「リィンに続いて、ロイドまで捕まってしまうとは……」
「正直、ここまで来たら先が暗いな」
一方、メルカバにて帰還していたエステル達から状況を聞く待機組達。ガイウスとようやく回復したジンが、真っ先に口を開いた。
「彼女、純粋な戦闘力が高いだけじゃない。気配の察知能力や内に秘めた闘争本能、まだ見たことないけど恐らくは知略も高いはず。つまり、こと戦いにおいて他の追随を許さない強大な存在みたいだった」
「あれはもう、人の域を超えた存在に達しています。それも、同様の存在でもかなり高位の」
ヨシュアとリーシャも、自分達の隠形が見破られたところやエスデスの内面的な得体の知れなさを目の当たりにし、強い警戒心を抱く。
「リィン、このままどうなっちゃうの……」
「アリサさん、リィンさんはきっと大丈夫ですから落ちついて」
救出作戦の要であったロイドが捕まり、アリサは不安がぶり返してしまう。そしてそんな彼女を、エマが宥める。
「まあ、ロイドならうまく状況を利用して何とかしてくれる可能性もあるけど……」
「問題は、例の将軍だよね?」
エリィがロイドは心配ないと言いたそうだったが、途中でやめてしまう。フィーの言う通り、エスデスに惚れられてそのままお持ち帰りされてしまった。わずかな時間しか接していないが、エスデスは明らかに独占欲の強いタイプだ。おそらくロイドを警戒とは違う意味で警戒して監視体制に入るだろう。そう考えると、彼の身が心配になってしまう。
「ロイドのモテ具合が付き合い始めてからも止まらないどころか、まさかこんなことに……」
思い返した途端、エリィは頭を抱える。クロスベルで待機しているランディから”弟ブルジョワジー”、ティオの同僚の少年ヨナ・セイクリッドから”弟系草食男子を装った喰いまくりのリア充野郎”と言われるほどモテるのだ。それを最大の危険人物に発揮してしまうので、エリィも頭が痛くなって当然だった。
(……でも、一歩間違えたらこれがリィンだったのかもしれないわね。安心していいのかどうか……)
しかしそんな中、アリサも似たような考えに至っていた。
「アリサ、一瞬不安が薄れた?」
「え?」
するといきなり、エステルに声を掛けられてつい反応する。そしてそこに、エマやヨシュアが続いた。
「確かに、今のリィンさんは拷問でも受けさせられているかもしれないので、不安なのはわかります。でも、リィンさんのことを誰よりも助けたいはずのアリサさんがそうだと、救出作戦も上手くいきませんよ」
「確かにエスデス将軍は得体が知れないし、それと同格の戦闘力らしいブドー大将軍なんて強敵もいる。でも、どっちも生きた人間である以上、攻略できないはずは無い。きっと、何とかなる筈だよ」
「エマ、ヨシュア…………ありがとう」
二人のその言葉にアリサも勇気づけられ、ついお礼を言う。
「そうよね、私までこんなじゃどんなに簡単になっても絶対にリィンを助けられないわね。目が覚めたわ」
「そうよ、その意気よ。どんな強敵が来ようと、恋する乙女のパワーでぶっ飛ばしてやりなさい!!」
更にエステルにまで勇気づけられたアリサの表情から、完全に曇りが消えた。そしてその勢いで救出作戦を計画しようとする。
「おっと。その話、俺も混ぜてくれねぇか?」
直後、室内に聞き覚えの無い声が響く。しかし、アリサ達VII組のメンバーだけはその声に聞き覚えがあった。
その直後に部屋に入って来たのは、浅黄色の髪と赤い衣服の青年だった。やる気のなさそうな表情で常にあくびをしている人物だが、VII組の面々はつい警戒してしまう。
「おっと、そう警戒するなって。今回、俺はむしろお前らの味方なんだからよ」
そう言う件の男、彼こそが執行者最強にしてアリアンロードと同等と言われる使い手、執行者No.1《劫炎》マクバーンだったからだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の晩、エスデス率いるイェーガーズと彼らに連れられたロイドはギョガン湖に到着していた。
「一応確認しておきますが、敵が降伏してきたらどうする気ですか?」
「降伏は弱者の行為、そして弱者は淘汰され強者の糧となるのが世の常だ」
「あははははっ! 悪を有無を言わせずに皆殺しに出来るなんて、私この部隊に入ってよかったです!」
ロイドはあまり期待しないでエスデスに問いかけると、やはり皆殺し上等という返事が返ってきた。しかもそれに対してセリューが屈託のない笑顔で同意するため、またもうすら寒い物を感じ取ってしまう。
その一方で、ウェイブも茫然としていた。
そしてその後、エスデスは他のイェーガーズの面々に問いかけた。
「出陣する前に聞いておこう。一人数十人は倒して貰うぞ。これからはこんな仕事ばかりだが、きちんと覚悟は出来ているな?」
「私は軍人だから、命令には従うまでです。このお仕事だって、誰かがやらなくちゃいけないことだから」
「同じく……ただ命令を粛々と実行するのみ。今までもずっとそうだった」
その問いかけにまずボルスとクロメが答える。ボルスは責任感や根の優しさから、軍人でしかも汚れ役まで引き受けてしまったようだ。故に、体より先に心が壊れそうな危険がある。
続いてクロメだが、こちらは淡々とした様子で当然と言わんばかりの答えを出した。
「俺は……大恩人が海軍にいるんです。その人にどうすれば恩返しできるかって聞いたら、国の為に頑張って働いてくればそれでいいって……だから俺はやります! もちろん命だって賭けてやる!!」
ウェイブもそんな二人に続き、己の戦う理由とそのための覚悟を語った。一見ただの田舎臭い青年だが、まっすぐな目と強い覚悟を感じられる。ロイドもその様子に、強い意志を感じ取っていた。
「私は先程文官志望だと言いましたが、それはとある願いをかなえるためなんです。そのためにどんどん出世していきたいんで、手柄を立てないといけません。こう見えてやる気に満ち溢れていますよ」
そう言うランの瞳にも強い意志が感じられるが、ロイドは彼の願いを知るがゆえに複雑な心境であった。
「ドクターはどうだ?」
「フッ、アタシの行動原理はいたってシンプル。それはスタイリッシュの追及!!!」
最後にスタイリッシュに問いかけると、当の本人は目をカッと開いて告げた。それに対してセリューは拍手をするが、他は苦笑いや茫然といった微妙な反応である。
「お分かりですね?」
「いや分からん」
しかしスタイリッシュは、エスデスなら理解してくれるという前提で問いかける。だが当の本人に、バッサリと切り捨てられる。
それに対して残念そうな表情を浮かべるも、そのまま語り始める。
「かつて戦場でエスデス様を見た時に思いました。あまりに強く、あまりに残酷、ああ、神はここに居たのだと!!! そのスタイリッシュさ、是非アタシは勉強したいのです!!!」
そしてスタイリッシュは、語りながら妙にオサレなポーズを決める。しかしその言動から彼の言うスタイリッシュは、一般的な趣味嗜好のそれからかなりかけ離れているのがよくわかった。
「皆迷いがなくて大変結構……そうでなくてはな。それでは出陣! そしてロイド、お前は私と一緒に彼らの実力を高みの見物といこうじゃないか!!」
そのままエスデスに連れられ、ロイドはギョガン湖全体を一望できる高台へと昇った。
(さて。ノエルが戦ってたからセリューはある程度情報があるとして、他のメンバーは完全に未知数だ。ここで彼らの情報が得られたら、戦うための鍵なってくれるはずだ)
ロイドは帝具およびその使い手たちの力を見極めることに専念し、山賊たちと対峙するセリューに視線を移す。
すると、そばにいたコロが大きくなったかと思うと、セリューの右腕に噛みついた。
「ナイトレイドを殺すために覚悟をし、ドクターから授かった新しい力……」
そして腕を引き抜いて現れた物を見て、ロイドはギョッとした。なんとセリューの右腕には巨大なドリルが取り付けられていた。
「十王の裁き五番・正義閻魔槍!!」
そしてセリューはそのドリルで突撃し、山賊たちを蹴散らす。攻撃を避けた者たちをコロが次々と食い殺していった。
「次、七番!」
そして最初に攻めて来た盗賊たちを全滅させると、コロに指示を送るセリュー。そして先程の様に右腕に噛みつき、それを引き抜くとドリルが巨大な大砲に付け替えられていた。
「正義、泰山砲!!」
そしてその大砲の名前を叫びながら、セリューは発砲する。その一撃により、閉じられていた盗賊たちの砦の門は木端微塵にされた。
(な、何だあの武器は? 生身の人間で、戦車や機甲兵とでもやり合うつもりなのか!?)
セリューのとんでもない武装にロイドは驚愕、そんな彼にエスデスが話しかけてくる。
「あれは十王の裁きと言って、ドクターがセリュー専用に開発した新兵器だそうだ。ヘカトンケイルの体内に格納した武器を換装、状況に応じて遠近中距離と対応するらしいぞ」
聞けば十王とは地獄の王たちの名前らしく、悪を裁くという意味ではこれ以上ないほどの名となっている。尤も、妄執に浸かれたセリューが使えば単なる悪鬼にしか見えないのだが。
「あのドクター、非戦闘員だと思ってましたがとんでもない頭脳の持ち主だったようですね」
「ドクターは帝国最高と言われる天才的頭脳を持ち、そこに手先の精密性を向上させる手袋の帝具”神ノ御手”パーフェクターを組み合わせた結果、あのような兵器を作れたそうだ。全く、素晴らしい力だな」
スタイリッシュの帝具の情報もここで判明し、思わぬ収穫となったロイド。そして見てみると、スタイリッシュの周囲に盗賊たちとは異なる容姿の不気味な集団が集まっていた。遠目でわかりにくいが、全員が露出の多い格好に白い仮面をした男で、屈強な肉体だった。彼らはリィンが対面したトビーとカクサンのような、肉体を強化された元囚人たちだという。
~ギョガン湖の盗賊砦・内部~
「この女、可愛い顔して何て腕だ!!」
襲い来る盗賊たちを、次々と切り裂いていくクロメ。無表情で黙々と殺していく様に、何処か仕事モードのアカメに似た雰囲気を感じる。クロメはアカメの帝国軍時代と同じ暗殺部隊の出であるため、少なくとも何かしら関わりを持っているのだろう。しかしそのあまりにも似ている様に、血縁関係を匂わせていた。
「全部終わったら組み替えて遊んであげる、お人形さん達」
背筋が凍りそうなセリフを、無表情で淡々と告げるクロメ。その様がより一層、彼女の雰囲気を不気味な物にする。そんなクロメを、死角から撃ち殺そうとする男がいた。
だが二階からウェイブが飛び降り、そのまま飛び蹴りで男をノックアウトしてしまう。
「なぁにフォローの礼はいらないぜ。チームだろ?」
「や、気づいてたし」
「マジで!?」
せっかく格好をつけたのに、クロメからのまさかの返答に驚愕するウェイブ。何やら仲のよさげな雰囲気だった。
~城壁付近~
ボルスは巨大なタンカーを背負い、それと連結したチューブとノズルを装備していた。そしてそんなボルスを目掛け、盗賊たちは城壁の上から弓で攻撃に入る。帝具使いを相手に真っ向勝負は不利と判断し、一方的な攻撃に乗り出したようだ。
しかしボルスは雨のように飛んできた矢を前に、少しも怯む様子が無い。そして手にしたノズルを構えると、そこから高出力の炎を噴射して矢を焼き尽くす。
「これもお仕事ですから」
そしてまたも申し訳なさそうな様子で呟き、迫って来た盗賊たちに炎を浴びせる。しかしそれだけでは終わらなかった。
「なんだよこの炎!? なんで水かぶっても消えねぇんだよぉお!?」
「助け、だずげでぐれぇええええ!?」
盗賊たちは必死に火を消そうとするが、どうやっても消えることが無かった。この消えない炎、それこそが火炎放射器の帝具”煉獄招致”ルビカンテの能力だった。やがて炎は盗賊たちの肉体を焼き尽くし、自然鎮火するまで消えることは無かった。
「冗談じゃない、こんな地獄さっさとおさらばしてやる!!」
その一方的な蹂躙に怯えた盗賊たちの何人かは、死への恐怖におびえて仲間を見捨てて脱げようとする。しかし、イェーガーズは決して彼らを逃がしはしなかった。
「一人も逃がすわけにはいきません」
何処からかランの声が聞こえたかと思いきや、盗賊たちが何かに頭を貫かれて命を落とす。そして上空には、背に翼を纏ってたたずむランの姿があった。
この翼こそがランの帝具、”万里飛翔”マスティマだ。装着者に飛行能力を付与し、羽を飛ばして攻撃する、偵察と支援攻撃特化型帝具である。純粋な攻撃力で言えばそれ自体の無いパーフェクターを除くと一番低いが、白兵戦で制空権を奪えるというのは圧倒的優位に立てる要素だった。
~盗賊砦最奥~
「お頭、このままじゃ俺達の命も危ないですよ!? オレ、まだ死にたくねぇっす!!」
「まあ、落ち着け。にしても、百は超える規模の俺らが一方的に蹂躙されるとは、流石は帝具といったところか」
盗賊の頭目が隠し通路から続く暗い廊下を歩いていると、その補佐と思しき男に泣きつかれる。だが、泣きつかれた当の本人は何やら落ち着いている様子だった。
「何余裕かましてるんですか!? このままじゃ、オレもお頭も殺されますよ!!」
「どうどう。この間、あのうさん臭いおっさんが置いて行ったアレがあるだろ。それさえありゃ、奴らなんてイチコロよ」
「アレ……あのデカブツっすか? まさか、アジトの奥に行くのはそれが狙いで?」
頭目の余裕は、何か秘密兵器があるかららしい。そして、二人が最奥に到達すると、そこには巨大な影が二つあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、イェーガーズの蹂躙の様子を見ていたロイドとエスデスはというと。
「これが、帝具の力……」
「ふふ、まさに弱者に相応しい末路だな。ロイドも、その内に適性を見て帝具をよこしてやるから楽しみにしておけよ」
ヘカトンケイルは以前にノエルから聞いてその力を知っていたが、他の帝具の圧倒的な力に驚くしかなかった。ランのマスティマは火力の問題的に、ルビカンテも着火しないために戦車や機甲兵には勝てない。しかし、スタイリッシュの頭脳がそれをカバーする装備を開発してしまいかねないため、油断は禁物だった。
そして燃え尽きる砦を背に、イェーガーズ全員が佇んでいるのが見えた。
「隊長、盗賊はあらかた全滅しましたが、まだ頭目らしき人物が発見されません」
「引き続き捜索しますので、もう少々お待ちを」
セリューとランが敬礼しながら、交互に状況を報告する。
「放っておけ。どうせ盗賊団も再編不可能だし、勝手に死んでるだろう。そうでなくても、また新たに獲物を調達してくるだろうから生かしておけ」
しかし、エスデスはここでも常軌を逸した発言をする。ロイドも、流石にこれは見過ごせないと思い意見をする。しかしそれは未遂に終わってしまった。
―ズドォオーン―
「な、なんだ!?」
「みんな、あれ!」
いきなり轟音が近くの崖から聞こえ、ウェイブが狼狽える。しかしボルスが音のした方を見ると、何かが巨大な影がこちらに近寄る光景を目の当たりにしたのだ。
「な、なんだコイツ……」
「危険種? でも、その割には生き物臭くないかな」
「ほぅ、ひょっとして盗賊共の隠し玉か?」
「ワォ! 何てスタイリッシュな怪物なのかしら!!」
ウェイブが驚き、クロメは冷静に分析、エスデスは何やら期待を込めたまなざしで見つめ、スタイリッシュは興奮している。
現れたのは、二足歩行の巨大な異形だった。がに股でどっしりした脚部、太く短い尻尾、鉤爪状の両手、一本角を生やしたドラゴンのような頭部、そして全身は薄紅色で金属質の体をしていたのだ。それが、なんと二体も佇んでいるのだ。
(コイツは、結社の人形兵器か!?)
「はーっははははは! これが俺達の切り札、その名もドラギオンだ!! どうだ、怖気づいたか!?」
「お頭、あんまり前に出ると狙われますって!!」
ロイドがその正体に気づく中、現れた頭目が高笑いを上げながらその名を告げた。
人形兵器。身喰らう蛇が古代ゼムリア文明の技術を解析し、開発・量産した自立型の機械兵器である。この巨大な機体ドラギオンは、かつてリベール王国の王都地下にあった古代遺跡に封印されていたオーバーマペット・トロイメライをベースに開発された機体である。トロイメライはとある古代遺物の防衛システムによって生み出された戦闘兵器で、それゆえに強大な戦闘力を有した機体である。
それをベースに飛行能力や武装の追加を施し、今のドラギオンが完成したわけだ。
「こいつは最近、俺らんとこにやって来た胡散臭い白衣の爺さんが置いて行った高性能兵器だ。エビルバードの群れだって全滅できたんだ、お前らだって死体に変えるのは容易なのさ!」
(人形兵器に怪しい白衣の男……まさか!?)
ロイドには、このドラギオンを提供した人物に思い当たる節があった。
身喰らう蛇の第六使徒F・ノバルティス博士。結社の技術部である十三工房、その工房の統括を任された結社最大のマッドサイエンティストである。
もしそうだとしたら、この大陸に結社が干渉し始めたことになっている。その全容が不明な組織、大きすぎる問題を抱えたこの大陸の帝国に、彼らの介入はどのような事態になるかは想像がつかなかった。
「俺だって死にたくはねぇ。だから、卑怯上等でドラギオンをけしかけさせてもらうぜ!」
そして頭目の指示を受け、そのまま二体のドラギオンはイェーガーズの面々に襲い掛かる。
「流石は悪党、自分で戦わずに人形頼りか。コロ、一番と五番」
しかしセリューは、悪態をつきながらコロに指示を出し、十王の裁きを装備する。両腕には先程のドリルと同時に、巨大な鎖付き鉄球が装備された。
「この正義の力である十王の裁き、秦広球と閻魔槍を持ってお前達に正義を執行してやる!」
そしてそのまま鉄球を振りかざし、コロと供にドラギオンの一体に飛び掛かるセリュー。秦広球の一撃に怯んだところに、コロが腕を肥大化させて背後から殴りつけ、背部をセリューが閻魔槍で攻撃する。
「か、硬い……!?」
しかし閻魔槍のドリルはドラギオンの装甲に傷をつけることは無く、逆にセリューはコロ諸共殴り飛ばされてしまった。
「私のマスティマではダメージが通りそうにないですが、牽制くらいなら!」
そう言いながら、ランは再び飛び上がって羽を飛ばす。やはりドラギオンにダメージは薄く、セリューが攻撃したのとは別の機体がランの方に気づいて腕を向けた。なんと、そこからレーザーを照射したのだ。
「な!?」
ランは驚きつつもどうにか回避し、そのまま攻撃を再開する。しかし、やはりダメージは薄かった。
「チームスタイリッシュ、あの兵器を捕まえちゃいなさい!」
そこにスタイリッシュが、すかさず配下たちをけしかけてドラギオンを手に入れようとする。しかし、ドラギオンは両手に電流を纏わせてスタイリッシュの部下達を蹴散らす。しかし体の一部が電熱で焦げたにもかかわらず、彼らは堪えた様子もなく飛びかかってきた。忠誠心によるものか、強化によって痛みが薄れているのか、どちらにしても異常だった。
「みんな、離れて!」
そしてボルスは再度ルビカンテを構え、チームスタイリッシュやランに気を取られているドラギオン達に炎を浴びせる。しかし、金属ボディの人形兵器には着火しないため効果が薄い。
「喰らえ、正義・変成弾道弾!!」
直後にセリューの声が聞こえたかと思うと、大型ミサイルがドラギオンの片割れに目掛けて飛んできた。その爆発に、片腕が粉砕される。
「流石に脆い箇所はあるようだな。このまま断罪してやる!」
更にセリューは小型のミサイルを乱射するが、先程の攻撃で学習したのかレーザーで迎撃してしまう。その隙をついて秦広球で殴り掛かるが、鉄球を繋いでいる強化ワイヤーを掴み、そのままセリューを振り回す。そして別の方向から飛び掛かって来たコロに叩き付けた。
ドラギオンはその圧倒的な戦闘力を持って、イェーガーズを苦戦させている。
(エスデスさんなら圧倒できるだろうけど、これも実力を量るためとか言って静観で終わるかもしれない。もしそうだとしたら、あの人形兵器に対抗可能なのは、現状だとセリューだけか)
まだウェイブとクロメが帝具の力を発揮していないため、セリューのヘカトンケイルと十王の裁きが攻撃力で対抗可能な現状だった。ロイドもあの大きさの人形兵器の戦闘経験はあるが、流石に二体同時となると骨が折れる。
(あれを使えば何とかなるが、そうなったらリィン救出のチャンスがふいになる。それとも迎撃後に脱出してチャンスを待つか……?)
ロイドはかつて、エレボニア帝国に占領されたクロスベル開放の際、ある力を帝国側で入手した。それを使えば現状打破も容易だが、使えばこの潜入可能というチャンスを捨てる溜め悩んでしまう。しかし、クロメのある一言で状況が打開されることとなり、未然に終わった。
「……そう言えば、ウェイブの帝具ってまだ見てないけどあれに対抗できるの? 私ならとっておきで何とかできそうだけど」
「あ……そういや、忘れてたな。それじゃあ、そろそろ披露させてもらうか」
そう言ってウェイブは背負っていた剣を抜き、深呼吸した。
「グランシャリオぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
剣を構えると同時に、ウェイブは帝具の名前らしき物を声高々に叫んだ。すると直後、腕を組んで仁王立ちする青と黒を基調とした鎧がウェイブの背後に現れたかと思うと、それが体に纏わっていったのだ。
どうやらこの鎧がウェイブの帝具らしいが、ロイドはつい最近これとそっくりなある帝具を見ていたため反応してしまう。
「!? それ、ナイトレイドのブラートそっくりじゃないか……」
「らしいな。”修羅化身”グランシャリオつって、そのブラートが使うインクルシオの後継機らしいぜ」
インクルシオと同じ鎧型の帝具。しかもその後継機ということは、かなり強力な帝具と思われる。
「じゃあ、ちょっと暴れてくるぜ」
直後、ウェイブの背後に浮いている半透明のパーツから何かのエネルギーが噴射され、その推進力で宙を舞う。そして、そのままドラギオンの頭部に拳撃を叩き込んだ。
「喰らえ、グランフォール!」
更にウェイブは空高く跳びあがり、ダメ押しと言わんばかりに必殺の飛び蹴りを放った。その衝撃を受け、体勢を崩しのだ。そしてそれに警戒したもう一体のドラギオンが、ウェイブにレーザーを放つ。しかひギリギリで回避、そのまま攻撃を再開した。
「ウェイブ、そのまま抑えてて。一気にとどめを刺すから」
「あ、ああ任せとけ!」
そう言ってクロメが刀を抜いたかと思うと、何やら刀を中心に邪気のような物が生じ、それに導かれるかのように地面から巨大な何かが現れた。
「超級危険種デスタグール、冬眠中に私が帝具で人形にしたの」
現れたその危険種デスタグールは、直立歩行するドラゴンの骨という風貌をした異形の姿をしていた。今の様子とクロメの発言から、少なくともクロメの意のままに操れる存在だというのはわかった。
「クロメ、君の帝具は危険種を使役する能力なのか?」
ロイドの問いかけにクロメは首を横に振り、己の帝具の名と能力を告げたのだが、それは人の倫理観から外れた代物だった。
「”死者行軍”八房、斬り殺した生物を最大八体まで骸人形に作り変えて私の意のままに操る帝具だよ。仕事で仕留めた敵軍の将校とか、デスタグールみたいな危険種を痛みも知らない僕に帰るから、戦力は強大だね」
あっけらかんとした様子で答えるクロメに、ロイドは戦慄を覚える。つまり、それは人間の死体すら人形にして操ってしまう、人の道を外れた力であった。クロメの口ぶりからして、既に人間をこの骸人形にしてしまったというのは容易に推測された。
「それじゃあデスタグール、お願い」
そしてデスタグールはドラギオンの片割れに駆け寄り、そのまま組み合いになったと思いきや、口から光のような物があふれ出す。そしてもう一体のドラギオンはその隙に高出力レーザーで攻撃しようとするが、直後にその全身が凍り付いた。
「手を出すつもりはなかったが、私もコイツの正体が気になった。ドクター、解析頼むぞ」
「エスデス様、ありがとうございますぅう!!」
やはりというかエスデスがこれをやったようだ。そして、その間にデスタグールの口から溢れる光が最大になったと思いきや、そこからレーザーが放たれた。しかも、ドラギオンの搭載している物よりも破壊力は上のようで、上半身が丸ごと消し飛んでいた。
「あ、あれ? おかしいなぁ……ははは」
「お頭、あれ……」
頭目の男はドラギオンの大破&強奪に、乾いた笑いを浮かべながら現実逃避する。しかし、それを見逃すほどエスデスは優しくはなかった。
「すみません、あなたが噂のエスデスさんらしいですね。ドラギオンの情報をわかる範囲で提供しますし、あなたのお好きな拷問も受けますので命だけは…」
「残念だが、弱者には死が私のモットーでな。それに……」
そのままエスデスは頭目と配下を二人纏めて冷凍、粉々に蹴り砕いてから言った。
「拷問は嫌がる相手にしてこそだろう。受けたがる奴にするなど、言語道断だ」
一応、エスデスの虐殺や拷問にも、ある程度のこだわりなどはあるらしい。予想外の戦力が出現するも、この日の任務はイェーガーズに欠員が出ないで無事に完了された。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
同時刻、ギョガン湖付近の林にて
「ブラート、見たかアレ?」
「ああ。まさか、帝国の外にあんな兵器があるなんてな」
そこには黒いマントにフードを目深に被ったアカメと、インクルシオの透明化で姿を消していたブラートがイェーガーズの監視をしていた。実は武芸大会の客に、顔の割れていないメンバーであるレオーネとラバックがいたため、ロイドがエスデスに気に入られて拉致されたという報告がナイトレイドにも届いた。そんな中で新戦力であるイェーガーズの動きそうなギョガン湖の盗賊砦の報告を受け、もしやと思い調査に来ていたわけだ。
「しかも、クロメがあんな帝具を持っていたなんて……気を引き締める必要がありそうだな」
「確か、アカメの妹だったか? 八房は一応文献にも乗ってるが、実際に見てみるととんでもねえな」
戦力の高さに驚くと同時に、アカメの口からクロメの正体までが判明する。やはりというか、アカメとは姉妹関係にあったようだ。
そしてそんな中、ブラートがアカメに声をかける。
「アカメ、この状況をどう思う? 俺個人としてはロイドを信じたいが、エスデスの様子を考えると色々と厳しそうだから少し検討中だが……」
「決まっている。彼らには彼らの使命や志があるだろうが、それでもクロメのいるイェーガーズ共々、革命の邪魔になるなら葬る。もうそれだけのために生きて来たような物だからな」
アカメは迷いのない目で言い切った。ザンクの一件で何か揺さぶられた様子だったが、シェーレの死をきっかけにまた覚悟を決めなおしたらしい。そんなアカメのまっすぐな目は、フードで影になりながらもしっかりと感じられる。
「ほう。帝国を裏切ろうとも、その真っ直ぐさと浅慮さは変わらないようだな」
「だが、それは甘いよ君達」
いきなり聞き覚えのない二つの声が響き、アカメ達は辺りを見回す。否、アカメは声の片方を聞いた覚えがあったのだ。
「その妹と帝国の行く末、それ以外に関心を持たないのは……相も変わらず雑魚のまんまということだな、アカメ」
そして声の主が現れるが、それは金髪に騎士姿をした特徴的な形状の金色の剣を持つ少年と、白衣姿におかっぱの金髪という風貌の老人だった。そして、アカメに覚えがあったのは青年の方だった。
「……チーフ!」
「アカメ、あいつと知り合いなのか?」
「ああ、私が暗殺部隊にいたころの同僚でチームのリーダーだったナハシュだ。当時に向かった任務で行方不明になったんだが……」
金髪の青年ナハシュ、彼はアカメのかつての同僚だったという。そして、そんな彼の生存にまた帝国に就くのか、それとも現状を知って味方になろうとするのか、わからずに警戒してしまう。
「おっと。今の俺は帝国と何の縁もないし、革命軍に協力するわけでもない」
「そうとも、彼は私のいる結社でエージェントをしている身なのさ」
「結社? 一体どういうことなんだ? それに、そこのお前は一体……」
アカメはそのナハシュの言葉に疑問を感じ、問いかける。そして、本人の口からその素性が判明した。
「元暗殺部隊キルランク1改め、結社”身喰らう蛇”の執行者No.2《剣鬼》ナハシュ。それが今の俺の肩書だ」
「同じく身喰らう蛇所属、第六使徒のF・ノバルティスだ。そしてあのドラギオンの製作者でもあるから、よろしく」
というわけで執行者になった零のキャラはチーフことナハシュでした。ゴズキを出すという案も考えたんですが動かしにくそうなのと、アカメ零でのプトラ編ラストを見て、「これ、ナハシュが敵として再登場しそうだけど先にやっちゃおうか?」と思ったため変更しました。結社の接触とかがありましたが、ここから本格的な介入&リィン救出劇を展開していきます。