英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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今回はリィンをメインに書くので、マクバーンVSエスデスの顛末は次回に持ち越しにします。

そして、今回は推奨BGM(閃の軌跡Ⅱで使用)があるので、以下のマークが文章中に出たらそこで流してみてください。
♪1「かけがえのない人へ」
♪2「戦場の掟」
♪3「blue destination」
ぶっちゃけた話、この展開を書きたいがためにリィンの心を折る展開を作ってしまった……

後悔も反省もしてないぜよ!!


第20話 剣聖の復活・刃閃く刻

「リィン、助けに来たわよ」

 

Dr.スタイリッシュの研究室に突入し、リィンを発見したアリサ達。

 

「リィン君、酷い目に遭ったのね。でも、もう安心よ」

「早いところここをおさらばして、ゆっくり体を休めるんだ」

 

エステルとロイドがリィンを安心させるように伝えるが、リィンの表情が何処か険しい。

 

「アリサ、悪いことは言わない。エステル達と一緒に俺を置いて逃げろ」

「え?」

「ちょ、リィン君? いきなり何言ってるのよ」

 

開口一番にリィンが伝えたその一言、アリサ達は驚愕する。

 

「ここの責任者のDr.スタイリッシュとかいう奴が、俺の鬼の力を研究しようとしているんだ。おかげで処刑が免れたから、そっちに気を回そうと囮になるよ」

「リィン、自分を犠牲にする気か?」

「確かに効率で言うとそれがいいんだろうが、遊撃士や警察官である僕達はそういうのは許容しかねない。だから、本心だとしてもそれは聞けないよ」

 

しかし、流石にロイドもヨシュアもその提案は聞けなかった。しかしリィンはかまわず、話を続ける。

 

「昨日の夜中、その話を告げられた時にオネスト大臣が俺に直接会いに来た」

「え!?」

「奴は皇帝一族だけに使えるらしい、最強の帝具を私物化しているそうだ。皇帝を傀儡にしているということは、その帝具を自分で使えるも同然ってことらしい」

 

そしてあのオネスト自ら語った、至高の帝具の存在を語る。

 

「その帝具は、国一つを焦土に変えるのも容易らしい。下手をしたら、エレボニアもリベールも壊滅させられる。アリサは早く帰って、ユーゲント陛下やオリヴァルト殿下にこの危機を伝えてくれ」

「リィン……確かにこの国に来てから嫌なもの見すぎて堪えてるでしょうけど、それを踏まえてもおかしいわよ。一体、どうしたの?」

 

流石にアリサはおかしいと感じ、リィンに何を思っているのか問い尋ねる。そして、ゆっくりと胸の内を明かし始めた。

 

「この国に来て、俺はまた自分の無力さを痛感した。どれだけ重い経験をしようと、どれだけの力を付けようと、どうにもならないことがあるって、思い知らされた。あのエアって子も、街で見たいわれのない罪で処刑された人たちも、俺達がここに来る前に人生を歪められた。力があるかどうかだけじゃ、どうにもならないことがあった」

 

「灰の騎士や八葉一刀流の皆伝、力も肩書も手にしたがそれでも俺に守れない物がある。クロウが死んだとき、もっと力があれば助かったかもしれない、そう俺は思った。でも、俺がいくら力を手にしてもどうにもならないことの方が多い、そう実感させられた」

 

「だから……アリサ達は早々に手を引いてここを離れるんだ。俺は、アリサまであの人達みたいな目に合うのは見たくない。あの時に戦った帝具使いに、アリサは悲惨な殺され方をされるところだったんだ。だから……」

 

ポツポツと、弱音を吐き出すリィン。そこにはクロウの死と彼が討った筈のオズボーン宰相の生存、そしてそのオズボーンがリィンの本当の父だという衝撃の事実。そのような状況で内乱終結直後にリィンは相当打ちひしがれたが、今はそれ以上に傷心した状況となっている。

話すごとに弱々しくなっていくリィンの様子に、エステル達は心配そうにしつつ、投げかける言葉を探している。しかし直後……

 

―パンっ―

「あ、アリサ?」

 

アリサがリィンの頬をひっぱたいた。いきなりの事態にリィンだけでなくエステル達も驚く。

 

「リィン、自分一人で全部背負おうとしないで!」

 

♪1

リィンの顔をひっぱたいたアリサは、涙目で声を荒げながら告げた。そして、アリサは言葉を続ける。

 

「エアちゃんや他にもひどい目に合わされて、そこから解放されないまま殺された人たち……そんな人たちのことで傷ついたのは私だって一緒だった」

 

出稼ぎに来たら、いきなり痛めつけられ尊厳も奪われ、しかも理由が「楽しいから」。まともな感性の人間なら、誰だって不快に、ましてや知っている相手や助けられたかもしれない相手だったら、なおショックは大きいだろう。リィンだけがそうだったわけでは、なかった。

 

「ほんの少しのズレ、それだけで助けられないことなんて何処に行ってもある。薬が手に入っても届けるのが間に合わない、人為的かどうかの差だけでそんなことは何処に行っても起きる。だけど、今のリィンはそれを自分だけの責任であるかのように受けて、必要以上に重荷を背負っているだけじゃない!」

 

アリサは何か考えがあるわけでもなく、自然と言葉が出て来た。リィンの大切な人でいたいという想いが、そうさせたのかもしれない。

 

「クロウの最期の言葉、覚えている? 『お前は、お前らはまっすぐ前を向いて歩いていけ。ただひたすらに、ひたむきに、前へ』」

「あ……」

「あれ、あなただけじゃなくて私達VII組全員へのメッセージよ。だから、私だって背負う」

 

言葉を紡ぐうちに、アリサの眼に涙がにじみ出てくる。

 

「私だけじゃない、エマにガイウスにフィーに、エリオットにユーシスにマキアス、ミリアムにサラ教官、もし必要だったらエステルやロイドにだってその仲間の人達にだって背負ってもらうよう頼むわ。だから……」

 

そして、最後にアリサはリィンに抱き付いた。そして、そのまま大粒の涙を流しながら叫ぶ。

 

「自分を責めてばかりいないで、立ち上がって欲しい! 私の大好きなリィンが、そんな風に心も体もボロボロになっていくところなんて、私は見たくないから!!」

 

アリサのここまでの訴え、そして最後の叫びがリィンの脳を心臓を心を、強く激しく揺さぶる。

 

『お前は……お前らは……まっすぐ前を向いて歩いていけ……ただひたすらに……ひたむきに……前へ……』

 

リィンの脳裏に浮かんだのは、先程アリサが語ったクロウの最期の言葉だった。それは自分だけに出なく、VII組のメンバー全員へのメッセージだ。

そして、リィンはその言葉を反芻し、やがて一つの結論に至る。

 

――

そうだ、そうだったんだ。

俺は、一番大切な物を忘れていたんだ。

 

俺一人に出来ることなんてたかが知れている。なのにクロウが死んだという事実と、起動者(ライザー)であることや剣聖の称号を得たプレッシャーに押されて、全部を一人で背負おうとしていた。その所為で、クロウの最期のメッセージの意味を忘れてしまっていたんだ。

 

俺が一人でアリサやみんなを守るんじゃない、アリサやみんなと一緒に、無様でもいいからとにかく足掻けばいい。重荷も一緒に背負えばいい。そうすれば、限界なんていくらでも超えられる。あの時、クロウはそう言いたかったんだ。

 

クロウの言葉が、エステルやロイドの姿が、アリサの想いが、それを思い出させてくれた。大臣の所為で心が折れたと思ったけど、そんなことなかった。

 

だって、もしそうだったら……

――

 

 

 

(こんなに、こんなにもアリサの言葉が響いてくるはずがない……)

 

その時、リィンは泣いていた。悲しいわけでも、悔しいわけでもない。その涙は、リィンの張りつめた心を解きほぐしていった。

 

「リィン、あなた泣いて……」

―ダキっ―

「え!?」

「ちょ、リィン君!?」

「急にどうしたんだ!?」

「あらあら」

 

直後、リィンはアリサに抱き付いていた。エステルとロイドは驚愕し、ヨシュアとエマも硬直、シャロンはそれを面白そうに、それでいて見守るように見ている。しかし、リィンはそんな様子も気にせずに、アリサに抱き付いたままだった。

 

「アリサ、ありがとう」

「へ?」

 

涙声で礼を言うリィンに、アリサは困惑する。しかし、気にせずにリィンは続けた。

 

「アリサのおかげで、忘れていた一番大切なことが思い出せた。アリサの言う通りここに来てから……イヤ、それより前から一人で背負いすぎていた」

 

「このまま何もわからずに死んだら、クロウに向ける顔が無いしアリサも悲しむ。だけど、アリサがひっぱたいてでも、泣いてでも伝えてくれた想い。そのおかげで、俺はまた戦える。だから……ありがとう」

「リィン……うん。立ち直ってくれて、私もうれしい」

 

そして最後にアリサももう一度抱き付く。もう、リィンの方は大丈夫そうだ。

 

「さて。いいものを見せてくれたすぐで悪いんだが」

「そろそろ脱出しないと、危ないわよね?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「まさか、替えの服と食べる物まで持って来てくれてるとは思わなかった。助かったよ」

「こんな国じゃ、捕まった人に食事自体させてくれなさそうだし念のためにと思ってね」

 

その後、リィンはアリサが用意したいつもの服、ファー付きの赤いジャケットを纏い、研究室に残っていた刀とARCUSを回収して脱出を開始した。アリサが用意したのは、クロウの故郷であるジュライのソウルフード”フィッシュバーガー”だ。魚のフライとタルタルソースをハンバーガーの具と味付けに使ったそれは、一度リィンが貴族派の捕虜になった際、クロウ自ら腕を振るった思い出深い味である。

 

「しかし、けっこう美味かったな。アリサって、この手の料理はそこまで得意じゃなかったと思ったんだけど……」

「リィンと離れている間、休暇でジュライに行ったことがあってね。ちょっと作り方を覚えてきたの」

「はは……アリサ、くどいようだけどありがとう」

「二人とも、イチャイチャするのは勝手だけどいつ敵が来るかわからないから急いでね」

 

リィン達の様子に、ヨシュアがツッコミを入れる。そしてそのまま宮殿の廊下を駆ける一行。

 

「逃がさないぞ、賊どもめ」

 

♪2

しかし進行先からいきなり声が聞こえたかと思うと、妨害者がいた。悪鬼のような顔を浮かべたセリュー、お菓子を食べながらも八房を構えて殺気を放つクロメ、そしてDr.スタイリッシュの姿があった。エスデス以外のイェーガーズ、その半分がここに集結している。

 

「案の定、邪魔が入るわけだな」

「みたいね」

 

リィン達がうんざりした様子で見ているが、それでも武器を構えて臨戦態勢に入る。見てみると、セリューが大型のレーダーのような物を装備している。これが原因で気づかれたようだ。

 

「十王の裁きが九番・正義都市探知機。ドクターがこれを作ってくれたおかげで、新たな悪の発見に成功しました」

「確かにレーダーを入れておいて正解だったわ。どうやらあの坊やの救出が本来の目的らしいけど、ロイドも一緒みたいね」

 

そんな中スタイリッシュに指摘されて、セリューがリィン一行の中にロイドが紛れていることに気づくが……

 

「ロイド君、もしかしてそこの悪たちに捕まってしまったんですか!? だったら、今助けます!!」

「セリュー、落ち着いて。それと残念だけど、たぶんロイドって敵だと思うよ」

「え?」

 

クロメに指摘されるまで、セリューはロイドを完全に信用していたようだ。ピュアなようだが、軍人としてはあまり褒められたものではない。

 

「言っただろ、俺は帝国に永住する気は無いって。だから、ここで彼らに俺は付いて行くからバイバイだ」

「なるほど。冒険家ってわりに小奇麗だったから怪しいと思ってたけど、革命軍か異国の諜報員辺りってわけだったのね」

 

スタイリッシュはどうやら、ロイドのことを始めから疑っていたらしいが、流石に革命軍などの線を優先して考えているようだ。

 

「俺は軍人じゃない、本職の警察官ですよ。クロスベル警察、特務支援課に属する特務捜査官、これが俺の本当の役職です。すでに国の司法機関に属しているので、この国には始めから尽くす気はさらさらないというわけですよ」

「クロスベル……聞いたことない国ね。たぶん、そこの坊やと同じ東の海を越えた未知の国ってところね。坊や諸共捕まえて、尋問してやりましょうか」

 

ロイドの話を聞いたスタイリッシュは、怪しい笑みを浮かべて懐から怪しげな注射器を取り出す。自白剤の類と思われる。そしてその一方で、セリューが真実を知って憎悪に表情を歪める。

 

「クロスベル、ノエル・シーカーの故郷……ロイド君、いやロイド。お前は私達を騙していたんだな」

「イヤ、俺は昨日からイェーガーズに入りたくないと言っていたから、スパイなんてする気は微塵もなかった。黙っていたのも余計な混乱を避ける為であって、やましい気持ちは微塵も無い。信じられないとは思うが、まぎれもない真実だ」

「悪はみんな同じことを言う。ロイドが悪だと分かった以上、私はお前をそこの連中諸共、断罪しないといけないから覚悟しろ!」

 

セリューはロイドに対して、声を荒げながら告げた。その様子に、初めて彼女を目の当たりにしたエステルは頭を抱えている。

 

「話には聞いてたけど、本当に一方的な考えしかしないのね。正直、あんまり関わりたくないわ」

「けど、いずれは戦わないといけないから、どのみち相対する必要があったわけだ。ところで……」

 

エステルのフォローをしたヨシュアは、次にクロメに視線を向け、あることを尋ねた。

 

「君、ナイトレイドのアカメって知ってるよね。よく似てるんだけど、何か関係あるのかな?」

「うん、ていうかアカメは私のお姉ちゃんだよ。私を裏切って、革命軍に行っちゃったけど……お姉ちゃんの話をするってことは、知り合い?」

「一度、彼女と戦ってね。殺し屋をやめるように説得したけど、断られた。たぶん、君も帝国を抜ける気は無いんだよね?」

「うん。私は死んでいった仲間達に報いる為と、お姉ちゃんを殺して人形にするためにここに残っている。だから今ここを抜けるわけにいかないんだ」

 

ヨシュアの問いかけに、年相応の笑顔を見せながら身震いすることを言うクロメ。

 

「ヨシュア、彼女の帝具の能力は斬り殺した生物を操り人形に変える物だ。その力でアカメの死体を手元に置いておきたいってことだろう」

「……結社以上に悪趣味な力だね。出来れば、この場で壊しておきたいな」

 

人を含めた生物の死を愚弄する、八房の力にヨシュアも忌々しそうに呟く。まともな論理感を持っていたら、この反応は当然だろう。

 

「なんで? この力があれば、もう助からない仲間も私が死ぬまで一緒にいられるよ。すごくいい力だと思うけど」

「……彼女、論理感まで欠如しているようですね」

「うん。なんか、吐き気がしてきたかも」

「お嬢様を不快にさせる要素、早いところ取り除かせてもらいます」

 

エマとアリサも、クロメの発言を聞いて顔色を悪くする。その様子にシャロンが珍しく深いそうにしており、ナイフを片手に鋭い目つきでクロメ達を睨む。

 

「さて。無駄話はここまでにしておいて、セリューもクロメもそいつらを葬り去ってしまいなさい。あと、赤い服の坊やは研究材料だから生け捕りにするように」

「了解です、ドクター!」

「うん。仕事ならそうするだけ」

 

スタイリッシュが会話を打ち止めると、セリューが嬉々とした様子で彼からの指示に従い、巨大な剣とドリルを両手に装備した。流石に大砲を宮殿で使うほど過激ではないようだ。対してクロメもお菓子を口にしながら八房の力を解放、ガンマン風の少女とボロキレを纏った不気味な男、そして口元をマスクで隠した銀髪の青年を呼び出す。

 

「十王の裁き三番・正義宋帝刀。同じく五番・正義閻魔槍、装備完了」

「紹介するね。北の異民族からの刺客ドーヤ、バン族の生き残りのヘンター、最後に私の同僚のナタラだよ」

 

セリューの重火力、クロメの暗殺能力と物量差というアドバンテージ、苦戦は必至だった。特にクロメが人形としている死者達も、生前からの物と思われる威圧感が感じられる。

 

「これは苦戦必至だな。みんな、連戦で厳しいだろうけど今が踏ん張り時だから気合いを入れるぞ」

 

ロイドが一同に檄を飛ばし、臨戦態勢に入ろうとする。しかし、そこで待ったをかける一人の人物がいた。

 

「みんな、ここは俺に任せてくれないか?」

 

なんと、それは他ならぬリィンである。

 

「ちょ、何言ってるのリィン君!?」

「君は治癒術のおかげで立っていられるけど、病み上がりなんだ。すぐに疲弊してしまうんじゃ……」

 

当然ながら、エステルとヨシュアがそんなリィンを止めようとする。しかし、そんなリィンにロイドとアリサが声をかける。

 

「やれるのか?」

「ああ。アリサのおかげで重荷が減って、体も軽くなった気がするんだ。それに、今なら負ける気がしない」

「……ロイド、今のリィンなら大丈夫なはずだから、信用してあげて」

 

リィンの言葉を聞いて、アリサがロイドに進言する。そして、そんなロイドの返事はというと

 

 

「……わかった。ただし、危ないと判断したら無理にでも退場させる」

「了解だ」

「……っていっても、不思議なことに俺も大丈夫そうな気がするんだな」

「ロイド君まで何言ってるの!? いくらあれが使えるかって、それは……」

「まあ、落ち着いてくださいまし。私から見ても、あの力は絶大ですから信用してあげてください」

 

ロイドのその反応に、エステルが珍しく動揺するがシャロンが割って入ってきて論する。そしてそのままリィンは前に出てしまう。

 

「は! お前ひとりで、この正義の力に勝つことは出来ない。諦めてドクターの所に帰るんだな!」

 

鋭い目つきで口角を釣り上げながら言うセリューのそのセリフは、どちらかというと典型的な悪役のそれだったが、本人はこれを正義だと思っている。彼女の異常さが際立っていたが、リィンは動揺していない。

 

「聞いた話じゃ君は体に武器を仕込んで、戦闘能力を無理やり引き上げてるみたいだな。でも、それって本当に君の力なのか?」

「何?」

「ただでさえ帝具を持っている、殺しの技だって身に着けている。なのにそんな大げさな威力の武装や奇襲に特化した仕込み武器に頼っているのは、君自身が強さに自信を持っていないように感じるんだが」

 

なんと、リィンはセリューを挑発している。もう精神的な余裕は完全に取り戻したようだ。

 

「そんな武器に頼った借りものの強さで、正義を語るなんて……正直、おこがましいな」

 

リィンの発言で、セリューが顔を伏せて体を震わせる。やはり、今のがそうとう癇に障ったようだ。

 

「ドクターが授けてくれたこの力をけなし、しかも私に正義を語る資格がないだと………言ったな!!」

 

そしてセリューが憤怒で顔をさらに歪め、リィンを睨みつけながら宋帝刀を向ける。

 

「そこに直れ、悪! この私が帝国の、正義の名のもとに、断罪してやる!!」

 

そしてセリューは声を荒げながら告げた。己の正義をノエルと戦った時同様に、真正面から否定された。その憎悪に顔を歪めた様に、初対面のエステルやアリサといった面々は思わず委縮してしまう。ヨシュアまでが警戒する中、リィンはというと……

 

 

 

 

 

 

「それはこちらのセリフだ」

 

落ち着いた様子で、セリューに言い返した。明らかに、余裕が見える。

 

「いや、断罪は言いすぎか。だが、少なくとも俺の仲間やその故郷を一方的に悪呼ばわりしたあんたは、成敗に値するな」

 

しかしすぐにリィンは穏やかな表情と声音で訂正し、再度セリューたちに向き合う。そして、左手を胸に当てながら目を瞑り、そこで異変が起きた。

 

♪3

「な!?」

「なに、これ?」

「まさか、ここに来てあの力を!?」

 

直後にリィンの体から黒いオーラが浮かび上がり、スタイリッシュが真っ先にこれが鬼の力だという察しがついた。

 

「さっきはアリサにばかり目が入ってたけど、エステルとロイドもありがとう」

「「へ?」」

 

いきなりリィンに礼を言われ、エステルとロイドも揃って呆けてしまう。

 

「二人には希望を捨てない心と足掻き続ける強さ、その二つを教えてもらった。だから、こんな状況でも俺を助けてくれたし、イェーガーズに入れられそうになってもあきらめなかった。そしてそれを以て、俺は戦う。二人の想いの強さに、一歩でも近づけるように」

 

その言葉に、エステルやロイドの強さがリィンにも伝わっているということが素直に感じられた。そして新たな決意を胸に、リィンは戦う。

 

「セリューにクロメ、そしてスタイリッシュ。俺の家族、仲間、恋人……それら全部をひっくるめた日常を守るために、俺は心を折るわけにいかない。あんた達に勝たせてもらうぞ」

 

そして目の前にいるスタイリッシュたちに言い放ち、力を解放した。

 

「神 気 合 一 !」

 

リィンが叫んだ直後、彼の髪が白、瞳が赤に変色した。その姿はあの鬼の力を発現した物だった。

 

「これは、宮殿を攻めて来た時の姿?」

「は! 今回は十王の裁きを使えてクロメちゃんの人形もいる。私達の勝ちは確じ……」

「セリュー、待ちなさい」

 

セリューが啖呵を切りながら乗り出そうとした瞬間、スタイリッシュが静止をかける。

 

「以前あの子が攻めて来た時は、危険種みたいな野生動物特有のどう猛さが感じられたけど……今はそこに人の理性が加わった雰囲気ね。少なくとも、この間乗り込んで来た時よりも圧倒的に強いわね」

「うん。あの時とは違って静けさがあるから、警戒するに越したことはないと思う」

 

スタイリッシュは人体実験で様々な人間や危険種を見たため、クロメは任務で多くの敵を始末したため、このような気配や雰囲気には敏感になっているのだろう。

そしてそんなイェーガーズをよそに、リィンは声高々に己が名を名乗った。

 

「八葉一刀流・七ノ型皆伝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃の剣聖リィン・シュバルツァー、参る!!」

 

声高々に剣聖としての名を名乗り、リィンは凄まじいスピードでセリューに斬りかかる。

 

(速い!?)

 

セリューは咄嗟に宋帝刀でリィンの斬撃を受け止め、閻魔槍で反撃しようとする。しかしリィンはその身を翻し、セリューの腕と閻魔槍の接続部に刀を突き刺す。そしてそのまま切り上げて、セリューの片腕ごと武器を封じた。

 

「なめるな、悪!」

 

それに激昂したセリューは、再び宋帝刀で斬りかかるが容易く避けられる。

 

「みんな、行って」

 

しかしその隙をついて、クロメが骸人形達を嗾けてくる。ドーヤが二丁拳銃でリィンを牽制しながら、ナタラとヘンターが武器を手に飛び掛かる。ナタラは薙刀、ヘンターは大型のバタフライナイフだ。

 

「その程度で、勝てると思うな」

 

しかしリィンは跳んできた弾丸が見えるのか、刀を振るってはじき返す。そこにすかさずナタラとヘンターが飛び掛かり、それぞれの得物で斬りかかってきた。

 

「物言わない死体になっても戦わされる……憐れだな」

 

しかしリィンは落ち着いたまま、ナタラの刺突とヘンターのナイフを捌いて行く。そして距離を置いて、一旦納刀する。

 

「四ノ型、紅葉切り!」

 

そして瞬間移動と見紛うスピードでダッシュし、抜刀術で斬りかかる。しかしナタラは薙刀で防ぎ、ヘンターは体を捩じって回避する。しかし、躱し切れずに片腕を斬り飛ばされた。

 

「胴を切り捨てるつもりだったんだが、動きが柔軟だな」

「うん。あんまりトリッキーすぎて、仕留めるのに苦労したんだ」

 

リィンが呟いた直後にクロメの声が聞こえたかと思いきや、背後から斬りかかってくる。しかし、前回の暴走時と同じくリィンは振り向かずに刀で防いだ。

この隙をついてナタラが薙刀を伸ばしてリィンを貫こうとするも、咄嗟に構えを解いたリィンが刀でそれを弾いた。

 

(あの死体の武器、帝具なのか? だとしたら厄介だな)

「喰らえ、正義秦広球!!」

 

リィンが考察するも、セリューがいつの間にか切り落とされたドリルを鉄球に切り替えて攻撃してきた。大ぶりの攻撃だったため回避が容易だったが、ここで特に動きの無かったコロがいつの間にか迫ってきており、巨大な拳を振り下ろしてきた。

 

「帝具といっても、これじゃ巨大な魔獣と大差ないな」

 

しかしリィンは落ち着いたままその拳を躱し、一太刀でコロの腕を丸ごと一本切り落とした。

更にリィンは止まらず、刀を両手で構えたまま天に突き上げたと思うと、彼の周囲に龍の形をした炎が纏わりつく。

 

「龍炎撃!」

 

そして刀を振り下ろし、斬りつけると同時にコロに炎を叩き付ける。その炎に焼かれ、コロは絶叫しながらその場で暴れ狂う。

そこに慌てた様子でセリューが指示を送る。

 

「コロ、そのままそいつに飛び……」

「秘儀・裏疾風!」

 

そしてリィンはセリューの指示が終わるより早く、コロ諸共ダッシュ斬りとその直後の横薙ぎで纏めて大ダメージを与えた。

 

「ナタラ、ドーヤ、遠距離から行くよ!」

 

そんなリィンに警戒したクロメは、ヘンターを対比させてナタラの伸びる薙刀とドーヤの銃撃で攻めかかる。しかし、それでも意味は無かった。

 

「弧影斬!」

 

リィンは納刀して刀に導力を溜め、抜刀と同時に弧状のエネルギーとして撃ち出す。それがドーヤの銃弾を粉砕し、薙刀の穂先すら砕いてしまう。クロメは驚愕しつつ、ナタラ達骸人形を消して自分一人だけで回避した。直後にクロメの反応速度が上がったことから、骸人形を出している間は操作に神経を使うためか、本人の能力が落ちるようだ。

 

「遠近の両距離に対応可能……帝具じゃない普通の刀でそんなことが可能なのか?」

「攻撃のバリエーションが増えている……前回みたいに力任せの戦いと違う分、厄介だね」

 

セリューもクロメも、自分達の常識から外れたリィンの力に強い警戒心を抱く。

東方剣術の集大成たる八葉一刀流、その頂点に至った剣聖の力は絶大だった。

 

(あの力、純粋な身体能力だけじゃなく技術面でも潜在能力を開花させる可能性もあるわね。ますます興味深くなったけど、同時に早く始末しなきゃって危機感まで覚えちゃったわね)

 

一方、安全地帯で様子を窺っていたスタイリッシュも、リィンの力を分析、警戒している。直接戦闘型ではないが、学舎ならではの分析能力、これはこれで厄介だ。

 

「引いてくれるならこれ以上の攻撃はしないが、まだ続けるか?」

 

リィンは切っ先を向けつつ、クロメ達に撤退のチャンスを譲る。しかし、それに同意する事はマズなかった。

 

「ふざけるな! お前は悪だ、悪のお前に私達が負けるはずない!!」

「ここで逃げても、役立たずの烙印を押されて処分されるだけだから、聞けないよ」

 

そのままセリューはいつの間にか再生していたコロと飛び掛かり、クロメも納刀したまま駆け寄り抜刀術の準備に入る。

 

「仕方ないか……」

 

リィンが落胆した様子で呟くと、また納刀する。

 

 

 

 

 

八葉一刀流の最強奥義、”終ノ太刀”を使うために。

 

「無明を切り裂く閃火の一刀」

 

リィンがいきなり口上を上げたかと思うと、すぐに刀を抜いてその刃に炎を灯す。そしてそれを構えたまま、クロメ達を超えるスピードで突撃していった。

 

「な!?」

「馬鹿な!?」

 

クロメもセリューも驚くが、対応が間に合わずにリィンの攻撃を許してしまう。

 

「はぁああああああああああ!」

 

そしてリィンは炎を纏った刀で横薙ぎ、袈裟切り、もう一度横薙ぎと三連続で斬りかかる。そして、更にとどめと言わんばかりに縦、横、斜めと連続で切り裂く。

そして攻撃が終わると同時に刀を納め……

 

 

 

「終ノ太刀・暁!!」

 

技名を叫ぶと同時に、斬撃と共に蓄えられたエネルギーが炸裂。クロメとセリューに大ダメージを与え、コロも肉片と化して剥き出しになったコアが地面に転がる。

 

もはや、勝負の結果は誰が見ても一目瞭然だった。




空の軌跡には「空の至宝”輝く環”」が、零or碧の軌跡では「零の至宝と碧の大樹」といったタイトルにちなんだキーワードが登場しましたが、閃の軌跡にはタイトルの”閃”を象徴するキーワードが未だに出ていません。Ⅲで判明する可能性がありますが、自分は閃がリィンを象徴しているのだと推測しています。シリーズ初の刀剣類を武器にする主人公で八葉一刀流の使い手、可能性としては充分だと思い、そのままリィンの剣聖としての名に起用させてもらいました。

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