英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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今回はちょっと短めです。ロイドとイェーガーズの対面ですが、少し弄っているので後々ストーリーに響かせていこうと思っています。


第16話 特務捜査官と特殊警察

~ロイドが武芸大会に参加していたのと同時刻・宮殿地下~

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!?」

 

リィンは椅子に縛り付けられ、そこで電流を浴びせられている。リィンは鬼の力を発現した異常な力、そこに目を付けられてDr.スタイリッシュ率いる科学者軍団に捕えられた。力の解析と尋問が目的で、そのために電気椅子の拷問を受けさせられていた。

 

「はぁ……はぁ……」

「う~ん……昨日からずっとやってるけど、何の情報も吐かないしあの力も出てこないわね」

 

電流が止められ、何やら落胆した様子でスタイリッシュは呟く。

 

「生け捕りにするために加減していたとはいえ、ブドー大将軍の奥の手を喰らって翌日に目を覚ますなんて驚きだわ。しかも傷の治りも早いし、長いこと研究できそうね」

 

捕まってからの二日間、リィンは目を覚まさないまま宮殿の地下牢に捕えられていた。そして昨日に目を覚ましたかと思ったら、そのままスタイリッシュの研究室に連れていかれて、現在のこの状況となっている。

 

「スタイリッシュ様、自白剤が届きました」

「ありがとう、カクサン。そこに置いといてちょうだい。トビーはあの新装備を拷問に試すから、手伝ってくれるかしら?」

「かしこまりました、スタイリッシュ様」

 

更にスタイリッシュは部屋を訪れた部下と思しき筋骨隆々の髭男と、丈の長い服を着た眼鏡の男に指示を出す。カクサンと呼ばれた大男は薬の入った箱を空いているスペースに置き、もう一人のトビーという男は何かの準備に入る。

 

「ちょっと筋力とか計測してみたんだけど、素の状態で将軍級かそれに準ずるデータが取れたのは、相当に鍛え込んでいるおかげね。もしくは、あの力の副作用か」

「だ……誰が教えるか……」

「その強がり、いつまで続くかしらね。まあ、とりあえず自白剤でも打ったら少しくらいは情報を吐くでしょ」

 

そう言いながらスタイリッシュは箱の中から、自白剤と思しき注射器を取り出す。そしてリィンに投与しようと近寄る。

しかしその直後に届いた知らせで、それは中断となった。

 

「スタイリッシュ様、エスデス将軍がお呼びです」

「あら、もうイェーガーズの招集かしら。トローマ、わざわざありがとうね」

 

現れた上半身裸にコートを羽織った男に呼ばれ、スタイリッシュは研究室を出て行くことにする。

 

「貴方達、代わりにこの子へ自白剤の投与をお願い。でも、それ以外の薬物と拷問はアタシがこの目で見たいから、しないように」

「了解しました。それでは、行ってらっしゃいませ」

 

そのままスタイリッシュは部下達に指示を送り、研究室を去っていった。

そんな中、トビーと呼ばれた男がリィンに声をかける。

 

「さて。とりあえず一時自由になれたようですが、その間に心の準備をしておくことですね」

 

そう言うトビーの右腕は、何やら小型のドリルのような物が付いていた。これが例の拷問に使う装置らしい。

 

「あんた、その体は……」

「我々は元々死刑囚で牢屋にいましたが、スタイリッシュ様が実験の検体兼部下になることを条件に開放してくれましてね。私は肉体の機械化、カクサンは筋繊維の強化といったように、スタイリッシュ様から戦闘力の強化改造を施されたのですよ」

「ああ。スタイリッシュ様は俺達の恩人にして最高の上司だ。おかげで、また好き勝手に暴れられるわけだ」

 

トビーが自身の過去などについて語り、そこにカクサンが続く。明らかにスタイリッシュはリィンを人とも思わぬ扱いをし、過去に彼らもそのように接して実験を行ったのだろう。それでも彼に心酔するのは、やはり同様に性根の腐った外道である証拠なのだろう。

 

(悪人が悪人と傷をなめ合い、己の快楽と利益の為だけを求める……上層部がこんなにも腐っているなら、大元の大臣はこんな物じゃない筈。どうすればいいんだ……)

 

実際に宮殿に捕えられて気づいた、上層部の腐敗。その末端に触れてリィンは更に絶望してしまう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「中には知らない者もいるだろうから紹介する。今日、イェーガーズの補欠兼私の恋人候補になったロイドだ」

 

エスデスに連れていかれたロイドが目を覚ますと、椅子に鎖で縛りつけられていた。そして当のエスデスがイェーガーズのメンバー達に紹介するところだった。

 

「帝都市民を、連れてきてしまったんですか?」

「いや、コイツは旅の途中で帝都にやって来た冒険家だそうだ。だから問題ない」

 

ボルスが気になったことを思わず尋ねると、エスデスはロイドがエントリーで使った偽の素性を語る。そう言う問題ではないのだが、下手なことを言ったら此方の身が危ないので誰も言わない。

しかし、これだけはどうしても聞かないといけないと思い、ウェイブがあることについて聞いてみた。

 

「で、なんで椅子に縛り付けてるんですか?」

「すでに恋人がいると言って聞かないから、無理やり抑えて私色に染めてやろうと思ってな」

「いや、そうするなら解放してあげた方が好感が上がるのでは」

「む、それもそうか」

 

ランに指摘されてエスデスは気づき、ロイドを縛る鎖を外してやった。すでに恋人がいる云々は、下手に言及すると危ういので触れないことにした。

そして解放されたロイドは、突然の事態に困惑する。予想外の形で宮殿に連れられ、しかもエスデスと彼女の率いる新設部隊全員と対面することとなったのだ。ロイドの解放を終えると、エスデスはあることが気になってイェーガーズの面々に尋ねてみる。

 

「そういえば、この中で恋人か結婚相手のいる者はいるか?」

 

そしてそれを聞くと同時に、予想だにしない人物が手を挙げたのだ。

 

 

 

上半身裸のマスク男、焼却部隊隊長ボルスである。

 

「ボルスさん、本当ですか?」

「うん、結婚六年目。もう出来た人で、私には勿体ないくらい」

 

驚きながら訪ねるセリューに対し、ボルスがマスク越しにもわかるほど赤面して語る。自身の経歴を知りつつ連れ添ってくれているらしく、しかも一人娘までいるらしい。

妙な空気が部屋中に漂うも、ロイドは己の気持ちを絞り出して反論する。

 

「この際だからハッキリ言っておきます。俺は宮仕えどころか、帝国に永住する気は無いので帰らせてもらいます」

「言いなりにならないか……ふふ、染め甲斐があるな」

 

しかしエスデスは何処までも自分の感情を押し付けている様子だった。正直なところ、勘弁願いたい。

 

「まあまあ、今はいきなりすぎて混乱しているんですよ」

 

そんな中、セリューがロイドの肩を叩きながらフォローに入る。しかし、ロイドは仲間達からの情報で彼女のことを知っていたため、複雑な心情であった。

 

(彼女がセリュー……ノエルが戦った、噂の帝具使い。そして足元にいるあれがその帝具)

 

ロイドはいずれ敵対するであろう人物である彼女を、険しい目でじっと見つめている。そして、そのまま部屋にいるイェーガーズのメンバー達を見渡す。

 

(帝具使いだけの戦闘部隊、ならさっきのボルスさんも帝具を持っていることになるのか。そして他にも気になる人物はいるが……)

 

そう思い、一人の人物に眼をつける。金髪の美男子、ランだ。

 

(もしこのランさんが、キョロクに行ったときに聞いた元教師のランさんと同一人物だったら、既に手を血で染めてしまっているかもしれない。そしてそうでなくても、これから手を汚すことになる……女将さん、望み通りにはいかなかったようです)

 

キョロクの宿屋で昼食を取った際、そこの女将にもしランと出会った時、彼が手を汚す前に止めて欲しいという約束をしていた。しかし、既に帝具を手に入れ特殊部隊に迎え入れられている、つまり既に手を汚している可能性が高かったのだ。

 

「? 私の顔に何か?」

「いえ、戦闘向きに見えない貴方がこの部隊にいるということは、帝具がそれだけ強力なのだと思ってしまって……」

 

あまりにじっと見すぎたため、ラン本人が思わず反応する。とりあえず咄嗟に思いついた理由を語り、この場を誤魔化した。

 

「まあ、そうですね。実は元々、文官志望なんですが功績を得るために戦闘部隊に入りました。一応訓練も積み増したが、それでも帝具の力が大きいですね」

「なるほど……失礼なことを聞いてしまってすみません。それと、わざわざ教えてもらってありがとうございます」

「特に聞かれてないけど、アタシの帝具は戦闘に不向きな物なのよね。帝具とは言っても千差万別、直接攻撃型や何かしらの支援型みたいにいろんな機能があるからランが仮に非戦闘型でも、この部隊に入れたわけね」

「あ、わざわざどうも」

 

ランとの会話を終えると、今度はスタイリッシュの方から近寄って声をかけてくる。そしてそんな彼をロイドはついまじまじと見てしまい、こんな感想を浮かべた。

 

(なんというか、ヨアヒムがミシェルさんみたいな性格になったような人だな。ロクな奴じゃないだろうし、善人だとしてもお近づきにはなりたくないな)

 

妙な例えを頭の中に浮かべ、ロイドは顔を引きつらせそうになるのを堪える。しかし、そんな中でも考えを巡らして一つの結論に至った。

 

(けど、これはチャンスかもしれない。上手く彼らに溶け込めればリィンの救出に使えるだろうし、今後戦うであろう帝国側の帝具使いの能力を把握可能……どの道、その場の状況を有効利用するのも捜査官としての腕の見せ所だな)

「さて。補欠とはいえイェーガーズにロイドが入った記念と、初陣として任務が届いた」

 

ロイドが結論に至った直後、いつの間にかエスデスが何やら報告書らしき物を持って告げた。

 

「帝都近郊にあるギョガン湖、そこの放棄された砦に盗賊団が住み着いたそうだ。その盗賊団を駆逐しろという任務だ」

 

盗賊団の皆殺し、そう聞いてもロイドの中で動揺は小さかった。警察とは銘打ってはいるが実際は軍の一部隊、なので殲滅戦も任務として行われるとすぐに理解したためだ。

 

「さて。折角の初陣だ、全員で出撃するぞ」

「隊長、ただの盗賊団なら2、3人程度でいいんじゃないですか?」

「折角の初陣、デモンストレーションとでも思っておけばいいだろう。それに、ロイドに我々の力を見せてやる意味合いもある」

 

出撃が決まった直後、ウェイブが疑問に感じたことを口にするがエスデス自ら理由を話して納得する。

 

「どちらにせよ、賊は皆殺しですね」

「これもお仕事だから、仕方ないか」

 

嬉々とした様子のセリューに対し、逆に申し訳なさそうなボルス。見た目的に逆な気もするが、こんな国の状況なのでもう見た目は判断基準とならないだろう。そして出撃しようとしたその直後

 

「一つだけ意見をいいでしょうか?」

 

ロイドが挙手しながら告げた。その様子に、エスデス以外のイェーガーズの面々に動揺が走った。

 

「どうした? 作戦に不満でもあるのか?」

 

しかしエスデスは特に反応せず、なんとなく気になっただけ、といった具合で問い返してきた。

 

「いえ。この組織は警察を名乗っていますが、実質的には軍隊なので任務に殺しがあること自体は問題ありません」

「ならばなんだというんだ?」

「彼らが本当に、ただの盗賊なのかどうかですよ」

 

その言葉に、エスデスは「ほぅ」といった感じでロイドの言葉に聞き入る。そして他のイェーガーズ達もロイドの話を聞いてみることにした。

 

「もしかしたら彼らは盗賊を騙った反乱軍か敵国の軍で、略奪で軍資金を稼いだり、略奪そのものを隠れ蓑に何かしらの侵略作戦を練っている可能性を検討した方がいいんじゃないでしょうか」

 

現役捜査官として勘を働かせた結果、偽装工作という可能性を浮かべたロイド。オネスト大臣の圧政によって貧困に喘ぐ一般人たち、その結果として盗賊が増えるのは致し方ない。だが、同時にそれを隠れ蓑にした侵略作戦を敵国が存在するかもしれない。実際、クロスベルでかつて暗躍していたマフィア組織の一つ”ルバーチェ商会”は犬型魔獣を調教し、野犬や狼の仕業に見せかけた犯罪に用いようと計画していた。その経験から、ロイドは偽装工作という線を疑ったというわけだ。

 

「そういったことを考え、一人か二人は捕虜にして情報を得る。国防のためにもあらゆる可能性を考慮し、これくらいはするべきだと思います」

「ほう。腕が立つだけじゃなく、頭も働くのだな」

「冒険家なら命の危機もあったでしょうから、自然と磨かれたのでしょうね」

「すげぇ……俺なんてただ人を困らせる悪党退治しか思ってなかったのに」

「ウェイブ、形無しだね」

 

そしてロイドの提案を聞き、エスデスもランもウェイブも、その様子に感心する。一緒に話を聞いていたクロメは、歳の近いであろうウェイブをジト目で見ている。

しかしエスデスの返事は、ロイドの思い通りの物ではなかった。

 

「だが命令が来た以上、盗賊団は全滅させなければならない。イェーガーズは賊どもを獲物とした組織だからな」

「何故です!? もしそれで帝国が敵に占領されたら、多くの人々が苦しめられ、最悪国そのものを滅ぼれ……!?」

 

エスデスは自国の守りに関心がないかのように、今の提案を断ってしまったのだ。ロイドも思わず反論するが、そこまで言ったところで黙り込んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなったとしたら、我々が弱かっただけのことだ。弱肉強食、それが自然の定めだからな。それに、その作戦もろとも真正面から叩き潰してやれば問題なかろう」

 

エスデスは好戦的な笑みを浮かべ、それでいて背筋が凍るような冷徹さを発し、自国どころか己の命すら顧みない発言をしていたのだ。それにロイドはいまだかつてない、得体のしれない恐怖を抱いて慄いてしまった。

 

(なんだ、隊長のこの笑顔と今の言葉? なんか、鳥肌立って来たぞ……)

 

しかし、ウェイブも何か感じ取ったようで、顔も若干青ざめている様子だった。そしてそれを横で見るランも何やら険しい表情を浮かべ、エスデスをじっと見ている。そんな二人に対して、クロメは特にこれと言ったりアクションは見られない。

 

「ロイド君の言いたいこともわかるけど、この国じゃ軍人も賊もこんな感じに殺すか殺されるかだから仕方ないんだ。ごめんね」

「それに大丈夫ですよ。正義は絶対に勝つ。そして私達帝国、ひいてはイェーガーズこそがその正義なんですから」

 

同じく聞いていたボルスのフォローと事情の説明、むしろエスデスの発言にノリノリの様子のセリュー。皆それぞれ理由は異なるが、この決定に賛成だった。特に反応のないスタイリッシュも、まあ同意しているのだろう。

 

「さて。では少し遅れたが、イェーガーズの初陣と行くか」

 

そしてそのエスデスの言葉と同時に、イェーガーズの出撃が始まったのだった。

 


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