度はこちらの番だ!」

 

ガイウスを無視してセリューはノエルに突貫し、トンファーを振るう。しかし、ノエルはロイドと共闘や戦闘をしたことあるため、トンファーによる攻撃パターンを熟知していた。よって、容易く攻撃を回避してしまう。

 

「無駄ですよ。知り合いにトンファーの扱いになれている人がいるんで、その人と特訓したりで対策は打ててますから」

「……果たしてそれはどうかな?」

 

ノエルが攻撃を捌きながら説明すると、セリューは小さいが、聞き取れないほどでもない声量で呟く。そして次の攻撃にトンファーを持った右手でストレートを放ってきたため、ノエルは咄嗟に後ろに飛びのく。

しかしその直後

 

「ぐ!?」

 

火薬の炸裂するような音と同時にノエルの脇腹に痛みが走る。そしてよく見ると、セリューのトンファーの先端部から硝煙が上がっているのが見えた。

 

「と、トンファーに銃を仕込んでいる……!?」

「これは旋棍銃化(トンファーガン)、帝都警備隊の標準装備で近・中距離両用の武器だ。タダのトンファーだと思ったのが運のツキだったな」

 

自信気に話すセリューの表情は、先程マイン達に向けていたような物になっている。目は血走り、口角を釣り上げ、まるで鬼か悪魔のようなおぞましい表情となっていた。

口調もいつの間にか敬語が消えていることから、先日会って以降の認識を完全に捨てたものと思われる。

そのままノエルに向き合ったまま旋棍銃化を後ろに向け、ガイウスに発砲する。

 

「先程は驚いたが、種がわかれば対策も打てる」

 

ガイウスは告げながら銃弾を避け、セリューに駆け寄って槍を振るった。しかし、そのままセリューは旋棍銃化でガイウスの攻撃を捌いて攻撃を入れつつ、後ろのノエルにも発砲を織り交ぜていた。

 

「セリューさん、戦い慣れている。それに、この戦い方は……」

 

ノエルは銃撃を避けつつ、ガイウスと正面から戦いつつ、自身にも攻撃を加えていたセリューの戦闘力に驚愕していた。しかも、ガイウスとの接近戦では頭部や首、心臓のある胸を集中して狙っている。明らかに急所だけを狙った、殺すことしか考えていない戦い方だった。

 

(セリューさん、本気で殺す気なんだ。彼女が悪とみなせば、それが友達や家族でも……!)

 

改めてセリューの異常性に気づいたノエルは、思わず顔を青ざめてしまう。そんな中、いきなり周囲が閃光弾を使ったような激しい光に包まれた。

 

「ぬぐぁああ!」

 

直後にセリューのうめき声が聞こえたかと思うと、光が晴れた先にシェーレがセリューの両腕をエクスタスで斬り落とす姿が見えた。

帝具には奥の手と言われる必殺技のような物を備えた物があり、エクスタスは金属発光による目くらましがそれに該当した。その発光で動きを封じ、一気に腕を切り裂いたのだ。

 

「すみません。彼女の生死はともかく、攻撃を封じるために腕は落とさせていただきました」

「いいです。これで、少なくとも凶行だけは止められたので」

 

実はシェーレはマインの顔を見られたため、セリューを殺すつもりだが今は伏せていた。当然、そうすると聞いたら妨害されると思ったからだ。それでも両腕の切断は、彼女のやり直しを望むノエルにとって望ましいものではなかった。

しかし、直後に予想だにしない事態が起こった。

 

「正義は勝ぁああああああああああつ!!」

 

セリューが叫んだかと思うと、なんと両腕の切り口から銃弾が乱射されたのだ。ノエルもシェーレも度肝を抜かれたが、どうにか回避に成功する。

 

「嘘……体の中に武器を仕込んで……」

 

セリューの常軌を逸した戦い方に、ノエルは戦慄する。技術もそうだが、これは人間であることを捨てるような物なので、それを迷わず敢行したセリューもどうかしていると言ってもいい。

 

「催涙弾、発射!」

 

しかしここで動きを止めれば自身や仲間が危険と判断し、セリューを止めようとライフルで催涙弾を討つ。至近距離で催涙ガスを浴びたセリューは、ノエルの思惑通りに眼を封じられて攻撃の手を止める。そしてすかさず、シェーレが駆け寄って腕の切り口から生えた銃口をエクスタスで切り裂いた。

 

「ガーちゃん、行けー!」

 

その一方、ミリアムの声が聞こえたかと思うと、コロとアガートラムが拳をぶつけあう様子が見えた。アガートラムがパワーで勝ったようで、コロは大きく吹き飛んだ。

 

「ジンさん!」

「よし来た!」

 

更に怯んだところにジンが拳の一撃を頭に叩き込む。普通に考えると脳がある頭、もしくは心臓のある胸に核があると踏み、まずは頭から叩いた。しかしコロはまだ動くため、頭に核が無いのか、衝撃が届かなかったのか、とにかく破壊には至らなかったようだ。

 

「白き刃よ!」

 

更にエマは虚空から剣を呼び出し、一機に飛ばして四肢を拘束する。その様子をセリューは、目の痛みに耐えつつ確認していた。

 

「くそぉ……コロ、狂化(おくのて)!!」

 

そしてセリューは、もうやけくそと言わんばかりに叫ぶ。それによって奥の手を発動したころは、白かった体を赤く変色させ、肉体もより筋肉質の物に変化していく。

 

 

「Gyaoooooooooooooooooo!!」

「うわぁ!?」

「ほ、吠えただけでこの衝撃……」

「俺達は、帝具の真の力をまだわかっていなかったようだな……」

 

 

そしてコロは咆哮を挙げる。しかしその咆哮は、それだけで大気を震わせ威圧だけでなく物理ダメージを与えられるほどの物とかしていたのだ。しかも拘束されていたコロは、そのまま四肢をちぎりつつも拘束を力づくで抜け出す。しかしそれもすぐに再生してしまう。

ヘカトンケイルの奥の手”狂化”。文字通り狂ったように凶暴化させるパワーアップだ。使用後はオーバーヒートを起こし、数か月間は動けないというデメリットがある。しかし、その分パワーアップの伸びしろはすさまじい物だ。

 

「コロ、まずはそいつらから殺せ!!」

 

そしてセリューは、そのままマインをそっちのけに先にジンたちを始末しようとコロを嗾けてきた。

 

「ガーちゃん、迎え撃って!」

「泰斗の拳士を、舐めるな!」

 

そしてミリアムのアガートラムとジンが、襲って来たコロを迎撃しようとパンチと飛び蹴りをそれぞれ放つ。そしてコロの方もアガートラムに向けて拳を振るう。

 

 

 

「うぇえ!? ガーちゃんの腕が……」

 

なんと、コロの拳とぶつかり合ったアガートラムの腕がひしゃげたのだ。先程は打ち勝てたパワーは、この狂化によって逆転してしまったのだ。

そしてその一方、ジンの飛び蹴りは見事にコロの頭に命中する。しかし……

 

 

 

「Gurururu……Gau!!」

「何……うわぁあ!?」

 

コロは全く堪えておらず、逆にジンを殴り飛ばしてしまったのだ。ジンはそのまま大きく吹き飛び、街路樹にぶつかる。しかもその衝撃で街路樹が倒れたのだ。

ジンの安否が気になり、エマが真っ先に駆け寄る。

 

「ジンさん、大丈夫ですか!?」

「大丈夫って言いたいが、体中が痛む。重トラックに跳ね飛ばされたみたいな、衝撃が……」

「!? ……分かりました、すぐに治療します」

 

ジン程の強靭な肉体を持ってしても、コロの攻撃の威力を殺し切ることも耐えきることもできていなかった。帝具の圧倒的な力を、再認識することとなる。そしてエマはそれを確認し、ジンに治癒魔法を使用する。

 

Lux solis medicuri eum.(陽光よ彼を癒せ)

 

ジンの胸に手を当てながら、呪文を唱えるとエマの手から光が発した。後は安静にしておけば問題ないのだが……

 

 

 

「コロ、今の内に殺せ!!」

 

そのままコロは、拳を振るってエマ諸共ジンを葬り去ろうとする。やはりセリューは先日の認識を完全に捨てたようで、殺すことにためらいもなくなっていたようだ。

 

「あたし達のこと、忘れんじゃないわよ!」

 

そしてマインの声が響いたかと思いきや、パンプキンの銃口から光線が放たれコロの拳を消し飛ばす。

 

「すみません」

 

続いてシェーレが駆け寄り、いつものように謝罪しながらエクスタスを開く。そしてその下半身を挟み切った。

しかし再生能力も強化されているようで、一瞬にして腕は再生していった。

 

「スマートミサイル、発射!」

 

そしてノエルも負けじと、何処からともなくミサイルランチャーを取り出して発射する。これによりコロは頭部を残して肉片と化す。しかし、まだ核を破壊し切れていないようで、徐々に再生を始めていったのだ。

そんな中、ミリアムを負ぶってガイウスが駆け寄ってきた。先程の咆哮でまだ腰が抜けているらしく、アガートラムも破損したため動けなかったようだ。

 

「お前達、今回はおとなしく逃げるべきだ。あまり長続きすると、警備隊が駆けつけてくるぞ」

「マイン、ここは彼の言う通りにしましょう」

「……仕方ないわね。けど、だからってこの仕事を辞める気は無いから」

 

そのままガイウスに促され、撤退しようとした矢先……

 

 

「え?」

 

いきなり、シェーレの背中から血飛沫があがった。突然の事態に皆が硬直するが、そんな中に背後から迫る人影があった。

 

「正 義 執 行!!」

 

セリューだった。いつの間にか催涙ガスでやられた目が回復しており、それによって攻撃に再び戻ってきたのだ。近寄ってきたセリューは、高く跳躍する。腕を切り落とされ、その中に仕込んでいた銃も破壊された彼女の攻撃手段に真っ先に気づいたのは、ノエルだったのだ。

 

(セリューさん、口の中にまで銃を……!?)

 

腕はまだ改造することへの抵抗はまだ小さいだろうから敢行してもギリギリでおかしくはないが、口、ひいてはそれがある頭への改造となれば話は別だ。頭には人体の活動を支える脳が修められており、口も体内に直接通じる為に異物の混入という恐れがあった。ここの改造まで平気で行うあたり、セリューの異常性が確かなものであると認識できた。このことに真っ先に気づいたのがノエルだったのは、出会った当初に親近感を感じ取った彼女だからだろう。

そして、セリューは周囲のメンバーが固まっている隙をついてシェーレの頭部にハイキックを放ち、首をへし折ってしまった。

 

「シェーレ!?」

 

マインが真っ先に我に返り、倒れたシェーレに声をかける。

 

「セリューさん、貴女はなんてことを!?」

 

続いてノエルが我に返り、セリューの胸ぐらを掴んで怒号を挙げる。

 

「貴方も警備隊にいるなら当然でしょう? 悪に屈するな、悪は断罪せよ、正義を全うするなら当然じゃないのか?」

 

セリューは相変わらず口角を挙げた狂気じみた笑みを浮かべ、ノエルに言ってのける。ノエルはもう、言葉は通じないと思いセリューを思い切り殴り飛ばす。

 

「セリューさん、私はあなたの正義を決して認めません。いつか、絶対に止めて見せます」

 

吹っ飛んだまま倒れ伏したセリューに対し、ノエルが宣言する。しかしその直後、周囲からざわめきが聞こえ始める。どうやら、警備隊が駆けつけてきたようだ。

 

「みんな、僕とガーちゃんで隙を作る。委員長はその間に転移術の準備お願い」

「わかりました」

 

そんな中でミリアムが提案を出し、そしてその隙を作るための行動に入った。

 

「ガーちゃん、ちょっと無理してもらうよ」

 

アガートラムにそれだけ伝えると、そのままアガートラムは巨大なハンマーに変形する。そしてミリアムはそれを手に取ると、ハンマーがジェット噴射して一気に飛びあがる。

 

「ギガント・ブレぇええええええええええイク!!」

 

そして一気に地面に振り下ろすと、巨大な地響きと共に衝撃波が辺りを走る。そして、そのまま近寄ってきた警備隊員たちを吹き飛ばした。

 

「ミリアムちゃん、今です!」

「オッケー!」

 

そのままミリアムが展開された魔法陣に飛び込むと、同時にマイン達を含めた全員がそのまま消えていった。

 

 

 

(私が正義じゃない……正義じゃないだと!?)

 

エマの転移術によってノエル達が去った後、セリューは他の警備隊員たちに保護されながらそんなことを考えて顔を不気味に歪める。

 

「わかった……お前がそう言うなら、私もお前を正義だと認めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対にこの手で殺してやる、ノエル・シーカーあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

ノエルに対しての憎悪に染まった表情で、セリューは叫んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、転移によって街の外に脱出したノエル達は

 

「あんた、魔法が使えるんでしょ! だったら、シェーレの傷もサッサと治してよ!」

「それが、そうもいきません」

「なんでよ、一日一回とかそんな制約でもあるの!?」

 

エマに頼み込むマインだったが、何故か断ってしまうエマ。そして、その理由を説明し始めた。

 

「シェーレさんは背中から心臓を正確に撃ち抜かれて、血を流しすぎています。しかも、体内に弾丸が残ったままだから、このまま治療してもどの道助かりません」

「大した設備も無しに、そんな大手術も出来ん。俺達じゃ、もう手が施せん」

「そんなこと……」

「マイン、もう、いいです」

 

マインがエマとジンに反論しようとするも、シェーレ自身から静止がかかる。

 

「これも、きっと報いです。だから、いいんですよ……」

 

息も絶え絶えに、シェーレは伝えた。そして、次はエマに声をかける。

 

「エマさん、前に会った時の忠告、破って、すみません」

「……でも、あなたがそれを選んだならとやかく言いません。私も、あの時こう言いましたから、異存はないです」

「そうで、すか。ありがとう、ござい、ます……」

 

そして、エマに礼を言うと、そのまま安らかな笑顔で息を引き取った。

 

「おいおい、こりゃどういうことだ?」

 

直後、レオーネが駆けつけてきた。そして事情を聴いて、こと切れたシェーレとその傍にあったエクスタスに眼をやる。

 

「……そうか。わざわざ、助けてもらって悪かったね。下手すりゃ、シェーレの亡骸とエクスタスを向こうに持ってかれただろうし」

「出来れば、命も助けたかったから残念だ。革命軍とナイトレイドの思惑に同意は出来んが、だからと言って死んでいいなんて道理も無いからな」

「セリューさんの場合、それが死んでもいいと本気で思ってるんでしょうね」

 

レオーネとジンの会話を聞いていたノエルは、セリューの人柄を再認識して告げた。

 

「リィンさんはシェーレさんと交戦していたから、ちゃんとこのことを伝えるつもりです」

「……あの兄ちゃん、リィンなら大丈夫だと思うけど、気にやまないよう伝えてくれ」

「ああ。そのつもりだ」

 

そして、レオーネ達に別れを告げて一行は拠点へと戻っていった。

 

 

リィン達は帝国内で大っぴらに行動しすぎたと思い、帝都内の宿から離れてメルカバを一時的に拠点とすることに決めていた。

 

「……そうか、彼女が死んだのか」

「はい。まさか、あんなセリューさんがあんな過激思想で、しかもナイトレイドを一方的に悪だと思っていたなんて……」

 

そしてノエル達から、シェーレの最期と新たな異常性を聞くリィン達。

 

「あんな頭のおかしい悪人ばっかりだと思っていたけど、まさかそんな形で歪んでいる人がいたなんて」

「もう、本当にとんでもない国ね、ここは」

 

エステルとヨシュアも、あまりの異常性にうんざり気味だった。そんな中、ノエルがロイドにあることを進言する。

 

「ロイドさん、確かもうすぐ補給のためにカレイジャスがこっちに戻ってくるんですよね? で、それで一回向こうに戻りたいんですけど」

「ノエル、まさか……」

「はい。ギヨームさんが警備隊実装用に試作している、あれを」

 

どうやらクロスベルで何かの武器が開発中らしく、ノエルがテストをするらしい。

 

「セリューさんを止める為にも、今の装備じゃ心もとないので出来るだけ準備をしようと思うんです」

「……わかった。ノエルなら、きっと使いこなせるはずだから、頼むぞ」

「僕も一回、ガーちゃんの修理で戻らせてもらうね」

「ジンさんはまだ全快じゃないので、私が看病しておきますね」

「ああ、頼む。俺も気孔で、何とか回復を早めるからそれまで戦力ダウンを許してくれ」

 

そのまま、ノエルとミリアムが一時離脱、ジンも療養目的で戦線から外れることとなった。

 

(人を人とも思わない外道、金と権力に溺れた司法機関の人間、歪んだ正義感を持ったまま大人になった戦士……この国の歪みは、ここまで俺達の範疇を超えたものだったのか……)

 

そんな中で、立て続けに見てきた異常な世界に、リィンは不安を大きくしていく。




シェーレはリィン達の心を抉るために救済しない方向で行きました。ファンの皆様、すみません。
そしてノエルとセリューに因縁を持たせましたが、どうなるかを楽しみにしていただければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。