英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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少々ネット環境の問題で一か月ぶりの投稿になってしまいました。
今回はアカメ側で大臣に関するコミックス未収録分のネタバレが入っているので、読む際はご注意ください。


第18話 接触と異変

「身喰らう蛇……それにあの兵器を作ったということは、ゼムリア大陸の住民なのか?」

 

かつての同僚と、その彼が属する組織の幹部の出現にアカメは思わず問い尋ねる。帝国を超える技術、帝具使いとは異なる得体の知れなさ、それらからリィン達に話を聞いた東の危険種密集空域を超えた先の、ゼムリア大陸に由来するものと直感した。

 

「リィン・シュバルツァーやエステル・ブライト、彼らから聞いたか。まあ身喰らう蛇もゼムリア大陸の勢力だが、殆ど犯罪組織のような物だがな」

「まあ、世間からの評価は概ねそんなところだね。一応、盟主の崇高な思想に同意した者達が、使命で動いているんだがね」

 

ノバルティスがうんざりした様子で呟く。自らを崇高な人間だと言ってのける辺り、彼もやはりどこかくるっているのかもしれない。しかし、ナイトレイドの標的となりうる外道とは異なる、異質な何かが感じ取られていた。

そんな中、ナハシュが自身に何があったのかを語り始めた。

 

「俺は崩壊するプトラの王墓でポニィを守るために崖から落ちた。瓦礫の下敷きになって死を待つだけだと思った矢先、俺を救ったある人がいた」

「そいつが、その身喰らう蛇の人間だというのか」

 

アカメの問いかけに首を縦に振ってこたえ、そのままナハシュは続けた。

 

「その人の名はレオンハルト。周りからレーヴェと呼ばれていた彼は俺の執行者ナンバーであるⅡの先代で、剣帝の異名をとる最強の剣士だった」

「だった、ということは……」

「察しの通り、死んだ。彼自身の目的を成して結社を抜ける覚悟が決まった後、それが計画の支障になると踏んだ別の幹部と交戦、その結果だ」

 

レーヴェの死を聞いて動揺するアカメとブラートだったが、そのままナハシュは話を続ける。

 

「結社の頭目である盟主は悲しんでいたものの、彼が為すべきことを成したということらしく、今ではそれで納得している……話が逸れたな。俺はそのレーヴェに救われ、その後に盟主から帝国の実態を聞かされた。父に言われるがままに命を屠って幸福にしていたのが、あんな畜生以下の外道だと知ったときは己を恥じたさ」

 

そしてナハシュが話を終えると、アカメはあることが気になってそれを直接聞いてみる。

 

「なら、なんで革命軍に入ろうとしなかったんだ? そうすれば、グリーンもポニィもツクシも助かったかもしれないのに……」

「そこがまだ甘いと言ったんだ雑魚。帝国だけの未来を案じたお前の浅慮さがな」

 

しかしナハシュは、帝国や仲間の未来を案じていたアカメのその思いをバッサリと切り捨てたのだ。そして、そのまま告げる。

 

「身喰らう蛇の盟主は全ての魂を導く存在、つまり全世界の命のために尽くすつもりだそうだ」

「ぜ、全世界……」

 

いきなり壮大すぎる単語が飛び出し、アカメも困惑する。

 

「帝国の外にも様々な問題があった。魔女裁判で同様に罪のない娘を理不尽に裁く西の王国、異民族同士での闘争、といったこの大陸全体の歪み。件のゼムリア大陸も、いくつもの問題を抱えている」

 

平民が力を付けたために、異なる身分同士の対立が問題のエレボニア帝国。新興国家でありながら移民の受け入れで勢力を強めるも、それを受け入れられない人々が反政府組織を興したカルバード共和国。その二大国家に挟まれ、条約でどうにか侵略を抑えているリベール王国と最近に国家独立に成功したクロスベル独立国。

今でこそ問題がある程度は解決しているが、まだまだ解決していない問題も多く、国家として不安定な状況が続いていた。

 

「それらすべてを変える可能性、それを俺は盟主や使徒の面々、他の執行者たちから聞かされた。だから俺はそのまま身喰らう蛇に属すことを決め、見事執行者候補となった。そしてレーヴェの死から4年が経った今、俺は彼の剣ケルンバイターと執行者ナンバーを継ぐに至ったわけだ」

「……なるほど。それで、チーフはなんでそれを私達に伝えに来たんだ? その様子だと、昔の好というわけでもなさそうだ」

「ああ。全世界の安寧を考えているなら、帝国もそこに含まれている筈だ。なのに、そこの白衣のおっさんがあの盗賊団に兵器を横流ししたのは解せねぇ」

 

ナハシュが身喰らう蛇に属する理由を知るも、アカメ達は二人を警戒している。特にブラートが語る、ノバルティスがドラギオンを盗賊団に横流ししたことだ。つまりそれは悪党に、帝国を脅かす力を与えたということになるからだ。

しかし、ノバルティス自らその理由を語り始めた。

 

「どうしても確認したいことがあってね。そのために彼らに譲ったのだが、その際の犠牲も後の安寧の為の礎として諦めることにした」

「そこまでして、お前は何が知りたかったんだ? 返答次第じゃ、ここで葬らせてもらう」

 

ノバルティスの言葉に、ブラートはインクルシオの副武装である槍ノインテーターを構えて伝える。

 

「帝具の力だよ。私と十三工房が開発した人形兵器、ひいては執行者にどれだけ対抗可能かを確かめる必要があったのさ」

「そんなことの為に、民を脅かす連中に力を与えたのか?」

「お前達だって依頼で外道共を始末しているが、それでも救えない無垢な命があるだろう」

 

その言葉に、アカメ達はついハッとなってしまう。

 

「お前らナイトレイドは、依頼で外道の始末をする際に裏を取る必要がある。だが、それまでの間にどれだけの罪なき命が消え去っていく? それと同じで、俺達も犠牲承知で確実な勝利を得るための布石を打っているだけにすぎん」

「私の知的好奇心もあるせいで、この手段が褒められたものではないというのは承知さ。だが、偉大なる盟主の理想を体現するためにも必要なことなのだよ」

 

ナハシュに痛いところを突かれ、ノバルティス自身もそれを業と知って行っているという事実につい動揺してしまう。

 

「今までも影から計画の一環として大陸に介入していたが、今回の件から本格的に身喰らう蛇は帝国に干渉させてもらう。お前達ナイトレイドや遊撃士達とも対立する可能性もあるので、今回はその宣言の為に顔を合わせに来たわけだ」

「……やり方が違うとはいえ、ナイトレイドとも敵対するのか?」

 

そのナハシュの言葉に、またもアカメは問いかける。そして答えが返ってきた。

 

「帝国で俺達執行者に与えられた任務、その最優先事項が帝具の破壊でな。故に、帝国内の勢力と積極的に戦うことになると思われるわけだ」

「盟主が尤も危惧しているのは、帝具が結社の使命を邪魔する要素になりかねないか、なのだよ。だから、帝具を持つ勢力と敵対する可能性があったあの盗賊たちにドラギオンを譲ったのだよ」

 

ナハシュ達から告げられた敵対理由、それを聞いた瞬間にアカメもブラートも身構える。

 

「残念だが、この村雨もインクルシオも革命のため、そして革命後の帝国を守るために必要なんだ。それを破壊しようものなら、たとえチーフ相手でも葬る」

 

そしてアカメはマントを脱ぎ棄てて、ブラートと二人で一気に距離を詰める。しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗殺部隊時代より強くなったようだが、まだ雑魚の域だな」

 

直後、なんとナハシュの姿が消えたかと思いきや、アカメの首筋に剣が突き付けられていた。しかも驚くことに、なんとナハシュが二人になっておりそのままブラートにも剣を突き付けていたのだ。

 

(速い……しかも、何故チーフが二人に?)

「こいつは帝具じゃない。分け身と言って、レーヴェが得意とした実像分身を生み出す戦技(クラフト)だ。俺はまだ一つ生み出すので限界だが、レーヴェはこれを際限なく生み出せた」

 

ナハシュの言っていることから、アカメもブラートも未知なる強大な力を感じ取って戦慄する。生身で道具も無く実像分身を生み出す、そのありえない強さを組織ぐるみで擁していることになるため、戦慄して当然だろう。

しかしナハシュはいきなり分け身を消し、アカメから離れる。

 

「今回はあくまで顔合わせが目的だが、次は遠慮しない。覚悟しておけ」

 

ナハシュがそう言った直後、彼とノバルティスの足元に光の輪のような物が出現する。そして、それに呑まれると同時に姿を消したのだった。

 

「消えた……帝具も無しにあんな力や技術を」

「エスデスが帰還したと思ったら、新しい敵か。厄介なことになっちまったな」

 

結局、アカメ達はそのまま帰還することとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

深夜・宮殿地下にて

 

「あぁ、あの坊やの能力と持ち物も調べなきゃだし、あのドラギオンとかいうスタイリッシュな兵器も調べなきゃだし、今夜は眠れそうにないわ!」

 

イェーガーズの初任務を終え、スタイリッシュは研究室で興奮気味になっていた。

 

 

「ドクター、なかなかに精が出ているようですねぇ」

 

そんな中でなにやら太い男の声が研究室に響いたかと思いきや、なんとそこにはオネスト大臣の姿があった。

まさかの人物の登場に、スタイリッシュも部下たちも流石に驚愕してしまう。

 

「だ、大臣様!? なんでここに……」

「正体不明の何者かが、たった一人で私の首を取りに来た。しかも帝具も無しに謎の力を使ったため、ドクターの研究室に捉えられたと聞きましてね、興味があったんですよ」

 

オネストは自らここに来た理由を語り、それを聞いてスタイリッシュはその詳細を話し始めた。

 

「ええ、それはもう……何というか、まるで危険種のような獰猛なオーラをまとっていて身体能力はライオネルのような使用者を強化する帝具を上回っているんですよ。しかも持っていた刀や装置が未知の金属と機構でそれぞれ出来ていて、うまく使えば帝具を新たに量産できるかもなんです!」

「ほほぅ、それはそれは。ブドーは拒みそうですが、エスデス将軍とドクターを含めたイェーガーズ、ひいては帝国の全戦力をより強大にしてくれることを期待していますよ」

「いわずもがなですよ、大臣様。全ては、スタイリッシュの境地に行くためでもあるんですから!」

 

オネストに褒められてスタイリッシュのテンションはさらに上がり、血管が切れるのではという程の興奮状態となっていた。

 

「さて。それじゃあ次の実験をするから、移動させちゃいましょうか。カクサン、お願い」

 

そしてスタイリッシュはカクサンを促して、リィンの拘束を解き始める。しかし、手足の拘束具が外されると同時にリィンは素早く起き上がった。

 

 

「はぁあ!」

「ぶへらぁあ!?」

 

そしてそのままカクサンの顔面に鋭い一撃をたたき込んでノックアウト、そのままオネストの方にかけていく。

 

(ここで殺れなくても、しばらく動けないほどの重傷を与えれば!)

 

リィンは全ての元凶、オネスト大臣の名を聞くと同時に覚醒。今が叩くチャンスと感じて、拷問や薬漬けで疲弊した体に鞭を打ったのだ。そして、オネストにリィンは剣をなくしたときに用いる、八葉一刀流の八ノ型"無手"での必殺の一撃を放つ。

 

「破甲拳!!」

「いやぁあああああああああああああああああ!?」

 

気を練った拳をリィンは絶叫するオネストの土手っ腹に放ち、そのまま致命傷を与え………

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、でも止められました」

「な!?」

 

なかった。なんとオネストはリィンの放った破甲拳を、正面からつかんで止めてしまったのだ。しかも、これだけでは終わらなかった。

 

(な、なんだこの力は? 拳が握りつぶされる………!?)

 

オネストの握力は、病気一歩手前なほど肥え膨れた男の物とは思えないほど強かった。それも、鍛えられた軍人や武闘家の物に匹敵するレベルである。

 

「さて。ドクターは息子のシュラと友人ですから特別に見せますが、エスデス将軍にも隠しているので他言無用ですよ」

 

そう言ってスタイリッシュに対してクギを刺すと、オネストの反撃が開始された。

 

「皇拳寺・百烈拳!」

 

そのままオネストは超高速のパンチ連打を放ち、リィンを一方的に叩きのめす。目を覚ましてから丸一日、拷問や薬責めを受けて体力を消耗していたリィンは、声を上げる余力もなく、そのまま倒れ伏した。

 

「私の夢は、130歳くらいまで生きて好きなものを食べて、気に入った女を抱いて気に食わないものを殺すことです。全部叶えるには体が資本ですからね、若い頃に皇拳寺で鍛えさせてもらったんですよ。私のことをただ頭の回るだけのデブだと思ったのが、運の尽きでしたね。こう見えて健康体なんですよ」

 

意外すぎるオネストの経歴、そしてそれから来る戦闘能力、いくら八葉一刀流の奥義とはいえ疲弊したリィンのそれでは勝てるはずもなかった。

 

「相当な訓練を積んで、しかも現役のようですから本来は相当お強いんでしょうね。ですが、そんなボロボロの体で私を倒そうとしたのが間違いでした」

「まさか大臣様が腕っぷしもお強いなんて……エスデス様に匹敵するスタイリッシュさだわ!」

「褒めないでください、嬉しさのあまりに体重が増えてしまいますから」

 

そのままスタイリッシュに称賛されたオネストは、照れながら上着の内にしまっていた革袋からフライドチキンを取り出し、そのまま貪り食う。悪意のある者同士の戯れに、リィンは心底不快な気分となる。

 

「見たことも無い技に能力、そして技術……帝国の東が未開発ということですから、その先に未知の国があるのかもしれませんね」

「ええ。それも、今の帝国より高度な技術を持っているようですな」

「ああ、その通りさ……」

 

そのままスタイリッシュとオネストが話していると、リィンの方から声をかけてくる。

 

「流石に詳しい事情は話せないが、この国以上に高い技術力と軍事力を擁する国から俺は来た。下手をすれば、その国の力で帝具も圧倒される可能性もある。それだけは覚悟しておけ」

 

ひとまずリィンは、わざとぼかす形で自分達の国を引き合いにオネスト達を脅すという方法をとる。普段の彼はとらない手段だが、帝国の脅威を少しでも抑えようと必死になっていた。

 

 

 

 

 

 

「いーっひっひっひっひっひっひっひっ、バァーカ! そんな脅しに、私は屈しませんよ!!」

「そうねぇ、その国の技術がどれだけすごくても帝国が負けるはずがないわ!」

 

しかしオネストもスタイリッシュも、大口を開けて唾を飛ばしながら下品に笑う。脅しをハッタリとみなしたとしても、ここまであざ笑うのは何かおかしい。

 

「まさか、噂のエスデス将軍と俺を捕えたブドー大将軍のことか?」

「それもありますが、私達はそれ以上の強大な力を持っています」

 

 

 

「皇帝一族のみに使える、最初にして頂点の帝具”至高の帝具”。陛下を傀儡として操っている私達は、いわばそれを独占しているのですよ」

「その圧倒的攻撃力は、国の一つ二つを焦土と化すのも容易。まさに、究極のスタイリッシュ!!」

 

彼らもブラフを張っている可能性はあるが、この自信は彼らの話が本当だという証拠でもあった。もしこの話が本当なら、敵はエレボニア帝国とカルバード共和国の二大国家をも上回る力を有することとなる。

 

「さて、それじゃあ君は特別に処刑は控えてあげますが、死ぬまでドクターの実験台となってもらいます。仮に脱出しようとも、至高の帝具の話を広めてお仲間を恐れおののかせてくれれば結構です」

「さぁて、それじゃあ大臣様のお許しも出たことだし、貴方を使った実験は引き続きやらせてもらうわね」

 

そしてそのままオネストはスタイリッシュに後のことを任せ、研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この時オネストは気づかなかった。

 

「……大臣が余を傀儡に? そんな馬鹿な……」

 

皇帝がオネストをこっそりと付けており、今の話を扉越しに聞いていたのだった。当然入り口にも護衛はいたが、皇帝の権限で自分のことを黙っておくように釘を刺していたのだった。

 

(昼間にクロチルダ殿の歌を聞いてから、何故か大臣を疑わずにいられなかった。これはそう言うことだったのか?)

 

昼にヴィータは歌に交えて何かの暗示をかけていたらしく、それによって皇帝にオネストへの不信感を抱くように仕向けられていた。

そして、この皇帝の行動が帝国の未来を分けることになるのは、本人を含めた全員は思いもしなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「へぇ……城崩しなんて初めてだな。結社としては、教授がリベールでことを起こした時以来だったか」

 

イェーガーズの初任務が終わり、その翌日正午前にある男が宮殿の前を訪れていた。執行者最強の男、マクバーンだった。

 

~昨晩、メルカバにて~

 

「リィンの救出に協力したいですって?」

「ああ。お前らも聞いてると思うが、執行者には意に沿わない任務に就かない、単独行動も可能っていう行動の自由が約束されている。これは、その自由で俺が勝手に協力してるだけだ」

 

メルカバを訪れたマクバーンがアリサ達に伝えたのは、そんな申し出だった。正直、結社最強の双璧である戦力としては申し分ないがそのマクバーン個人や結社そのものの思惑がわからず、一同は警戒する。

 

「……行動の自由というのを踏まえて、どういう目的で僕達に協力するというんだ?」

「大きく分けると、三つあるな」

 

ヨシュアが代表して問い尋ねると、マクバーンがその理由を語り始める。

 

「一つ、詳しくは言えねぇが全帝具の破壊という指示が盟主から下った。方法は任せるということで、俺は勝手に適当な帝具使いと遭遇次第にやろう、と考えた。そこに都合がいいと思ってな」

「二つ、この国最強の双璧、特にエスデス将軍ってのが気になった。そいつの帝具が、俺の異能と対を成す氷の力で、しかもいくつも国や部族を滅ぼしてるって聞いた。それで、久しぶりにアツくなれるんじゃねえかと思った」

 

一つは執行者としての任務、二つ目は彼個人の願望でエスデスと戦いたいという物だった。二番目は対峙したアリサ達には、彼らしいということで納得する。

そして、最後も彼個人の要望によるものだった。

 

「そして三つ、俺をアツくさせられる数少ない一人のリィン、奴に死んでほしくねえ。もうレーヴェの阿呆みたいなのはうんざりだ」

 

一瞬、レーヴェのことを阿呆と呼ばれて不快に感じてしまうヨシュアだったが、会話の内容からそれなりに親しかったということを察してそれを抑える。そして、リィンにもそれに近い感情を抱いているため、死なせたくないと思っていた。

どうするべきか迷っていると、アリサが真っ先に躍り出て答えを出した。

 

「その協力の申し出、受けさせてもらうわ」

「ほぅ……迷いがねぇな」

 

アリサがマクバーンの申し出を受けたことに、皆が動揺する。

 

「アリサ、何言ってるのよ! ソイツ、結社の人間なのに信用するの!?」

「僕もNo.Ⅰに会ったことは無いから、信用に値するかわからない。あまりおススメは出来ないけど……」

 

エステルもヨシュアも警戒するが、アリサはそれを信用する理由があった。

 

「リィンが内戦の時に貴族派の飛行艇に捕まった時、彼と話したことがあったそうよ。基本めんどくさがりらだけど、他の結社関係者に比べて比較的良識的な人物だったって。それに、彼もいわゆる戦闘バカみたいだから、今の話も嘘じゃないと思う」

 

アリサも自身の体験とリィンからの話を聞いて、マクバーンを信用すると考えた。

 

「私も、アリサさんと同じ理由で彼を信用してみます。正直、以前に対峙した時に彼の力の全快を見ましたが、例のエスデスさんに匹敵するはずです」

「俺も彼を信用してみようと思う。それに、リィンを一刻も早く助けないといけないから、使える手は使うべきだとも思うな」

「僕もガイウスと同意見かな? 早くしないと、リィンが危ない目に合っちゃいそうだし」

 

続いてエマとガイウス、ミリアムまでアリサに賛同、今回集まったVII組メンバーは全員マクバーンの協力を得るという結論に至った。

 

「さぁ、リィンのお友達は全員で俺に協力を申し出た。お前らはどうする?」

 

マクバーンに再度問いかけられるが、今のやり取りで全員の腹は決まった。

 

「いいわ。協力をお願いする」

「僕からも、お願いします」

「遊撃士としてはマズいだろうが、リィンの為だ。俺からも頼む」

「私もロイドを助けたい、だから協力をお願いするわ」

 

結果、マクバーンはリィン救出作戦に協力することとなった。

 

~回想了~

 

「さて。それじゃあ、早速行かせてもらうか」

 

そう言い、マクバーンは一人で宮殿前に近寄る。

 

「止まれ、ここは皇帝陛下の御殿であるぞ! 何の用があって来た!?」

 

案の定、入り口の守護をしている番兵たちが止めてきた。槍を携え分厚い鎧を纏った二人と、軽装に機関銃で武装した十数人と、厳重態勢のようだ。

しかしマクバーンは特に気にした様子もなく、戦闘態勢に入った。

 

「さて、一応粒揃いではあるようだが帝具使いとやらには劣るだろうな。あまり期待は出来そうにないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精々一分くらいはもってくれよ」

 

そう言い、マクバーンは手のひらから火の玉を生み出して投げつけた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「始まったみたいだ。僕達も行こう」

 

宮殿上空、アガートラムとクラウ=ソラスに乗ってリィン救出部隊が動いていた。

そしてマクバーンの攻撃による爆発音を合図に、リーダーであるヨシュアの指示を出して、リィン救出部隊が行動を開始した。他のメンバーはアリサは当然ながら、アリサのバックアップとしてシャロン、魔女の技による支援要員としてエマ、直接戦闘を想定してエステルとなっている。

 

「それじゃあ、僕達に出来ることはここまでだね」

「みなさん、ご武運を。リィン・シュバルツァーとロイド・バニングスの救出、必ず遂行してください」

「言わずもがなだよ」

 

そしてヨシュアがミリアムとアルティナに告げ、宮殿中庭に飛び降りる。そしてアリサ達もそれに続いた。

 

「リィン、絶対に助けるから待ってて」

「それでは、先頭はヨシュアさんに任せてもらいましょうか」

 

中庭から宮殿内に入り込んだ一向は、シャロンに促されてヨシュアの後に続いた。




次回、救出作戦決行。ここから、リィンの復活劇が始まります。

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