英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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閃Ⅲ発売までの完結、間に合わないのは目に見えてますがこのまま突き進もうかと。PS4持ってないのでプレイはまだ先になりそうです。
そして明らかにタイトルでわかりますが、そろそろあいつらが動きます。


第28話 悪の血統

リィン達がマーグ高地にいたのと同日の夜、帝国領内のとある村

ここにエレボニア帝国軍の第十八機甲師団が拠点を置き、村の警護を買って出ていた。新型の重戦車に調教魔獣のガイザードーベン、屈強な戦士たち。多方面で強大な戦力を見せつける、まさに精鋭軍といったところだ。

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてください、私の歌」

どぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!

「ぎゃあああああああああああああ!」

 

今現在、壊滅寸前にまで追い詰められていた。フリル付きのミニスカートにうさぎ耳のついたヘアバンド、手にはマイクといったステージで歌うかのような格好の女性がいた。しかし女性がマイクで歌うと同時に、凄まじい衝撃波が発生して精鋭たちが吹き飛ばされる。

 

「喰らえ、腐の球! 死にさらせ、クソな大人共が!!」

 

その一方で、巨漢のピエロが暴言を吐きながら球を投げると、それを食らった兵士とドーベン達が一斉に肉体を腐敗させ、そのまま白骨死体と化していく。しかも、ドーベンが纏っていた装甲も一瞬で腐食し、そのまま朽ち果ててしまった。

この二人の攻撃は、明らかに帝具のそれだ。

他にも村の各所で、帝具と思しき武器を有した数名の人物が村人も機甲師団を蹂躙していく、地獄絵図のような光景だった。

 

「な、何だこのバケモノども? こんな奴に勝ち目が……」

「残念だが、君たちは私の目的のための礎になってもらうのだよ」

 

戦慄している団長の耳に聞き覚えのない男の声が聞こえたと思いきや、いきなり何かに心臓を貫かれてしまう。

 

「な……き、貴様は…」

「ほぉ、私の顔は死んでいる内に広く知られてしまったらしいな。だが、まあいい」

 

その男は、左右の手に魔導杖と戦術導力器を持っており、導力器を操作してアーツを発動する。ワイスマンだ。

 

「ダークマター」

「ぎゃあああああああああああああ!」

 

そして重力球を発生させて押しつぶす空属性のアーツで、師団長を圧殺。そしてワイスマンは魔導杖を空に掲げると、そのまま頭上に高密度のエネルギーが生じていく。

 

「おいおい、それここで試しちまったら俺らまで巻き添えを食らっちまう。もう少し考えやがれ」

「まあ、落ち着け。最大出力で使うと辺り一帯が焦土と化すからな。必要以上に目立たないためにも使わないつもりだ。それに巻き添えの件はお前の楽しみの準備をして、帝具で脱出すればいいだろ」

「それもそうか。じゃあ、あとは任すぜ」

「ああ。お前も父親の大臣と、友人だという科学者に面会の準備を忘れるんじゃないぞ」

 

そのまま攻撃態勢に入りながらも、どこからか現れたシュラと会話を続けるワイスマン。そしてその様子を、ただ一人隠れてみている人物がいた。

 

(あ、あんな凄い兵器や危険種があっという間に……誰かに助けを!)

 

運よく攻撃から逃れた村の青年が、一人で助けを求めに駆けだす。しかし、それに気づいた者もいた。

 

「何者かの気配がした。しかし、ここを離れていくようだな」

「誰を呼ぼうと、妾達を止められるとは思えんがな。でも、念のために追っ手を嗾けるか」

 

気づいたのは着流し姿に剣を携えた男と、エプロンドレスを着た年寄り口調の少女だ。そして少女が首根っこを掴んでいた機甲師団に努める男の亡骸、その胸を素手で貫いたと思うと、腕に付いた血で何かを地面に書き始める。

 

「さて、妾のしもべよ。あの男を追え」

 

血で書かれたのは魔法陣のようなもので、そこから不定形生物のような異形の怪物が姿を現し始める。そして完全に実体化したそれは、少女の命令に従って兵を追い始めた。

 

「さて。まだ口が寂しいから、もう少し美味な血潮を物色するかの」

「それもそうだな。降雪よ、今日は奮発するから人でも獣でも好きな血をすするがいい」

 

そして少女と男は再び殺戮に乗り出そうと、それぞれ帝具と思しきつけ牙と刀といった得物を手にする。しかし後者の男は、自身の得物の刀を抜くと同時に、刀身を撫でながらねっとりとした声音で刀そのものに語り掛けた。正直、不気味である。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

帝国領上空・カレイジャス

『調べてみた結果だが、やはりあの危険種は元人間だとわかりました』

 

先日にマーグ高地で出現したあの危険種たちは、メルカバに収容して数日にわたり調査したのだが、リィン達の嫌な予感が的中していた。医療技術の最先端を行くレミフェリア公国、そこから出向してきたスタッフによる調査のため、確実だ。

そんな中、リィンは自分たちが一番に気になった問題について触れるのだが、あまり喜ばしくない答えが返ってくる予感しかしなかった。

 

「それで、元に戻す方法はあるんですか?」

『残念ですが細胞、体を構成する微小なパーツが丸ごと弄られているため、我々の技術では戻すのは不可能かと。仮に戻せても、理性が丸ごと潰れているようで、元の生活には決して戻せないと思われます』

 

医療を学ぶ傍ら、生物学にも精通している人間が言うので間違いない。そしてそのまま、非常な選択を一堂に突き付けることとなった。

 

『このまま安楽死させるのが最良の手段で、それしか手が打てないのが現状です。オリヴァルト殿下に皇帝陛下、いかがいたしましょう?』

「……仕方がない、それで頼む」

「だが、その者達を丁重に葬ってやってくれ。ドクターの事だから元罪人の可能性もあるが、それでも帝国の民だから、最期くらいは優遇してほしい」

『了解しました。力及ばず、申し訳ありません』

 

医療スタッフの進言に、苦渋の決断で答えるオリビエと皇帝。それを聞いたスタッフは二人に謝罪し、通信を切った。

 

「ドクターが罪人たちを使って兵器開発の実験をしていたとは聞いていたが、まさかあんなおぞましい実験をしていたとは。しかも大臣の事だから、無実の罪を着せられた者の可能性もある…余は、本当に道化だったのだな」

 

その後、今回の一件や先日の帝都や地方の村の視察を行った際に知った現状、それによって皇帝は自己嫌悪に陥っていた。そしてそのまま、自嘲気味に呟く。

 

「いや、いいなりだから人形か。道化よりもひどいかもしれん」

「陛下、貴方はまだ若いんだ。だから、まだやり直せますよ」

『それに、こういった事態を何とかするためにも私たちが動いているのですから、気落ちしないでください』

 

しかしそれをリィン、同じく通信で話を聞いていたクローゼが励まそうと声をかける。プライドもカリスマ性も高いとはいえ、まだ幼い彼には気休めのような慰めの言葉も大きく聞こえる。

 

「リィン、クローディア女王、ありがとう。そうだな、ここから立て直せるようにしないと、余が大臣から離れた意味がないな」

 

そして国を思うまっすぐな気持ちが、彼を奮い立たせる。真の王の証であった。

 

「そしてそのためにも、そなたらの力を借りたい。よろしく頼む」

「ええ、こちらこそ」

『同じ王族、皇族としていくらでも力を貸します』

「そういうわけだから、頼りにしてくれたまえ」

 

そして改めて、リィンとオリビエは皇帝と握手を交わす。

 

 

『はい、失礼しまぁっす。アランドール二等書記官でぇす!』

 

直後に、おちゃらけた雰囲気でレクターが突如通信を入れてきた。いつの間にか、彼もこちらに戻ってきたらしい。

 

「あ、アランドール大尉?」

『レクター先輩、今真面目な話をしてるんですから、そういう態度は控えてほしいんですが』

 

その様子に呆気に取られるリィンと、少し不機嫌そうなクローゼ。ちなみに、レクターはクローゼの母校ジェニス王立学院での先輩で、ある日突然に中退したがその後に帝国諜報部の人間として再会したという。

 

『そう言うなって。ぶっちゃけ、さっきとんでもない話を聞いちまってな。おかげでふざけてないとこっちが気落ちしちまうんだよ』

「? 一体何が?」

『第十八機甲師団が全滅、生き残り曰く帝具使いらしき賊の襲撃があったそうだ』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

第十八機甲師団の駐留地跡

チーム構成:リィン、アリサ、ロイド、エリィ、ティオ、ランディ

「これは、ひどいな」

「ええ。死体の山があちこちにあるんだけど……」

 

駐留地となっていた村の惨状は、悲惨なものだった。あちこちに斬殺、圧殺、撲殺と様々な殺され方をした死体が散らばっている。加えて、まだ数日しか経ってないのに強い腐臭があちこちに漂っている。

 

「血の鉄臭さや腐臭に混じって、嗅ぎ覚えのある生臭い匂いがするわね。ロイド、まさか…」

「だな。連中は性的暴行にも及んでいるらしい」

「私も教団のロッジでひどい目に遭いましたが、これはそれ以上かもしれません」

「噂のリベールの異変でも、虐殺に混じって性的暴行があったらしいが、これはなぁ」

 

その惨状にリィンと同行していたロイド達支援課メンバーも、あまりの惨状に顔をゆがめる。

 

~回想~

「帝具使い、しかも例の猟奇殺人犯のチームが襲撃してきた?」

『ああ。駐在地にしていた村の生き残りが、証言した。そいつも妙なバケモノに襲われて重傷だったんだが……』

 

レクターから事情を聞くも、その後の沈黙から生き残りの男がどうなったかは察しがついた。しかしここで気落ちしている場合ではないと、気持ちを奮い立たせて話を再度聞いてみる。

 

「で、そのバケモノというのは?」

『影みてぇな黒い不定形生物で、危険種とも魔獣とも異なる異質な感じがした。戦闘中にいきなり消滅した辺り、魔術のような超常の力で作った、人造生命体の可能性がある』

「まだ把握していない帝具があるか、また別でそういう力があるか……いずれにしても警戒はしておくべきですね」

『情報局員たちを周辺の村々に調査に出しているんだが、いくつか他にも壊滅している場所を見つけたらしい。そこで、お前たちに調査をしてほしいと思ったわけだ』

 

こうして、リィン達はそのまま犯人たちの足取りを追うべく、壊滅した村々に降り立つこととなった

 

~回想了~

 

余りの悲惨さに顔をしかめるリィン達と支援課メンバー。そしてそんな中に気になる死体を発見する。

 

「調教魔獣の死体……これも腐敗が激しいが、同時に身に着けてた装甲まで腐食しているな」

「十中八九帝具だな。腐敗のスピードが速すぎるし、金属まで一緒に腐食している。何か非常識な力が働いた証拠だろ」

「それに、ミイラ化している死体もあったわ。あの文献で見た、血を吸う帝具もあるはずよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は、ゼムリア大陸から来たお巡り共だな。こっちの連中より、はるかに頭の回りがいいぜ」

 

犯人の目星をつけた会話を飛ばす中、聞き覚えのない男の声が聞こえた。何事かと思い視線を向けると、こちらに近づいてくる一人の青年の姿があった。褐色肌に銀髪の青年で、顔に×字の痣がある特異な容姿をしていた。しかしそれ以上に目を引くのは、男の眼である。まるで、この世に存在する欲望をひとまとめにしたような、どす黒い色をした下卑た目をしているのだ。

 

「お前、やっぱりあのエプスタイン財団強襲事件の犯人か?」

「事件の犯人? 俺はこの国の生まれなんだぜ。だから、向こうでもこの国のルールに従っただけだよ」

 

悪びれた様子も無く傲岸不遜な態度で告げる男だったが、よく見ると血まみれになった女性の首を握りつぶしていたのだ。村の生き残りを、今この場で殺していたのである。

流石にリィンもロイドも激しい怒りを覚えるが、それを押し殺してまずは男に問いかける。

 

「……そのルールに従ったなら、何をしてもいいっていうのか?」

「そうだが、帝都に入ったなら一度はそういうのを見ただろ? それに、親父がそういう帝都にしたんだから、息子の俺が従うのも道理だろ」

「親父が、そうした?」

 

その言葉を聞き、リィンが思わず聞き返す。目の前の男の正体も、一同は察してしまった。

 

「ああ。俺はシュラ、オネスト大臣の息子だ!」

 

そうはっきりと宣言したシュラは、女性の亡骸を放り投げてそのまま脱兎の如きスピードでリィンの懐に飛び込んできた。

 

「おらよ!」

「な!?」

 

直後、そのままシュラはリィンに殴りかかる。間一髪で回避に成功するが、男はそのまま追撃で蹴りを放つ。しかし咄嗟にターンして回避し、そのまま八葉一刀流のカウンター技の体勢に入った。

 

「五の型”残月”!」

 

技名を口にする様子からロイド達も咄嗟に散会し、そのままリィンも技を放つ。ターンによって遠心力が加わり、威力もスピードも通常よりも跳ね上がっていた。

 

「喰らうかよ!」

 

しかしシュラも咄嗟にバク転で回避してしまう。そして地面についた手に力を入れ、そのままリィンに目掛けて一気に飛び出す。しかしリィンも皆伝クラスの剣士であるため、先ほど同様にターンで一気に回避する。

 

(こいつ、あの大臣と同じで武術経験者か! これも皇拳寺とやらの動きなのか?)

 

明らかにシュラの戦いは帝具頼りでなく武術家のそれであり、リィンは捕えられたときにオネスト大臣が披露した技を思い出し、思案する。しかしそんな中で、攻撃直後の無防備なシュラにロイドが飛びかかり、アリサとエリィが援護射撃を行った。

 

「……俺がいつ一人だけだなんて言った?」

 

いきなりシュラが凶悪な笑みを浮かべながら呟いたと思いきや、どこからともなく一人の男が割って入ってきた。そして腰に差した刀で抜刀術を放ち、援護射撃をそのまま捌いてしまった。

 

「さぁ江雪、食事と行こうか」

「な!?」

 

そして再び抜刀術を放つが、ロイドは咄嗟にトンファーを交差して攻撃を防いだ。しかし、その威力と勢いは凄まじかったようで、ロイドは大きく吹き飛ばされる。

 

「防がれたか。空中で攻撃に入る最中、にも拘らず咄嗟の防御……得物からして、あの者が噂に聞いたロイドか」

「うちのリーダーを褒めるのもいいが、戦いに専念したらどうだ!?」

 

直後、刀の男に背後からランディが飛びかかり、スタンハルバードを振り下ろす。しかし、男は咄嗟に振り返って再び抜刀術を放ってきた。

 

「な、やべっ!?」

 

咄嗟にランディも防御に入るが、男が江雪と呼んだ刀の切れ味が凄まじく、スタンハルバードの柄が両断されてしまった。

 

「ダイヤモンドダスト!」

 

そこにすかさずティオが水属性のアーツを放つも、イゾウは発動よりも一瞬早くにその場を飛びのいてしまった。

余りにも高い実力から、リィンは全員に警戒を呼び掛ける。

 

「みんな、この二人は揃って戦い慣れている。十分に注意しろ」

「ああ。二人とも戦いが帝具頼りじゃない辺りが、実力の高さを表してるみたいだな」

「ロイド、あのおっさんの刀が帝具で、例のアカメちゃんみたいに切り付けないと効果がないとかの線は無いのか?」

 

リィンの言葉に対し、残る前衛二人が反応する。すると今度は目の前の男がランディの言葉に反応した。

 

「うちのエース、イゾウだ。こいつの刀は帝具じゃねえぜ」

「シュラの言う通りでござる。それに、拙者は帝具を含めて他の武器に興味はない」

 

意外にあっさりとばらすのでブラフの可能性もあったが、直後の言動でその考えは消失した。

 

「この江雪に食事を与えてやること、つまり人や獣を斬ってその血を吸わせてやることこそが、拙者の生きがい。他の武器にそれをしてやるほど、尻軽ではないのだよ」

 

刀を撫でながら、ねっとりした声音で告げるイゾウ。しかもその手つきは、女性に愛撫するかのようないやらしさを感じたため、底知れない不気味さを感じてしまった。

 

「武器に食事……そんな理解しがたい趣味のために、多くの民間人や遊撃士を斬ったわけか。少なくともあんたはこの手で捕えないといけないようだ」

「流石に大臣相手に交渉するとか言って、その息子に危害を加えるわけにもいかないからな。ひとまず保留にするが、お前もいずれ捕えて法の裁きを下すつもりでいるから、覚悟しておけ」

 

しかしそれでも屈さず、リィンもロイドも得物を構えなおしながら決意を言ってのけた。その横でランディも他の武器の準備をしているが、それは銃身に巨大な剣が取り付けられた大型アサルトライフルであった。手加減なしで戦うつもりの様である。アリサたち後衛組も、アーツの準備をしている。

 

「生憎、今回はお前らにあいさつするつもりで来ただけだ。このまま相手する気は微塵もねえぜ」

「すまぬな江雪。奴らの血肉はまたの機会に堪能させてやるから、今日はただの人間か危険種の血で我慢してくれ」

 

しかしシュラもイゾウもこのまま相手をするつもりはないらしく、そのまま逃げるために何かの準備を始める。シュラが懐から端末のような道具を取り出した。

 

「これが俺の帝具、”次元方陣”シャンバラだ!」

 

シュラが帝具の名を告げると同時に帝具そのものが光り出し、二人の足元に魔法陣のような文様が浮かび上がる。そしてそこから放たれた光に呑まれたかと思うと、シュラもイゾウもその場から姿を消してしまっていた。

 

「あの帝具、まさか空間転移が使えるのか?」

「委員長の魔女の技や結社の技術でそういうのは見てるが、まさかこっちの人間にその手段があったとは……」

 

まさかの帝具の出現に、警戒心が強まるリィン達。転移にどれだけ制限があるかは不明だが、それでも各地で同時に事件を起こしたり足跡を残さずに脱出したりするには、十分すぎた力である。

 

「リィン、あいつ自分で大臣の息子って言ってたけど、本当なの?」

「ああ。俺が宮殿に捕まってた時に、大臣がドクターを息子の友人だと言ってたんだが、その息子の名前もシュラだったよ」

「俺は大臣にはリィン救出の時に少し相対しただけだが、あの邪悪そうな眼付は親類以外にいてたまるかってレベルだよ。そういう意味じゃ、あれで息子じゃない方がおっかないな」

 

アリサの質問に確証をもって答えるリィンとロイド。今回の一件でゼムリア同盟にとって、頭痛のタネになる要因が増えてしまったのは確実であった。

 

「他のポイントにも、奴らの仲間がいる可能性があるな。まあ、みんななら大丈夫だと思うが……」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、他の襲撃ポイントにて

チーム構成:ユーシス、マキアス、エリオット、フィー、シェラザード、ジン

 

「ホラホラ、どうした!? このエンシン様と帝具の前に、為す術無しってか!」

「ちぃ、鬱陶しい!!」

 

別のポイントにて、ユーシスがエンシンと名乗るおかっぱ頭の男の猛攻を捌きながら悪態をつく。シュラの仲間らしきその男は斬撃を飛ばす曲刀で攻撃しているが、恐らくはレクターが最初に入手した文献の帝具”月光麗舞”シャムシールであろう。

 

「帝具が超兵器なのは以前に思い知ったが、いくらなんでも出鱈目すぎだろ!」

「でも、こいつらが当初の目的なんだから逃げるのは論外よ!」

 

マキアスもその強さに文句を言うが、そこにシェラザードが渇を入れて戦闘が続行される。そこにフィーも加わって銃撃とアーツの一斉掃射を放つ。

 

「聞いてください、私の歌」

 

直後にうさ耳を付けた歌姫の恰好の女性が、マイクで歌声を衝撃波にして放つ。それによって銃弾もアーツも全て弾かれてしまった。この帝具もシャムシール同様に文献にあった”大地鳴動”ヘヴィプレッシャーと思われる。

 

「あのマイクの帝具、ひょっとしたらアーツ判定の攻撃なのかも」

「単に拡大して衝撃波にするってわけでもないのね。厄介極まりないわ」

 

フィーの予想を聞き、シェラザードもうんざりしたような表情を浮かべながら呟く。しかもそのまま歌い続けて、こちらに隙を与えようとしない。

その一方で、ジンがエンシンの懐に飛び込んできた。

 

「お前さん達に辱めを受けたレミフェリアの女性にカルバードの男性、その全員の仇だ。ここで捕えさせてもらう」

「はっ。人間は酒池肉林のために生きる生き物なんだぜ。それに従って何が悪い?」

「てめぇ、完全に頭の中が無法者のそれだな。猶更、野放しに出来ねぇよ!」

 

エンシンに言葉は通じないと判断し、ジンは戦闘に突入する。ジンは気を練った拳を、エンシンの顔面に放つ。しかしそれを咄嗟に飛びのいて躱し、再びシャムシールでの斬撃を放った。

 

「はぁあ!」

「なに!?」

 

しかし直後、ジンは天高く跳び上がってそれを回避する。エンシンがその跳躍力に驚愕するも、そのままジンは攻撃に入った。

 

「雷神脚!」

「ぐぇえ!?」

 

そのまま雷撃を伴った急降下キックで、エンシンはそのまま対応できずにダメージを受ける。

 

「アークブレイド!」

「ひぎぃい!?」

 

そのままユーシスが追撃に入り、剣に纏わせた導力で薙ぎ払った。意外にあっさりとダメージを与えられて、ユーシスも拍子抜けしてしまう。

 

「まさかコイツ、戦闘は帝具頼りなのか?」

「最初に遭遇した時に、偉そうに海賊を名乗ってたからな。恐らくは蹂躙ばかりでまともな戦闘は経験がないんだろう」

 

エンシンの言動から戦闘経験について推察するジン。遊撃士は戦闘以外にも、人や物を探す探偵のような仕事もするので、洞察力もあって当然だ。

 

 

「クソ、バレたか。おっさんの言うとおり、俺は剣の達人とかそういうのじゃねえ」

 

攻撃された箇所をさすりながら立ち上がるエンシンは、隠しても無駄と判断したのかあっさりと種を明かす。しかし、直後の彼の表情は余裕のある笑みである。何か策を思いついたのは目に見えた。

 

「だが、腕っぷしだけが強さじゃないってのを忘れちゃ困るな」

 

そして再びシャムシールを構えなおすと、走り出した。

 

「コスミナ、奥の手を使え!勝ったら色男は好きにしていいぞ!!」

「オッケー。あのおじさんは趣味じゃないから、木っ端微塵にしてもいいよね?」

「ああ、いいぞ! ただしお前もそこの女を俺のために生け捕りにしろ!!」

 

そのままエンシンに指示を送られ、コスミナが再びマイクを構えて攻撃に入る。

 

「ナスティボイス」

 

そして奥の手の名を告げて再び歌いだしたが、衝撃波は一向に飛んでこない。

 

「失敗か? だとしたらチャンスだ、攻撃を……」

「待って、マキアス。これ……」

 

そんな中、エリオットが何かの違和感に気づいてマキアスに声をかけるが、既に遅かった。

 

「な、これは……」

「力が抜ける……まさか、怪音波の類?」

「何か変だと思ったら、こう来るとはね…」

 

予想外の攻撃に大きな隙を作ってしまい、そこにすかさずエンシンが攻撃に入った。

 

「俺は蹂躙しか戦い方を知らねぇが、それでもより効率的な蹂躙の仕方ってのがあるんだよ! それを今から実践してやる!!」

 

そしてそのまま大きく円を描くように走るエンシンは、走りながらシャムシールで斬撃を飛ばす。しかも走力はかなりのもので、そのまま一同に四方八方からの飛ぶ斬撃が襲い来る。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

また別のポイント

チーム構成:アガット、ティータ、ノエル、ラウラ、エマ、ガイウス

 

「でやぁあ!」

「ふん!」

 

こちらのチームも、シュラの仲間と思しき帝具使い達に遭遇して戦闘に突入していた。ノエルがスタンハルバードで殴りかかるが、エプロンドレスの少女がそれを片手で受け止めてしまうという、異常事態が発生している。

 

「そんな!?」

「妾は天才錬金術師でチーム一の力持ちじゃ。この程度、造作もない」

 

そのまま殴り掛かる少女に警戒し、咄嗟に飛びのくノエル。するとその拳は地面に大きな亀裂を入れたため、思わず戦慄してしまう。しかもそのまま、少女が追撃を入れようとしてきた。

 

「させん!」

「うぉお!?」

 

しかしガイウスが割って入り、槍を振るって少女に攻撃する。回避こそされるも、咄嗟のことに対応できなかったのか、腕にかすり傷を負うこととなる。

 

「アステルフレア!」

「ぐわぁあ!?」

 

そしてそこにすかさず、エマが魔導の炎で追撃をかける。流石にこれには対応できず、諸に喰らって大きなダメージを受けた。

 

「ちぃ、明らかに戦い慣れしとる童共じゃ。これは厳しいのぅ」

 

悪態をつきながら立ち上がる少女だが、その顔に異変が生じていた。

 

「!? その顔は……」

 

何と少女は暗殺部隊のカイリの様に、顔だけが老人のような皴のある顔へと変わっていた。しかし、それも一瞬のことですぐに元の少女のそれに戻った。しかしその様子から、エマは何かに気づいたようだ。

 

「彼女、体に魔術的な改造を施しているんだと思います。あの怪力もおそらくはそれによるもので、実際はかなりの老齢なんじゃないでしょうか?」

「バレたか。いかにも、妾こそ天才錬金術師のドロテア。不老長寿の研究が目的で、その一環としておんしらの大陸に足を踏み入れさせてもらった」

 

そのまま自己紹介に入った九段の少女ドロテアだが、以外にもベタな目的を明かしていく。

 

「しかし魔術の存在を知ってるとは、おんしもその類といったところかの」

「ええ。ですが、あなたみたいに不老長寿なんて悪趣味な物には目もくれない一族の出なもので」

「勿体ないのぅ。まあ、敵対する相手に同意を求めるのも野暮か」

 

エマとの問答は意外にあっさりと終わり、そのままドロテアはエプロンのポケットから何かを取り出して口に入れる。すると先ほどは見えなかった鋭い牙が口元に現れたため、つけ牙を出したようだ。恐らくはこれが帝具だろう。

 

「チャンプ、そこの小娘は好きにしていいが赤毛の男は妾によこせ。相当鍛えこんどるじゃろうから、美味な血潮を持ってそうじゃ」

「へ、わかったよ。本当は大人の男なんてぶっ殺してやりたいが、シュラにお前の意見は優先しろって言われてるからな」

 

そしてドロテアはもう一人の、道化師の恰好をした大男に声をかける。悪態をつく大男の名前を聞いた瞬間、ノエルはあることを思い出した。

 

 

「チャンプ? まさか、ランさんの教え子の仇で、クロスベルでも事件を起こした!?」

 

自分が優先すべき標的が目の前にいることに驚愕するが、当のチャンプはそんな声にも耳を向けずに、ティータの方を凝視する。

 

「天使がこんな奴らと一緒にいちゃだめだよ。早く俺と一緒にいい事をして、天国に行こうね♡」

「ひぃ!?」

 

そのままティータに子供をあやすような声音で告げ、しかも明らかに正気じゃない眼の色をしていたため、思わず短い悲鳴を上げてしまう。しかし、それを黙ってみているアガットではなかった。

 

「ティータに手を出すってんのなら、まずは俺をぶっ殺してみろよ。まあ、A級遊撃士がやすやすと負けてやるつもりもないがな」

「は。ろくでなしでクソな大人に用はねぇんだよ。ドロテアに言われてなけりゃ、さっさとぶっ殺してたんだがな」

 

重剣の切っ先を向けながら告げるアガットだが、そんな彼に臆することなく罵声を浴びせるチャンプ。しかしその言動に何か違和感を感じるアガットはダメ元で尋ねてみる。

 

「おめぇ、大人って存在そのものが憎いって言ってるみたいだが、何かあったのか?」

「誰が教えるか、クソ野郎! 喰らえ、雷の球!!」

 

しかし開口一番に罵声が飛び、そのままチャンプは帝具と思しき球を投げつけてきた。

 

「ティータ、防御より回避だ!」

「はい! シルフェンウイング!!」

 

そのままティータがアーツを発動し、そのまま生じた風に乗って一気に跳躍する。そのままチャンプの投げた球が後ろの林に当たるのだが、なんと雷撃が生じて木々を焦がしていった。

 

「危ねぇ。ありゃ、防御してたら黒焦げだったぞ」

「隙ありだ、腐の球!!」

「アガットさん、危ない!!」

 

安心したのもつかの間、そのままチャンプは別の球を投げつけて来た。下手に防御できないうえに空中で身動きが取れず、絶体絶命となる。




長くなりそうなので、ここでいったん切ります。リィン以外のチームがピンチですが、果たしてどうなる?

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