「ついたぜ。ここが、ルーレ市だ」
「我がログナー侯爵家の領地だ。侯爵家の一員として、歓迎しよう」
「アンゼリカさん、わざわざ出迎えありがとうございます」
「しかし、この街凄いですね」
レグラムでの修業から数日後、形になった&サヨの体力が回復したため、タツミとサヨはヴィクターに連れられてカレイジャスに乗り込み、北にあるルーレ市を訪れていた。
ルーレはアリサの実家にしてゼムリア大陸でも一、二を争う重工業メーカー”RFグループ”の本社を置く工業都市だ。また、市内の工科大学には導力革命の父と言われるエプスタイン博士の弟子の一人、G・シュミットが属していることで有名だ。
「しかし、階段が勝手に上ってくれるって凄いですよね」
「というか、もう発想がどうかしてるレベルなんだけど……」
「まあ、無理もないだろ。一応ルーレの外にもあるが、リベール王国のツァイスみたいな工業都市にしか於かれてないから、普及するにはもうしばらくかかるだろ」
そんなルーレ市は高層ビルが立ち並ぶ街並みで、高所にも建物や広場が建てられ、そこに向かうためにエスカレーターが置かれている。リベール王国のツァイス市が最初にエスカレーターを設置し、ルーレの技術者が対抗心を燃やして作ったらしい。
「あの、あれって何ですか?」
「ん? 本当だ、変な建物がある」
サヨに指摘された方を見ると、巨大な建造物があった。外観からは人が中に入るように思えないものだった。
「ああ。あれは建物じゃなくて、導力ジェネレーターだよ」
「ジェネレーター? なんですかそれ??」
「工場って、作業目的の機械を導入したデカい工房があってな。そこの機械を動かすための導力を生成する大型装置だよ」
規模の大きすぎる話に、タツミもサヨもポカンとしてしまう。導力器の技術はトヴァルやサラから聞かされてその凄さを知ってはいたが、それを実際に用いている現場、しかも規模があまりにも大きいものを見てしまったため仕方がなかった。
そして、そんな二人が案内されたのは、ルーレ工科大学だった。
「アンちゃん、久しぶり!」
「その二人が、話に聞いた遊撃士志願者だね」
タツミたちが工科大学に案内されると、中で二人の人物と出会った。一人ははねっ気のある茶髪をリボンでポニーテールにまとめた小柄な女性で、年上ながら愛嬌のある容姿だった。もう一人は繋ぎ姿で小太りの青年で、工具入りのポーチを腰に巻いている。
それぞれ、名をトワ・ハーシェルとジョルジュ・ノームといい、リィン達の士官学院での一年先輩でアンゼリカの同級生である。トワは様々な組織や機関からスカウトを受け、ジョルジュは工科大学からトールズに移転後も技術工房の担当を任される、といった具合に進路が約束されていた。しかし、二人とも内戦でリィン達と共に駆けた経験から、それぞれ非政府団体を巡って経験を積む、導力器メーカーを渡り歩いての武者修行、という道を進んだ。
今回はたまたまアンゼリカとスケジュールがあったため、こうして集まったというわけだ。
「はじめまして、トワ・ハーシェルっていいます。アンちゃんから話は聞いているよ」
「僕はジョルジュ・ノーム。修行中の技術者ってところだね」
「初めまして、タツミって言います。リィンさんに助けられて、遊撃士を目指すことにしました」
「同じくサヨです。よろしくお願いします」
取りあえずお互い自己紹介をしておく。そんな中、サラの口から今回ルーレに来た理由が語られた。
「で、今日ルーレに二人を連れてきたのは、ある物のテストをして欲しかったのよ」
サラに言われるがまま、タツミたちは案内されて大学のドックにやってくる。
「こ、これってリィンさんが乗ってた……」
「そう。工科大学で試作した新型の導力バイクよ」
確かにそこには、リィンが乗っていた物とデザインが異なる、新品の導力バイクが置いてあった。
「元々、リィン君の乗っていたバイクは工科大学で作っていたのを、僕が引き取って完成させた品なんだ」
「で、同じモデルの物が今はRFグループから販売されていて、これはそれをもとに新型の導力エンジンを実装した機体なんだ」
ジョルジュとトワが交互にバイクについて説明する。タツミはリィン達と出会った際に帝都まで乗せてもらったのだが、その際に強いあこがれを抱いていたという。そのため、今回のテストという単語とその実物であるバイクを見て、目を輝かせていた。
「で、早速だけどお願いでき…」
「やります! 是非やらせてください!!」
「えっと、ずいぶん食い気味ね……まあ、ノリノリみたいだからいいか」
一瞬、タツミのノリに固まるも、やるきならそれでもいいかと思うサラであった。
「それと、今回ルーレに来てもらったのはこれを渡す目的もあるんだよ」
すると今度はアンゼリカからある物を渡された。小箱に入れられたそれはテストするバイクと違い、今度はサヨの分と合わせて二つある。早速受け取り、二人は中身を確認してみた。
「こ、これって……」
「正式に遊撃士になるのなら、そのうち必要になるだろうと思って作っておいたのだよ。RFグループ本社があるから、すぐに準備が出来たわけさ」
それは、大陸中の遊撃士や警察官といった戦闘のプロ達が持っている、戦術導力器ARCUSであった。早速中を開いて見ると、二人ともラインは二本で長さは半々といった、バランスタイプであった。
「それじゃあ、タツミがバイクのテストしている間、サヨちゃんはARCUSのテストをしてもらいましょうか」
「みなさんは積もる話もあるだろうから、ここで休んでてください」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな?」
タツミはそのままトワ達に休むことを勧め、二人は街の外に向かった。
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「おお、すっげぇ! で、次はここをこうして……出来た!!」
タツミはテストすることとなったバイクを、ザクセン山道にて走らせていた。鉄鉱山に続くこの道は、山道というだけあり斜面が多い&鳥型や鉱石の特性を持った魔獣が跋扈しているため、今回の訓練やバイクの試験には適任だった。そんな中でタツミは、ジョルジュから聞いた操縦法を実践しており、初見ながらうまいこと操縦できていた。
タツミがバイクのテストをしている傍ら、サヨはアーツの特訓目的で山道に徘徊する魔獣と戦闘をしていた。相手はダンシングオゥルという梟の魔獣で、踊るような不規則な軌道の飛行で体の模様を見せることで相手を混乱させるのが得意だ。この魔獣自身も攻撃の回避が得意なため、非常に戦いづらい相手である。
「は!」
サヨはダンシングオゥルに矢を放つと、それが心臓を貫いて見事撃破に成功する。しかし、ここに来るまで10回ほど矢を放ったが、うち2,3本しか命中していない。加えてダンシングオゥルはまだ5羽も飛び回っている。
「た、確かに当てにくいですね」
「そういうこった。アーツは空間に直接作用する空属性や、地面から攻撃を発する地属性があるからほぼ確実に当たる。一応、アーツを回避するための装備なんかもあるが、今回は例外としておく」
トヴァルに言われたサヨは、早速ARCUSを開き、はめ込まれたクオーツをなぞってアーツの発動準備に入る。
「ダークマター!」
サヨがアーツ名を叫んでARCUSを目の前につき出すと、ダンシングオゥルの集団の中心に小規模のブラックホールが生じた。ブラックホールに吸い寄せられたダンシングオゥル達に、内部に含まれた空属性のエネルギーで的確にダメージを与えていく。
「今が好機! ピアスアロー!!」
サヨはダメージを受けて怯んだダンシングオゥルに向けて、アルゼイド流の弓術技でとどめを刺す。闘気を纏った矢は一直線に飛んでいき、一箇所に集められたところを一気に貫いた。ダンシングオゥル達は体を抉られて絶命し、体内に取り込んでいた七曜石の欠片をばらまいた。
「凄い……これは、武芸と組み合わせたら強力な力になってくれますね」
「だろ? そのARCUSはアーツ特化型のライン配分じゃないから、威力やEP容量は過信しない方がいいぜ」
「はい! って、ちょうどタツミが戻ってきたみたいね」
戦闘終了後、トヴァルと話しているとバイクの走る音が聞こえてきた。見てみるとタツミが戻ってきたのが見えてきたが、何か様子がおかしい。
「あれ? なんか、タツミの後ろにいるんだけど……」
サヨの視線には、タツミが何かから逃げているように見えた。その相手は、何やら人型で無機質な体をした魔獣にしては不自然な容姿をしていた。
「おいおい。まさかあれ……」
「だとしたら、今のタツミには厳しいわね」
「え? ちょ、何ですか一体!?」
トヴァルとサラは何かに感づいてタツミの方に駆け寄り、サヨも二人に付いて行く。
「ちょ、サラさん! こんなのがいるなんて聞いてませんよ!!」
「ええ。だって、あたし等もこれがいるなんて思いもしなかったんだから」
合流に成功したタツミが文句を言うも、サラ達としても想定外のようだった。現れたそれは、やはり金属と思われる無機質な人型の体をしており、四本の腕に剣を持った巨人だった。
「魔煌兵。大昔に魔導、所謂魔術と言われる力が表にあった時に作られた戦闘用の人形だ」
「魔術……まさか、エマさんと何か関係が?」
「察しがいいわね。直接関係は無いけど、接点はあるらしいわ」
この魔煌兵は、リィンが内乱の始まる少し前に手に入れたある力に呼応して機動を開始した。機動と同時に襲ってきた個体や、魔女の眷属と関わりのある
「こいつは自己修復機能、どんなダメージも一定周期で回復しちまう能力を持ってやがる。お前らは下がってろ」
「いくら素養が高いって言っても、デカくて頑丈、しかも傷が修復されるような化け物、いきなり相手にしてられないでしょうから」
そう言って、トヴァルとサラはそれぞれの獲物を構える。トヴァルは伸縮式の警棒と特殊パーツで改造した高速駆動型のARCUSを用いたアーツ主体の戦闘を得意とし、サラは改造拳銃と片刃の剣を併用した戦闘術、といった全後衛揃った布陣となっている。加えて二人揃って遊撃士としての戦闘力は他を圧倒する物があった。
確かにこの二人と一緒に魔煌兵という強敵を相手にすると、足手まといになりかねない。
「……そう言われても、聞けませんね」
しかし、タツミもサヨも下がろうとはせず、得物を手にサラ達と並んだ。
「俺達は向こうで、ナイトレイドみたいな連中と互角に戦えないといけないんです。だから、手に負えないからって無視するわけにいかないんですよ」
そう言ってタツミは、腰に差してあった二振りの剣を抜いた。片方は前から持っていた剣だが、もう片方は使い古されていたものの、見覚えのない物だった。
「……仕方ない。ただし、俺とサラが攻撃のメインを張るが、お前ら二人はサポートに徹しろ。補助アーツや牽制をメインに動け。生存率を上げるための措置だ」
「わかりました。じゃあ、俺もアーツを試してみるか」
そう言ってタツミは、早速アーツを使用してみる。火のクオーツをなぞり、早速補助用のアーツを使用する。
「ラ・クレスト!」
タツミがアーツを使用すると、その場に集まっていたメンバーの体にバリアのような物が張られる。
「よし。それじゃあ、攻撃開始と行くか」
防御の準備が終わると、トヴァルがアーツの発動準備に入り、サラが魔煌兵に発砲しながら飛び掛かる。その様子を見て、魔煌兵も迎撃しようと剣を振り上げる。
「させない!」
しかしサヨが咄嗟に弓を放ち、それが腕のうち一本に命中して魔煌兵の気を逸らすことに成功した。
「サヨちゃん、ナイス! それじゃあ、一気に!!」
そのままサラは魔煌兵の頭部を滅多切りにする。そしてひとしきり斬り終えた後、一気に距離を取る。
「紫電一閃!」
そのままサラは、剣に稲妻を纏わせて横薙ぎに振るう。すると、稲妻がそのままリング状になって飛んでいき、魔煌兵の胴体に命中する。
「よし、準備完了! シャドー・アポクリフ!!」
その直後にトヴァルがアーツを発動。上空から巨大な黒い剣が降ってきて、それが魔煌兵の体を貫いて爆発した。
しかし、それでも魔煌兵は立ち上がって再び向かってきた。
「聞いた通りにしぶといな。けど、だからってこのまま通す気は無いがな」
トヴァルが呟くと、いつの間にか魔煌兵の背後に回っていたタツミが宙を舞っているのが見えた。
「行くぜ、イエヤス!!」
タツミが亡きもう一人の幼馴染の名を叫ぶと同時に、剣を持った両手を広げて高速回転、魔煌兵の背中を滅多切りにした。
「サラさん、とどめお願いします!」
「おし、来た!」
叫びながら飛び退くタツミの姿を確認し、サラが一気にとどめに入る。紫電を纏ったサラは再び魔煌兵の背中に飛び掛かり、剣で貫く。そして地上に飛び降りる。
「でやあああああああああああああああああ!!」
そのままサラは紫電を纏ったまま地上を駆け巡り、着実にダメージを与えていく。
「はあああああああああああ!!」
飛び退きながらサラはこれでもかと言わんばかりに銃弾をお見舞いする。
「さて。これは受けきれるかしら?」
そして剣を天に掲げると、凄まじい稲光を切っ先から発する。
「オメガエクレール!!」
そして技名を叫んで剣を振ると、巨大な電撃が地面を高速で這っていき、魔煌兵を飲み込んだ。
「さて。どうにか撃破できたかしら?」
そしてサラが魔煌兵の様子を見に近づいた直後……
「な!?」
「ま、まだ立ち上がるのか!?」
なんと魔煌兵が立ち上がった上に、先程の傷が見る見るうちに再生していったのだ。
「こいつ、前に戦ったやつよりも強いわね」
「サラさん、どうすれば?」
「攻撃の手を増やして一気に決めるしかないわね。でも、今から援軍を呼びに行っても間に合わないだろうし……」
このままジリ貧になってしまうことを危惧し、緊張感がその場を埋め尽くす。しかし、その心配は気鬱だった。
「サンダーイクシオン!」
いきなり聞き覚えのない女性の声が聞こえたかと思うと、雷を伴った竜巻が魔煌兵を襲う。
「こ、この不自然な竜巻は……」
「間違いなくアーツね。けど、この声って」
竜巻がの正体がアーツだと判明すると同時に、サラはこの声に聞き覚えがあると判明した。
「そこの皆さん、離れてください!!」
今度は新たに少女の声が聞こえたが、慌てている様子から尋常ではないと思い、取りあえずしたがってその場から離れる。
その直後、凄まじい轟音と同時に何かが魔煌兵の胸に向かって連続して飛んでいく。そして後ろを見ると、小柄な少女が筒状の巨大な機関銃で魔煌兵に攻撃しているのが見えた。
「と、トヴァルさん。あれって……」
「あれはガトリング砲。導力銃と違って火薬式の銃なんだが、連射速度は並の機関銃を上回るゲテモノ銃器だ。けど、あんなものをどうしてあの子が……」
サヨの疑問に答えるトヴァルだったが、何故少女がそんなものを持っていたのかまではわからなかった。
「ジャッジメントボルト!」
更に先程のアーツを使った人物と同じ声が響いたかと思うと、それが新たなアーツを発動した。巨大な稲妻の矢が、魔煌兵を一気に貫く。
「貴方達、このまま攻撃を続行してちょうだい!」
「や、やっぱりシェラザードさん! でも、なんで……」
「説明は後回し。今はこいつを倒すのが先よ!」
直後にタツミたちの傍に現れた声の主は、サラの知り合いらしい。銀髪に褐色肌の露出が多めの服装の女性で、鞭とARCUSを装備している。
ひとまずこのシェラザードという女性に従い、今は攻撃態勢に入ることにした。
「それじゃあ、俺がまたさっきの奴で叩くんで、サラ達もお願いします」
「私も続けて隙を作りますので」
「サラはさっき大技をやったばかりだから、俺に任せといてくれ」
「よし。それじゃあ、やりますか」
そのまま話が纏まり、一気に攻撃を始める。まずはサヨが走りながら矢を連続して放ち、魔煌兵を牽制する。
「喰らいなさい!」
そしてサラが紫電を纏った銃弾を連続して放ち、魔煌兵に立て続けにダメージを与えていく。
「もう一度喰らいやがれ、デカブツ!」
更にタツミが先程と同じ二刀流による高速回転切りを放ち、一気にダメージを与えていく。
「よし。それじゃ、とどめに入るか」
そしてトヴァルが大技に入ると、魔煌兵の周囲にエネルギー球が五つ出現し、トヴァルが手を動かすと同時にそれが竜巻を発する。そのまま竜巻に乗ったエネルギー球は一つの巨大な球となったかとおもうと、トヴァルが大ジャンプしてその上に行く。
「リベリオンストーム!」
そのまま両手を組んで、技名を叫ぶと同時に振り下ろすとエネルギー球は魔煌兵を目掛けて落下し、そのまま命中した。そしてエネルギー球がはじけ飛ぶと、辺り一帯を暴風が襲う。
「……風が晴れて来たな」
「げ。まだ動いてるわ」
しかし魔煌兵は想像以上にしぶとく、まだ立ち上がろうとしていた。しかし直後
「ドラゴンダアァァァァァァァァァァァイブ!!」
しかしまた聞き覚えのない声を聞いたかと思うと、空から何かが炎を纏って落下、魔煌兵の体を貫くと同時に爆発した。爆炎が渦巻く中、魔煌兵は光の粒子となって消え失せ、そのまま消滅した。
「おっし。無事みたいだな」
そして先程の男の声が何かの落下地点から聞こえたかと思うと、そこから声の主と思われる男が現れた。赤い髪にバンダナをした男は、身の丈ほどある大きな剣を担いで近寄ってきた。どうやら落下してきたのはこの男のようだ。
「アガットさん、お疲れ様です」
そんな男に、先程ガトリングで魔煌兵に攻撃していた少女が駆け寄る。少女は革製のゴーグル付き飛行帽を被り、そこに収まり切らない綺麗な金髪の、可愛らしい少女だった。
「シェラザードさん、おかげで助かりました。もしかしてそこの二人が?」
「ええ、前に話したリベールの異変を解決した仲間よ。で、貴方達がトヴァルから連絡が来てたっていう?」
「ああ、例の遊撃士志望者二人だ。単純な戦闘力はもう準遊撃士のレベルは超えている有望株だぜ」
サラとトヴァルと話しを終えたシェラザードは、残りの二人とともにタツミたちに近寄り、自己紹介をする。
「あたしは”銀閃”シェラザード・ハーヴェイ。最近A級遊撃士になったばかりで、エステルの姉貴分よ」
「同じくA級、”重剣”のアガット・クロスナーだ。まあよろしくな」
「リベール王国のツァイス市から来ました、ティータ・ラッセルです。私は遊撃士じゃないけど、ZCFで技師をしています」
そしてこの三人は、かつてエステル達が解決したリベールの異変という大事件を解決した、歴戦の勇志であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の夜、タツミたちはシェラザードたちと改めて挨拶をするついでに、ルーレ市内の大衆食堂で夕食を取っていた。ちなみにこの店の看板娘ユーナが、アリサの地元友達だというのは完全な余談である。
「なるほど。ティータちゃんはラッセル博士の孫娘で、シュミット博士に用事があったわけか」
「はい。それで、アガットさんとシェラザードさんがその護衛をしてくれたんです」
ティータの祖父アルバート・ラッセル博士は、シュミット博士と同じエプスタイン博士の弟子の一人で、とんでもない技術バカなのだという。
「折角の機会だし、私等も帝都で仕事があるから一緒に鍛えてあげましょうか?」
「俺も特に予定はないから、クロスベルに同行してもいいぜ」
「お。折角なんで、お願いします」
「お二人の戦闘術やアーツの手際、参考にさせてもらいますね」
タツミたちの修行に、シェラザード達も協力してくれるようなので、二人とも嬉しそうだった。すると、アガットがあることが気になってタツミに問いかける。
「そういや、昼間に二刀流で戦ってたみたいだが、どこかぎこちなかったな。もともと、一刀流だったんじゃないのか?」
「ああ。こいつ、イエヤスっていう死んだもう一人の幼馴染の形見なんです」
どうやら見覚えのない方の剣は、イエヤスの遺品だったらしい。持ち主亡き今、眠らせているのも剣やイエヤス本人に対して失礼とのことで使ってみようと、二刀流に挑戦したのだという。
「でも、その割には結構なレベルの剣術だったわよね。やっぱり、素養の高さもあるのかしらね?」
「少し邪魔するよ」
すると、夕食の席を一緒にしていたアンゼリカ達が話に割って入ってきた。
「そうか。慣れない戦闘法でそんなレベルということは……ジョルジュ、ちょっと考えてみたんだが」
「……なるほど。けど、彼に申し訳ないんじゃないかな?」
「こんなまっすぐな少年に戦い方を継承してもらえるなら、彼も本望だろう」
アンゼリカがジョルジュに耳打ちし、そのまま何か話し込む。そしてすぐに終わったかと思うと、今度はタツミに声をかけてくる。
「タツミ君、君の剣とその形見の剣を僕に預けてくれないかな? 補修ついでにちょっとした改造を咥えようと思うんだ」
「リィン達が話しているかもしれないが、ある人物の戦闘法を君にも使えないかと思ったんだ。独自性のある戦い方だから、使いこなせば相手も見切りにくいだろうと思ってね」
「ある人物? ……直接は聞いたことないですけど、例の内乱とやらに関係のある?」
「……そっか、話してないんだ。それじゃあ、話しておくね」
タツミの反応を見て、トワからその人物の詳細が語られる。そして大体の事情を聞いたタツミはというと……
「わかりました。それでお願いします!」
「よし。今日はもう遅いから明日にするけど、すぐに仕上げるから期待しててくれ」
タツミの決意を聞き、ジョルジュも乗り気だった。そして、アンゼリカとトワもその様子を見て嬉しそうにしている。
一方その頃
「へぇ、彼の戦い方をね。それでいてあの素質は……彼のあの力を継承させてもいいかしらね」
外で止まっている、不思議な鳥を介して会話を聞いていた、謎の人物がいた。
そして、これがタツミに巨いなる力を手にするきっかけとなるのだった。