英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

26 / 38
幕間は影が薄くなりつつあるナイトレイド側の描写にしました。
原作ではタツミがエスデスに連れ去られたので、脱走したタツミを追ってスタイリッシュが強襲しました。しかし、タツミがナイトレイドにいないのでスタイリッシュは動かない。なら誰が強襲するのか?
それは見てのお楽しみ。


幕間
幕間・前編


「巨大な空飛ぶ船が四隻も……」

「おそらく、例のゼムリア大陸が干渉を開始したんだろうな」

 

ナイトレイドの面々は、アジトにて会議中だった。当然、内容は西ゼムリア同盟の本格接触についてだ。ただでさえ帝都市民たちの目につくように飛んできたうえ、当然ながら帝都にも情報収集のために革命軍の関係者が送り込まれているため、ナイトレイドの耳に入るのも時間の問題だった。

 

「しかし、よりによってボスが本部に戻ってる間にこの話が来ちまうとはな」

「俺たちも下手をしたら敵対することになるかもですね、姐さん」

 

レオーネの言うように、ナジェンダは今アジトを留守にしている。有力株だったタツミがナイトレイドに入らず、シェーレも先日の戦闘で死去。結果、革命軍の本部に現状を報告するついでに、闘いの激化に備えてナイトレイドのにも新戦力を投入する必要があったわけだ。

 

「まったく……あたしらの問題によそ者が首突っ込むのはいい気分じゃないね」

「そうよね。いきなりしゃしゃり出てきて、『はい助けてあげます』ってのは、本心だとしてもアタシ達のプライドが許さないし」

「ああ。彼らも彼らでそれなりに経験は積んでいるだろうが、少なくともこの国よりはるかに恵まれている。そんな彼らに、この国をどうこうされるのはあまり気分がよくない」

 

レオーネもマインもアカメも、ゼムリア大陸の干渉そのものにいい印象を持っていなかった。いくら平和的に事を構えようとも、それが帝国に影響を及ぼすのなら、彼らにとっては侵略と変わらないと捉えたのだろう。そしてマインの言うように、下手をすれば帝国を憂いている民たちの誇りを踏みにじるようなものだ。

その辺りはクローゼ達も気づいているだろうが、彼女たちにも事情や決意、誇りがある。なので、譲れなかったはずだ。

 

(もしかしたら、ロイドもその時に助けられたのかもな。俺はこの道を降りるつもりはないが、あいつらのやり方は別で応援してやりたい。俺ができなかったことを、やってくれそうだからな)

 

そんな中、ブラートはロイドの身を案じ、かつ彼らのやり方は個人的に応援したかったという。彼らのまっすぐな眼と芯に、帝国軍時代の自分を重ね合わせていたのだ。

 

(けど、もしかしたら例の遊撃士とかいうのになったタツミも来てるかも……って、なんであいつのことが頭に浮かんでくるのよ!?)

 

その一方で、マインもタツミのことが脳裏に浮かんできて、勝手に憤慨していた。やはり無自覚ながら、あの一件で惹かれているようだ。

 

(今度会ったら、絶対にコテンパンにしてやるんだから、覚悟しときなさい!!)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

~同日、深夜~

帝国領内の上空で、一隻の飛行艇が空を飛んでいる。そしてそれには、自らの尾を嚙む蛇の紋章、”身喰らう蛇”のエンブレムが刻まれている。

 

「へぇ……いきなり襲ってくるとは、ここの危険種って呼ばれる魔獣どもは、俺らの大陸のそれよりもはるかに狂暴らしいな」

「だが、まあ所詮は暴れる、喰らいつくしか能のない獣。美しくないそれが、我らに敵うはずもないだろう」

 

その甲板に、黒いスーツにサングラスの男と、仮面と白マントの胡散臭い男が佇んでいるが、スーツの男は頭部を潰されたエビルバードの死骸を片手で持ち上げている。そして飛行艇の下の地面には、他にも一級以上の飛行型危険種が惨殺されて落ちていた。立った二人で、全滅させたらしい。

 

「ヴァルター、ブルブラン。どうやら揃って快調らしいな」

 

そしてそんな二人に声をかける人物がいる。執行者となった元帝国の暗殺者ナハシュだ。

 

「準備運動もいいが、やりすぎて消耗だけはするなよ」

「この程度で疲れる様じゃ、執行者は名乗れねぇだろが」

「そこはヴァルターに同意しよう。で、噂のナイトレイドとやらのアジトはどの辺りなのかね?」

 

スーツの男ヴァルターと、マントの男ブルブラン。どうやら揃って、ナハシュと同じく執行者らしい。それ故にこれだけの強大な戦闘力を有しているようだ。しかも、今執行者たちはナイトレイドのアジトを目的地にしているらしい。

 

「あいつらは帝都を中心に活動しているが、帝都内にアジトを構えたら見つかった時に逃げ場が無くなる。なら、帝都の外であまり距離がなく、かつ見つかりにくい場所になるはずだ。だから、この辺りをしらみつぶしに探すしかないわけだな」

「おいおい、わかりやすくていいがめんどくせぇな」

「だが、おおよその当たりはつけている。やはり、元本職の暗殺者だけはあるようだね」

 

ナハシュの推測を聞いたヴァルターはうんざりするが、ブルブランはそこにナハシュに対しての評価コメントを残す。しかしその直後、月をバックに龍型の危険種が雄たけびを上げながら、はるか上空から急降下してきた。他の危険種と同様、飛行艇を縄張りを荒らす存在と認識したのか落とそうとする。

 

「ふっ」

 

直後、ナハシュが軽い息遣いと同時に、虚空からケルンバイターを呼び出し、その場で急降下中の危険種に一振り。その時の斬撃は竜巻を起こし……

 

 

「Gugaa、aagi!?」

 

上空の危険種を一瞬にしてバラバラにしてしまう。そしてそのまま肉片と化した危険種は、地面に落ちていった。その様子に、他の執行者二人が拍手をしながら声をかける。

 

「レーヴェの零ストーム。彼からほんの数か月しか指南を受けていないにも関わらず、ここまで物にするとは」

「あの後、教授がリベールで福音計画を起こしたからな。おかげで野郎がくたばって戦い損ねちまったが、お前がその分なら代わりになってくれるだろうな」

「これに関してはフォーム自体はある程度掴んでいたからな。だが実際にモノにできたのは、第七柱による鍛錬のおかげだ。それに、まだ分け身を筆頭にスピード主体の技は、船内で待機中のあいつには劣る。学ぶべきことは多いな」

「……で、その待機中のあいつがわざわざ報告に来てやりましたわよ」

 

執行者たちの会話に割って入る女の声がしたと思いきや、騎士装束を纏った二人の少女が甲板に上がってきた。一人はアリアンロードと行動を供にしていた、鉄機隊の筆頭隊士デュバリィ。そしてもう一人は、アリアンロードとデュバリィに救われた元大臣チョウリの娘スピアであった。

 

「……ということは、いよいよ見つかったらしいな」

「デュバリィ、お前がわざわざ自分で報告に来るとはな。ギルバートの雑魚にでもやらせればよかったものを」

「この面子で飛行艇を操縦できるのが、彼しかいませんのよ。なので私が不本意ですが、マジに不本意ですが自ら来てやったわけです」

「筆頭、抑えて抑えて。しかし、まだ鍛錬から一か月もしていない私が、もう実戦投入で大丈夫なんですか?」

 

スピアがデュバリィをなだめつつ、自信の力について不安の色を見せる。

 

「何を言う? 少なくとも、皇拳寺の槍術で皆伝を取得している時点で、ある程度の実力は完成している。しかも、七柱仕込みの武術もすぐに順応したのだから、既に下位クラスの執行者の実力には達しているだろう」

「帝具とやらには、千差万別の力があるのだろう。なら、相性を選べば戦闘そのものの素人でもない限り、負けはしないさ」

「つーか、強ぇ癖に自分を卑下するのは同じ戦いを生業にする奴に対して、最大の侮辱だ。戦闘力よりまずはそこを鍛えなおした方がいいだろ」

「ええ。確かに、スピアさんは一度戦場で死にかけた身なのでそう思うのは仕方ないかと思います。ですが少なくとも、マスターが見込みありと判断したのですから、もっと自信を持つべきですわ」

 

しかし、そこで執行者たちやデュバリィからフォローが入る。

 

「……みなさん、ありがとうございます。私も、鉄機隊の新隊士として、隊の名に恥じないで行きます」

 

スピアもその評価に自信を取り戻し、表情に活気が満ちる。そして一同は、眼下にあるナイトレイドのアジトに視線を移す。

 

「まずは小手調べ……ギルバート、魔獣と人形兵器の投入に入れ」

『了解しました……はぁ、僕はいつまで下っ端を続けなきゃいけないんだか』

 

ナハシュは直後、ARCUSの通信機能で飛行艇の操縦席に連絡を入れる。直後、吊るされているコンテナが開き、中から無数の何かがアジトに投下された。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あ゛あ゛ぁ~、頭いてぇ。やっぱ、やけ酒なんてするもんじゃねぇな」

 

その日の晩、就寝時間にも拘らずレオーネは一人で頭を抱えながらアジト内の水場に向かう。ゼムリア大陸からの大規模な干渉に、革命の障害となりえるものを感じて不快感を感じた。そのため、ついやけ酒に走ってしまったという。そしてレオーネが酔いを醒まそうと水場で水分補給に出てきたのだった。

そして、手で水をすくい始めたその時

 

「ん? なんか、空に……」

 

レオーネは月に照らされた水面に、何かが移っているのが見えた。ちょうど、ナイトレイドのアジトを発見した身喰らう蛇の飛行艇が、何かを投下する場面だった。

 

「!? 敵襲か……」

 

落ちてきた物が何かは知らないが、少なくとも敵対勢力の物だというのは察しがついた。現れたのは、玉乗りをするピエロを模した、からくり人形である。そして、それが2、3体ほど落ちてきたのである。

身喰らう蛇が強襲用にロールアウトした人形兵器”バランシングクラウン”だ。

 

「なんか知らないけど、あたしは今ね、飲みすぎて頭痛いうえに虫の居所が悪いんだ。憂さ晴らしついでに、ぶっ倒してやるよ!!」

 

忌々しそうな表情でバランシングクラウンを睨むレオーネは、帝具を発動する。獣じみた四肢と耳が生え、その状態で一気に殴り掛かる。

しかし……

 

「硬!?」

 

やはり鋼鉄製の兵器。帝具で強化された肉体による拳撃をもってしても、ダメージは通りにくい。しかもバランシングクラウンは両腕に搭載されたエッジで斬りかかる。

回避に入るも、致命傷こそ避けたが腹を斬られて出血してしまう。

 

(まさかこいつ、全身を機械に……いや、様相的に戦闘用のからくり人形ってところか?)

 

想像だにしていなかった敵の出現に、レオーネは苦戦を強いられようとしていた。しかも、バランシングクラウンたちが拘束用のワイヤーを飛ばしてくる。

 

「舐めんじゃねえよ、鉄くずが!!」

 

しかしレオーネは、身体能力と同時に強化された、五感や直感を駆使してワイヤーをつかみ、それでバランシングクラウンを振り回す。そして、纏めて地面に叩きつける。渾身の力で叩きつけられ、バランシングクラウン達は機能を停止した。

 

「ほぅ、人形兵器を身体能力だけの力任せな攻撃で倒すか。帝具ってのは、そんな芸当も出来るんだな」

 

直後、レオーネの耳に聞き覚えのない男の声が聞こえる。しかし振り向いた直後、男の拳がレオーネの顔面に直撃、水場に吹き飛ばされてしまった。

 

「痛ぇな……あんた、何者だ?」

 

水場からはい出したレオーネの前に現れたのは、褐色肌にスーツとサングラスの男、執行者の一人ヴァルターだ。レオーネは武術の経験が皆無であるため、基本的には帝具頼りの戦いとなる。しかし、その分帝具の力を掌握しているため、強化された直感によって幾多の危機を乗り越えてきた。しかし、今のヴァルターの攻撃はそれに反応する前に放たれた。明らかに戦闘能力は格上だった。

 

「身喰らう蛇の執行者No.Ⅷ《痩せ狼》ヴァルター。仕事と、俺の趣味のために帝具使いと戦いに来た」

「身喰らう蛇……確か、アカメの昔の同僚が入ったとかいう、ゼムリア大陸の犯罪組織!」

「ああ、確かナハシュの小僧の知り合いがそんな名前だったな。まあ、結社に関しては概ねそんな感じだな」

 

レオーネの言葉に対しての返事は、あまり興味のなさそうなものだった。

 

「あんた、何が目的だ? アカメの報告を聞いた感じだと、組織ぐるみで帝具ぶっ壊すのが目的らしいけど」

「まあ、計画達成のためにその帝具とやらをぶっ壊すのが、結社の目的だわな。だけど、同時に帝具使いと戦うのが俺個人の目的でもある」

 

レオーネはその返事を聞いて首を傾げるが、すぐにその詳細を語りだす。

 

「『潤いのある日常には刺激が必要』ってのが、俺のモットーでな。手に汗握るスリルとサスペンス、いつ死ぬとも限らないそんな状況に身を置く。そんな状況を欲して俺は結社のスカウトを受けた。帝具使いとの戦いも、そんなスリルを楽しみたいがために参加させてもらったわけだ」

「……イカレてるな」

 

ヴァルターの言葉を聞き、レオーネは口にした。尤もだ。自ら好き好んで死地に赴き、自分が死ぬかもしれない状況を楽しむ。まともな人間の考えではない。

 

「あたしは人殺ししてるからいつか報いを受ける、そんなつもりでいる。けど、それはあくまで死んだ時に仕方ないと思うだけで、自分から退屈しのぎのために命を粗末にするようなことは考えたことないし、今後も考えたくない。そしてそんなあんたに、あたしは負けない」

 

レオーネは宣言し、構えを取る。それに対して、ヴァルターも気をよくして構えを取った。

 

「あたしの帝具は”百獣王化”ライオネル、適合者に獅子の力を宿す帝具だ。痩せ狼だか何だか知らないけど、あんたみたいなイカレ野郎には負けないよ!」

「いいねぇ、ゾクゾクするねぇ。さっきの攻撃に対応できなかったから軽く幻滅してたんだが、その気概はやってくれそうな予感がするが……がっかりさせねぇでくれよ」

 

そして、獅子と狼が激突するのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おいおい、もうアジト内に入られたのか?」

 

その一方、ラバックは自身の張り巡らせた結界にわずかながら反応があったため警戒して、外に向かって突き進む。しかしその途中、窓から何かが飛び込んでくるのを見て警戒する。人だと思ったが、入ってくるなり四つん這いで身構えるその影の正体に、驚愕することとなった。

 

「な!? 武装した危険種?」

 

なんとラバックの前に現れたのは、黒豹を彷彿とさせる生き物だった。しかしその体には装甲を纏い、口に大型のナイフを加えている。ゼムリア大陸でクーガーと称される魔獣で、結社や猟兵が戦闘用に調教したものが向こうでは知れ渡っている。

 

「武器を使ってくるってことは、調教されているんだな」

 

その正体まではわからないが、少なくとも人の手が加わっていることはハッキリとしている。そしてクーガーが飛びかかってくると同時に、ラバックも戦闘経験豊富なので、回避してすれ違い際にクーガーの首と四肢を縛り上げる。

 

「武器使う知能があるなら、何しでかすかわかんねぇ。つーことで、決めさせてもらうぜ」

 

そして指に力を入れ、そのままクーガーの首と四肢を締め上げる。それによって四肢も首も斬り落とされ、クーガーは絶命した。

 

「まあ、いくら防御力を上げようと、鎧の隙間を攻撃されりゃ持たねえだろ」

 

クーガーの死体を見ながら告げるラバックだったが、直後に新しい気配を探知する。だが……

 

「あ、あれ……?」

 

現れたのは、十数匹と群れで行動するクーガーだった。しかも先頭にはそれを率いる四人の男の姿があった。赤を基調とした鎧に、半分ずつが大剣とライフルで武装している。結社保有の強化猟兵部隊だ。

 

「帝具と思しき武器を使用、ナイトレイドと断定。これより殲滅する」

「「「了解(ヤー)!!」」」

 

一人がラバックを見るなり攻撃宣言し、残りメンバーが了解すると同時に一斉にとびかかる。これに対してラバックは……

 

 

 

 

「団体さんは遠慮させてもらいますぅうううううううううう!?」

 

情けない叫び声をあげて全力で逃げ出した。しかし、無理をせずに一体多に挑まない辺り、生き残る秘訣はわかっているようだ。

 

「追撃開始! クーガー部隊、同行せよ!!」

「「「了解(ヤー)!!」」」

 

しかし、猟兵部隊もクーガー達もラバックを追いかけ、銃で武装した猟兵二名が発砲する。しかもジグザグに走っていたラバックに、命中精度の低い機銃で確実に攻撃を当てている。やはり一流の戦闘力を持っているようだ。

 

「うぉおおおおおおおおお!? なんか、想像以上の練度じゃねぇか!!」

 

しかしラバックは二、三発ほど銃弾を食らったはずなのに、出血もせずピンピンしている。じつは、ラバックは胴体にクローステールを巻き付け、鎧の様にして銃弾を防いでいたのだ。クローステールの千変万化の異名、それを体現する用途であった。

しかも、耐え忍んでいたおかげで援軍が駆けつけてくるまで堪え切れた。

 

「私の後ろに!」

 

駆けつけたのは、アカメだった。就寝中だったためか、寝間着と思われるピンクのキャミソール姿だ。しかし、ちゃんと村雨を持っているため抜かりはなかった。

増援であるアカメに警戒し、猟兵部隊は動きを止めてクーガーを嗾けてくる。

 

「葬る」

 

しかし、アカメはいつもの決まり文句を口にしながらクーガーに斬りかかる。しかも、正確に鎧の隙間を斬りつけて、四肢を確実に落としていく。しかも切り口から呪毒が流れ込み、クーガー達もすぐに絶命した。

 

「帝具……噂以上の性能だが、それ以前に使い手の技量が我ら以上だ。撤退するぞ」

 

猟兵たちがアカメに警戒し、すぐに撤退に入る。しかし、そこで見逃すアカメではなかった。

圧倒的なスピードで彼らを追い越し、正面から斬りかかってきたのだ。

 

「ぬぐ!?」

「アジトと顔の割れていない仲間を知られた以上、生きて返すわけにはいかない。ここで全員、葬る」

 

結果、隊のリーダーであった大剣装備の猟兵を残し、他のメンバーは全滅してしまった。リーダーは間一髪で村雨による一撃を防げたのだが、残りはアカメのスピードに対応できず、鎧の隙間に村雨の刃を通されて絶命してしまった。

 

「意地でも逃がさない気か……まあいい。部下もやられた以上、敵は取らせてもらうか」

「生憎だが、私も仲間もここでの野垂れ死ぬわけにいかない。お前も葬らせてもらう」

 

結果、猟兵のリーダーはアカメと向かい合い、一騎打ちに入ることとなった。

そして、互いに得物を構えながらにらみ合う。そして……

 

「「はぁあ!」」

 

互いの武器が打ち合い、鍔迫り合いとなった。しかし刀と大剣では一撃の重みが違い、なおかつそれを軽々と振るう猟兵の方が膂力は上。結果、村雨が弾き飛ばされてしまった。

 

「帝具使いでプロの殺し屋だろうと、剣士が得物を失えば戦えまい。終わりだ!」

 

そしてその隙をついて、猟兵はアカメに大剣を振り下ろした。そのままアカメは体を縦に両断され……

 

 

 

 

「はぁあ!」

「がはっ!?」

 

なかった。それよりも早く、アカメは猟兵の腹に掌底を叩き込んだのだ。膂力はこの猟兵の男に劣るものの、長いこと戦いに身を置いていたアカメは通常の人間を上回る力を持っている。そのため、鎧越しにすさまじい衝撃が男を襲い、大きな隙を作った。そしてその隙をついてアカメは太腿で猟兵の首を挟み込み、一気に捻る。

 

「あぎぃ……!?」

「私は剣士じゃない、暗殺者だ。だから、剣術に限らず殺す技術は持ち合わせている」

 

猟兵が短い断末魔を上げた直後にアカメは告げるも、その言葉は彼の耳に届いてはいない。なぜなら、今の攻撃で首は360度回転し、ねじ切られてそのまま絶命したからだ。

 

「♪~。流石アカメちゃん」

「ラバも増援の撃破、助かった」

 

口笛交じりにアカメを称賛するラバックだったが、その背後には二刀流の短剣で武装した二人の強化猟兵が、全身の関節を可動範囲外に曲げられて絶命している。

 

「こいつら、帝国の新部隊か何かか?」

「おそらく、違う。装備の意匠が帝国じゃ見ないもので、使役してる危険種も見たことない種類だ。仮に帝国だとしても、外部から雇った傭兵の類だろう」

「そいつらは強化猟兵。”身喰らう蛇”の保有戦力の一つだ」

 

アカメの推測に答える形で、男の声が聞こえる。アカメもラバックも声のした方を振り向き、警戒態勢に入る。そして暗闇の中から声の主、執行者No.Ⅱ《剣鬼》ナハシュが姿を現した。

 

「チーフ……ということは、例の結社とやらが来たのか?」

「そう言っただろ、物わかりの悪い雑魚が。しかし強化猟兵も調教魔獣も、纏めてやられたか。帝具とお前たちの戦闘力、どうやら甘く見ていたらしいな」

 

言いながら辺りに散らばる、惨殺された強化猟兵とクーガー部隊の亡骸を見渡すナハシュ。そして、それに合わせて殺気を放つ。

 

「ここの隊長は執行者候補の一人で、結社内でも将来を有望視されていたんだが……やってくれたな」

「生きるか死ぬかの戦いと殺しの世界、私と同じものを見てきたはずのチーフがそんなことを言うとはな」

「ああ、わかっている。しかしコルネリアの時もそうだが、それでも訓練を共にした連中が死ぬのは堪えるものでな」

「……だな。私も先日、シェーレという仲間を失ったが、やはり慣れるものじゃない」

 

やはり元同僚というだけあってか、アカメとナハシュは敵同士ながらも、シンパシーのようなものを感じているようだ。しかしだからと言って、闘いを避けるという選択肢は互いになく、殺気を飛ばしながら警戒しあっていた。

 

「彼は、下手な帝具使いよりはるかに強い。ラバ、全力で行くぞ」

「了解。アカメちゃんの昔の仲間らしいけど、だからって遠慮はしないぜ!」

 

そして、アカメはラバックと二人掛かりでナハシュに戦いを挑む。

しかし直後、妨害が入る。

 

「はぁあ!」

「な!?」

 

背後から気配を感じたと思いきや、ラバックを目掛けて槍による鋭い刺突が放たれた。間一髪でクローステールを束ねてそれで防ぐ。だが……

 

「何!?」

 

なんと、束ねたクローステールが貫かれたのだ。ラバックは咄嗟に飛びのいたので回避に成功するが、予想外の攻撃力に戦慄してしまう。

 

「ナハシュさん、遅くなってすみません!」

「……遅かったが、道にでも迷ったか?」

 

今の攻撃を仕掛けたのは、ナハシュ同様に帝国出身者で結社入りした、スピアだった。

 

「せっかくだから紹介しよう。彼女は最近結社入りした、帝国出身の人間だ。執行者ではないが、最高幹部の一人”第七使徒”直属の精鋭部隊に迎えられた有望株だ。」

「初めまして。第七柱”鋼の聖女”直属部隊《鉄機隊》所属、新参隊士《貫穿(かんせん)》のスピアと申します」

 

自己紹介するスピアの名前に、ラバックが反応した。

 

「スピア? まさか、偽ナイトレイドに殺された元大臣の?」

「はい、娘です。帝国の安寧に繋がると聞き、そして鋼の聖女様に命を救われた恩として、身喰らう蛇に属させてもらっています」

 

スピアの素性を聞き、ラバックもアカメも偽物の急な戦死の詳細に感づく。

 

「なるほど。例の偽物共も、あんたらの組織に消されたわけか……その辺りは余計な犠牲と手間をかけなかったから、素直に例を言わせてもらうか」

 

ラバックも流石に礼節を重んじてか、偽ナイトレイドである三獣士の撃破に関して礼を言う。しかし、だからと言ってここで戦わないという選択肢は彼の中になかった。

 

「けど、だからってアジトと仲間を危機に陥れている連中を見逃す気はないぜ。せっかくのかわいい女の子だけど、殺す気で行かせてもらうか」

「構いません。ですが今の私は、あの時に父上を守れなかった、無力な私じゃない。帝具使いだろうと、勝ってみせますよ」

 

ラバックが臨戦態勢に入るのに合わせ、スピアも槍を構える。

 

「そういうことだ。私以外のナイトレイドのメンバーも、相手が誰だろうと革命の障害になるなら斬る覚悟はできている。私も前回と違い、格上を相手にするつもりでいるから、チーフも確実に葬らせてもらう」

「なるほど……梃子でも動かないわけか。なら、遠慮はいらないな」

 

アカメが決意を語ると同時に、ナハシュも剣を構えて戦闘態勢に入る。

 

「執行者No.Ⅱ《剣鬼》ナハシュ。我が恩人《剣帝》レーヴェの名に懸け、ナイトレイドに勝負を挑む。来い!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うおりゃああああああああああああああああああああ!!!」

 

その頃、外ではブラートがインクルシオを纏って人形兵器の大群と戦っていた。機体はレオーネの下にも表れたバランシングクラウンと、鉄の箱に手足を生やし、胴の上に首ではなく機銃が備えられている物の二種類だった。

後者は拠点防衛用人形兵器ヴァンガード、その中でも鉄機隊に充てがわれたF3《スレイプニル》というモデルだ。拠点防衛用というだけあって、重装甲&高火力のスペックが特徴である。

しかしブラートは、インクルシオで強化された身体能力で殴り、吹き飛ばす。そしてノインテーターを振るい、近くにいたバランシングクラウンを両断した。ブラートの素の能力の高さとインクルシオで強化された伸び代、加えて得物を使うため、単純な攻撃力は同じく身体強化で戦うレオーネを上回っていた。

 

(くそ。戦闘用の機械人形で、しかもタイプの違うやつ同士の大群を嗾けるとはな。下手すりゃ、帝国を上回る兵力じゃねえか)

 

内心で悪態をつきながら、スレイプニルの機銃掃射をノインテーターの高速回転で弾くブラート。しかしそれに気を取られ、バランシングクラウンのワイヤーに捕まってしまう。

 

「舐めんな、人形ども!」

 

しかし、そのままバランシングクラウンを振り回し、他の個体にぶつけて纏めて大破させてしまう。ブラートはここまでに十数機の人形兵器を倒してきたが、インクルシオを纏ったままそれだけ戦ったため、激しく消耗していた。しかも、その破壊した機体の中にスレイプニルが一機もなかったのだ。

 

「やべぇな。鎧が強制解除される……どうにかして逃げて立て直さねえと」

 

インクルシオの解除が近いことを察し、ブラートは危機に陥る。そしてどうにか脱するタイミングを見計らおうとするも、スレイプニルは問答無用で機銃を放ち、内一体は片手に持った斧をブラートめがけて振るった。

 

 

 

「伏せなさい、ブラート!!」

 

直後にマインの叫ぶ声が聞こえたかと思いきや、凄まじい光がスレイプニルを飲み込んだ。しかもそれが、他の人形兵器たちもまとめて薙ぎ払う。

直後にブラートはインクルシオが解除され、そこにマインが近づく。マインはネグリジェ姿にパンプキンを携えており、アカメ同様に寝間着のまま緊急出撃したようだ。

 

「助かったぜ、マイン。にしても、今の攻撃はすごかったな」

「パンプキンは使い手の私がピンチになるほど強くなる。今の絶体絶命の状況、おかげであれだけの威力が出たわけよ」

 

精神が昂ればそれに比例し、パンプキンは攻撃力を跳ね上げる。その結果、極太レーザーの照射ということも可能とされたわけだった。

 

「今の鉄人形どもって、まさか……」

「ああ。恐らくこの間に出てきた、ゼムリア大陸の犯罪者達が使う兵器の類だろうな」

「そうとも。我らが身喰らう蛇の技術部”十三工房”が開発した、人形兵器のシリーズさ」

 

直後、聞き覚えのない男の声が聞こえたので振り返るが、どこにもそれらしい人物はいない。しかしその直後……

 

「はーっはっはっはっはっは!」

 

バラの花びらを巻き込んだつむじ風が起こり、そこから執行者の一人ブルブランが姿を現す。

 

「な、何この変人?」

「たぶんだが、例の結社とやらの人間だろう。あの人形どもについて詳しいみたいだしな」

「ええ。その通りですわ」

 

直後に女性の声が聞こえたかと思いきや、更にデュバリィが転移してきた。

 

「それでは自己紹介……我が名は身喰らう蛇の執行者No.Ⅹ《怪盗紳士》ブルブラン。美を尊い、この手中に収めんことを使命とするものだ」

 

ブルブランは執行者として活動する傍ら、大陸各地で名を轟かせる怪盗Bとしての顔も持ち合わせている。怪盗紳士という二つ名も、それに起因しているのかもしれない。

 

「身喰らう蛇が第七使徒直属部隊《鉄機隊》が筆頭隊士《神速》のデュバリィです。執行者ではありませんが、実力は彼らに匹敵すると自負しています」

 

どこか抜けている雰囲気に、愛嬌のある顔つきと、あまり強そうに見えないデュバリィ。しかし、それでもアリアンロードの直属部隊で筆頭を務めるだけの、圧倒的な戦闘力を有していた。

 

「お前たちの所属がなんだろうが、アジトを襲った以上は俺らの敵ってことになる。だから、所属も関係なしで相手してやる」

「あのリィンとかいう奴といい、その仲間といい、ついて行ったタツミといい、ゼムリア大陸の連中はあたしたちをコケにしたいようね」

 

ブラートの決意表明、そしてマインの一方的な敵意が結社の刺客達にぶつけられる。

 

「リィン・シュバルツァー……あの不埒な男と私たちを同一視しないで欲しいですわ」

「え?」

「おっと、すまない。彼女はリィン・シュバルツァーに浅からぬ因縁があってね。まあそれはともかく、私は君に興味があるのだよ。ナイトレイドの狙撃手マイン」

 

デュバリィのリアクションに一瞬呆けるが、直後にかけられたブルブランの言葉に気を取られてしまう。

 

「手配書の出ているメンバーは個人情報を自分なりに調べさせてもらってね。そんな中で君は、帝国で差別の対象となる異民族、その血を引くハーフだと知った」

「何よ? あんたも人種差別に賛成派なの?」

「イヤ、そんな美しくないことはしないさ。むしろ、君に敬意を表している」

 

マインの出自に興味を抱いたブルブランだが、その理由は美を重んじる彼ならではだった。

 

「幼い時に迫害を受けたにも拘らず、この国の未来のために戦う。恐らく、君自身や同じ境遇にあった者たちのためだろう。他者のために、己が未来のために、トラウマを乗り越え戦う……その気高い魂、美しい! ぜひとも我が手中に収めたいと思った次第だ」

「うわ、キモ……」

 

ブルブランの独自の美学、そのために自分を欲してると言われ、マインも表情が青ざめる。

 

「あと、失礼ながらこれを拝借した。着たまえ」

 

その直後、ブルブランがマインに投げ渡したのは、彼女の服だった。当然ながら、また固まってしまう。

 

「あんた……何を……」

「なに。寝間着姿で戦うなど、絵にならないだろうと思ってな。他意はないから安心したまえ」

「……とりあえず着替えるけど、どさくさに紛れて寝間着盗んだりするんじゃないわよ」

 

~着替え後~

そして茂みの中から、いつもの服装になったマインがパンプキンを手に出てくる。

 

「待たせたわね。それじゃあ、やりましょうか」

「ふふふ。では、掛かって来たまえ」

「百人斬りだかナイトレイド最強だか知りませんが、戦士としての格の違いを見せてあげますわ」

「ああ。俺も全力でやらせてもらうか」

 

互いが臨戦態勢に入る中、ブラートはしゃがみ込み、地面に手を置いた。

 

「インクルシオぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

叫んだ直後、ブラートの背後に鎧が出現し、それがまとわりつく。竜型危険種の素材を加工し、そのフォルムにも竜を思わせる意匠のある鎧。コートの様に伸びる布状のパーツに、巨大な真紅の槍。ナイトレイド最強が操る、強大な帝具が顕現した。

 

「そんな武器に頼った強さ、我が神速の剣で断ち切ってみせますわ」

「出来るもんならやってみな、嬢ちゃん。俺の熱い魂は、どんな強敵が相手でも決して屈しねえからよ!」

「生意気な口をたたきますわね!」

 

そして、こちらのチームも戦闘が始まる。

異なる大陸の裏組織同士が、激突した。




対戦カードの決め方
アカメVSナハシュ:元同僚同士なので。
マインVSブルブラン:ブルブランが興味持ちそうなのがアカメとマインの二人くらいだったので、消去法。
レオーネVSヴァルター:獅子VS狼。
ブラートVSデュバリィ:ナイトレイド最強VS鉄機隊最強。
ラバックVSスピア:実はあまりものですが、ラバが女の子と戦うイメージが強かったので採用。

次回は直接対決と追加のナイトレイド登場の予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。