英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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世界観設定についてですが、帝国の東が未開発&ゼムリア大陸の外について作中で触れられていないので、「帝国の東にゼムリア大陸がある」という風にしています。今後のシリーズ展開で原作と矛盾が生じるのは確実ですが、二次創作ということで大目に見てください。


第一部 闇に呑まれた千年帝国
第1話 千年帝国と蔓延る悪意


リィン達一行は、帝都へ向かう途中でタツミを送ってやることにした。やはり馬車が一般的な移動手段な辺り、車は珍しいどころか存在していないらしく、タツミは興奮して先ほど別れた御者達も驚愕していた。

そして、帝都付近に停車し、エマの結界で危険種や不審人物に触れられないようにしてから帝都に入るリィン達であった。

 

 

 

「これが、帝都……」

「大きさだけなら、エレボニアの帝都と同等みたいね」

 

リィン達は街に入った瞬間、驚愕した。元々帝都を囲む外壁が異様に長大だったことから、街の規模は想像していたが、想像以上だった。報告によれば、この帝都の面積は20万キロアージュもあるらしく、下手をすればエレボニアの帝都であるヘイムダルに匹敵するかもしれないのだ。

 

「それじゃあ、俺は兵舎の方に行くんでここで」

「ああ。タツミ、頑張って出世しろよ」

 

そのままリィン達はタツミと別れ、情報局員の生き残りであるレクター・アランドール特務大尉と合流しに行く。

 

 

「確か、この辺りのはずだけど……」

 

リィン達がやって来たのは帝都のとある一角だった。この帝国はエレボニア帝国と同様に貴族制が定められており、帝都内にも貧富の差によって貴族街や貧民街に分けられている。今いる場所は、中間である一般庶民の住むエリア、すなわち平民街である。

 

「えっと……って、うわぁ!?」

「リィーーーーーーーン!!」

 

いきなり小柄な少女が、リィンの名前を叫びながら彼に飛び掛かってきた。いきなりのことで驚いたリィンは、その場で尻餅をついてしまう。

 

「あはは! リィン、久しぶり!」

「ミリアム、ちょ、重い……」

 

飛び掛かってきた少女は、ライトグリーンの髪をした、天真爛漫という表現がぴったりな少女だ。彼女こそが情報局の生き残りの一人にしてVII組メンバーの一人、ミリアム・オライオンである。

 

「おいおい。早速再会を楽しんでいるみたいだな」

「はしたないです」

 

すると、ミリアムが走ってきたところから誰かがやって来た。一人は派手なシャツを着た、チャラい雰囲気の赤毛の青年。彼こそがレクター大尉である。本人は情報局の二級書記官の肩書を持ち、それなりにプライドもあるのか、肩書で呼ぶ際はこちらを推奨してくる。

もう一人は尖った耳のような意匠のフードを被った、無表情な銀髪の少女。彼女がもう一人のオライオンである、アルティナだ。

しかし、そこにいたのはこの二人だけではなかった。

 

「リィン、久しぶり」

「やっと到着か。待ちくたびれたぞ」

 

現れたのは、小柄で気怠そうな顔の少女と、逆に熊の様に大柄な男だった。この二人はそれぞれ、VII組メンバーの一人フィー・クラウゼルと、カルバード共和国のA級遊撃士ジン・ヴァセックという。

 

「フィー!? 何でここにいるんだ?」

「そうよ。生き残っているのは、そこの大尉さんとあの二人だけの筈なのに、なんでジンさんが……」

「それはだな、俺が個人的に依頼したんだよ。軍が遊撃士に依頼するとなったら、オズボーンのおっさんが煩いから内緒でな」

 

リィン達の疑問にレクターが答えるが、結構な問題発言となっている。

 

「私は、ジンさんに帝都を案内していた時にその依頼が来たからついでに。共和国に行ったときにお世話になったから」

「サラの奴からの紹介だったんだが、この子も結構なやり手だぜ。正式に遊撃士になって欲しいところだな」

 

その後、フィーとジンとも自己紹介を終えると、レクターに連れられてやって来たのは、彼が貸し切り予約をしていた喫茶店だ。もしも休暇や見回りの軍事関係者に聞かれたら、侵略などという誤解もされかねないためだ。

 

「それじゃあ、まずは俺らの調査で分かったこの国の現状について説明するぞ」

 

そしてレクターが話し始めて、帝国の現状が判明した。

 

「まず、この国の皇帝は10歳前後のガキンチョで、そいつが利用される形で政治が成り立っている」

「え? そんな子供に帝位を授けてしまったんですか?」

 

リィンの疑問も尤もだが、レクターは「まあ、続きを聞け」とそのまま話を続ける。

 

「現皇帝の父親、先代皇帝が急逝しちまってな。後継者争いの中でオネストっつう大臣が、皇帝の一人息子だった現皇帝を推挙して即位させちまったわけだ」

 

年端もいかない少年を後継者争いに勝たせる辺り、そのオネスト大臣は相当の切れ者だということはわかった。

 

「おかげで皇帝は大臣に絶対的信頼を寄せ、後は政治の全権を自身で掌握し、幼い皇帝に政治学や情勢に関する知識を与えさえしなければ皇帝は意のままに操れる傀儡同然。自分だけが甘い汁を吸うなんて、欲望のままに生きる人生を送れるってわけだ」

「自治州時のクロスベルもキナ臭い政治事情でしたけど、これはそれどころじゃないですね……」

 

自治州だったころのクロスベルは、歴史ある巨大軍事国家エレボニア帝国と、建国百余年でありながら帝国とも張り合える軍事国家カルバード共和国に挟まれ、その両国を宗主国として成り立っていた。そのため、両国それぞれの政府がクロスベルを引き込もうと事故に見せかけたテロを秘密裏に実行、警察上層部と結託してそれらを揉み消すことで治安を悪化させた、魔都と化していた。だが、この国は至極単純に暴君による圧政を敷かれた状態という、根本から違う問題であった。

しかし、今回リィン達の目的は帝国への介入ではない。一年前の猟奇殺人やエプスタイン財団への襲撃事件の捜査だ。

 

「で、例のヒントかも知れない品がコイツだ」

 

そう言ってレクターが取り出したのは、一対のガントレットだった。しかし、リィンとロイド、エステル達遊撃士はそれがただのガントレットではないことを直感で察した。

 

「あの、これは一体……」

「馬鹿、触るな!」

 

キョトンとした表情でノエルがガントレットに触れようとすると、ジンが慌てた様子で制止の声をかける。しかし、間に合わずにノエルは触れてしまった。

 

「!?」

 

その瞬間、ノエルは背筋が凍り付くような感覚を感じ取る。咄嗟に手を離すも、ノエルの顔から血の気が引いており、そのまま激しい息切れを起こし始める。

 

「な、なんなん……ですか…これは?」

「そうですよ。ノエルさんの反応、明らかに異常ですよ」

 

エリィの言葉に続き、レクターはこの品の正体を語り始めた。

 

「コイツは帝具っつう武器でな。これが犯人への手がかりだ」

 

聞きなれない単語に、リィン達はつい首を傾げる。そして、レクターがその詳細を語り始めた。

 

「帝具は今から千年前、この国の建国者である始皇帝が国家安寧を不動の物にするために作った48の超兵器の総称だ」

「48の、超兵器?」

 

失われた技術や超希少素材を、始皇帝が財の限りを尽くして集めて作らせたらしい。それによって、所持者に一騎当千の戦闘力を与えるといわれている。ただし、帝具は使い手を選ぶらしく、適合しなかったら持っても発動しないだとか、最悪身に着けた瞬間死ぬなどいろいろ問題もようだ。

そして材料の希少素材はゼムリアストーン並のレアメタルや、超級危険種(強さはピンキリらしいが国の壊滅も容易な等級らしい)の筋繊維や外殻、炎や毒を生成する体内器官などが該当するらしい。おそらく、この超級危険種がゼムリア大陸が外界から隔絶されていた原因の、海や空に闊歩している魔獣たちに該当するのかもしれない。技術の方は古代ゼムリア文明のような超科学の他に、魔術や錬金術の類も含まれるらしい。

 

 

「コイツは俺がわずかに手に入れた、帝具に関する情報だ。とりあえず読んでみろ」

 

そう言ってレクターが取り出したノートには、帝具の名称と効力が記されていた。

 

”一斬必殺”村雨:切った対象の傷から呪毒を送り込み、心臓を蝕んで殺す刀。特性上、かすり傷でも相手を死に至らしめる。

”万物両断”エクスタス:レアメタルを加工した超硬度を誇る鋏。攻撃力と耐久性は最高クラス。

”浪漫砲台”パンプキン:使用者の精神エネルギーを弾丸に変える銃。使用者の精神の高ぶりで威力が上昇する。

 

「……なんなんですか、これ?」

「どれもこれも、とんでもない性能じゃないですか。本当にこの国にこんなものが……」

 

リィンもアリサも、信じられないといった表情でレクターに問い詰める。横で話を聞いていた残りのメンバーも、驚愕に満ちた表情であった。

 

「ああ、マジの大マジ。ぶっちゃけた話、兵器であることを前提に作られた分、危険度は並の古代遺物(アーティファクト)を上回るのは確実だ。で、本題が次のページだ」

 

”月光麗舞”シャムシール:斬撃と同時に真空の刃を飛ばす帝具。月の満ち具合で威力が変化。

”血液徴収”アブゾデック:装着者に吸血能力を与える付け牙の帝具。血を取り込んで自身の強化も可能。

”大地鳴動”ヘヴィプレッシャー:介した声を超音波に変えるマイク型帝具。喰らえば全身の骨が砕ける。

 

「こ、これは!?」

「能力があの事件の被害とかに完全一致してるじゃない!」

 

シャムシールはともかく、他はミイラ化殺人や男性強姦殺人の被害者の惨事に酷似している。十中八九、この帝具の持ち主が犯人の可能性が高かった。一応、今から400年前に内乱で帝具の半数ほどが行方不明となり、何かの拍子にゼムリア大陸の人間の手に渡ったという可能性もあるが、限りなく低かった。

 

「もしかしたら何かの方法、帝具辺りでこの帝国に縁のある人間が獣の包囲網を掻い潜って、ゼムリア大陸に乗り込んで事件を起こしたかもしれない。そういうわけで、ここ最近の大事件を解決した功労者であるお前さん達に動いてもらうことになったのさ」

「なるほど。俺はともかく、リベールの異変を解決したエステルやクロスベル開放を成し得たロイドなら、戦力としても申し分ないですね」

「いやいや。帝国内乱だってお前らがいなかったら、もっと犠牲者が出てたかもしれないんだぜ。ちゃんとお前も活躍で来てるよ」

 

リィンの自分を卑下したような発言を、レクターがフォローする。エレボニア帝国の内乱は結局、鉄血宰相の異名をとる現帝国宰相ギリアス・オズボーンが裏で糸を引いていたため、リィン達VII組も彼の手で踊らされていたと言える。しかし、実際にリィン達が動いたおかげで救われた人たちがいることも事実であった。

 

その後、リィン達はレクターに連れられて彼らが拠点にしている宿に向かう。どうやら、結構な高級ホテルに向かうらしい。

 

「何故、そんな高いところに泊まるんですか? 資金も限られている筈では……」

「一回、適当な安宿に泊まったらそこの店主が泊り客を人身売買で売り払っちまう糞野郎だったんでな。以来、宿は高くても信用のあるところを選ぶようにしたんだ」

「やたら強い傭兵も雇ってたが、俺らで叩きのめしてやったぜ」

「ジンさんの強さは流石A級ってところだったよ。ちなみに、さっきの帝具はその傭兵の一人が使ってた奴なんだ」

 

かなり物騒な話であったが、猟奇殺人が日々起こっている可能性のある街なら、ありえない話でもなかった。

すると

 

「あ、リィンさん達」

「え?」

 

大きな橋を通る最中、聞き覚えのある声で名前を呼ばれたリィン。振り返ってみると、そこにはタツミが体育座りでぽつんとしていた。

 

 

 

 

 

「えっと……ひょっとして、馬鹿なのか?」

「ちょ、リィンさんまで!?」

 

話を聞いてみると、あの後タツミは兵舎での募兵の際に一兵卒からの入隊に異を唱え、腕っぷしを見せていきなり隊長になろうとしたらそのまま追い出されてしまったという。しかもその後で見知らぬ美女に隊長になれるよう知り合いに掛け合うと言われ、「金と人脈がいる」といわれて全財産を渡して持ち逃げされてしまったという。

 

「君、隊長っていうのはただ強いだけじゃやれない役割だよ。まず、複数人の部下を率いるために指揮能力とかそういう物が必要なわけで……」

「だって俺、田舎の出だしそう言うの疎くて」

「あのね。そんなこと少し考えたらわかると思うんだけど……」

 

ヨシュアやアリサに指摘されたタツミは、言い訳する。なんというか、みっともなかった。

すると、横で話を聞いていたレクターが何を思ったのか、ある提案を出してきた。

 

「俺、金には余裕があってな。そんなわけで、お前さんを泊めてやってもいいぜ」

「え、いいんですか!?」

「ああ。ちょっと、カジノで荒稼ぎしてきてな」

「大尉、何やってるんですか……」

 

レクターの口から聞き捨てならない言葉が出てきたため、リィンもついジト目で見てしまう。当然だろうが、このおかげで高級宿に泊まれるほどの資金が溜まったらしい。

 

「ただし、条件が……」

 

レクターが何かを言おうとしたところ、こちらを通りがかった馬車がいきなり止まって中に乗っていた人物が下りてきた。乗っていたのは、高そうなドレスを着た金髪のくせ毛が特徴の美少女だった。馬車に乗っていたことと言い、十中八九貴族の娘なのだろう。

 

「あなた達、ひょっとして無一文? もしそうなら、ウチに来ない?」

 

少女はリィン達を見回しながらいきなりそんな提案をしてきた。

 

「いや、俺達は宿は決まっている。無一文なのは彼だけだ」

「えっと、まあそうですね。けど流石に会ってすぐの人に助けてもらおうっていうのは失礼だと……」

 

リィンに指摘され、タツミも一応遠慮しておく。すると、護衛らしき屈強そうな男二人が近寄ってきて声をかけてくる。

 

「アリアお嬢様はあんたらみたいなのを放っておけないんだよ」

「だからお言葉に甘えておけ」

 

護衛の二人がそう言って断りにくい状況に持っていかれてしまう。そんな状況に持っていかれたタツミだったが、リィン達は咄嗟に怪しいと感じ、断ろうとする。

 

「あ、助かりました。実は宿自体は取れたんですが、部屋数が足りないもので困ってたんですよ」

「え?」

 

しかし、それよりも早くレクターがそう言って、しかもリィン達から何人か一緒に泊まらせようとしてくるのだ。

 

「いやぁ、すまんな~。そういうわけで、お前らは何人かでタツミ君と一緒に泊まってやってくれ」

「若い連中だけで心細いってんなら、俺も同行してやる。安心しな」

 

しかもジンまで乗り気な辺り、何か考えがあるようだ。そういうわけで、リィン達はタツミと一緒にアリアの家に行くこととなった。

 

「えっと、ジンさんがいるなら大丈夫かな……」

「それじゃあ、折角なので御厄介になります」

「決まりね」

 

そんな感じで、リィン、アリサ、エステル、ヨシュアの4人がジンに先導される形で、アリアの屋敷に向かうこととなった。

そして彼らが去った後、ロイドがレクターに問い尋ねる。

 

「アランドール大尉、これは一体?」

「ああ。あの嬢ちゃんの家に、すげぇキナ臭い噂があってな」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんだ、またアリアが誰かを連れてきたのか?」

「これで何人目かしらねぇ?」

 

やって来たのは、大きな屋敷でまさに貴族が住む家といったたたずまいだった。その屋敷でアリアの両親(母親がやたら若く見える)が、リィン達を見るなりそんなことを言った。普段からアリアは見ず知らずの人を家に招いているらしい。

 

その後、アリアの父はタツミが士官できるように掛け合い、逸れてしまった同郷の仲間二人の捜索を引き受けてくれるという形に収まった。そして、それらが決まるまでタツミはアリアの護衛をすることになるのだった。

 

「それで、君達は既に宿があったが、部屋が足りないそうだったね」

「旅行客か何かなのかしら?」

 

タツミの話が終わった後、今度はリィン達の方を見て話題を振る。

 

「いえ。俺達はある事件の調査のために、この国にやってきました」

「事件、とな?」

 

ジンが最年長ということもあって代表して事情を話し、リィンと交代で詳細を語る。

 

「俺達の故郷で、猟奇殺人が起こったんです。不可思議な殺され方をしていたために謎が多かったんですが、そんな中でこの国にある帝具の存在を知りました」

「帝具、ですか」

「やはりご存知でしたか。この国の住人で、しかも学のある貴族ですから当然でしょうな」

「えっと……帝具って、何ですか?」

 

そんな中で、タツミが首を傾げながら問い尋ねる。まあ、田舎の出身なら国民であっても知らないかもしれないが。

 

~説明後~

「そんなものが、この国にあったのか……」

「なるほど。確かに、帝具以外には出来そうにない殺人方法だね」

 

タツミはただひたすら驚嘆し、アリアの父は話を聞いて納得したようだ。

 

「よし。私も貴族、国に携わる人間だ。帝具持ちの犯罪者は我々にとっても有害だし、伝手で情報を仕入れさせてもらおう」

「代わりに、しばらくタツミさんと同じで我が家の護衛をしてもらえるでしょうか?」

「協力、ありがとうございます」

「護衛の件も任せてください。民間人の保護が、遊撃士最大の使命ですから」

 

リィンとエステルが最後に締め、その後は宛がわれた部屋に泊まることとなる。

休む前にジンの部屋に集まり、誘いに乗った理由について尋ねることにする。

 

「で、ジンさんはなんでこの誘いに乗ったんですか?」

「いくら貴族で優秀な護衛に囲まれているとはいえ、得体のしれない俺達異国の人間を泊めるのは、流石におかしいとは思うんですが……」

「実はこの家の娘さん、アリアって娘がしょっちゅう旅行や出稼ぎに来た田舎者を招くんだが」

 

そしてジンは間を置いて、衝撃的な事実を告げた。

 

 

 

「そいつらが一人残らず行方不明になったらしい」

 

予想外の返答に、一同が思わずギョッとする。

 

「次々と情報局員が消えていく中でこの家のうわさを聞いてな、何かしら情報を得られないかと情報局員の最後の二人が潜入捜査を志願したんだ。それで、田舎者を装って屋敷に侵入した物の、翌日から連絡無し、そのまま十日は経っちまったんだ」

「ええ!?」

 

つまりこの家の一家は、何か尋常ではない悪事に手を染めていることになっている。

 

「最悪、ここの一家が人身売買の類に手を染めて、連中もどっかに売り飛ばされている可能性もある。けど、この国の闇を間近で知るチャンスでもあるから、大尉と相談して調査に乗り込む予定だったわけだ」

「それで、あたしたちがタイミングよくここに来たから、そのための戦力にしたってわけね」

「俺達もこの国の現状を知りたいから、その策に異存はありません」

「私もリィンと同感なので、乗らせてもらいます」

「そうか。感謝する」

 

話が纏まった中、ヨシュアが一人険しそうな顔をしていた。そして、エステルがそれに気づいて声をかける。

 

「ねえ、どうしたのヨシュア?」

「……エステル。この国の闇は僕達の知る闇よりも、深くて暗いかもしれない」

 

いきなりヨシュアがとんでもないことを口にし、そのまま続ける。

 

「さっきあの一家、アリアも含めて微かだけど死臭がした。血とか病気とか、そんな感じのいろんな物の臭いが」

「え?」

「それ、本当なのか?」

 

ヨシュアの口から、アリア本人にまで得体のしれない物が感じ取れるという答えが出たのだ。リィンもつい、口を挟んでしまう。

 

「実際、僕も想像したくない内容だよ。けど、覚悟はした方がいいかもしれない」

 

その後、各自宛がわれた部屋(リィンとアリサ、エステルとヨシュアは同室)に戻って、休むことにするのだった。




ガントレットの帝具ですが、リィン達に見せるためのサンプルとして出てきただけなので効果は考えていません。

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