英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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書こうかどうか迷ってた作品、投降しちゃいます。まだ碌に完結してないのに、ネタが尽きないダメ作者ですが、楽しんでいただけたら幸いです。


プロローグ

どこかの研究室と思われる場所にて、巨大なシリンダーに入ったまま眠る全裸の成人男性がいた。だがその人物は体中のいたるところに、縫い目のような物がある姿をしていた。

 

「本当にこんなのが、生きてひとりでに動き出すのか?」

「当たり前だろう。天才錬金術師の妾が作った、最高峰のホムンクルスなんじゃからのう」

「コイツ一人作るために、超級危険種を狩りまくったんだ。何かしら役に立ってもらわねえと、割に合わねえだろ」

 

男を見ながら言葉を交わすのは、褐色肌と銀髪で顔に十字傷のある男、エプロンドレスを着た老人口調の少女、おかっぱ頭で長身の男であった。もう一人、着流し姿で腰に刀を携えた男がいたが、こちらは興味なしとばかりに壁にもたれて眠っている。

 

「では、早速こやつを起こすとするか」

「……超級危険種の筋繊維や体内器官を組み合わせた、戦闘用ホムンクルスか。こんな生物帝具みたいな化け物を帝都に連れて帰りゃ、親父も俺を褒めてくれるだろうぜ」

 

少女がシリンダー内の男を起こそうと、中の培養液を抜き始める。

そして中にいたホムンクルスの男は、培養液が空になってから少しして、ゆっくりと目を開ける。

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、ここは? 私はあの時、消滅したはずでは…」

 

目を覚ましたホムンクルスは、いきなり辺りを見回しながら何かしゃべっている。

 

「おい。あいつ、なんかやたら流暢にしゃべってねえか?」

「そんな馬鹿な。あやつは生まれて間もない赤子同然、言葉も知らぬ筈じゃぞ」

 

一同に動揺が走る中、男は近づいて来て話しかけてくる。

 

「お前達か? 私を甦らせたのは」

「よ、甦らせるって……ドロテア、どういうことだよ?」

 

ホムンクルスの突然の言葉に、おかっぱ頭の男はエプロンドレスの少女に問い詰める。

 

「あ、あまり考えたくはないが……このホムンクルスに死んだ人間が宿ってしまったとか、そんな感じかのぅ」

「すげぇな! 帝具でも死者の復活が出来ねぇってのに、こんなことが」

「まあ、もう一度やれと言われても無理じゃろうけど」

 

ドロテアと呼ばれた少女が顔を引きつらせる中、銀髪の青年は心底楽しそうに言っている。すると、ホムンクルスは彼らに再度話しかけてきた。

 

「そちらにとって不可抗力のようだが、私は結果的に生き返った。礼を言おうそして、その礼と言っては何だが……」

 

そして彼は、あることを一同に告げた。何やら、凄まじく邪悪な笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

 

神になりたいとは思わないかな?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

七曜暦1208年 3月某日 P.M.12:00

ゼムリア大陸最西端より1500アージュ離れた海上

 

その上空を一隻の赤い飛行艇が翔けていた。この船はゼムリア大陸でも歴史の長いエレボニア帝国、その皇帝家が保有する高速巡洋艦カレイジャスである。

そして、そのカレイジャスの甲板にて一組の男女が佇んでいた。男の方は黒髪で赤い服を纏い、腰に刀を差している。対して女の方はノースリーブの服にミニスカートという、露出の多い服装をしていた。

 

「アリサ、寒くないか?」

「大丈夫よ、これくらい」

 

二人の名前はそれぞれ、リィン・シュバルツァーとアリサ・ラインフォルトという。リィンは帝国の地方貴族であるシュバルツァー男爵家の養子で、アリサは帝国どころか大陸内でも有数の重工業メーカーであるRFグループの会長の娘である。ちなみに、二人は恋人同士だ。

この二人は、今から3年前にトールズ士官学院という軍人の養成学校でクラスメイトになった者同士である。

二人が在籍していたのは特科クラスVII組といい、貴族と平民でクラス分けされている学院では異例の、身分に問わずにクラス分けされた特殊なクラスであった。最初こそいがみ合っていた者もいたが、ともに学園生活を送り、特別カリキュラムで帝国各地の都市に赴いてその内情を知るなどをして着実に絆を育みつつあった。しかし、入学した年の秋に帝国で内戦が勃発、その後に家庭の事情や内戦での経験からVII組のメンバー達は別々の道を歩むこととなり、強制定期に解散してしまった。その際、リィン以外はカリキュラムを詰め込んで、そのまま飛び級卒業してしまったのだ。

そして彼らの乗るカレイジャスの前方には、巨大な大陸の姿が確認された。二人がなぜ、今一緒にこんな所にいるのかというと、事の始まりは数日前にさかのぼる。

 

 

 

 

この日、彼らは帝都ヘイムダルのバルフレイム宮に呼び出されていた。

 

「やあ諸君、よく来てくれたね」

 

宮殿に彼らを呼び出したのは、赤い服を着た金髪の青年だった。そしてその傍には、紫の髪の清楚な雰囲気の女性がいた。

彼はエレボニア帝国の皇子、オリヴァルト・ライゼ・アルノール。ただし、庶子の出であるため皇位継承権は低く、現在は自分から放棄している。

女性の方はエレボニアの隣国リベール王国の女王クローディア・フォン・アウスレーゼ(通称クローゼ)だ。

そして、そんな彼に呼び出されたのはリィン達だけではなかった。まずは同じくVII組に参加していたメンバーが2,3人、そして他国の遊撃士や警察関係者である。

 

「……」

「……」

 

その中の、警察関係者の一人である茶髪の青年がリィンと見つめ合い、複雑そうな表情をしている。

彼の名はロイド・バニングス。一年前に国家独立に成功したクロスベル自治州の警察の特殊部署、"特務支援課"に属する捜査官である。

クロスベルは今でこそ独立に成功したが、4年前の内戦の後にエレボニアによって占領されていた。その際、クロスベルを開放するための作戦の一つをロイドが仲間と行っていると、臨時武官として帝国軍に属していたリィンと戦うことになってしまったのだ。あの時は互いの都合があったものの、別に恨みなどは無かったのだが、それでも複雑な心境だろう。

 

「あの、お互い思うところもあるとは思いますが……そろそろ始めさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ、すみません。クローディア陛下」

「見苦しい物を見せて、申し訳ありません」

 

クローゼに言われ、リィンとロイドは気持ちを抑える。そして、オリヴァルト皇子が話し始めたないように、耳を傾ける。

 

「さて。今回君達に集まってもらった理由だが、遊撃士協会と各国の軍および警察組織による合同ミッションを依頼したかったからなんだ」

「合同ミッション? ずいぶんと急な話ね、オリビエ」

 

オリヴァルト皇子にため口で話しかける、茶髪にツインテールの女性がいた。彼女は遊撃士協会所属のA級遊撃士”エステル・ブライト”、その隣に座っている黒髪の青年は同じくA級遊撃士で彼女の相方、そして恋人のヨシュアだ。

エステルはオリヴァルト皇子をオリビエと呼んでいるが、これは彼がかつて素性を隠してエステル達と事件解決に奔走した際の偽名である。彼自身も、エステル達とは死地を乗り越えた仲であるとしてこちらの呼び方を推奨してきたため、エステル達もこの呼び方を使っている。

 

「まず目的地なんだが、大陸外への進出に成功して、新大陸が発見されたという報告があったんだ。その新大陸に行って欲しい」

「え!?」

 

その言葉を聞いて、集まっていた一同は驚愕していた。

 

「確か、ゼムリア大陸の外って空と海のそれぞれを大型の魔獣が闊歩していて、一定の距離以上進めないんじゃ……」

 

アリサが一同を代表して、ゼムリア大陸が大陸外と交流が無い理由について述べる。すると、オリビエがその理由を明かしてくる。

 

「実は、エプスタイン財団とツァイス中央工房(ZCF)がそれらの魔獣を遠ざける特殊な導力波を発生させる装置を開発するのに成功したんです。事が事だけに、まだ各国首脳にしか伝えられていませんが」

 

アリサの疑問に答えたのは、クローゼだった。そして、その説明をオリビエが引き継ぐ。

 

「で、実験ついでに外界調査を行ったらその大陸を発見。早速帝国軍の情報部に調査の任務が送り込まれたんだけど、問題が発生してね」

 

そしてオリビエは、少し間を置いてその問題を告げた。

 

 

 

 

 

 

「情報部員がアランドール大尉とオライオン姉妹以外、全員が死亡または行方不明となった」

 

そしてオリビエはミリアムたちからの報告という形で、その詳細を語り始めた。

まず、飛行艇を帝国の首都である帝都から離れた一帯に下ろすと、危険度Aランク以上の魔獣(現地で危険種と呼ばれているらしい)が闊歩しており数名が襲われ死亡。しかし、真に恐ろしい話は帝都に入ってからだった。

次々にメンバーがいなくなったが、路地裏で手足が削ぎ落された状態の死体が野犬のえさになっていた・とある貴族の屋敷から捨てられたごみの中に生首だけの状態で紛れていた・精神崩壊した状態で泥水や犬の糞を食しおり、確保から数日後に病死etc……

 

 

 

 

「なんなんですか? その街には猟奇殺人の犯人が闊歩しているとでも?」

「あっという間の事らしくて、未だ調査中なんだ。しかも向こうは鉄道網が敷かれてない程度に技術が発展していないらしくてね、簡易導力波発生器を使って途切れ途切れの通信で、何とか連絡を取ってる状況なんだよ」

 

ロイドが尋ねるとオリビエは説明し、もう一つのある話題を出してきた。

 

「そして、もう一つは一年前に西ゼムリア大陸全域で起こった、あの事件についてだよ」

 

今から一年前、クロスベルの独立が完了して間もないころ、ゼムリア大陸各地で痛ましい事件がいくつも起こった。

リベール王国でのミイラ化殺人事件、カルバード共和国での男性強姦殺人事件、レミフェリア公国での女性強姦殺人事件、クロスベル独立国の子供強姦殺人事件、エレボニア帝国の辻斬り事件、そしてエプスタイン財団での強盗殺人事件、これらの事件が順番に、中にはいくつか同時に起こったのだ。

ミイラ化殺人は一般人(主に男性)が血が一滴も残ってない干からびた死体と化した猟奇事件で、犯人がいまだに見つかっていない。辻斬りは同じく一般市民が無差別に切り殺されるという、痛ましい事件だ。こちらは犯行現場を目撃した遊撃士数人が交戦したが、遊撃士たちがC級以下だったこともあってか返り討ちになったという。生き残りの一人曰く、犯人の装いは東方風の装束をまとった剣士だという。強姦事件は文字通り、各国で男性のみ、女性のみ、子供のみがそれぞれ強姦された後に惨殺されるという事件だが、殺され方が異常だった。男性は体の一部分だけがミンチ状になり、女性は刃物で切り殺され、子供は焼死から体が部分的に腐敗していたりと様々な状態で、いずれも凄惨な死体と化していた。

そして最後にエプスタイン財団が謎の武装集団の襲撃を受けて、幾つかの機器や新型の魔導杖を強奪され、人的被害も受けた。そして、監視カメラに映った映像と、事件での死亡者が先ほど語った事件の被害者と同じ死に方をしていたため、彼らが一連の事件の犯人であると決定づけられた。

 

 

「それで、その事件の犯人が例の帝国に縁がある可能性が見つかった。それで、調査依頼を僕達の方で出させてもらったわけだ」

「そういうことですか……それで、その手がかりらしきものは一体?」

 

以来の詳細が判明したところで、ロイドの仲間兼恋人のエリィ・マクダエルが質問をかけてくる。

 

「向こうからの報告は簡潔なものになってしまっていてね、実物はおろか詳細もわかってないんだよ。まあ、さっきも言ったように

「エステルさんやロイドさん達特務支援課、そして内乱で活躍したVII組のみなさんなら、確実に調査が出来るとして依頼を回させてもらいました。皆さんをまず先遣隊として送り込み、後日戦力の追加投入を行わせていただきます」

 

そして、かつてゼムリア大陸を駆けた英雄たちが、異大陸の巨大帝国へと送り込まれるのであった。

 

 

 

 

 

その後、カレイジャスが例の新大陸へと到着し、帝都からそれほど離れてない辺りで降りることとなった。

情報局が最初に降り立った時は遠方の山岳部だったために移動の際に魔獣の襲撃を受けることとなったが、今回はエマがいる為、帝都にほど近い場所で降りることが出来た。

 

「委員長が来てくれたのは、本当に助かったな」

「うんうん。エマには本当に感謝感激だわ」

「それにしても、第二柱と同じ魔女の一族出身だったとはね」

「はい。ですが、このことは他言しないでいただければ」

 

VII組メンバーの一人、エマ・ミルスティン。魔女の眷属(ヘクセンブリード)の一員で、現代の導力科学では証明できない魔法の類が使用可能である。今回、その一つとして転移術を使い、カレイジャスが帝都から死角になりそうな位置から直接地上へと降りることに成功したのだ。

ちなみにここに来るまでの途中でエステル達とは交流を深めており、彼らが義理の姉弟兼恋人、元S級遊撃士のカシウス・ブライトの子供、オリビエとはリベールの異変で知り合ったなど、いろんな話を聞いていた。

また彼らは全員、ある秘密結社と因縁を持ち、しかもヨシュアに至ってはその結社のもとエージェントだったという経歴であった。

 

早速リィン達はバイクや車を走らせて帝都へと向かうが、その道中に前を行く荷馬車を目撃した。鉄道網などが見られないという報告を聞いたが、機械技術は本当にゼムリア大陸より低いと思われる。

しかし直後……

 

「? 地響きか」

「地面が盛り上がっているわね。アビスワームみたいな魔獣かも」

 

エステルが口にしたアビスワームとは、自身を起こして攻撃してくるミミズ型の巨大魔獣の名称だ。そしてすぐに、地面から何かが現れるが、それはリィン達が全く予測しない生物だった。

 

「うわあああ!」

土竜(ドリュウ)だぁあああ!?」

 

現れたのは、螻蛄を巨大化したような未知の生物だった。荷馬車の御者が名前を呼んでいるあたり、このあたりでは認知されている生物のようだ。

 

「な、何アレ!?」

「これが危険種とかいう、この大陸特有の魔獣みたいだな。迎撃するぞ」

 

さっそくリィン達は得物を構え、土竜を迎撃しようと動きを始める。

しかし……

 

 

 

 

「え?」

「あいつの片腕が……」

 

何処からともなく現れた茶髪の少年が、剣で土竜の片腕を切り落としてしまったのだ。

 

「一級危険種の土竜か。相手にとって不足無し!」

 

少年が土竜と対峙しながらそんな風に呟くと、激昂した土竜は無事な方の腕を振り下ろしてくる。しかし、少年は天高く跳びあがってそれを回避し、そのまま高速回転しながら落下する。そして、すれ違い際に土竜の体を切り刻んでしまった。

 

「つ、強い……」

「あの子、並の遊撃士より強いかもね」

 

アリサがその実力に驚嘆する中、エステルは冷静に少年の実力を分析する。体中を切り刻まれた土竜はその場で崩れ、やがては絶命した。

そしてそれを理解して、リィン達はすぐさま少年のもとに駆け寄る。

 

「君、大丈夫だったか?」

「腕には自信があるんで、大丈夫ですよ」

 

リィン達が少年に声をかけると、少年の方は特に動揺した様子もなく、余裕そうであった。

 

「それにしても、あなた強いわね」

「だね。相当修練を積んでいると見たよ」

 

エステルとヨシュアも少年に駆け寄り、その実力を称賛する。すると……

 

 

 

「いや~、あの程度の相手、一人で楽勝だって」

 

結構なレベルで舞い上がっており、かなり照れている。

しかし直後、何やら雄叫びのような物が聞こえたかと思ったら、巨大な鳥の怪物が姿を現したのだ。

 

「あれは、エビルバードか!?」

「特級危険種って……流石にこれはきついかな」

 

現れた鳥型の危険種エビルバードは、かなり凶暴な部類らしく、少年も顔を若干曇らせている。しかし、直後に後ろの車から誰かが飛び出し、サブマシンガンでエビルバードに攻撃を仕掛ける。

 

「みなさん! あたしが抑えておきますから、撃破をお願いします!!」

「ありがとう、助かるわ!」

 

出てきたのは、帽子をかぶった赤い髪の女性だった。彼女は特務支援課のメンバーでクロスベル警備隊の少尉、ノエル・シーカーである。

そしてそんなノエルに、エステルは礼を言ってエビルバードを目掛けて跳び上がる。

 

「金剛撃!!」

 

エステルは跳び上がったと同時に、技名を叫びながら思いっきり棒をエビルバードの頭に叩き付ける。それにより、エビルバードは脳震盪を起こしてふらつくが、どうにか落ちないように持ちこたえている。

 

「今よ。フランベルジュ!」

「ジャッジメントボルト!」

 

隙ありと言わんばかりに、そのままアリサとエリィが弓とアーツで追撃をかける。

 

「サベージ・ファング!」

 

そこにすかさず、先程から会話に参加していなかった褐色肌の青年、VII組メンバーのガイウス・ウォーゼルが跳び上がってエビルバードの背中に槍を突き刺す。着地の衝撃と刺された痛みで、エビルバードは地面に落ちた。

しかしそれでもまだ仕留めきれず、エビルバードは立ち上がろうとしていた。

 

「まだ起き上がれるだけの力があるか…リィン、とどめを頼む」

「わかった……八葉一刀流」

 

ガイウスに促され、リィンは腰に差した刀に手をやる。

 

「四の型”紅葉切り”!」

 

直後、リィンの姿が消えたかと思ったら、なんとエビルバードの首が宙を舞っていた。見てみるとリィンがエビルバードの背中の上で納刀しており、あの一瞬で抜刀&移動を終わらせていたようだ。

 

 

「あんた達、すっげえな! ぶっちゃけ、そこの黒髪の兄ちゃんとか棒持った姉ちゃんなら一人でも勝てたんじゃねえか!? それに、動きの無かったアンタたちも、実は強いだろ!」

 

少年はリィン達のチームプレーに見ほれ、興奮していた。そして同時に、彼らの実力まで分析していたようだ。

 

「まあ、あの程度なら多少時間を取れたら勝てなくもないわね」

「けど、その間に誰か死んだら拙いからな。数の差とか、全員無事で勝てる方法は確実に取るつもりさ」

「増援が来る可能性もあるから、体力も温存しておきたかったしな」

 

ヨシュアとロイド、そしてエマには動きが無かったが、ちゃんと考えあってのことでもあったようだ。

 

「俺、タツミっていうんだ。これから帝都で軍に入って名を挙げに行くんだけど、あんた達もそのつもりか?」

 

すると少年は自己紹介をし、その一環で自身の目的を告げてきた。

 

「俺はリィン。故郷でもう仕事には就いていてね、帝都には仕事の一環で行くところなんだ」

「アタシはエステルっていうの。で、アタシ達は仕事柄、いろんな国に行って人助けしているのよ」

 

リィン達が自己紹介を終えると、直後に御者の一人が声をかけてくる。しかし、その顔色は心なしか優れていない。

 

「あんた達、帝都に行くつもりか? そんでもって、そっちの団体さんは口ぶりからして外国人みたいだが……」

「ええ、そうですね。何か問題でも?」

「悪いことは言わねえ。帝国には長居しない方がいい。そんでもって帝都に行くのだけは危険だからやめておけ」

 

御者の言葉を聞き、リィン達は何かありそうに思って尋ねてみる。

 

「もともと長居するつもりはありませんが、何かあるんですか?」

「一言でいえば、土竜やエビルバードよりも質の悪い化け物がいる」

「まさか、街中で危険種でも出るのか?」

 

御者の言葉を聞いたタツミが、凄まじいまでに的外れな発言をしていた。しかし、御者は顔色を変えずに再び言葉を紡ぐ。

 

「人だよ。見た目は人だけど、心は化け物なのさ」

 

事前報告で聞いた猟奇的な事件、それを起こす何かしらの人物を指していると思い、ロイドがさらに突っ込んだ話を聞こうと声をかけた。

 

「まさか、帝国の首都が犯罪者及びその予備軍の巣窟だとでもいうんですか?」

「確かに来る前に、黒い噂を耳に挟みはしましたが、そんなに治安が……」

「いいや、治安云々の話どころじゃないさ。敢えて言うならそう、あそこは……」

 

そして、御者は少し間を置いて詳細を告げた。

 

「地獄だよ。いや、ひょっとしたら地獄でもまだ足りないかもしれないが、他に表現のしようがない」

 

尋常ではない表現が飛び出し、リィン達の表情がこわばる。大きな事件や戦争を経験したリィン達ではあるが、現状で巻き込まれた様子も無い場所でこのような表現が飛び出すなら、異常性を感じ取ったのだろう。

すると、タツミは荷物を抱えながら再度御者たちに言ってのける。

 

「忠告はありがたいけど、俺が、俺達が稼いで村を救わなきゃならないんだ」

 

まっすぐな目をしたタツミは、そのまま空を仰ぎながら言う。そして、このリィン達とタツミの出会いが、世界の命運をかけた大きな戦いの始まりだとは、この時は誰も思いはしなかったのだ。

 

 

人が次第に朽ちゆくように 国もいずれは滅びゆく

千年栄えた帝都すらも いまや腐敗し生き地獄

人の形の魑魅魍魎が 我が物顔で跋扈する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれでも希望はある

人はいつも英雄を求める

そして英雄は必ず現れ やがては光を取り戻す

我等全員、英雄也

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