英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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タイトルでリィンが誰と戦うか、お察しください。


第14話 怒れる鬼神と荒ぶる雷神

「いやぁ、バックさん。今回の商品も上等ですな」

「なに、これも僕の人徳ですよ」

 

一方、件のブローカーであるバックは、宴会の席で新た騙した少女達を異常性癖者たちに売りつけていた。中にはエアよりも年下の、それこそ思春期を迎えていない少女もいた。

しかし彼女たちに、その魔の手は迫らずに宴会は終わることとなる。

 

 

「うわぁあ!?」

「な、何だ!?」

 

いきなり扉が木端微塵になり、全員がその先に視線を移す。

 

「オ前達ノ楽シミハ、コレデ終ワリダ」

 

土煙が晴れた先にいたのは、リィンだった。髪の色が白くなり、瞳も真っ赤。加えて、禍々しい黒いオーラを纏ったそれは、普段の彼とは大きくかけ離れた様子だった。声も片言になっており、精神状態も普段のそれとはかけ離れていた。

 

「な、何者だ貴様!」

「俺ガ何者カ、ソンナコトドウデモイイ。ソレヨリ、オ前ラガ傷ツケ、穢シタ少女タチノ恨ミヲ晴ラシテヤル」

 

そしてリィンは刀を構えたかと思いきや、刀身に不気味な黒い炎を纏わせていく。

 

「コイツの刀、帝具か!?」

「まさか、ナイトレイドの仲間じゃ……」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

外道たちや護衛が騒めく中、リィンが咆哮を上げる。その様に恐怖した一同だったが、それが運のツキだった。

 

「シャアアア!」

「ぎゃああああ!?」

 

一瞬で踏み込み、数人の護衛達の腕を切り落としたのだ。そしてそのまま外道たちに駆け寄り、更に足や腕を切り落として回る。

 

「ぎゃあああああああああ!」

「痛い! 痛いぞぉおお!!」

「儂らが何をしたというんじゃ!?」

 

次々に手足を斬り飛ばされ、絶叫する外道たち。その様子から、やはり倫理観が常人のそれからかけ離れていたのがわかる。リィンはそれだけで済ませているため殺す気は微塵もないようだが、それでも容赦はしていない方だった。

そしてバックを除く全員が手足を落とされて、地べたに出来た血だまりの中でもがき苦しむ中、リィンがバックに近寄る。

 

「待ってくれ、僕がこうなったのには理由があるんだ!」

 

命乞いとしてバックがとった行動は、胸元を肌蹴るという物だった。そしてそこには、ある物が刻まれていた。

 

「……焼き印カ?」

「ああ、そうさ。母さんが金欲しさに僕を売ったんだ! それで僕はそこの主と母さんを殺して、逆に奴隷を売る側になりあがってやったんだ! そう、今の帝国は弱肉強食! 田舎ものだろうと帝都市民だろうと、自分より弱い奴を食い物にしないと生きていけないんだ。だから悪いのは僕じゃなくて今の帝都そのものだ、許してくれ!!」

 

バックもどうやら被害者らしく、それを言い訳に自分だけは助かろうとする。

 

 

「……知ラナイナ。俺ハソモソモ帝国人ジャナイカラ、関係ナイ。ソシテ」

 

そのまま太刀を振るい、バックの右腕を斬り飛ばした。

 

「オ前ガヤラレタカラトイッテ、誰カヲ陥レテイイ道理ハナイ!」

「ぎゃああああああああああああ!?」

 

リィンはそのままバックの獅子を一本残らず切り落とし、最後に両目を抉って視力さえ奪った。しかし、それでも殺していない。憤怒と憎悪に飲まれつつも、まだ意識と良識は残っていた。

連れ込まれていた少女達はあまりに凄惨な状況から、恐怖で身を震わし動けずにいた。しかしリィンはそんな様子を気にも留めず、酒場を出る。

 

「オ前ハマダイイ。被害者デモアルカラ、命ハ奪ワナイ。ダガ……」

 

 

 

 

 

 

 

おねすと大臣、オ前ダケハ殺ス! ホロビヨ!!」

 

憎悪に飲まれ破壊の権化と化したリィンは、異常な跳躍力で屋根に飛び乗り、そのまま屋根伝いに宮殿へと向かって行った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、宮殿ではエスデスが部隊を作るために呼び寄せた帝具使い達が、宮殿に集っていた。

集まっていたのは、青っぽい黒髪に日に焼けた肌の田舎臭い青年、海軍からの出向要員ウェイブ。シェーレを屠ったあの警備隊隊員、セリュー・ユビキタス。アカメと似た雰囲気のセーラー服を纏った少女、暗殺部隊のクロメ。マスクで顔を隠した上半身裸の大男、焼却部隊隊長ボルス。それに次ぐ高身長のメガネをかけたオネェっぽい雰囲気の科学者、Dr.スタイリッシュ。そして女性と見紛う金髪の美男子、文官志望のランだった。そして彼らのチーム名はエスデスが付けた。敵対する賊を狩りの獲物、自分達を狩人に見立てた戦闘部隊

 

『特殊警察イェーガーズ』と。

 

謁見を終えた後の皇帝とオネストは、夕食の席で二人きりになって会話をしている。

 

「大臣、この間のエスデス将軍が恋をしたいという話、なぜ彼女がそんなことを言ったのだ?」

「誰もが、年頃になると異性を欲するものです。ところが、エスデス将軍は戦うために生まれてきたような人間。今まで花より戦だったのでしょうが、ついにそっちの欲も出て来たのです」

 

先日のエスデスが恋をしたいという発言、それに皇帝は首を傾げていた。戦いと殺しに快楽を見出した彼女を見て来た皇帝は、どうやら信じられない話らしい。その一方で、オネストは相変わらず食事をしながらだが皇帝に具体的に説明する。流石にそういう知識は身につけさせようという常識だけは持ち合わせていたようだ。

 

「そういうことなら、相手を見つけてやりたいものだな」

「しかし、彼女はプライドが高いから自分の欲求通りでないと満足しないでしょう」

「それもそうだが……」

 

オネストのその言葉を聞くと同時に、皇帝は先程から見ていたある書類を大臣に見せてくる。それはエスデスが渡した恋人の条件が記された物だったのだが……

 

 

 

『1.何よりも将来の可能性を重視します。将軍級の器を自分で鍛えたい。

2.肝が据わっており、現状でも共に危険種狩りができる者。

3.自分と同じく、帝都では無く辺境で育った者。

4.私が支配するので年下を望みます。

5.無垢な笑顔ができる者が良いです。』

 

「こんな男、いるのか?」

「かなり難しいでしょう。特に一番目、将軍級の器が……」

 

二人揃って、頭を抱えたくなる条件だったわけだ。

 

一方、イェーガーズの面々は皇帝との謁見を済ませた後、結成祝いのパーティーの準備をしていた。パーティーではウェイブが土産として持ってきた、地元でとれたという魚で海鮮鍋を食すようだ。意外なことに、ボルスが慣れた手つきで魚の下準備をしており、ウェイブがそれを手伝う。

 

「それにしても、俺安心しましたよ。ボルスさん見た目よりずっと良い人で」

「私は良い人なんかじゃないよ……」

 

調理中、ウェイブはボルスの容姿で最初はしり込みしてたが、気が回ってセリューやエスデスよりも比較的おとなしいため、人柄について好感を感じていた。しかし当のボルス本人が、暗い雰囲気でそう呟く。根はやさしいようだが軍人という職業上、特に帝国の現状から一方的な虐殺などに加担して自責の念を感じているのかもしれない。

その一方、エスデスとセリューがプライベートな会話をしているが、当のエスデスの口から「狩りや拷問の研究」という物騒極まりないワードが飛び出す。その一方で、恋をしたいという願望を語って一同を驚愕させた。

そんな中、ランは場の空気を戻そうとある話題を振ってみることにした。

 

「そう言えば隊長、先日に隊長配下の三獣士という帝具使い達が亡くなりましたが、彼らの帝具はどうなったんです?」

「ああ。どうにかこれ一つだけは死守したようだが、犯人に破壊されたみたいだ」

 

そう言ってエスデスがポケットから、ブラックマリンを取り出してセリューやランに見せる。

 

「もともと私が管理を任された帝具だから、大臣にも回収されずにまだ手元に残っているのだ。しかし、リヴァがわざわざ敵に渡すまいと持ち帰ったのだ、有効利用してやらんと失礼だから手を考えていたんだ」

「いたということは、もう考え付いたんですか?」

 

エスデスの言葉に、ブラックマリンの今後の扱いについて決まったのだと察し、セリューがそれについて聞いてみる。

 

「ああ。それに合わせて、ある余興を考えたんだが……」

 

そしてその余興について語ろうとした瞬間、異変が起こった。

 

 

 

 

-ドガァーンッ-

「何だ、何が起こった!?」

「これから食事だというのに、空気の読めん賊め」

 

突如として宮殿内で爆発音が聞こえた。それにウェイブが狼狽える中、エスデスはうんざりした様子だ。いくら彼女が戦闘狂とはいえ、流石に食事時くらいは落ち着きたかったらしい。そしてそのまま宮殿内の爆発音がした場所にイェーガーズ総出で駆けつけると……

 

「ハァアア…………」

 

そこには、まだ暴走した状態のリィンが壁を突き破って太刀を片手に佇んでいた。そしてイェーガーズの面々に気づき、そちらに歩み寄る。

 

「おねすと大臣は、何処だ?」

「だ、大臣? 何の用があって大臣に?」

 

リィンのただならぬ様子にウェイブが慄きながらも、その目的を尋ねる。やはり正規の軍人だけあって、それだけの胆力はあったようだ。そしてそのまま、リィンは淡々と目的を告げる。

 

「殺スタメダ。他ニ用ハ無イ」

 

その一言を聞き、リィンが敵だとイェーガーズ全員が察する。真っ先に反応したのは、セリューだった。

 

「貴様、反乱軍かナイトレイドだな!」

 

そしてセリューの表情がクワッと目を見開き、口角を釣り上げてあの悪魔のような顔つきになってリィンに飛び掛かる。そして懐から旋棍銃化を取り出して、そのままリィンに飛び掛かった。

 

「……貴様ナンカ、ドウデモイイ」

「がぁあ!?」

 

しかし、リィンはセリューよりも圧倒的に早く動き、峰打ちで一気に吹き飛ばす。吹き飛んだセリューは壁に叩き付けられ、後に続いていたコロも巨大化する前に蹴り飛ばされた。

 

「お前が何者か知らないが、人殺しするなら軍人として止めなきゃなんねえな!」

「ウェイブ君、私も手伝うよ!」

 

ウェイブは恐れを振り切り、そのまま背にした帝具と思しき剣を手に飛び掛かる。ボルスもそれに続き、手元に帝具こそないが鍛え抜かれた肉体で応戦しようとした。

 

 

「ドウデモイイ。俺ハ、おねすと大臣サエ殺セバ他ニ用ハ無イ」

 

しかしリィンは再び刀に纏わせた黒いオーラで斬りかかり、ウェイブとボルスを瞬く間に無力化してしまった。

するとその直後、いつの間にかクロメが背後から迫り、帝具と思しき刀で斬りかかってくる。だが

 

「え?」

「……ソコデ寝テイロ」

 

それを振り向かずに防ぎ、そのまま回し蹴りでクロメを吹っ飛ばす。そのまま壁にぶつけられたクロメは、気を失って無力化された。

 

「ほう、なかなかに腕が立つな。狩り甲斐がありそうだ」

「エスデス様、彼を実験材料に欲しいから、やるなら生かしてちょうだいよね?」

「隊長もドクターも、言ってる場合じゃないです。油断して全員が無力化されて、このままだと大臣が本当に殺されかねないですからね(そうなったら、私の目的も遠のきますし)」

 

しかしその異常な強さを目の当たりにしたエスデスもスタイリッシュも、怯えるどころか嬉しそうな様子だった。戦闘狂とマッドサイエンティスト故に、普通の人間の感性とはかけ離れていたようだ。

 

「ランの言う通りだな。取りあえずまずは生け捕りにしなければ……」

 

しかしまじめに動かないといけないと考え、エスデスが動き出そうとするが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「エスデス将軍、その役目は私が担おう」

 

直後、壮年の男性の声が聞こえたかと思いきや、なんとリィンの体が大きく吹き飛ばされた。

 

「が、あぁあ……!?」

「貴様が何者かは知らんが、私が警護する宮殿に争いを持ち込もう物なら容赦はせんぞ」

 

壁に叩き付けられたリィンの視線にいたのは、2アージュ近い巨体に鎧を纏った大男だった。しかも両腕の籠手に供えられた鉄芯が帯電しているのが見え、これが帝具であることは一目瞭然であった。

 

「オ、オ前ハ……」

「我が名はブドー。帝国軍最高責任者、大将軍の地位に就いている」

 

この男こそが、エスデスと最強を二分するブドー大将軍その人だった。鬼の力を発現したリィンが対応できない超スピード、圧倒的な攻撃力、それによる一撃だけでいかに強大な力を持っているのかが見て取れた。

 

「オネストの抹殺が貴様の目的らしいが、奴がろくでもない外道だというのは認める。だが、それでもこの宮殿内で血を流すような事態を起こそうとする者を、私は許容しかねん」

 

ブドー自身、現在の帝国の政治状況とそれを加速させるオネストの存在に思うところがあるらしいが、それとこれとは話が違うらしい。

 

「おねすと大臣、奴ガコノママ居座ッテイタラコノ国ハ滅ブゾ。早ク、始末ヲ……」

「そうか……ならば我が稲妻の帝具、雷神憤怒アドラメレクの餌食となれ!」

 

そのまま相いれず、リィンはブドーに刀を手に飛び掛かる。しかしブドーは一瞬でその場から消え去り、そのままリィンを殴り飛ばした。

 

「このまま宮殿内で暴れるわけにいかんからな。中庭で勝負に入ろう」

 

そして倒れたリィンの首根っこを掴み、ブドーは一瞬でその場から離れた。

 

「ふむ……あの男の力を確かめてみたかったが、宮殿内はブドーの管轄だから仕方ないな」

「まあ大将軍なら、あの彼を確実に生け捕りにしてくれそうだからいいけどね」

 

 

少し残念そうな様子で諦めるエスデスと逆に安心しているスタイリッシュを見て、ランはあきれた様子だった。その後、ランは二人を促して倒れているウェイブ達を介抱しに向かった。

 

そして中庭に到着したブドーは、リィンを放り投げて地面に叩き付けた。そしてそのまま立ち上がろうとするリィンに、ブドーは告げた。

 

「さて。そんなにもオネストを始末したいなら、まずはこの私を倒せ。宮殿でことを起こすなら、まずは宮殿の守護者たる私を下さねば話にならんからな」

「グ、オォオオオオオオオオオオオ!」

 

そしてリィンはそんなブドーに、あの黒いオーラを纏わせた刀で何度も斬りかかる。その強大なエネルギーが斬りかかるたびに放た、斬撃と同時に凄まじい風圧まで生じた。しかし、ブドーはその攻撃全てを容易く回避し、稲妻を纏った拳で殴りつける。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

「アドラメレクの真価は稲妻を操る力。それを纏わせての拳撃は、貴様が生物である以上は危険なものとなる」

 

更にブドーは距離を取り、そのままリィンに凄まじい電撃を放って追い打ちをかける。普通の人間ならこれだけの攻撃を受ければ、黒焦げになって原形を留めないだろう。

 

「ウ、グゥア……シャアアアアアアアアアアアア!」

 

しかし土煙が立ち込める中、うめき声が聞こえたかと思いきやそこからリィンが飛び出し、ブドーに斬りかかる。その一撃がブドーの頬に切り傷を付けた。

 

「ほぅ、私に一太刀浴びせるか……」

 

ブドーはその様子に感心しながら、頬から流れ出た血をぬぐい取る。そして

 

 

 

「オオオオオオオオオオオ!」

「お前の実力に敬意を表し、我が奥の手を見せてやる!」

 

再び斬りかかってきたリィンに告げると、カウンターの要領で殴り、続けざまにアッパーで空高く打ち上げる。そしてブドー自身がなんと高速で空を飛び、打ち上げたリィンと同じ高さに一瞬で到達した。

しかも上空にあった雲の一つ一つから雷が生じ、それがブドーの周囲に集まっていく。そしてそれにより、ブドーの両腕に装備されたアドラメレクが激しい稲光を放っていた。

 

「ソリッドシュータぁああああああああああああああああ!!」

 

そしてブドーが技名を叫ぶと同時に、リィンに向けられたアドラメレクから膨大な雷のエネルギーが放たれ、リィンの体を飲み込む。リィンも激しい痛みから絶叫するが、ブドーが放った奥の手による轟音でそれはかき消される。やがて攻撃が止むと、力尽きたリィンが重力に従ってゆっくりと落下していく。

 

「安心しろ。貴様は尋問や、あの謎の力を解析するために生かしておいてやる」

 

しかしリィンが落下している途中にブドーがその体を受け止め、そう言いながら地面に降り立った。しかし、リィンは意識を失っているためそれは聞こえていなかった。

 

 

同時刻、リィンを探して修理が完了したアガートラムに捕まって上空を飛ぶアリサの姿があった。その傍で、エステルとヨシュアもアルティナのクラウ=ソラスで一緒に捜索している。上空には帝具の力で飼いならされた危険種が飛び回っているのだが、セリーヌが同乗して認識阻害の魔術を行使しているため、襲われずに済んでいる。

 

「リィン、一体どこに……?」

「アリサ、焦る気持ちはわかるけど落ち着いてよ。そんなんじゃ見つかるものも見つからないよ」

「ミリアムの言う通りよ、アリサ。確かにあんな得体のしれない力を暴走させたんなら、不安になるのもしょうがないけど、まずは彼を信じないと」

 

不安そうに空からリィンを探すアリサは、ミリアムの言う通り焦っている。エレボニア帝国の内乱時、リィンは育ての父テオ・シュバルツァーを貴族派が雇った北の猟兵という猟兵団に斬られて暴走した。この時にアリサはいなかったため話を聞いただけであったが、彼の妹エリゼが止めなかったら襲ってきた猟兵たちを殺していたかもしれないという。憎悪に任せての殺人、一度それを起こしかけたという事実があってリィン自身やアリサは大変恐怖したという。

しかしアリサの不安は違う形で的中することとなった。

 

「きゃああ!?」

「な、何!?」

 

いきなり宮殿の上空ですさまじい稲光が生じ、アリサ達は怯んでしまう。

 

「い、今のって……」

「もしかして……宮殿の方に行ってみよう」

 

そして咄嗟に宮殿に向かって飛んでいき、上空から悟られないように近づいて調べてみる。そして中庭で、ブドーに倒されたリィンの姿を目の当たりにしてしまった。

 

「!? リィン……!」

 

そしてアリサは、アガートラムから飛び降りようと身を乗り出す。

 

「アリサ、待って!」

「流石にそれは無謀よ、落ち着きなさい!!」

 

しかしミリアムとセリーヌが止めようと声をかけ、その隙にクラウ=ソラスが近づいてエステルがこちらに飛び移ってきた。

 

「みんな、止めないで! リィンが、リィンが!?」

「アリサ、落ち着いて。あそこに行ったら、貴方まで捕まってしまうわよ」

「それに、向こうもリィンを革命軍の刺客か何かと勘違いするだろうから、取り調べ目的ですぐには殺さないはずだ。だから、少なくとも今日明日は我慢して欲しい」

 

エステルに止められ、ヨシュアから告げられるとしぶしぶとアリサも了承する。そしてアリサはリィンが衛兵に連れていかれていく様子を悔しそうに見ながら、撤退していくのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「まさか、リィンがそんなことに……」

「宮殿の警備と軍の統括をしている、ブドー大将軍。どうやら、その大将軍が彼を打ち負かしたようです」

 

夜、その一部始終をアリサ達はロイドに話し終えた。アルティナが諜報活動で集めた情報、それのおかげでリィンを倒した犯人の正体を知ることができた。その一方、エリィはあることが気になって尋ねてみることにした。

 

「それで、そのエアちゃんって子はどうなったの?」

「それが……」

 

エステルが普段の明るい様が嘘のように悲しそうな表情を浮かべる。

結論から言って、エアはあの後に亡くなったらしい。例のバック達がいる酒場に警備隊と供に駆けつけ、その惨状を見つけた。バックの顧客や雇われた護衛達は、全員が手足を切り落とされ、バック自身は両目まで抉られていた。治療すれば命は助かるものの、人並みの生活はもう遅れない末路であった。バック達の末路を聞いたエアは、緊張の糸が切れたかのようにこと切れたという。元々執念だけで生きていたのが、安心したことでそれを取り払ってしまったらしい。

そしてその最後の言葉は

『生まれ変わったら、やさしい世界になってますように』だったという。

 

「リィンの救出、かなりの困難だが俺達ならきっとできる。ヨシュアやリーシャなんて隠密行動が得意な面子だっているんだ。絶対に成功させるぞ」

 

エリィやリーシャが顛末を聞いて焦燥する中、ロイドが拳を握りながら決意を語る。そして同時に、リィンを助けてこの国を止めようというアリサ達の決意にもつながった。

そして翌日、その足掛かりになるあるイベントがエスデス主催で行われるという情報が入った。




シェーレが死亡しつつエクスタスが革命軍の手元にあるので、武芸大会で使い手を探す帝具はブラックマリンになりました。
次回は武芸大会、エスデスが誰に眼をつけるかも判明します。

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