英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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GWに入って、ようやく投降。戦闘描写よりもそこまでの繋ぎが難しいとです。


タツミのゼムリア大陸紀行 4 経済都市国家クロスベル

オルディスの遺跡第一階層・最奥

 

「おりゃああああああ!」

 

遺跡の奥にいた魔物ミノスデーモン。この敵にタツミは双刃剣を振るって斬りかかる。鋭い斬撃を受けたミノスデーモンは、それで体勢を崩した。

 

「そこ!」

 

そんな敵にサヨがすかさず追撃として矢を放ち、ダメージを重ねていく。

 

「そしてとどめの、デュアルストライザー!」

 

最後にタツミは双刃剣を分割して青みがかった紫のオーラを刃に纏わせ、ミノスデーモンを×の字に切り裂いた。そのままミノスデーモンは消滅し、七曜石(セピス)の欠片が地面にばら撒かれる。

 

「コイツが第一階層の親玉……以外にあっけなかったな」

「けど、実技試験はこれでクリアね」

「ってことは、俺達もう準遊撃士に!?」

「でしょうけど、そのためにもまず向こうに戻りましょう。確か、入り口に戻る転移装置っていうのがあるって聞いたからすぐに帰れるわ」

 

そのままサヨに促され、タツミは最奥にあったモニュメントに光が発しているのを確認した。これが例の転移装置だろう。

そして、それを使い入り口に戻ってきた。

 

「よし。二人とも、準遊撃士合格よ」

「それじゃあ、これを渡しておくぜ」

 

サラからの合格認定を聞くと同時に、トヴァルからある物を渡された。

 

「これが、遊撃士のエンブレム……」

「まだ準遊撃士のそれだけど、大陸各地の支部で推薦状を集めて実力を認められれば、晴れて正遊撃士になれるってわけさ」

「なるほど。まだ先は長いってことか」

「うん。いきなり軍で隊長になれないのと一緒よね」

「って、サヨ!? その話はだって!」

 

トヴァルから話を聞いて、タツミとサヨがそんな掛け合いに入る。しかしその直後、何かに気づいて辺りを見回す。

 

「あれ? クロチルダさんがいないんだけど、どこへ?」

「それが、転移装置が起動した直後にいなくなっちゃってね」

「……せっかくの鍛錬の場と、新しい力への道筋を貰えたんでお礼くらいはと思ったんですが」

 

結局、ヴィータの行方はわからないままであったため、この日は遺跡を去ることとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

後日、タツミ達はヘイムダルから列車に乗りクロスベルへと向かっていた。タツミとサヨ以外のメンバーは、アガットとサラ、そしてラウラである。シェラザードはあの後に別件で別れることとなり、トヴァルも帝国で仕事があったため残ることとなった。代わりにラウラが付いて行くことになったのだが、その理由はある人物に会いに行くためである。

 

「確か、警察って組織と合同訓練をするって言ってましたよね?」

「ええ。あなたたちの所で言う警備隊みたいな、犯罪者の摘発や拘束を主な仕事にする物ね」

「遊撃士と違って中立じゃねえから、国家権力にもある程度干渉が出来るのがメリットだな。だが、デメリットとして遊撃士よりも制限が多い」

 

自治州時代のクロスベルでは、その制限によって宗主国にコネを売ろうとした当時の上層部が圧力をかけ、犯罪の揉み消しが上層部で行われるという事態があった。しかしかつて滅ぼされたD∴G教団という邪教の生き残りが起こした事件によって上層部とコネがあった帝国側のマフィア”ルバーチェ商会”が暴走、特務支援課の活躍によって逮捕され、この均衡を崩された。これをきっかけに、上層部のおかげで信用が落ちていた警察も評判を取り戻したのだった。

 

『乗客の皆様にお伝えします。間もなくクロスベル独立国、クロスベル市に到着いたします。リベール、レミフェリア行きの定期飛行船をご利用のお客様はお乗り換え下さい』

「あれこれ話している間に、クロスベルに着いたようだな。降りる準備をしよう」

 

アナウンスを聞いたら裏に促され、一同は荷物を手に下りる準備を始めた。

 

ロイドやエリィの出身地”クロスベル独立国”は、一年前にようやく国家独立に成功した自治州である。通常、ゼムリア大陸で自治州は七曜教会の総本山アルテリア法国を宗主国として認められるが、クロスベルはエレボニア帝国と対立国のカルバード共和国、この二大強国を宗主国として成り立っている。二つの国を宗主国とした結果、この二国がクロスベルを領土にしようと水面下で争い、それに巻き込まれて死傷者が出ても圧力で無理やり事故として片づけられている。しかし、かつてクロスベル市で市長をしていたクロスベル国際銀行(略してIBC)の総帥ディーター・クロイスが国家独立を宣言、そのまま大統領にのし上がる。さらにディーターは身喰らう蛇に開発を依頼したある兵器と、彼の先祖がある妄執によって生み出した人造人間(ホムンクルス)の少女を用いてクロスベルを聖地に仕立て上げようとした。それによりエレボニア帝国もカルバード共和国も壊滅寸前になるが、ロイドの属する警察の部署”特務支援課”の活躍により、件の少女は救出されディーターも逮捕された。その後、内戦で革新派の勝利となったエレボニア帝国がクロスベルを制圧、内戦時に作られたとある兵器でカルバード共和国も迎撃されたが、ロイドたちの活躍によって本当の意味での国家独立に成功したのである。

 

「これが、クロスベル……」

「帝国とは違う意味で、凄い街ですね」

 

タツミもサヨも、駅から出て見たクロスベルの街並みに驚愕していた。車はヘイムダル程ではないが都市としてはそれなりに走っており、道は大きくないが代わりに背の高い建物、ビルが所狭しと建っている。IBCが大陸最大の巨大銀行であるため、クロスベルは経済として有名なのだ。加えて百日戦役終結後の停戦条約の影響で高度成長期に達し、街には近代的なビル群が形成されることとなった。

 

「確か、迎えが近くまで来てるはずなんだけど……」

「お~い。帝国からの遊撃士一行は君達?」

 

サラが迎えに来たという人物を探していると、聞き覚えのない女性の声で呼ばれる。その先にいたのは、二人組の女性だった。声をかけた方の女性は濃い色の短い青髪をした動きやすそうな格好で、鉢巻きを巻いている。もう一人は逆にゆったりめの緑の服を着た、長い銀髪の女性だ。

 

「あぁ、貴女達がクロスベル支部の遊撃士ね。あたしは一応責任者のサラ・バレスタインよ」

「貴女が噂の紫電……私はリン。B級遊撃士で泰斗流の拳士だ」

「同じくB級のエオリアです。レミフェリア出身で医療の知識も持ってるわ」

 

サラに続いて自己紹介する二人の遊撃士、リンとエオリア。そろってB級と、女性ながら遊撃士としてはかなりのベテランである。

 

「俺はタツミ。準遊撃士になったばかりの新人です」

「同じくサヨです」

「リベールのA級遊撃士、アガット・クロスナーだ」

「ラウラ・S・アルゼイドだ。私は遊撃士ではないが、今回の合同訓練である人物が参加すると聞いて、手合わせを願おうと無理を言って同行してきた」

 

タツミたちも続いて自己紹介をする。

 

「それじゃあ、まずはクロスベルの支部でこっちに滞在する間の移籍手続きをしてもらうわ。合同訓練は明日からになるから、それが済んだら今日一日は休んでいてね」

「わかったわ。それじゃあ、早速行きましょうか」

 

エオリアから話を聞き終えると、サラがタツミたちを先導して支部へと向かった。

 

~クロスベル市東通り・遊撃士支部~

「ミシェルさん、どうも久しぶり」

「あらぁ、久しぶりねサラ。で、その子たちが話に聞いた準遊撃士たちね」

 

支部を訪れたタツミたちを出迎えてのは、一人の男だった。喋り方は女性っぽいため所謂オカマなのだが、胸元を肌蹴たピンクのカッターシャツから鍛えられた胸板が見え、髪も茶髪をドレッドヘアーに纏めていた。その凄まじいミスマッチさに、思わずタツミたちはギョッとしてしまう。この人物がクロスベル市部で受付を担当している、ミッシェルである。見かけや口調で判断するのが失礼だと思いつつ、つい自己紹介の時に二人は顔を引きつらせてしまった。

 

「あ、あはは……どうも、準遊撃士成り立てのタツミです」

「お、同じくサヨです……」

「あら、ご丁寧にどうも。ここで受付してるミシェルよ、よろしく」

「他に男のB級遊撃士二人が所属してるんだけど、今日は仕事で空けてるみたいだから後日紹介ってことで」

 

所属している遊撃士が全員B級ということから、クロスベルの支部は相当優秀な部類に入った。

 

「じゃあ、しばらくクロスベルで仕事するみたいだから、転属の手続きをお願い」

 

そして手続きを終えると、サラが事前に借りておいた東通りのアパートに移動することとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

~翌日昼・国防軍関所のタングラム門~

「で、ここが合同訓練をするわけか」

「そういうこと。さて、じゃあ行きますか」

 

集合場所に到着したタツミ一行は、サラに案内されて演習所に向かう。そして、そこである人物と出会うこととなった。

 

「お、お前らがロイドとエステルちゃんが会ったとかいう異大陸のか。初めましてだな」

「本当にもう準遊撃士なんですね。相当お強いと見ました」

 

そこにいたのは、二人の男女と一匹の狼だった。男は長身の赤毛で、警備隊の装備であるスタンハルバードを携えているが、服装は私服である。もう一人はタツミたちと同年代の少女で、黒を基調とした服装と水色の髪、服装に関してはマントと金属製の胸甲に猫耳を模した装置を頭につけるという、かなり変わった格好をしていた。そして狼は、青に白のアクセントという特徴的な毛の色をしていた。ロイドの名を知っている辺り、彼の同僚のようだ。

 

「俺はランディ・オルランド。ロイドと同じ特務支援課のメンバーで、国防軍が警備隊だった時に転職してきた身だ」

「同じく支援課のティオ・プラトーです。エプスタイン財団から魔導杖のテストで派遣された身ですが、今は正式な支援課メンバーです。そしてこっちは、狼ですが警察犬をしているツァイトといいます」

 

やはりロイドの仲間だったようで、タツミたちも続いて自己紹介をする。

 

「で、今日の模擬戦は俺らの方からの希望で、お前らの相手をさせてもらうことになった。問題は無いか?」

「ロイドさんの仲間と手合わせ……強くなる近道に慣れそうだから、それで問題ないです」

「私も問題ないです。むしろタツミと同じで、ドンとこいです」

 

そんなこんなで模擬戦の振り分けが決まり、ついに開始時間となった。

 

「ではこれより、遊撃士協会クロスベル支部とクロスベル警察による合同戦闘訓練を開始する」

 

そして指定位置に就くと同時に模擬戦が始まり、警察の副署長ピエールが審判を務めることとなった。

 

「ルールは三対三のチーム戦で、先に全滅した方が負けとする。第一戦、遊撃士側からは準遊撃士のタツミとサヨ、A級遊撃士”重剣”アガット・クロスナーが参加する」

 

使命がかかり、タツミたちがそれぞれの獲物を構えて前に出る。

 

「続いて警察側からは、特務支援課のランディ・オルランドとティオ・プラトー、そして捜査一課のアレックス・ダドリーが参加する」

 

そして続いて前に出たランディとティオ、そしてダドリーと呼ばれた男が前に出る。堅物そうな雰囲気に眼鏡、といかにも頭脳型だが手には大型の拳銃を持ち、肩幅もあるためかなり屈強そうだ。

ランディも重量のあるスタンハルバードを軽々と振るい、ティオも魔導杖を片手に戦闘態勢に入った。

 

「では……始め!」

 

ピエールの合図と同時に、それぞれの前衛が駆け出した。

 

「「はぁああ!」」

 

タツミとアガットが剣を手に、ランディへと飛び掛かる。しかし、ランディは咄嗟に攻撃を回避しタツミの方に視線を向けた。

 

「おらぁああ!」

「がはっ!?」

 

ランディはそのままスタンハルバードを振るい、タツミの腹に命中させる。

 

「はぁあああ!」

「おらぁっ!」

 

アガットがその隙をついて重剣を振り下ろしてくるが、ランディは更にスタンハルバードを振るい、攻撃を逸らすことに成功した。アガットも負けじと剣を連続して振るうも、ランディも同じスピードで攻撃を繰り返す。

 

「流石はA級だな。そんな鉄の塊、軽々と振り回しやがって」

「お前こそ、やるじゃないか。スタンハルバード、聞いた話じゃそれも結構な重量だそうだな」

 

アガットもランディも、戦闘においては完全なパワーファイターであるため、重い武器を見事に使いこなしている。

そしてそんなランディを援護しようとタツミが動くが。

 

「うおぉ!?」

「そんなあからさまな動きで、妨害が入るのは当然だろう」

 

ダドリーが拳銃でタツミを目掛けて発砲した。訓練であるためゴムでできた模擬弾を使っているが、軍用銃なので弾の初速は凄まじく、タツミは回避に回ってしまう。しかもそのままダドリーは発砲を繰り返し、タツミに隙を与えなかった。

 

「ハイドロカノン!」

 

そしてランディとアガットの二人が討ちあっている最中、アガットを目掛けてすさまじい勢いで水が放たれる。喰らって吹き飛んだアガットが視線を移すと、ARCUSを構えたティオの姿があった。どうやらアーツを使ったようだ。

 

「いけ、ヴォルカンレイン!」

 

しかし今度はサヨが炎のアーツを発動、ティオとランディに火炎弾の雨を降らす。

 

「うぉお!? あの子、結構な攻撃使うな。こっちは前衛が俺だけってのがネックに……」

「オルランド、私が行く」

 

ランディが攻めあぐねていると、ダドリーがサヨへと突撃しながら発砲していく。

 

「俺を放っておく手はないぜ!」

 

しかしタツミがそれを阻止しようと双刃剣を分割、二刀流の構えを取る。

 

「ああ、お前も突破させてもらう」

 

しかしダドリーはそのまま走り続け、タツミも迎撃しようと構えを取る。

するとダドリーはタツミの構えた剣に照準を合わせ、発砲する。それによって剣に衝撃が走り、タツミの構えが解除されてしまう。

 

「だぁああああああ!」

「ぐえぇえ!?」

 

そしてダドリーはタツミにタックルをかまして吹き飛ばし、そのままサヨに向かって行く。

 

「このままお前を抑えさせてもらう。悪く思うな」

「ええ。こっちも本気で来てもらえた方が、訓練になるので」

 

このままダドリーは至近距離から銃撃の応酬でサヨを撃破しようとするが、サヨはいきなり弓を分解し始めたのだ。忠臣で二分割された弓は、そのまま変形してトンファーのような形状になったが、鋭利なそれは刃状だった。

これがギヨームの作った試作武器で、刃状のトンファー、つまりトンファーブレードに変形する機能を付けた物だったのだ。

 

「バニングスと同じトンファー使い……近接戦にも対応できるわけか」

「ええ。でも刃状になってるから、気を付けないと怪我しますよ!」

 

そのままサヨもダドリーに向かって行き、トンファーブレードを振るう。トンファーブレードを手にした腕を連続して素早くつき出し、ダドリーに連続攻撃を繰り出す。サヨはタツミ同様に山奥の村で危険種達と戦い、腕を磨いてきた。そのため、筋力や瞬発力は同年代の少女と比べても高い物である。これが、タツミと揃ってすでに準遊撃士を超える戦闘力と言われる所以だった。

しかしダドリーも、クロスベル警察で戦闘力と推理力の双方でトップと言われ、サヨの攻撃を全て躱し切っている。しかも合間に銃撃を挟んでいるため、その評判をサヨも実感していたのだ。

 

「いてて……って、サヨ! 今援護に行く!」

 

先程ダドリーに吹き飛ばされたタツミが起き上がり、サヨのフォローに入ろうと剣を連結して双刃剣にして向かって行く。

 

「ビームザンバー!」

 

だがその直後、ティオが魔導杖の先端から導力で構成された刃を生やし、それをタツミに目掛けて振るってきたのだ。しかし、間一髪でスライディングによる回避に成功する。

 

「お返しだ。クリミナルエッジ!」

 

タツミはそのまま反撃しようと、赤紫のオーラを纏わせた双刃剣をティオに振るった。ティオの胸甲には、防御フィールド発生装置が備わっているため直接斬られはしなかった。しかし、それでも大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「じゃあ続けて……ブレードスロー!」

 

今度はタツミが双刃剣を投げ、ダドリーに追撃をかける。

 

「な!?」

 

投げられた双刃剣は高速で飛んでいくが咄嗟にサヨは回避に成功、ダドリーは何処からか取り出したショットガンを撃って勢いを殺そうとする。細長い的であるため、普通に銃撃しても当てにくいと判断したのだろう。

その策には成功して双刃剣の回避できたが、その隙をついてサヨがダドリーに蹴りを入れる。

 

「がはぁあ!?」

「おらぁあ!」

 

鳩尾に蹴りが入ったため、ダドリーは大きく隙を作ってしまう。そしてタツミが駆け寄って、すかさずダドリーにハイキックを叩き込んで見事ダウンさせる。

 

「よし、まず一人」

「早いところ、アガットさんの援護に回らないと……」

 

サヨからその言葉を聞くと同時に、タツミは二人で行動に移る。

 

「おっと、残念だけどそれは叶わないぜ」

 

直後にランディの声が聞こえたのでそちらに視線を移すが、そこには武器を取り上げられたアガットがティオに魔導杖を突きつけられていた。先程のタツミの攻撃でダウンしたと思ったら、もう復帰したようだ。

 

「すまねえ、油断しちまった。お前ら、そのランディって奴に気を付けろ」

「まさか、アガットさんが負けるなんて……」

「あの二人も相当戦い慣れてんだな……サヨ、ちょっと気合い入れないと拙いぞ」

「言わずもがなよ」

 

そしてタツミは双刃剣を分割して手数で押すことにし、サヨも弓を連結して遠距離攻撃に徹する策に向かった。

 

「ティオすけ、この二人は俺が片づけておく。だから、コイツを抑えるのに徹してくれ」

「わかりました。ランディさんなら、まあ問題ないですしね」

 

いきなりのランディの申し出に、何の意見もせずに同意するティオ。先程アガットと互角に戦っていたことといい、彼の戦闘力は相当高い物と思われる。

 

「先手必勝! 一気に決めるぞ!!」

「オッケー!」

 

そしてタツミが駆け出し、サヨはアーツの準備に入る。

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「「!?」」

 

直後、ランディが咆哮を上げると同時に凄まじい闘気が生じ、至近距離にいたタツミはそれに対して怯んでしまった。

戦場の叫び(ウォークライ)

主に猟兵が用いる戦闘術で、その叫びで己の闘気を爆発的に引き出す技だ。

 

「大人げないが、俺の全力で相手してやる。覚悟しておけよ」

 

ランディはその言葉の直後に、タツミに目掛けてスタンハルバードを叩き付ける。咄嗟に剣を交差させて防ぐも、凄まじい衝撃が剣から両手に伝わってくる。

 

(何だこの威力……アガットさんの比じゃねぇ!)

 

更にランディはそのままタツミに攻撃を繰り返し、タツミは防戦一方となってしまう。しかも相当重たい攻撃が連続してきたため、剣をゼムリアストーンで強化してなかったらもう折れていたかもしれない。

 

「ラストディザスター!」

 

直後、サヨがアーツを発動する。空属性の上級アーツで、地面に沿って直線状の強大なエネルギーを放つ物だ。それがランディを目掛けて放たれたのだが……

 

 

「え!? きゃあ!」

 

なんと、ラストディザスターで放たれたエネルギーが弾かれ、サヨに返ってきたのだ。

 

「わりぃな。ティオすけが反射アーツを使ったおかげで、無事に済んだわ」

「お二人がダドリーさんの相手をしている間に、クレセントミラーというアーツを使わせてもらいました」

 

補助用のアーツの中には、攻撃の遮断や反射を行う特殊な物が存在している。ティオが使ったのは幻属性のアーツ”クレセントミラー”で、反射と同時に味方の攻撃アーツを強化する効果もある物だ。

 

「だったら、矢で!」

 

しかしサヨはすぐに体勢を立て直し、そのまま矢を射って攻撃する。しかしランディは真正面からそれを避け、一機にサヨの下に駆け寄る。

 

「そこそこ可愛いけど、まだ子供だな。まあ2,3年したら色気はいい感じになると思うぜ」

「ええ!?」

 

ランディのいきなりの言葉に、サヨはつい驚いてしまう。そしてその隙をついて、ランディはスタンハルバードを振るった。

 

「って、危な!?」

「あの土壇場で避けるか。やるねぇ」

 

咄嗟の回避に成功するも、ランディはそのまま追撃に入る。サヨも弓を再びトンファーブレードに分割し、防戦一方となってしまった。

 

「うぉらあああああああああああああ!」

 

しかしそんなランディの背後から、怒号を上げながらタツミが飛び掛かる。剣は分割したままで、それで×の字に斬りかかってきたのだ。

 

「おっと、危ねぇ」

 

しかしランディはそれすら容易く回避してしまう。アガットを下したのはティオとの連携によるものだが、それに入るまで互角の勝負をしていたため、タツミとサヨでは勝ち目が薄いのは明白だった。しかし、それでも二人は強くなるため、この強敵との戦いを糧にする必要があった。

 

「あんまり時間かけるのもアレだし、お前らにゃ悪いが決めさせてもらうぜ」

 

ランディがそう言った直後、急に纏っていた雰囲気がひどく冷たい物へと変わった。

 

「紅き夜の死神よ。戦場を駆け、兵共(つわものども)を貫け……」

 

そのまま先程の陽気な声音ではなく、纏った雰囲気と同様の暗く冷たい声音で何かを呟いた。そしてそのバックには、不気味な赤紫の光を発したサソリの星座が浮かび上がっている。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

そしてランディは咆哮を上げた直後、スタンハルバードの先端から巨大な棘が生えた。ハルバードとは本来、槍と斧の二つの役割を果たす近接武器で、スタンハルバードはそれを模した形状でそう呼ばれている。槍の穂先の役割をする棘が生えたことで、本来のハルバードに近づいたのだ。

そしてランディがそれを振るうと、凄まじい衝撃波でタツミとサヨは揃って吹き飛ばされた。

 

「デススコルピオン!!」

 

そして技名を叫びながら、ランディは二人に突撃していき、そのまま貫いた。

 

「か、体が動かねえ……」

「強いとは思ったけど、まさかこれほどなんてね」

 

ランディが最後に放ったデススコルピオン、その威力に二人は成すすべなく敗れ去ってしまった。

 

「戦闘力は準遊撃士超えしてるって聞いたが、なかなかの腕前じゃねえか。まだそろって発展途上なんだから、そう気を落とすなって」

「……まあ、俺達もそう易々と勝てるとは思ってなかったけど、これはなぁ」

 

ランディがフォローを入れるも、その実力差にタツミはガックリしている。

 

「まあ、ダドリーのおっさんを倒せただけ上等だろ。堅物エリートに見えて、腕っぷしもいいので有名だしな」

「オルランド、言っておくが私は最近デスクワークが多くて鈍っていたんだ。そうでなければ、あの後ジャスティスハンマーで一気に……」

 

ランディの続いてのフォローに、ダドリーが慌て始める。その様子に、ついタツミだけでなくサヨまでポカンとしてしまった。

その後、サラやクロスベル支部の遊撃士たちと他の警察部隊による戦闘訓練が行われた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それにしても、リンさん達もやっぱ強かったな」

「うん。それに、他の警察の人達も、聞いてたよりも強かった」

 

訓練の後、タツミもサヨもクロスベルの遊撃士と警察の戦闘力にただただ感心していた。これに加えて頭も切れるというので、まさに非の打ち所がないのだった。

 

「クロスベルが帝国領となっていた際も、警察の面々は色々と動いていたらしい。その結果が、一年前の国家独立だ。僅か二年で占領された領土の開放に成功した辺り、我々も学ぶ必要があるとは思うな」

 

そんな中に先程から観戦していたラウラも加わり、クロスベルの戦力について思うところを語る。タツミたちも、見習う物があると考えさらに感心することとなった。

 

「異大陸から来た遊撃士志望者や、帝国二大武門の片割れを継承する者にそこまで絶賛されると、誇らしい物でもあるな」

 

そんな中、タツミたちに声をかける人物が現れた。それは一人の男だった。茶色いコートを纏い、青い長髪で年齢は30代前半と思われる。そして腰には業物にしか見えない太刀を携えている。明らかに自分達、ひいては向こうで任務に明け暮れるリィンやエステルを凌駕していた。

 

「初めましてだな。私はクロスベル警察特別機動隊の隊長アリオス・マクレイン。一応、八葉一刀流の二ノ型で皆伝を習得している」

「あ、貴方が噂に聞いた……」

 

かつて警察に勤めていたがある事情から遊撃士に転向、以降はA級遊撃士として活躍した男。ディーター大統領の暴走に加担し、そのために遊撃士を辞職するが、騒動後の本当の意味で独立を果たしてからは警察に復職することとなる。事件に加担したことに対しての戒めから、解き放たれたのだろう。

八葉一刀流の型を一つでも皆伝した者は剣聖の異名を取れるが、アリオスは疾風に代表される二ノ型を皆伝したことから、”風の剣聖”の異名を取っていた。

 

「初めまして。私はエレボニア帝国のレグラム領領主の娘、ラウラ・S・アルゼイドという。貴殿の言う通り、帝国二大武門アルゼイド流の継承者だ。以後、見知り置きを」

 

ラウラはここで目当ての人物との接触に、礼儀の正しい対応をする。普段から古めかしい口調で実年齢より落ち着いて見えるため、その様子にタツミは彼女の父であるヴィクターと同年代であるかのような落ち着きを感じた。

 

「構わない。それより、君は私と手合わせしたくてここまでサラや彼らについてきたと聞いたが……」

「はい。剣に生きると決めた故に、八葉を皆伝した剣士である貴殿とは、高みへ昇るためにも手合わせしたいと願っております」

「なるほど。では、今日はまだ仕事があるので明日になるが、構わないか?」

「手合わせが叶うのなら、いつでも問題はありません。では、よい勝負になることを願っています」

 

そしてアリオスとラウラの手合わせが決まることとなった。




ラウラVSアリオスは次回に回す予定です。

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