英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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今回は戦闘パートオンリー。しかもラストでようやくあれが動く。
閃Ⅲにラニキとティオすけ参戦と、キャストの正式発表が。アルティナはリゼからチノに交代するそうです。種田さんの本格復帰がまだっぽいですが、キャラ的にこっちの方が合いそうとも思ってしまいました。


第26話 巨いなる力、動くとき

一方、別の場所では

 

「なんだコイツら…強すぎるだろ」

「しかも、傷が再生している」

 

アガットとシェラザードとティータ、ユーシスとマキアスとエリオット、といったリベールの異変解決組と旧《Ⅶ組》のトリオは別の場所で戦闘に突入していた。相手は青い髪と無精髭、胴着のような衣服を纏い、人の姿をしながら側頭部に角を生やすという異常な姿をしていた。そして得物の巨大な混を振るい、一行を苦戦させている。しかも、ダメージが再生する上にアーツによる毒や炎症の付与すら効かないという厄介なおまけ付きだ。

この時一同は知る由もなかったが、ナイトレイドの有する生物帝具、スサノオと対立していたのだった。そして同時に、金髪でスタイルのいい女性が鋭い爪に獣耳と尻尾を生やして応戦している。帝具による獣化を促したレオーネだった。

 

「前衛二人と後衛四人、バランスの取れたチーム編成だな。前衛もパワー主体とスピード主体で分かれていて、後衛も銃や砲に加えて帝具とも異なる未知の力を使う。厄介極まりないな」

「でも、修行の成果を試すのに対人戦はもってこいだぜ、スーさん」

 

そう言いながら、レオーネはユーシスにとびかかって爪を振るう。ユーシスはそれを剣で捌きながら、レオーネに問いかける。

 

「戦闘中だが、一つ聞きたい。なぜ、顔を見るなり俺たちに危害を加える? たまたまここを立ち寄っただけの俺たちに、何かうらみがあるわけでもなかろう」

「残念だけど、職業柄居場所を知られるのも顔を見られるのもダメなんだわ。殺しはしないけどここから帰すわけにいかないんだよ」

「って、そんな無茶苦茶な!?」

 

余りに一方的な物言いに、エリオットも思わず仰天する。ユーシスの問いかけに答えるレオーネの後ろには、一軒の小屋が立っていた。どうやら、ナイトレイドが修行中の仮住まいとしているようだ。リィン達と遭遇したアカメとマイン、特務支援課と遭遇したブラートとチェルシーは、それぞれに顔見知りがいたため戦闘にならずに済んだ。しかし、運悪くここにいるのはゼムリア大陸から帝国に入ったばかりのメンバーで、遭遇したナイトレイドも顔の割れていないメンバーばかりのためこのような事態になってしまったわけだ。

しかしそれでも負けるわけにいかないので、ユーシスは更に剣を振る速度を上げた。

 

「生憎だが、俺達にはやるべきことがあるのでな。貴様らの事情は知らんが、そのためにも帰らせてもらうぞ」

「そうかい。やれるもんならやってみな!」

 

そして再び剣戟に入るユーシスと、それを捌くレオーネ。その最中、いつの間にか茂みに隠れていたマキアスが銃を構え、レオーネに狙いを定める。

 

(今ならメイルブレイカーで撃ち抜く隙がある。喰らって、少し寝ててもらうぞ!)

 

マキアスがすかさず、得物であるショットガンに徹甲弾を込め、レオーネに向けて発砲した。

しかし

 

「おっと」

「な!?」

 

 

不意打ちを狙ったはずが、レオーネはそれを跳躍により回避してしまった。ライオネルによる獣化の影響で、野生の勘までが強化されていたのだ。

しかし、それだけで攻撃は終わらない。

 

「ハイドロカノン!」

 

エリオットが咄嗟にアーツを発動、高出力の水砲がレオーネに命中する。ここまで立て続けの攻撃には流石に体が対応に追い付かず、ダメージを負ったレオーネは地面に落ちてしまう。

 

「いてて…敵ながら、天晴なチームワークだね」

「まあ、僕たちも一緒にいろんな戦いを経験したからね」

 

レオーネも素直に感心する、旧《Ⅶ組》のチームワークと戦術リンクからなる連携攻撃。歴戦の戦士のそれと大差なかった。

 

「でも、そんな殺意の無い攻撃であたしらに勝てるかな!」

「生憎だが、俺たちは正規の軍人でもないのでな。勝利と相手の死がイコールではない」

「その考えで、生き残れるか!」

 

そしてレオーネは再び攻撃に突入する。その一方、遊撃士チームの戦闘。

 

「だりゃああ!」

「ふ」

 

アガットの重剣による必殺の一撃は、A級遊撃士の名に相応しいものだった。しかしスサノオは、それを得物をもっていない方の手で受け止めてしまった。

 

「なかなかのパワーだが、それだけでは俺に勝てないな」

「がはぁあ!?」

 

更にそのまま回し蹴りを食らい、大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「サンダーイクシオン!」

 

しかしこちらもチームで戦っている。シェラザードのアーツにより生じた、雷を伴った竜巻がスサノオを襲う。それを食らったスサノオも、流石に無事では済まない。

 

「えい!」

 

そこにティータによる砲撃が加わり、更にダメージを与えていく。更にそこにダメ出しが加わる。

 

「ファイナルブレイクぅうううううううううううう!!」

 

体勢を立て直したアガットによる必殺の一撃が放たれた。闘気を重剣に込め、一気に振り下ろすことで地面を伝って凄まじい衝撃波が放たれた。そして、それがスサノオの足元で大爆発を起こす。

 

 

 

 

「……中々に効いたが、核の破壊には至らなかったな」

「ちっ」

 

爆風が晴れると、そこには大きく体を欠損したスサノオがいたが、その体が見る見るうちに再生していく。

 

「帝具に生物型っていうのがあるとは聞いたけど、この再生能力は彼がそれだということかしらね?」

「そうでもねぇと、説明つかないだろ。こんな俺らの常識から外れた、あり得ない力」

「殆ど人間にしか見えないのに、そんなことって……」

 

帝具という非常識な力、その開発経緯からアーティファクトと同義の代物、しかも兵器であることが前提のため危険度は相当なものだ。

 

 

一方、近くの林の中でも戦いが行われていた。

 

「はぁあ!」

 

ナジェンダが義手をワイヤーで射出し、目の前にいる人物に攻撃を行う。

 

「でやぁあ!」

 

その攻撃された人物、サラ・バレスタインは回避して手にした剣でワイヤーに斬りつける。しかし、ゼムリアストーンで作られた剣でもそのワイヤーには傷一つつかない。何か特殊な金属か、特急以上の危険種の素材を使っていると思われる。

 

「だったら、これはどうよ!」

 

そしてすかさず、もう一つの得物である銃で紫電を纏った弾丸を放つ。しかしナジェンダはその場で跳躍して回避、そして伸ばしたままの義手で後ろの木を掴む。そしてそのまま、ワイヤーを巻き上げてサラに突撃する。しかもそのまま回し蹴りを放とうとしていた。

 

「ちょ、嘘でしょ!?」

 

サラは驚愕しつつも、こちらも跳躍して回避、弾丸をお見舞いする。しかし突撃の勢いが凄まじく、銃弾が当たるよりも先に通り過ぎてしまう。そしてナジェンダの蹴りは義手が掴んでいた木に命中するが、先ほどの勢いもあってそのままへし折ってしまった。

 

「あたしも戦場でいろんな連中見てきたけど、その体でこれだけの戦闘力は初めてだわ」

「これでも古傷のせいで、全盛期の6割ほどなんだがな」

「あれで6割ねぇ……」

 

ナジェンダが片腕と片目を失ったのは、帝国を抜ける際にエスデスと交戦したためだという。その傷の影響でかつての相棒であるパンプキンを使えなくなり、今はマインに譲っていた。しかし元将軍だけあり、鍛えぬかれた肉体と戦闘技術、戦術眼は一流のそれだった。

その一方で、突然サラはナジェンダに声をかけた。

 

「今気づいたんだけど、あんたナイトレイドのボスのナジェンダだったりする?」

「だったら、どうする?」

「いや、あたしの生徒がナイトレイドに少し世話になったとかで。リィンって名前に、聞き覚えないかしら?」

「な、あいつの恩師、だと? ……って、あ」

 

サラの言葉に思わず反応してしまうナジェンダ。

 

「まさかあいつの仲間と、その上官やら恩師やらがいるとはな。しかし、職業柄無反応を示さないといけないというのに……現役を退いたせいか?」

「いいんじゃないの? そういう人間らしさ、この国の状況でこそ重要だと思うし」

「そのフォロー、素直に礼を言っておく。それじゃあ、仲間を止めに行くか」

 

そしてそのままサラはナジェンダとその場を離れようとすると、マーグファルコンに変身したチェルシーが飛んできて変身を解除した。

 

「ボス、ブラートがピンチ! 見たことない危険種が……って」

 

状況が状況だったからか、見たことない人物であるサラに気づかないまま変身を解除してしまう。その一方で、サラはチェルシーの変身に驚いて硬直している。

 

「心配するなチェルシー。彼女は敵ではない……で、何があった?」

「それが、ブラートが見たことない危険種と遭遇して(さっきの件で調子狂ったかなぁ)」

 

チェルシーはロイドとの一件で、本心を見抜かれたからか凡ミスを犯してしまったようだ。その後、ナジェンダによって戦闘は中断され、支援課とブラートへの増援に対応することとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「クリミナルエッジ!」

「ピアスアロー!」

 

タツミは襲ってきた危険種を切り裂き、サヨも背中合わせになって他の危険種を撃ち抜く。目の前の危険種が絶命したのを確認し、サヨは別の個体に狙いをつけて矢を放つ。そしてそれが、狙った危険種の片目に命中した。

 

「タツミ!」

「わかった!」

 

そしてサヨの呼びかけに合わせ、一気に近寄ってとどめを刺す。そしてそんな二人を見て、刀で危険種を斬りながらリィンが声をかける。

 

「二人とも、戦術リンクは使いこなせているみたいだな」

「向こうでみっちり鍛えたんでね。そこは大丈夫ですよ!」

「それは安心だ……って、また来たか」

 

しかし危険種たちはいくら倒しても次々に新しい個体が現れ、一気に襲ってくる。このままではジリ貧である。そんな中、アカメから助言がきた。

 

「この危険種は群れを統率するボスを倒さない限り、仲間を呼ばれ続ける。ボスは基本隠れているから、辺りを注意して探してみろ」

「へぇ。わざわざありがとう」

「今は生き残ることが第一だからな、少しでも勝率を上げる必要がある。それに、ボスは強酸を吐いてくるから注意しろ」

 

エステルから礼を言われるも、ぶっきらぼうに返す。しかしそのまま、ボスの特徴について補足してくる辺り、面倒見はいいようだ。

 

「で、その群れのボスはどこかしら?」

「ここは僕に任せて。エステルは、リィン達とその間の援護をお願いできるかな?」

「オッケー。リィン君、今の話の通りだけど、サポートお願い!」

「わかった、任せてくれ!」

 

そしてヨシュアは全神経を集中し、周囲にいる危険種たちの気配を感知する。そしてそこにとびかかる他の危険種たちを、リィンやエステル達が蹴散らしていく。

 

(野生動物のボス、必要なのは戦闘力や豪胆さ以上に危機管理能力。だから隠れているんだろう……となれば、ボスは逆に闘争心を隠しているはず。探すべきは、戦闘に保守的な小さい気配か)

 

そしてヨシュアは頭の中でボスの気配の特徴を反芻し、危険種たちの気配を一つ一つ察知し、その中からボスらしきものを探す。

そして、それらしきものを見つけた。

 

「見つけた。みんな、行ってくる」

「早いな。気を付けて行けよ」

「頑張ってね、ヨシュア」

 

そして、ヨシュアは一瞬でその場から消えたと思いきや、蔓延っている危険種の群れを飛び越している姿が遠くに確認された。

 

「な、速すぎじゃない……」

「まさか、私以上か?」

 

マインはおろか、アカメですらヨシュアの圧倒的スピードに驚愕する。そしてヨシュアはあっという間にボスの元に到達した。

 

「他より二回りは大きいし、急に闘争心をむき出しにした。間違いなく、ボスだ」

 

目の前にいた危険種がボスであることは間違いない様で、急に牙をむき出しにして咆哮を上げる。そして、そのままアカメの言った通り口から強酸を吐きだしてきた。

 

「前情報の通りだね。効かないよ」

 

身を翻して攻撃を避けたヨシュアは地面に着地し、一気に懐へ飛び込み、その腹を×字に斬りつけた。

 

「Gyuaaaaaaaaaa!!」

「タフだね。でも、所詮は獣のそれだ」

 

そのままボス危険種は爪を突き立てて腕を振り下ろす。ヨシュアは咄嗟に避けるが、その威力は地面に亀裂が走るほどだった。しかしヨシュアは、そのまま腕伝いに敵の頭部へと上がった。

 

「それじゃあ、終わりだよ」

 

そしてその脳天に、双剣を振り下ろす。一気に頭蓋を貫き、脳天に届いた感触を感じたヨシュアは、一気に切り開いた後で飛び降りた。確実に絶命したようで、そのまま危険種はその場で倒れ伏す。

 

「ヨシュア、やったみたいね」

「じゃあ、あとは残りの危険種を片づけるか」

「食用になるらしいし、私たちももらっていきましょうか。リィン、行くわよ」

「オーケーだ、アリサ」

 

そしてそのまま一気に蹴りをつけようと、リィンとアリサがとっておきを発動した。それと同時に、二人の持つARCUSが共鳴し始める。

 

「「オーバーライズ!!」」

 

叫んだ直後、二人の世界が加速する。

オーバーライズ、戦術リンクにブーストをかけるARCUSのシステムで、一定時間だけ発動者とリンクしている人間の両者は体感時間が加速し、絶え間ない攻撃やアーツの駆動省略といったことが可能となる。そして、まずアリサがアーツを発動した。

 

「アルテア・カノン!!」

 

直後、空属性の最上級アーツが一瞬にして発動。上空に展開された魔法陣から、高出力のエネルギーが降り注ぐ。それによって危険種の多くが倒れるが、まだ仕留めきれていない個体も少なくはなかった。

 

「行くぞ、二ノ型・疾風!」

 

そしてリィンは加速し、八葉一刀流の奥義で残りの危険種を蹴散らす。そしてダメ出しと言わんばかりに、炎を刀に纏わせて技を更に繰り出した。

 

「エクスクルセイド!!」

 

更にアリサがアーツを発動し、地面に描かれた十字架から発した光が危険種たちを飲み込み、絶命した。

そして危険種が倒し尽くされると同時に、オーバーライズが解除され、タツミ達が近寄ってくる。

 

「初めて見ましたけど、オーバーライズ凄かったっす!」

「私たちはまだ発現してませんけど、いずれあれが使えるようになるんですね」

「ああ。でも、内戦時に初めてリンクしたトヴァルさんと使えたから、俺やアリサのARCUSとリンクさせれば可能かもな」

「マジっすか!? でも、リィンさんとは仕事が違うからここにいる間しか無理だなぁ」

「タツミ、私らだけで使うのは地道にやっていくってことでいいでしょ」

「それもそうだな。でも、実戦の時には頼りにさせてもらいますよ」

「ああ、俺もタツミ達の力に期待させてもらうか」

 

タツミ達がオーバーライズの驚異的な力を称賛しつつ、

 

「例のアーツとかいう、未知の力が厄介ね。あれだけの大規模な攻撃が可能な上に、簡単な傷なら回復させられるみたいだし」

「ああ。それにあの戦術リンクという力も強力だが、あれはまずチームワークが無いと使いこなせないだろう。それは、あの二人の絆がそれだけ大きいことに繋がるんだろうな」

 

その一方でマインもアカメも、未知の技術と力に警戒しつつ、リィン達の実力とそのチームワークに感心する。

 

 

 

 

しかしその最中、それは起こった。

 

―ズンッ―

「ん、地震か?」

「一瞬だけ震動が来るなんて、おかしくない?」

―ズンッ、ズンッ―

「また来た……この規則的なのは、まさか足音?」

「エステル、だとしたらかなり大きな生物ってことになるよ。そんなのいるわけ……」

 

音と震動の様子からエステルがその正体を察するが、ヨシュアはそれはないとあきれ気味に言う。しかし、エステルのその予想は嫌な形で当たったのだった。

 

「ウ、ウグゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

巨大なうなり声が聞こえたと同時にその方を向くと、それは出現していた。

 

「な、何だあれは……」

 

リィン達は突如として出現したそれに、思わず驚愕した。

全長50アージュはあろう巨躯で、容姿は完全に人型のそれだったのだ。しかも体の各部は、ロイド達が遭遇した危険種と同様に金属装甲で覆われ、コードのようなものがそこかしこに繋がっている。

 

「何だよ、あの化け物……」

「危険種っぽいけど、見たことない種類。もうあれ、怪獣か何かじゃ」

「それには同意するわ。なんていうか、すごい気持ち悪い……」

「ああ。普通の危険種と違う、異質な何かを感じる」

 

タツミ達この大陸の出身者が、目の前の超巨大危険種に対して嫌悪感を感じている。その異質な何かを、本能が感じ取ったのかもしれない。そんな中、急に問題の危険種がこちらに視線を向けてきた。

 

「拙いな。俺たちに狙いを定めている」

「しかも、なんか口から液体垂らしてるんですけど……よだれ?」

「え? だとしたら、私たちを食べる気なの??」

「どのみち、敵対するのは確定だろうね。体に人工物を付けているあたり、兵器目的に改造された実験生物って可能性が高いし」

「向こうで魔煌兵とかとも戦ったですけど、あんなデカい敵見たことねぇっすね。その改造の線、合ってるかも」

 

ヨシュアの正体予測に、タツミも同意する。村で危険種を狩って研鑽を積んだタツミだからこそ、自然ではありえないその異質な存在を感じ取ったのだろう。サヨやアカメも同様の理由だろう。

目の前の巨大な敵とはどのみち対立するしかないが、勝ち目はほぼなかった。

 

「流石に戦うにしても、生身じゃやってられそうにないな」

「うん。つまり、あれね」

 

そんな中、リィンとエステルはある切札を使う決意をする。その力なら、あの巨大な敵を相手どれる可能性があった。

 

「本当は取っておきだから見せたくはなかったが、生き残ること優先で使わせてもらう」

「まあ、あたしたちは出来ればあなた達と戦いたくないから、いいんだけどね」

 

そう言い、リィンとエステルは右手を握りしめて胸の前に置く。

 

「「来い……」」

 

そして目を瞑り、何かを念じる二人。そして右手を空高くつきあげて一気に開きながら叫んだ。

 

「《灰の騎神》ヴァリマール!」

「《琥珀の騎神》ドルギウス!」

 

リィン達が相棒、騎神の名を叫んだのと同時に、カレイジャスとアルセイユのそれぞれのドックに格納された二体の目が光る。

 

『応!』

 

直後、その姿が光に包まれながらドックから消えた。そして、リィン達の元に現れたのだ。

 

「な!?」

「な、なななななななな!?」

 

アカメもマインも、突如として現れた二体の騎神に驚愕。マインに至っては腰を抜かしながらその方を指差している始末だ。アカメもドラギオンを見たことがあったが、リィンが似たようなものを用意していたのは、流石に予想外だっただろう。

 

「前にもちょっとだけ見たけど、これが騎神……」

「やっぱりすごい。これは帝具にも匹敵するんじゃ」

 

タツミとサヨも、ヴィータから聞いていた騎神が実際に動いている様子を見て、その存在感に圧倒される。

 

「俺とエステルが、ヴァリマールとドルギウスであの化け物を抑える。みんなは、その間にここから離れるんだ」

「危険だから、間違っても加勢とか考えないように。特に近接型のアカメはね」

 

一応念を押しておき、二人はそれぞれの騎神に駆け寄る。そしてそのまま光に包まれ、騎神の胸の中に吸い込まれていった。

 

~ヴァリマール・操縦席内~

リィンは乗り込むと同時にヴァリマールの内部にある端末を操作し、戦闘態勢に入る。

 

「ヴァリマール、久々の実戦だ。気合いを入れていくぞ」

「招致シタ、りぃん。我モぜむりあ大陸ノ外ノ敵ハ初メテ故、警戒シテ臨ムゾ」

 

機械的ながらも、威厳を感じさせる口調で話すヴァリマール。ドライケルス大帝も乗機とした伝説の騎神だけはある。そしてリィンの操縦に合わせて、全ゼムリアストーン製の太刀を構える。

 

~ドルギウス・操縦席内~

エステルも端末を操作し、ドルギウスを戦闘態勢に突入させた。機械に疎そうなエステルが操縦できるのは、起動者になると同時に基礎知識が頭に入るかららしい。

 

「ドルギウス、あんまり使ってあげられなくてごめんね」

「気ニスルナ、えすてる。遊撃士ノ職務上、本来ソナタハ起動者ニナラナイ方ガ良カッタダロウ。シカシ、ソレデモ力ガ必要トナルナラ、喜ンデソナタノ力トナロウ」

「ありがとう。それじゃあ、行きますか!」

 

エステルはドルギウスとの対話を終えると同時に、ヴァリマールの刀と同じく全ゼムリアストーン製の棒を構える。騎神は起動者の戦闘スタイルを完全にトレースするため、起動者と同じ武器を使うことでその真価を発揮する。リィンも刀を用意するまでは機甲兵用の両刃の剣を使っていたが、それでは八葉一刀流の力をフルに生かせなかったため、刀を用意したというわけだ。

 

~騎神の外にて~

『じゃあ、俺とエステルはあれをどうにかしてくる』

『ヨシュアとアリサは、リンク組んだままお願いね』

「了解、エステル」

「リィン、気を付けて」

 

各騎神からリィンとエステルの声で語りかけ、ヨシュアとアリサが受け答えする。そして、そのまま騎神は目の前の巨大危険種に突撃していった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

~支援課とブラートの戦闘~

「だりゃああ!」

「はぁあああ!」

 

ランディが襲ってきた危険種達をスタンハルバードでフっ飛ばし、すかさずノエルがサブマシンガンの連射でダメージを与えていく。

 

「クロスミラージュ!」

 

エリィが迫ってきた新型危険種の大群を、銃で一体ずつ確実に撃ち抜く。そしてそこにロイドが飛び込み、次の攻撃に移る。

 

「レイジングスピン!」

 

ロイドが螺旋の力で迫りくる危険種たちを引き寄せ、高速スピンでまとめて弾き飛ばす。

 

「アラウンドノア!」

 

そこにすかさず、ティオがアーツを発動する。どこからともなく津波が生じ、それによって危険種たちを押し流す。

 

「おいおい。まだ立ってられるのか……」

「これは、タフすぎじゃないですか?」

 

しかし、立て続けに攻撃を受けたにも拘らず、危険種たちは立ち上がってなお向かってくる。そこにすかさず、ブラートとリーシャが飛びかかっていく。ブラートはノインテーター、リーシャは斬馬刀で一体ずつ両断したのだった。

 

「こりゃ、仕留めるつもりでいかねぇとだめだな」

「ですね。この丈夫さは尋常じゃないかと」

「でもそこまでやってようやく倒せるなら、即死とかは難しいだろうけど」

 

そんなブラートの言葉に、ワジが答えながら危険種に攻撃を加える。ワジは格闘戦を得意とするが、彼の体格に合わせた特殊な技であるため威力はすさまじい。人間に近い体躯のためか、対人戦と同じ要領で鳩尾や延髄などを攻撃する。

 

「じわじわと弱らせて、頃合いで一気に叩くってとこかな」

「顔に似合わず、惨い戦い方するな」

「本業の星杯騎士が、そもそも表向きじゃないからね」

 

危険な古代遺物であるアーティファクトを回収する星杯騎士は、時に非常な手段を取ることもある。かつてケビンは二つ名を”外法狩り”といい、アーティファクトの悪用や過激な背信行為により教会から外法、すなわち危険人物に認定された者を裏で始末する仕事をしていた。先のリベールの異変で、ワイスマンもこれにより始末されたのである。

ワジ自身も碧き零の計画を教会が察知し、素性を隠してクロスベルでの潜入捜査をしていたのが、不良グループ・テスタメントとしての活動だったりする。

 

「ア、アゥウ……ニ、ニグゥ」

「え?」

 

直後、ロイドはワジに攻撃された危険種のうめき声を聞いておかしなものを感じた。何か、単語の様な物が聞こえたのだ。

 

「ニグゥ、グ、グワセ……」

「ハラ、ヘッダ……」

「ロイド、今の……」

「エリィも聞こえたか。偶然じゃないな」

 

しかも他の危険種も、たどたどしいが人語の様な物を発している。元から野生の危険種ではないと思ってはいたが、明らかにこれは異常である。

 

「みんな、待ってくれ。そいつ、生け捕りにしてくれないか?」

「え?」

 

何かがおかしいと感じ、ロイドはブラート達を止めに声をかける。

 

「聞こえただろう。そいつ、言葉の様な物をしゃべっていた」

「私もはっきり聞きました。複数がそうだったんで、偶然そう聞こえたわけじゃなさそうです」

「……わかった。でも、この分だと暗示の類は効かなさそうだしね」

「だったら、あたしに任せてください」

「俺も、協力させてもらうぜ」

「それじゃあ、私も」

 

ロイドの提案は飲まれ、そのために行動に出たのは、ランディとノエル、そしてティオだった。

 

「さて。全員、目を瞑っときな!」

 

直後にランディは強力な閃光弾を投げつけ、危険種たちの視界を奪う。

 

「電磁ネット、射出!!」

「ア、ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

そこにすかさずノエルがライフルでネットを放ち、それに触れた危険種たちが体をしびれさせていく。そして少しずつ、その体が地に伏せていった。

 

「今です。アブソリュート・ゼロ!」

 

そしてとどめに、ティオが魔導杖をバズーカのような形に変形させ、凍結弾を放って動きを封じていく。

 

「ふぅ……何とかなりましたね」

「まあな。でも、ロイドがこいつらを生け捕りにしようとした理由だが……」

「はい。嫌な予感しかしないです」

「普通ならないと言いたいですが、ロイドさんから聞いた例のドクターの件を考えると……」

 

無事に危険種たちの生け捕りに成功する支援課だったが、なんとなく小隊が読めて顔色がよくなかった。しかし、そんな中でブラートが声をかける。

 

「お前らの言いたいことだが、なんとなくわかる。仮にそうだとしても、俺はこいつらが民に危害を加えるなら潰す。たとえ修羅の道を歩もうと、俺は民のために戦うと決めたんだからな」

「ブラートはそれでいいさ。でもそれと同じで、俺たちも俺たちの道を行くまでさ」

 

あくまでも相手の選んだ道を尊重し、自分は自分が選んだ道を、意志を曲げる気はない。そんな二人の目には、強い決意があった。

そして直後……

 

「ウ、ウグゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

別エリアでリィン達が遭遇したものが、こちらでも確認された。

 

「な、何だ今の声は!?」

「見て、アレ!」

 

エリィが気付いて指差すと、そこにはあの巨人型の謎の危険種がいた。

 

「な、あんなデカい個体までいたのか!?」

「おいおい、シャレになんねえだろ……」

 

余りの大きさに、支援課のメンバーやブラートも驚きを隠せていない。そんな中、ロイドの目にあるものが映った。

 

「あの光は……そうか、リィンとエステルはあのデカい危険種とやり合うつもりか」

 

それを見たロイドは全てを察し、自分が何をすべきかを決めるのだった。

 

「みんな、俺はあのデカブツを抑えに行く。その危険種を回収するための連絡とかは、任せた」

「ロイド……わかったわ。でも、気を付けてね」

「敵が大きすぎますから、無茶はしないように」

 

エリィとリーシャからエールを受け取り、ロイドは自身も騎神を呼ぶ準備に入る。ロイドは目をつぶりながら右手で握り拳を作り、それを胸の前に置く。

 

「来い……」

 

そして空にかざしながら手を開き、相棒の名を叫んだ。

 

「《翠の騎神》ウィルザード!」

『応!』

 

直後、ワジの有するメルカバ玖号機の格納庫にあった翠色の騎神が起動、ロイドの元へ転移してきた。

 

「な、なんだこいつ!?」

「俺らの切り札、騎神だ。まあ、切札だけあって、これ以上詳しいことは言えないがな」

 

流石にブラートもこの登場は驚きを隠せず、鎧越しでも表情がわかるほどだった。

 

~ウィルザード・操縦席内~

「ウィルザード、久々の実戦だ。気合いを入れていくぞ」

『了解シタ、ろいど。我モ貴公ガ求メシ時ニ力トナル、ソレコソガ存在意義也』

 

端末を操作しながら呼びかけるロイドに答えるのウィルザードは、機械的ながら女性の様なトーンであるため、あのアリアンロードを彷彿とさせる凛とした様子だった。

そしてリィンやエステルと同じく、ゼムリアストーンで作られた特注のトンファーを手に、巨大危険種へと向かっていった。

 

 

「な、なんだあれ?」

「なんか、巨人みたいなのと騎士みたいな人形がいたけど……」

「レオーネ、遅かったな。巨人に関しては知らねぇが、今の騎士っぽいのはロイドの切り札だそうだ」

「……まさか、ナイトレイドにもう騎神を見せてしまうとはな」

 

ウィルザードが飛び立った直後、チェルシーによって連れられたレオーネと、戦闘で頭を抱えるユーシスを筆頭にナイトレイドと戦闘していたメンバー達だった。




長引いたので、騎神戦と新型危険種出現について触れるのは次回になります。

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