英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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二月の中旬、ようやく書けたぜ……仕事も忙しいし、プライベートでもグラブルとかオルサガしていてつい書く時間が……後者に関しては折り合い付けていきたいですね。

そしてタツミの番外編が最終回。結構詰め込みました。

P.S.プライベートな話ですが、最近は休みの日に銭湯行くのが楽しみになっています。でっかい風呂でゆったり温もるのもいいものですよ。


タツミのゼムリア大陸紀行5 リベール王国・王都グランセル

タツミ達が再び帝国入りする前。クロスベルでの合同訓練にて。

 

「でやぁああ!」

「……ふっ!」

 

ラウラとアリオスの摸擬戦は、まずラウラが先手を取った。しかし、アリオスはそれを軽い息遣いと同時に避ける。

 

「鉄砕刃!」

 

しかしラウラは続けざまに、その隙をついて飛び上がり、勢いよく剣を振り下ろす。大剣を用いた重量級の一撃は、文字通り鉄をも砕く必殺の一撃である。しかも的確にアリオスの隙をついたため、命中するのは確実だった。

 

「はぁっ!」

 

しかしアリオスはラウラの振り下ろした剣、その剣脊に自らの刀を当ててそらしたのだ。しかもラウラ本人も大きく吹き飛び、さらに大きな隙を作ったのだ。ラウラの得物はアガットと同じく重量で叩き切る大剣、そのため落下の勢いはすさまじいのだが、そこに正確に刀を当ててそらしたのはアリオスの実力ゆえだ。加えて刀は細身の剣だが、熱した鉄を何重にも折り重ねて層を作ってから整形、という製法から強度が高い。加えてアリオスの刀”利剣「隼風」”も業物であるため、巨大な鉄塊というべき大剣に勢いよくぶつけても刃こぼれ一つしなかった。

 

「地裂斬!」

 

しかしラウラもそこから立て直し、地面に大剣を振り下ろす。そしてその衝撃が地面を這うように走り、凄まじい勢いでアリオスに向かっていく。

 

「帝国武の双門、その妙技は確かなもののようだ」

 

しかしアリオスは冷静にラウラの技を褒め、すぐさま飛び上がってそれを回避してしまった。

 

「な!?」

「あれを避けるのか!?」

「噓でしょ!?」

 

相対していたラウラだけでなく、タツミとサヨも驚愕している。しかしその間も、アリオスはラウラに向かっていく。

 

「技そのものだけでなく、使い手である貴殿の腕もかなりのものだ」

 

そして再び誉め言葉が口に出るもそのままラウラに刀を振り下ろす。しかしどうにかラウラは剣を構えなおし、防ぐことに成功した。

 

「くっ!?」

「だが、まだ発展途上のそれだな。そして当然だが、まだ”理”には至ってないらしい。私には遠く及ばないようだ」

(!? そこまで見抜かれたか)

 

アリオスから気になる言葉が発せられ、ラウラもそれに覚えがあるようだ。

 

「では、一気に行かせてもらおう。軽功!」

「そう来るか。なら、洸翼陣!!」

 

直後、アリオスとラウラの両者からオーラが迸る。そして、そのまま高速の剣戟に突入した。

そしてそこから高速の剣戟に入る。二人とも自己強化のクラフトを行使し、己の攻撃力を跳ね上げたのだ。アリオスは純粋に攻撃力とスピードを跳ね上げて高速先頭に突入、ラウラはアーツ耐性を犠牲に攻守を強化するというものだ。故にアリオスの方が手数は多いのだが、ラウラは固さとパワーでそれに対抗している。アリオスはアーツを戦闘に殆ど用いないので、今回の場合はノーリスクで守りを固められたというわけだ。

 

「……目で追うのがやっとだ。これが、人間の戦いだってのかよ」

「マキアスさん曰く、ラウラさんはクラス最強とか言ってたわね。しかもそれ以上に強い人があのアリオスさん以外にも何人も……」

 

タツミとサヨも、その激戦を見ながら、口々に漏らす。その間も剣戟は続いており、やがて双方が渾身の一撃をぶつけ合い、そのまま鍔迫り合いに入る。その際、互いの得物がぶつかった衝撃で待機が震えていた。それほどの凄まじい威力だったのだろう。

その最中、ラウラの口が開かれる。

 

「……確かに、私はまだ理には至っていない。父からも全ての奥義を受け継げてはいない。貴殿の言うとおり、まだ発展途上だ。だが……」

 

直後にラウラは構えなおし、アリオスの連撃から一瞬のスキを見つけて打ち込んできた。

 

「!?」

 

剣脊をたたきつけられそうになるアリオスは、咄嗟に飛びのくも間に合わず、一撃喰らってしまった。しかし受け身は取れていたため、ダメージは少なさそうだ。

 

「それでも、引けない時は来る。剣の道に限らず、戦いを生業とするなら確実にだ。そういった場で生き抜くためにも多くの糧が必要で、この戦いも勝敗を問わずその一つとして見せようと思う。まあ、勝ちたいというのが本音ではあるが」

「……そうか」

 

ラウラの決意がこもった言葉を聞き、アリオスも何かを思い再び剣を構える。

 

「ならば、そんな貴殿に敬意を表して、八葉の奥義を見せてやらねばいけないな」

「……感謝する。代わりとして、私もアルゼイドの奥義を見せましょう」

 

そして互いに言葉を交わした直後、距離を取り合い奥義を放つための構えに入った。

 

「アルゼイドの奥義、とくと見よ!」

 

直後、ラウラの剣から光が迸り、その光に覆われて剣の長さも伸びた。そして、ラウラが駆け出す。

 

「風巻く光よ、我が剣に集え!」

 

同時ににアリオスが再び抜刀し、構えると同時に彼の周囲に旋風が生じたかと思いきや、アリオスも駆け出した。

 

「「おおおおおおおおおおおおお!!」」

 

そして、アルゼイド流と八葉一刀流の奥義が激突する。

 

「奥義・洸刃乱舞!!」

 

そしてラウラがまず剣を振るった。その光を纏った刃を袈裟に振り下ろし、向かってきたアリオスをたたき切る。しかし……

 

「ぜやぁあああ!!」

「な!?」

 

なんと、ラウラの技がアリオスの太刀によって弾かれたのだ。そしてそのまま風を纏ったアリオスの刃がラウラを連続で切り刻み、再び距離を取ったアリオスはその太刀に再び風を纏わせて飛び上がった。

 

 

「奥義・風神烈破!!」

 

そして落下しながらその太刀を振り下ろすアリオス。そしてその風を纏ったとどめの一撃は、ラウラを大きく吹き飛ばした。そして吹き飛んだラウラは、そのまま剣を弾かれて床に倒れ伏した。

 

「……私の負けだ。剣聖の妙技、しかと見させてもらった」

 

そのままラウラは負けを認め、この試合は終結したのだった。

 

「ら、ラウラさんがこうも簡単に……」

「強すぎだろ、あの人。流石に驚いたぜ……」

 

そしてアリオスの圧倒的な強さに、タツミもサヨも驚愕している。ラウラには最初にゼムリア大陸でレグラムを訪れ、そこで出会ってから鍛錬を受けていた。ゆえにその強さを知っていたため、驚きもひとしおだ。

そんな中ラウラが戻ってくるが、負けたにしては満ち足りた表情を浮かべている。

 

「二人とも、そんなに驚く必要はないぞ。負けはしたが、かの風の剣聖に胸を貸してもらえたのだ。それだけでも栄誉なことだぞ」

 

ラウラはそのまま言葉を続ける。

 

「それに、まだクロスベルで学ぶことはあるし、まだリベールにも足を踏み入れないといけないからな。やることはたくさんある。落ち込んでいる暇はないだろ」

 

そしてその言葉を聞き、タツミ達は思考を切り替える。故郷を救うため、リィン達の助けになるためにも遊撃士になる。今の二人はそれを成すことに集中することにする。

 

「さて。明日からまた、ここで遊撃士の仕事があるからな。そんでもってリベールに、余裕があればカルバードにも足を踏み入れたいからな」

「ついでに言えば、俺らもリベールに行く予定だからな。しばらく揉んでやれるぜ」

「ロイドさんの進捗もありますからね。クローディア陛下にそのことで話もありますし」

 

アガットに続いてランディとティオから意外な言葉を飛び出してくる。まさかの事態に驚くも、また実力者と行動できる、吸収できるものが増えることには素直に喜べた。

 

 

 

それから一週間後、タツミ達はクロスベルを離れてリベール行きの定期飛行船に乗っている。ちなみにランディの宣言通り、彼を含めた特務支援課のメンバーが同行している。オーバーオールを着た中年男性、支援課課長のセルゲイ・ロウ。そしてロイドの娘とも言うべき金髪少女、キーアもだ。

 

「あぁ、もう。キーアちゃん可愛すぎ! キーア分ってのも納得できるかも!!」

「サヨさん、わかってますね。でも、これ以上のキーア分は譲りませんよ!!」

「あぅぅ……くるしいのです」

「サヨがはしゃいでる……ティオさんがあり得ないくらいい笑顔してる……確かにかわいいが、ここまでなのか」

「うちの名物だ。気にしたら負けだぞ」

 

サヨもティオも、キーアに抱きつきながら満面の笑みを浮かべている。そしてその凶器のような可愛さを持つキーアに戦慄するタツミと、フォローをするセルゲイという妙な構図であった。

実はキーアは、マリアベルが先祖の代から企てていたある計画の要として生み出されたホムンクルスで、元々その可愛さはある種の認識阻害により一切の敵意を抱かせないという力だったりする。しかしロイドがその計画を打ち破った際、キーアから力は失われて普通の子供と大して変わらないのであった。

 

「それにしても……やはりみっしぃは気になる造形だな」

「お前、マジで買うとはな」

「M・W・Lの名物キャラだっけ? あんた意外なものが好きよね」

 

その一方で、ラウラはクロスベル土産のキーホルダーとなっているキャラクターを見ながらご満悦で、アガットが意外そうな顔をしている。クロスベルの保養地ミシュラムに建てられた一大テーマパーク、M・W・L(ミシュラム・ワンダーランド)のマスコット”みっしぃ”。猫をモチーフにした所謂ゆるキャラで、ティオやラウラのお気に入りとなっている。いつの間にかクロスベル観光まで楽しんでたようで、一行の旅は有意義なものと化していたらしい。

そして次のリベールにて、シェラザードやトヴァル達と再び合流する予定らしい。

 

 

~王都グランセル・空港~

 

「シェラザードさんもトヴァルさんも、久しぶりです!」

「久しぶりだな、タツミ。前よりも強くなったらしいじゃねぇか」

「とりあえず、まずはようこそリベール王国へ、ってところかしら」

 

リベール王国王都・グランセル。リベール王国は山に囲まれた小国で交通機関は主に飛行船、クロスベルと同じくエレボニア帝国とカルバード共和国の二大強国に挟まれている。しかし、国の歴史はエレボニア帝国と同等で、加えて豊富な鉱山資源とツァイス中央工房、略してZCFによる優れた導力技術、そして先代女王アリシアの巧みな交渉術による強い国力を有している。現女王クローディアも、祖母であるアリシアから政治のいろはを教わっているので今もリベールの国力は衰えていない。

そんな国の首都だけあって、とても華やかで賑やかな街となっている。

 

「今回は、軍との合同訓練に参加してもらう予定だ。あいつらの親父が、お前らを直々に鍛えるつもりらしいぞ」

「あ、あいつらって……」

「まさか、エステルさんたちの」

「ほう……話には聞いたが、元S級遊撃士のカシウス・ブライト。その娘が、リィンと共にタツミ達を救ったらしいな」

「あ、はい。エステルさんっていうんですけど、凄く腕の立つ棒術使いだったんですよ」

「カシウス殿も剣聖と呼ばれる使い手だそうだが、一度軍属から離れた際に棒術使いに転向したそうだな。恐らく、その技を継承したのだろう」

 

一行は移動しながら会話しているが、その内容から目的はエステルの父に会うことのようだ。前回に引き続きラウラが同行しているのも、そのためだろう。

カシウス・ブライトはかつてリベール王国軍に所属、当時の階級は大佐だった。百日戦役は彼の考案した奇襲作戦のおかげで休戦に持ち込める状況まで持ち返せたのだが、それまでに至る攻撃で妻を亡くし、これをきっかけに軍を退役。以降は遊撃士として活動することを決める。しかし、エレボニア帝国で遊撃士ギルドが結社の差し向けた刺客(実はシャロン)による襲撃事件に対応することとなり、国を空けたがためにリベールで事件が発生。軍属時代の部下アラン・リシャール大佐がことを起こしたこともあり、責任として軍に復帰することとなる。ちなみに現在の階級は少将、とかなり高位だ。

まず一行はグランセル支部でタツミ達の所属更新を行い、それから軍の演習場に向かう。

 

「待っていたぞ、お前ら。サラは襲撃事件以来で、そっちのお前らが噂の意大陸から来た若者か」

「カシウスさん、お久しぶりです!」

 

そして演習場で一人の男性と出会うタツミ達。王国軍の軍服を纏った、濃い茶髪に髭の男だが、彼こそ件のカシウス・ブライト本人だった。

タツミ達も自己紹介する傍ら、その存在感を感じ取っていた。

 

(この人がエステルさんの親父さん……年のせいかアリオスさんほどの威圧感はないけど、少なくともそれに次ぐ強さはあるんじゃねえか?)

(50近い年齢らしいけど、見た目10歳くらい若い……相当鍛えこんでるわね、これ)

 

事実、カシウスもかつては八葉一刀流の皆伝を持ち剣聖と呼ばれるほどの使い手だった。しかし、一度遊撃士に転向した際に棒術に戦闘スタイルを変更、今もそれで戦っている。しかし、それでも圧倒的な強さを持ち、かつて星杯騎士のケビンが影の王国という場所で再現体ながら対峙した際、守護騎士の力である聖痕やエステルと仲間たちの協力をもってしても終始有利に立ち会ったほどである。

そんな中、カシウスが訓練の詳細について語り始めた。

 

「さて。今回、多方面からリベール王国との合同訓練の申し込みが出された。エレボニア帝国の支部に、クロスベル警察。加えて、そこのタツミ達異大陸出身の準遊撃士組。しかし、リベールも例の帝国の件で立て込んでいるから大がかりなことは出来そうにない。で、一番確実な訓練だと周りからの進言があったから採用したが……」

 

ひとしきり語り終えたカシウスは、手にした棒を拘束で振り回し、構える。そして告げた。

 

「纏めて俺に掛かってこい。それでまず、実力を測ってやる」

 

まさかの宣言にタツミとサヨだけでなく、ランディ達支援課メンバーやエレボニア側の遊撃士達はギョッとする。いくら歴戦の勇士とはいえ、50近い年齢の男が若い現役の戦士たちと複数同時に戦おうというのだ。当然だろう。

 

(雰囲気が変わった! 案の定というか、臨戦態勢に入ったわけか)

(これは、ちょっと本腰入れないとだめっぽいね)

「お前らも気づいてるな。あのおっさん、軽く見ただけでもアリオスのおっさんに匹敵しやがるぞ」

「ええ。だから、手を抜いて戦ったら俺らが痛い目を見るってことでしょ」

「それがわかるだけでも上出来だ。全力で行かせてもらうぞ」

「まさか来て早々に、こんなことになるとは……」

 

カシウスの力を感じ取ったタツミとサヨは、ランディと言葉を交わしてすぐに戦闘態勢に入る。ティオも戦闘態勢に入るが、いきなりのことなので少しうんざり気味だ

 

「先日、風の剣聖から胸を貸してもらった。それをどこまで活かせるか、試させてもらいます」

「カシウスさん、久しぶりに胸を貸してもらいますよ!」

 

遊撃士たちに交じって今回の訓練に参加したラウラも、剣を構えながら告げた。

 

「全員、いい目をしてるな。なら、俺もそれに応えてやらなくてはな」

 

そして、真っ先にカシウスが一行にとびかかる。そして、勢いよく棒を振り下ろしてきた。

 

「え、速!?」

 

真っ先に攻撃がタツミに向けられ、ギョッとするもギリギリで回避に成功する。タツミに合わせて他のメンバーもその場から飛びのくが、カシウスが棒をたたきつけた瞬間に地面が少しだがへこんだのだ。

 

「噓でしょ?」

「仮にも王国軍の重鎮で元S級遊撃士、強さは伊達じゃねえってわけか」

「おいおい……洒落になんねぇよ」

 

予想外のカシウスの力に、サヨもランディも警戒を強める。一方、同じ遊撃士としてサラもトヴァルもその力を認知していたこと、ラウラもアリオスと戦った経験から揃って最初から警戒心を強めていた。

 

「なに。中年を過ぎようと八葉の皆伝を取ろうと、俺はまだ修行中の身。もっと強くなる自信はあるさ」

「ええ!?」

 

いきなりタツミはカシウスに声をかけられたと思いきや、自身のすぐそばにまで近寄っていたため驚いてしまう。しかしどうにかタツミは迎撃しようと、そのまま空中で双刃剣を振るう。しかし咄嗟の攻撃ゆえか、カシウスは容易く回避してしまった。

 

((今だ!))

 

そしてカシウスが着地した隙をついて、サヨが矢を射る。そしてそれに合わせてランディがスタンハルバードを振り上げながら飛びかかる。

 

「即席の連携にしてはよく取れてるな。流石は戦術リンクといったところか」

「ぐわぁあ!?」

 

しかしカシウスはそれだけ言って、棒を振るってサヨの矢を防ぎ、そのまま続けてランディを弾き飛ばした。

 

「きゃあ!?」

「サヨ……って、うぐぁあ!?」

 

そのままランディがサヨも巻き込んで吹き飛んだため、タツミは着地した直後に思わず気を取られてしまう。しかし、直後に稲光のようなものを纏ったカシウスが一瞬で飛び込み、タツミに一撃見舞った。

 

(何だ今の……見えなかった、ぞ…!)

 

攻撃を食らいながら驚愕するタツミ。この技はヨシュアも使っている雷光撃だが、威力も範囲もヨシュアのそれをはるかに上回っている。

 

「剣を捨てながらもこの妙技……理に至った使い手がこれほどとは」

「なるほど。これは伝説扱いされるわけですね」

「そういうわけだから、気合い入れていかないとね!」

 

そしてティオがアーツの駆動をはじめ、ラウラとサラが得物を構えて飛びかかった。その際、サラは銃で牽制もしている。しかし、カシウスは飛んできた銃弾を弾きながら二人に向かって突撃していったのだ。

 

「でやぁあ!」

「ふぅうん!」

 

そしてラウラとカシウスが得物を打ち合う。直後、凄まじい轟音と供に大気が揺れた。

 

(今の一撃、アリオス殿よりも重い……年季の違いか、それともまだアリオス殿が本気でなかったか。まあ、どちらにせよ剣聖だけあって私より格上なのは間違いないな)

(アルゼイド流……ヴァンダール流に並ぶエレボニア帝国の武の流派だけはあるな。あの細腕でこんな鉄塊を振り回す膂力を生み出せるとは)

 

ラウラもカシウスも、互いの実力に感心している。そしてそのまま剣戟に突入しようとするとサラが稲光を纏いながらカシウスにとびかかる。

 

「おっと。サラ、お前さんも相手してやらねばな」

 

なんと、そのままカシウスはラウラの剣戟だけでなくサラの攻撃まで捌き始めてしまった。曲芸師さながらの棒さばきは見るものを引き付けるが、これを戦闘で意味のある行為にするとしたら相当な技術が必要である。

 

「ハイドロカノン!」

 

その間際にティオがアーツの駆動を完了し、高水圧の激流がカシウスを襲う。

 

「おっと、危ない!」

 

しかしカシウスはいきなり大ジャンプし、トヴァルのアーツを回避してしまった。二体一で攻撃を捌いているにも拘わらず、回避するタイミングをつかんでいたのだ。

 

「ブレードスロー!」

「ピアッシングアロー!」

 

そしていつの間にか復活したタツミとサヨが、すかさず遠距離技で空中にいるカシウスを目掛けて攻撃する。しかし、やはりというかそのまま空中で回転、二人の攻撃をはじき返してしまった。

 

「オラオラオラァ!!」

 

しかし着地の隙を狙い、黒い闘気を纏ったランディがスタンハルバードを高速で振り回しながら突撃、そのままカシウスを滅多打ちにする。そしてカシウスを通り過ぎると、いつの間にか魔導杖を構えてエネルギーを収束していたティオと合流する。

 

「「ハーケンストーム!!」」

 

そして二人で技名を叫ぶと、カシウスの足元から導力の棘が無数に生えてきて串刺しにしてくる。咄嗟の隙をついて、コンビクラフトを放ったのだった。

 

「さて。飛び切りの一撃をぶちかましてやったが、どうなったか……」

「アリオスさんに並ぶ使い手ということを考えると、これで終わったとは考えにくいですが」

 

そして攻撃で舞った土煙が張れるのを見ながら警戒していると……

 

 

 

 

「なかなかの一撃だったな。及第点といったところか」

 

案の定、カシウスはピンピンしていた。

 

「おいおい、マジかよ……」

「まあ、軍人も遊撃士も体力が資本だからな。俺も現役を退くまではスタミナ維持は怠らないつもりだ」

「いや、スタミナでどうにかなるものじゃ……」

 

ランディは驚愕し、タツミもカシウスの言動にドン引きしている。色々な意味で規格外すぎる男なので、この反応も妥当だろう。

 

「とはいえ、余り長引くと後がしんどいからな。ここで一気に決めさせてもらう」

 

直後、カシウスが構えなおすと同時に目を瞑り、呼吸を整え直す。

 

「麒麟功!」

 

その直後、カシウスの気が滾って威圧感が何倍にも膨れ上がる。先日に似た技を見たタツミは、より警戒心を強めた。

 

「これ、アリオスさんやラウラさんの使った……!」

「感心している暇はあるか、小僧!」

 

するとカシウスが一瞬でタツミの懐に飛び込み、某でみぞおちを目掛けて突いてきた。

咄嗟にタツミは双刃剣を分割、双剣にしてどうにか防ぐ。しかし、そのあまりの威力に大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「でやぁあ!」

 

そこにすかさず、弓を分割してトンファーブレードに切り替えたサヨが飛びかかる。

 

「ほぉ、弓使いだと思ったら接近戦もこなせるか。これは逸材だな」

 

そしてサヨに対しての誉め言葉を口にしながら、攻撃を捌いていくカシウス。そこにすかさずサラも飛び込むが、カシウスはそのまま二人分の攻撃を捌いていく。

 

「カシウスさん、やっぱり強いですね!」

「お前も腕を上げただろう。また高ランクの手配魔獣を仕留めたって聞いたぞ」

「耳が早いようですね!」

(カシウスさんはともかく、サラさんまでおしゃべりする余裕が!?)

 

しかもサラとカシウスは揃って談笑する余裕があった。サヨも攻撃をしつつ、二人の様子にドン引きしている。

 

「俺らを忘れてもらっちゃ、困るぜ!」

「一気に、行かせてもらいます!」

 

そして、そこにランディとティオがクラフトとアーツを同時に放って勝負を決めようとする。それぞれスタンハルバードに纏わせた炎を打ち出すサラマンダー、魔法陣から現れる灯台の幻から放つ極光で攻撃するガリオンタワーである。

 

「おっと、危ない!」

 

しかし咄嗟にサラとサヨを吹き飛ばし、一気に飛び上がって回避してしまった。

 

「だんだんと連携の質が上がってるな……これは先が楽しみだな」

 

そして空中でカシウスはすさまじい勢いで高速回転したかと思いきや、そのまま纏っていた闘気が炎を帯び始める。奥義を使う準備のようだ。

 

「行くぞタツミ!」

「はい。俺らも奥義を出す番ですね!!」

 

直後、ラウラとタツミのそれぞれの得物が光を帯び、必殺の奥義”Sクラフト”の発動を意味するのだ。

そして、ラウラがまずはタツミを振りかぶった剣に乗せ、そのまま一気に打ち上げる。

 

「受けてみろ、勝利の十字……」

 

タツミが放つそれはクロウが使っていた技であるが、口上は彼の物と異なり希望に満ちた物で、しかも纏っている光は美しい青である。そしてその際に放った一閃はカシウスに、わずかだが隙を与えた。

 

「面白い……だが、このまま技を崩せるかどうか、やってみるんだな!!」

「ええ。受けて立ちますとも!!」

「タツミと同義だ。ここで勝たせてもらう!!」

 

そしてラウラもとびかかり、タツミと二人で挟み撃ちするようにカシウスに向かった。

 

「デッドリィ……クロスぅうううううううううううううう!!」

「洸刃……乱舞ぅうううううううううううううう!!」

 

タツミの放つオーラを纏った×字の斬撃が飛び、光を纏い伸びたラウラの剣が振るわれる。二人分のSクラフトが前後からカシウスに襲い掛かる。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

しかしカシウスの咆哮と同時に大気が震え、タツミとラウラにも隙が一瞬だが出来てしまった。そしてその隙を見逃さず、カシウスは高速回転する。そして纏った炎の気は巨大な鳥を模したのだ。

 

「奥義……鳳凰烈波ぁああああああ!!」

 

そして真っ先に上空のタツミに突撃していく。しかも、デッドリークロスをそのまま相殺してタツミを炎に飲み込んでしまった。そしてそのまま鳳凰はUターンし、ラウラの一撃をも相殺してまたも炎に飲み込んだ。

 

「さて……このまま一気に決めさせてもらうぞ!!」

 

そして鳳凰から中にいるカシウスの声が発せられ、地上に激突。それにより生じた爆発が残りのメンバー達を飲み込んだ。

 

 

 

 

「ぐ、ぐへぇ……」

「剣聖の伝説……これほどとは」

「下手したら、アリオスのおっさん以上じゃねえか……」

 

タツミがうめいて、ラウラとランディがカシウスの強さに驚愕しながら伸びている。残りのメンバーはものの見事に気絶、とカシウスの圧勝という結果に終わった。

 

「とりあえず俺の勝ちだが、全員見込みありってところだな。いずれは、俺を超えられるだろう。で、休憩を挟んだらシェラザード達も揉んでやるぞ」

 

しかもまだ戦闘可能な余力があるらしいので、やはり規格外すぎだった。そんな中、タツミはあることが気になってカシウスに尋ねた。

 

「カシウスさん、偶に理って聞くのは何なんですか?」

「前回もアリオスさんが言っていたので、すごく引っかかってるんですけど……」

 

その内容に、サヨも気になるところがあったため思わず訪ねてしまう。

 

「ふむ、いいだろう。久しぶりに楽しませてもらったから駄賃変わりだ。率直に言えば、ある種の境地だな」

 

カシウスの口から語られたのは、こんな話だ。

ゼムリア大陸にある武術の型の中に螺旋、即ち回転に関する型がある。これは八葉一刀流にも取り入れられているのだが、全ての基本にして応用でもあるとされており、星の数ほど派生技があるという。

そしてその《螺旋》を極め、《無》を操る者は全ての武術の究極にして到達点、《理》に至れるとされる。《理》は常人には一生かかっても辿り着けない達人の境地で、大陸全土でも数人しかいないとされている。

カシウスやアリオスは、その境地に至った数人のうち一人であれほどの力を持っていたのだった。

 

「実はお前たち二人、特にタツミには素質があるんじゃないかと睨んでいるんだ」

「え?」

 

そんな中、カシウスは爆弾発言をタツミにかましてしまった。

 

「お前の背丈や年齢に合わない膂力と、それを邪魔しないしなやかな動き、しかも得物の特性から回転を活かしやすい。ひょっとしたら至る云々は言い過ぎかもしれないが、案外早い段階からA級になれるかもしれないぞ」

 

余りにも高すぎたカシウスの評価、それにタツミはつい固まってしまう。いきなりここまでの高評価となれば、困惑は必至だろう。

 

「すごいじゃない、タツミ……タツミ、どうしたの?」

 

サヨも称賛してくれるが当のタツミに反応が無い。何事かと思って顔を見てみると、放心状態とでも言うべきキョトンとした顔をしていた。

伝説級の強さの元遊撃士、その過大すぎるようだ評価に混乱するのも無理はないだろう。

 

(マジかよ。俺が、あんな化け物じみたおっさんと同レベルになれるのか……)

 

 

 

その後、カシウスがシェラザード達とも摸擬戦をし、以降は訓練と遊撃士の依頼を両立することとなった。しかし、数日後に届いたある通信が事態を急変させた。

 

「リィンさんが帝国軍に捕まった!?」

『ああ。向こうで色々あってな、それでため込んじまったようで、プッツンしちまったらしい』

 

レクターから入った通信の内容を聞き、タツミもサヨも驚愕している。丁度、リィンが暴走してブドーにより捕えられた翌日のことだった。

 

「なるほど……由々しき自体というわけですか」

 

そんな中、グランセル支部の受付である金髪の青年エルナンが呟く。そしてあることを決意した。

 

「クローディア陛下もそろそろ、介入を始めるべきと検討していましたね。進言するいい機会かもしれません」

 

そのエルナンの言葉を聞き、タツミもサヨもある提案をする。

 

「俺たちも、同行します。リィンさんは俺達の恩人なんだ。ここで恩を返さないなんて、男が廃るってもんですよ!」

「まだ準遊撃士ですけど、所属してるグランセル支部の出向要員としてなら動向も出来るはずです」

 

そのあまりに突然のことに、彼も難色を示していた。

 

「しかし、君たちは強いといっても発展途上。今行かせるわけには……」

「だったら、あたしたちが守るのならどうかしら?」

 

直後に、支部に入ってきたのはサラやシェラザード、アガットといった歴戦のA級遊撃士たちだった。

 

「まぁ、この子らにも経験を積ませる意味でも、今の状況からもう一度故郷を見直させる。表向きにはこんな具合で行けそうかしら」

「それに、元々こいつらは自分で故郷を救うために遊撃士になる決意をしたんだ。そこに参加させないのは、どうなんだろうな」

 

シェラザードやアガットの言葉に押されるエルナン。経験のため、タツミ達の決意のためにも再び帝国に向かわせたい。しかし、激戦が始まるかもしれない場所に若い二人を送り込むことに抵抗があったのだ。そんな中で決まった答えは……

 

「……わかりました。二人とも単純な戦闘力は準遊撃士のレベルを超えてますし、A級クラスが同行するなら判断力など劣っている部分は補えるでしょう」

「! エルナンさん、ありがとう!!」

「決して無理はしませんから、心配しないでください」

 

そして二日後、ゼムリア大陸連合が帝国に乗り込む準備が整った。タツミとサヨはリベールの遊撃士支部から帝国に向かうため、アルセイユに搭乗している。

 

(リィンさん、今度は俺たちが助ける番です。待っていてくれ!)

 

タツミは決意を胸に、サヨとともに再び帝国へと向かう。そして、戦いは新たな展開へと向かっていく。




推奨ED曲[ハルモニア」

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