英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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VSナイトレイドに突入。しかし長くなったので前後編に分けることにしました。



第2話 闇夜の仕置き人・前編

アリアの屋敷に泊まった翌日、リィン達は二手に分かれて屋敷の警備と、ショッピングに出かけたアリアの護衛兼荷物持ちに同行することとなった。

 

屋敷の警備班

 

「じゃあ、俺が敷地内を案内するからお前達は把握して警備を頼む」

「わかりました」

 

一家の護衛の一人に案内され、アリサとエステルとヨシュアの3人が屋敷の庭を見て回る。

 

「それにしても、流石は貴族のお屋敷ね。庭まで無駄に広いわ」

「私もRF本社ビルの最上階に構えた住居に住んでたから、庭っていうのも新鮮だわ」

 

エステルとアリサが見回りをしながら会話をしている。二人ともアクティブな所があって歳も近いため、結構気が合うようだ。そんな感じで会話をしながら案内を受けていると、ヨシュアがある物に気づいた。

 

「あの、あそこにある小さな建物は何ですか?」

 

ヨシュアが示した方に会ったのは、小さなコンクリート製の四角い建物で、扉も鉄でできた頑丈そうなものだった。

 

「……あそこは倉庫で、非常時の避難場所も兼ねてあそこに建てたんだ。主に非常食などを入れている」

 

少しの沈黙の後、淡々と告げた。何やら怪しいが、下手に追及しては彼や自分達が危険に陥る可能性もあったためそれで納得しておくことにした。

その後、案内の男と別れ、少し会話をする3人。

 

「やっぱり、何かするつもりだったみたいね」

「うん。警戒して、アリアたちが寝静まるのを確認した甲斐があったよ」

「さっきリィンから同じこと聞いたけど、アリアたちが黒なのは確実っぽいわね」

 

ヨシュアの話したことやアリサがリィンから聞いた話というのは、昨日の深夜の事だった。

~回送~

ヨシュアはエステルが寝静まる中、一人で警戒して寝ずにいた。その際、暇だったので読書をしていると足音がしたので、気になって扉を開ける。

 

「! ……お休みになってたんじゃないんですか?」

 

部屋の外にいたのはアリアの母で、手に香炉のような物を持ちながらヨシュアが出てきたことに酷く驚いていた。

 

「いえ、眠れなかったもので読書をしてたんです。そちらこそ、どうして? てっきり、強盗でも忍び込んだのかと思って急に出てきたしまいましたが」

「ちゃんとお休みかどうか、少し気になった物で。もし眠れないようだったらと、お香を用意したんです」

 

適当にでっち上げた理由だったが、アリア母は信じたのか自身の目的を語った。お香をたくのは本当のようだが、問題はお香の種類が何かなのだが。

 

「個人的な理由なので、大丈夫です。それより、貴女もお休みの方がいいんじゃないでしょうか? 貴族も何かと大変でしょうし、休まれるときに休むべきかと」

「お客様に気を遣わせるなんて、私もまだまだね。ありがとう」

 

そのままアリア母は退散していった。念のためヨシュアは隠形スキルで追跡するが、そのままアリア一家は寝静まったのですぐにヨシュアも休むことにしたのだった。ちなみに、リィンの所にもアリア本人が来たらしい。

~回想了~

 

護衛班

 

「次はあっちを見てみるわ!」

 

その頃繁華街で、アリアがそういって目に入った店に入っていく。その後ろには、護衛の兵達が大量の荷物を運んでいる。そしてその中には、タツミの姿もあった。

 

「これも修行って言ってたけど、何の修行だよ……」

 

荷車の傍でゲッソリした様子のタツミが呟く。そして、なんとなくこちらに同行していたリィンとジンに目を向けると……

 

 

 

「流石は泰斗の拳士でA級遊撃士。堪えてませんね」

「それはこっちのセリフだ。その若さで八葉一刀流の皆伝持ちってのは、伊達じゃねえみたいだな」

 

二人とも余裕そうに大量の荷物を抱えており、バランスも崩すことなく運んでいる。

 

「タツミ。これ、純粋な筋力とバランス感覚を鍛えるのに適任とは思わないか?」

「へ?」

 

すると、リィンがさっきのぼやきを聞いていたのか、タツミに声をかけてくる。更にはジンまで会話に参加してきた。

 

「重い物を抱えながら歩く。しかもそれを崩さないようにする。リィンの言う通り、それぞれ筋トレとバランス感覚を養う効果は確実にあるだろうな」

「あの土竜って危険種と戦った時の剣術に、それらが加わればもっと威力が高くて、確実に当てられるものに昇華させられると思うぞ」

 

それを聞いたとたん、タツミの表情が急にやる気に満ちていく。

 

「よっしゃ! リィンさんと明らかに強そうなジンさんのお墨付きなら、励ませてもらうぜ!!」

 

そしてそのまま、アリアの向かった店に突貫していく。そして、馬車の荷車に荷物を運び終えたリィンとジンが会話を始める。

 

「さっきの手配書の集団。どうやら帝具を持っているらしいですね」

「今の俺達なら、敵対する可能性も高いから警戒してそんはないだろう」

 

先程、アリアが商品を選んでいる最中に店の近くに貼っていた手配書を見つける。

手配されているのは、帝都を騒がせる殺し屋集団でナイトレイドというらしい。曰く、富裕層をターゲットにする集団で、メンバーの大半、もしくは全員が帝具持ちなのだという。正直、こんな物騒な街ならいてもおかしくない集団である。

そしてその手配書の中に一人、タツミと同年代らしき少女の者があった。アカメという名前らしく、黒い長髪と名前通りの真っ赤な瞳が特徴だという。そして、昨日見た資料にあった帝具の一つ”一斬必殺”村雨を持っているらしい。

 

「もし本当なら、村雨は確実に破壊しないといけないな」

「ええ。アカメの真意はわかりませんが、悪意のある人間の手に渡ったら、どれだけの人間が死ぬか想像もつきません」

 

掠り傷でも相手を呪毒、文字通り呪いの毒で殺す。特性上解毒も出来ないため危険度はきわめて高い帝具だった。

そして、会話を終えたリィンはポケットから戦術導力器ARCUSを取り出す。

 

「さて。タツミたちが戻ってくる前に、ロイドに連絡するか」

「まあ、車やバイクを見たタツミなら似たような道具と言えば納得してくれるだろうけどな」

 

簡易導力波発生器のおかげで、帝都内ならARCUSの通信機能が使える。

 

「ロイド。そっちは確か、貧民街を見ているらしいけどどうなんだ?」

『……リィンか』

「え?」

 

直後、通信で届いたロイドの声に思わず驚いてしまう。その声は、怒りや憎悪といった負の感情を無理やり抑え込んでいるかのような、低い声音だったのだ。

 

『すまない。驚かせてしまったようだな』

「あ、ああ、こっちこそ驚いてすまなかった。で、何か見たのか?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その頃、ロイドたちがいたのは貧民街のある一角だった。

 

「ああ。正直、圧政がここまでひどい物だとは思いもしなかった」

 

ロイドが先程のような低い声音で、リィンの問いに答える。この原因は、彼の視線の先にある物だった。

 

 

『この者達、納税を果たせなかった罰として、土地を含めた全財産の没収と一族郎党磔処刑に処す』

 

そんな立札の後ろに、十数人の人間が十字架に縛られて死んでいた。皆、四肢の欠損や何かしらの疫病に晒された肌の変色、中には臓物や筋肉、脳が剥き出しになっている者もいた。しかも、幼い子供や女性に老人と、老若男女問わずそのような殺され方をしている。

 

「一族郎党ってことは、みんな親戚ってことだよね」

「税金をたった一回払えなかっただけで、死刑だなんて……」

「常軌を逸しているわね。これじゃあ、国そのものが摩耗してしまうわ」

 

順にフィー、ノエル、エリィだ。フィーは経歴もあってか、一番動揺が少なさそうだが、何も感じていないわけではないようで、若干不機嫌そうだ。

すると、近くで聞き込みをしていたガイウスとエマが戻ってきて成果を報告する。

 

「どうやら、この国ではこのようなことはしょっちゅうらしい。異常性癖者の貴族がこのような拷問を一般市民にも行い、警察組織である警備隊は上層部の一部の者が賄賂で隠蔽しているそうだ」

「それ、どうやって聞いたんだ?」

「良識派の警備隊員が、たまたま居合わせいたんです。おかげで色々と情報が得られました」

 

エマの発言の直後、ガイウスが指を指すのでその方を見る。そこには警備隊の制服を着た隻眼の大男がおり、かなり威圧的な風貌だが、死刑台付近で他の警備隊員たちを仕切っているので彼らのリーダー格のようだ。

 

「彼は警備隊長の一人でオーガというらしい。主にガマルという商人から賄賂を受け取って、その罪を一般市民に擦り付けて裁いているそうだ」

 

隊長の一人ということは、隊長が複数人いることになる。実際、この帝都は面積がヘイムダル並みでありながら車や鉄道が用いられていないため、各区域ごとに警備隊を置いておく必要があった。しかし、そんな隊長の一人が汚職の常習犯で無実の罪を着せてくるとなると、安心して暮らすことなんてできなかった。

 

「……今回のミッション、西ゼムリア連合総出で介入できれば、情勢も打破できるかもしれないが……」

「帝具の危険性を考えれば懐柔なんかは視野に入るだろうし、可能性としてはゼロじゃないわね」

 

移動中、ロイドたちは帝都の現状を憂いてはいるも、現状で介入できずにやきもきしている。

そんな中、ロイドたちの視線に一人の女性が映った。彼女はボロキレを纏っており顔色もよくないが、目は何かギラギラした物を秘めている様子だった。様子がおかしいと思い、女性に声をかける。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「……通してください。行かないと、いけないんです…」

 

女性の様子から何かおかしいと思い、ロイドは女性を止める。

 

「行くって、何処に行くんですか? あなた、明らかに寝てないとまずいですよ」

「離してください! お金を稼がないといけないんです!!」

 

掴みかかっても、女性はロイドを振り切ろうともがく。しかし、すぐに体力がつきて膝をついてしまった。

 

「稼いで、婚約者の仇を取ってもらうんです。だから、行かせてください……」

「仇? 何かあったんですか?」

「よければ休める場所で相談に乗ります。行くにしてもその後でいいのでは?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その日の晩、アリアの母がノートを手に屋敷の廊下を歩いている。

 

「さあて、今日も日記をつけるとしようかしら。フフ、止められないわね。この趣味は」

 

何やらうきうきした様子で廊下を歩くが、直後に背後から誰かが忍び寄ってくる。そして

 

 

 

 

「え?」

「すみません」

 

アリア母の上半身が切断され、そのまま宙を舞う。実行した背後の人物は紫の髪とメガネの女性で、行為についての謝罪をしていた。その手に身の丈ほどある巨大な鋏を持って。

 

それと同時刻

 

「どうやら、来たらしいな」

「みたいね」

 

先日同様に警戒して、アリアとその家族が寝静まるまで起きていたリィン達だったが、殺気を感じ取ってそれぞれの得物を手に部屋を飛び出す。すると、さっきまで寝ていたタツミがもう起きていた。

 

「みなさん、これって!?」

「タツミもこの殺気は感じ取ったみたいだな」

「及第点って言いたいところだけど、今はそれどころじゃなさそうだね」

 

ヨシュアに指摘されて一同が窓の外を見ると、赤い月をバックに五つの人影があった。月明かりに照らされていたためわかったが、彼らは空中に糸を張り巡らし、それを足場に直立していたのだ。

 

「なるほど。彼らが噂のナイトレイドってわけか」

「みたいだな。街で見かけた手配書と同じ奴も混じっている」

 

一人は鎧姿でわからなかったが、確実に一人顔の割れている人物がいた。黒い長髪と真っ赤な瞳の、腰に刀を携えた少女。アカメである。すると、そのアカメが真っ先に足場から飛び降り、地面に華麗に着地した。

 

「って、早くしないとアリアさん達が!」

「よし。さっさと行くか」

 

直後、ジンがいきなり窓ガラスを粉砕してそこから飛び降りていった。

 

「ええ!? ジンさん、それ後で怒られないですか!!」

「今はそんな場合じゃないだろ、タツミ。アリサ、掴まってろ」

「オッケー」

 

アリサはそのままリィンにおぶさり、リィンもそのまま窓から飛び降りる。そして、エステルとヨシュアもそれに続いた。

 

「ああ……もう、こうなりゃやけだ!!」

 

タツミも結局は折れ、後に続いて窓から飛び降りた。

 

「葬る」

 

一方、地面に降り立ったアカメは手にした刀である村雨を構えながら、ただそれだけ呟く。

 

「いいか? あの刀には絶対に触れるなよ」

 

やはり村雨の効果は知られているようで、護衛達も警戒を強めていた。そしてそんな中、護衛の一人がアカメに向かって突撃していくが、続いて降りてきた鎧の男が手に持った槍を投擲する。しかし投げられた槍は男を通り過ぎて後ろの二人に向かって行き、それに気を取られている隙にアカメに村雨で喉を切り付けられ、絶命した。

 

「「うわああああああ!!」」

 

投げられた槍が残り二人の護衛に目掛けて飛んでいく。

しかし

 

「ふん!」

「な!?」

 

突如、ジンが横から割って入り、拳撃で投げられた槍をはじき返したのだ。そして、ジンはそのまま後ろの護衛達に言い放つ。

 

「こいつらはお前さん達の手に余る。早いとこ逃げるのを勧めるぜ」

「言われなくても、そのつもりだ! こんな化け物、相手にできるか!?」

 

そのまま助けられた護衛の一人がもう一人を促し、二人で逃げ出した。しかし、会って日の浅いジンに対して申し訳なさそうな様子が、微塵も感じられなかった。

そして逃げたと思った直後、何処かから脳天を撃たれて二人とも死んでしまう。

 

「バカね。あんた達も標的なんだから、逃がすわけないでしょ」

 

声のした方を見ると、まだ糸の足場から降りていないメンバーの姿があった。ピンクの髪をツインテールにまとめ、ロングスカートにケープといった肌の露出が少ない格好の少女だ。そして手には、年頃の少女に似つかわしくない巨大な銃を持っている。これも文献で見た帝具の一つ、パンプキンだった。

 

「……あんな若い娘が闇の住人って、この国はとことん腐ってるようだな」

「ジンさん、大丈夫ですか!?」

 

少女を見たジンは、ガラにもなく忌々しそうな顔で呟いていると、遅れて来たエステル達が駆けつけてくる。しかし、ジンはあることに気づいてそれについて尋ねる。

 

「俺は大丈夫だが、他の連中がやられちまった……って、リィンとヨシュアがいねえが、どうした?」

「二人はタツミを連れてアリアのところに向かったわ。まあ、リィンなら強いし大丈夫よ」

 

アリサが自分のことのように自信たっぷりなため、リィンの方は問題無さそうだ。エステルからノーコメントなのは、ジンもヨシュアの実力をよく知っているための、暗黙の了解だ。

エステルとアリサも得物を構えて戦闘態勢に入ると、ピンク髪の少女ともう一人、緑の髪の少年が下りてきた。少年のグローブが先程足場となっていた糸を巻き上げているのが見え、あの糸も帝具であると推測された。

 

「さて、お前らは最近ここに入ったばかりみたいだな。標的じゃねえし、邪魔しないなら逃がしてやってもいいが」

 

警戒態勢に入る中、鎧の人物がこちらに話しかけてきた。背格好で予想はついたが、声音は完全に男の者だった。しかも話している内容からして、闇雲にではなくわざわざこの家を、それも護衛兵達を含めた全員を狙ったことになる。

 

「それはできない相談だな。俺らはここの一家に用があって、少なくともそれが終わるまでは生きていてもらわないといけない。そうでなくても、職業柄殺しを正当化するわけにいかねえんだわ」

 

鎧の男の提案をはねのけ、ジンは拳を構えて臨戦態勢に入る。

 

「お前ら、この鎧男は俺に任せろ。少なくとも、あの3人の中で一番強いのがコイツなのは確実だ」

「ジンさんのそう言うところは確実よね……わかったわ。アリサ、初めて戦術リンクを組むけど問題ない?」

「問題ないわ。エステルになら、色々と任せられる自信があるもの」

 

そしてエステルとアリサが会話を終えると、二人の持っていたARCUSが光の帯のような物で繋がり、同じ色の光が二人に纏まる。そしてその直後、ジンが鎧の男に突撃し、エステル達も残りの二人に挑んで行く。

 

「せやぁあ! とぉお! はぁああ!!」

 

大柄なジンが次々と振るう拳は鋭く重い一撃だったが、男はいつの間にか手元に戻っていた槍の柄でそれをいなす。

 

「月華掌!!」

 

ジンが技名を叫ぶと腕が一瞬光り、一瞬の隙をついて掌底を鎧の男に叩き込んだ。ジンが修める泰斗流という流派は、ゼムリア大陸の東方、そして東方からの移民を多く受け入れているカルバード共和国で知れ渡った歴史ある流派である。最大の特徴は気を使った攻撃や治療を可能とするもので、使いこなせばかなりの破壊力を生み出すことが可能なのだ。

 

「……あんた、中々いい攻撃するな。重いし鎧越しの衝撃もスゲェわ」

「な!?」

 

しかし、鎧男はあまり堪えている様子がない。月華掌は食らった相手の思考を麻痺させ、思っているのとは違う行動をとらせる、俗に言う混乱させる技だ。だが、この鎧男は頭部にもろに食らっても、混乱どころかダメージが薄かったのだ。

 

「だが、それでも俺の情熱は止まらねぇぜ!!」

 

そのまま鎧男は暑苦しいセリフを吐いて、ジンに向かって槍を振るう。ジンはとっさに回避するが、その攻撃によって地面が大きくえぐれる。あまりの威力に、ジンも警戒を強めた。そんな中、ジンは警戒しつつもあることが気になり鎧男に問いかける。

 

「その気質に迷いの無い攻撃……お前さん、なんで殺し屋なんてやってんだ?」

「いきなりそんなこと聞いて、どうした?」

 

突然のジンの質問に、鎧男はつい質問で返してしまう。そして、ジンは

 

「お前さんは熱い性格のようだから、金や優越感のために弱者をいたぶる奴には見えんし、かと言って戦闘狂にも見えん。明らかに正道を歩む者だ。そんな奴が、いくらキナ臭い噂のある集団相手とはいえ、殺し屋なんて邪道を歩むのか気になってな」

「あれだけのやり取りでそこまで見抜くか……あんたも外道ってわけじゃなさそうだ。で、質問の答えだが、その正道を歩むことすら帝国じゃ許されないとしたら、どうだ?」

「何?」

 

鎧男はジンの本質を見抜くと同時に、質問に答える。そして、そのまま言葉を紡いだ。

 

「初対面の相手に深くは話せんが、俺はこの帝国の腐敗に反発して、軍を追われた。そんな中で裏稼業に入ったが、それでも俺は弱き民たちの味方のつもりだ。ナイトレイドも、そんな同志達の集まりで大切な仲間だ。それに報いるためにも、外道どもを逃すわけにいかねえのさ!!」

 

ナイトレイドは少なくとも無法者というわけではないようで、鎧男は強い信念を抱いて行動しているようだった。

 

「やっぱり、お前さんなりの信念があるわけか。だが、俺も譲れねぇんだわ」

 

そんな鎧男に思うところがあり、ジンも自らの思いについて語り始める。

 

「俺の修めた流派、泰斗流は人を生かし人を守る謂わば活人の拳。それを修めた身として、ここの一家がどんな悪党だろうと、お前さんがいかなる信念を持とうと、それだけは譲れねぇのさ!」

「アンタも自分の信念にまっすぐ突っ走る男か……いいぜ、気に入った!」

 

すると、鎧男は再び槍を構え、声高々に名乗りを上げる。

 

「元帝国軍人にしてナイトレイドのメンバー、百人斬りのブラートだ。俺の信念の下に、全力で相手をしてやる」

「ブラート……手配書にあったあの男か。俺はカルバード共和国のA級遊撃士、不動のジンことジン・ヴァセック。ブラート、俺もお前さんに敬意を表して、全力で相手してやるぜ」

 

そのまま流れで互いに自己紹介し、ジンは鎧男改めてブラートに向き合い、二人は同時に駆け出す。

 

「うぉおおおおおおおお!!」

「龍閃脚!!」

 

ブラートが槍をふるい、ジンも渾身の力で飛び蹴りを放った。そして、それが激突する。

 

そこから先は、凄まじいまでの激闘だった。

ジンの放った跳び蹴りはブラートの一撃と同等で、衝突と同時に大気が震えた。ジンは続けざまに超高速の連続蹴りを放ったが、ブラートは同規模のスピードで槍を振るい、全ての蹴りを捌いてしまった。ブラートの槍は穂先が大きく両刃で、斬撃にも向いている大型の槍だったため、それでジンの連続蹴りを捌き切ったあたり、彼の実力は相当の物だった。ジンの龍閃脚は飛び蹴り→高速連続蹴り→とどめの一撃、のプロセスを踏む技だが、結果としてブラートは威力の高い蹴りも連続蹴りも全て防ぎきってしまった。しかしジンも負けじとそこから拳撃を叩き込むが、ブラートは左腕でそれを防ぐ。

 

「俺も腕に自信はあるが、なかなかやるじゃないか」

「あんたも俺の鎧、帝具インクルシオで強化された身体能力についていけるあたり、かなりの物だな」

「槍が帝具だと思ったが、鎧の方だったか。けど、元の能力が高くないとそこまでの力は引き出せないだろ」

「お目が高い。それじゃ、続きと行くか!」

「おうとも、かかってこい!!」

 

ジンはブラートとの問答を終えると、再び戦闘を再開した。

 

 

その頃、すぐ傍で戦闘をしていたエステル&アリサはというと

 

「おいおい。生身でブラートと互角って、あのおっさん何者だよ?」

「どうせアイツも帝具で強化してるんでしょ? 心配ならこいつらもサッサと片付けるわよ、ラバ」

「そうだな。じゃあ、いくかマインちゃん!」

 

マインと呼ばれたパンプキンを持つ少女と、ラバと呼ばれた緑の髪の少年が会話を終えてそのまま攻撃に入る。パンプキンは精神エネルギーを弾丸にするだけあり、実弾ではなくエネルギー弾を撃つようだ。しかしアリサはそれを横っ飛びで避け、マインに目掛けて矢を放つ。

 

「やば!?」

 

マインはそれを避けようと同じく横に跳ぶが、接近戦になれていないのか不格好になってしまう。

 

「隙だらけよ!」

 

すると、エステルがその隙をついてマインに棒を叩き付ける。マインは咄嗟にパンプキンを構えてそれを防ぐが、衝撃を逃がし切れず地面に叩き付けられる。

 

「マインちゃん!」

 

ラバと呼ばれた少年が飛び出し、糸の帝具でエステルを拘束しようとする。

 

「旋風輪!」

 

しかしエステルは棒を構えたまま高速回転、糸をそのまま巻き上げてしまう。しかも、そのまま少年を勢いに任せて振り回したのだ。そして、そのまま近くの木に叩き付ける。

 

「いてて……けど、このくらいで」

「そこよ!」

 

しかし、少年が体勢を整えるより早く、アリサが弓で追撃をかける。

 

「やば!? けど、問題ないな!」

 

しかし、少年がエステルの棒に巻き付いた糸を巻き上げ、アリサの追撃を避けると同時にエステルに飛び掛かった。しかも、空いている方のグローブから糸を出したかと思うと、それを束ねて槍を作り上げたのだった。

 

「うそ!?」

「これでも喰らいな!」

 

飛び掛かってきた少年は即席の槍でエステルに追撃するも、エステルは棒での一撃で討ちあい、槍を弾き飛ばす。しかしそのまま槍はほどけて元の糸に戻り、グローブに収納された。

すると、エステルは

 

「ラバって言ったかしら? 糸の武器でそんな芸当するなんて、やるじゃない」

「ああ、それ仇名で名前はラバックっていうんだ。クローステールの異名は千変万化、使い手の想像力次第でいくらでも戦い方を変えられるのが特徴だ」

「ラバ、何手の内ばらしてるのよ!」

 

ラバックが自身の帝具の力を説明すると、それについてマインが憤慨する。普通に考えれば、敵の勝率を上げてしまうので当然だが。

 

「さて。それじゃあ率直に聞くけど、何でここの一家を狙うのよ?」

「い、いきなりどうしたんだ?」

 

すると、エステルがいきなり問いかけてきたため、ラバックもマインもキョトンとする。

 

「確かに、この帝都の現状を考えたら汚れ仕事でもしないと生活もできないだろうし、アリアたちも何か悪事に手を染めているらしいから、誰かが手を下さないといけないとは思う。けど、殺すのは色々と拙いしそれが貴方達でなくてもいいと思う」

「警備隊も汚職をしてるみたいだけど、全員ってわけじゃないでしょ。だから真っ当な人間に悪事の証拠を提供をするってのもありね」

 

エステルも至極単純な解決策を出すも、マイン達が反論してくる。

 

「あんた達、何甘いこと言ってるのよ」

「そうだぜ。そうこうしている内にここの一家がまた犠牲者を…」

「あたしは遊撃士、犯罪捜査と戦闘のプロよ。今までだって保険金のために孤児院に放火した市長だとか、行き過ぎた愛国心でテロを起こした軍人だとか、いろんな悪党と戦ってきたわ。例えアリア達が麻薬やら人身売買やらに手を出していようと、証拠をつかんでとっちめてやるから引っ込んでなさい!」

 

エステルはラバックが喋っている途中で遮り、そのままマイン達を指さしながら声高々に宣言する。常にまっすぐで、胆力のある彼女らしい様子だ。

 

 

 

「……あんた達、よっぽど平和なところから来たらしいな」

「ええ。この国の闇を知らなさすぎるのは、よくわかったわ」

「へ?」

 

しかし、ラバックもマインも食い下がる様子が無い。

 

「姉ちゃんたちには悪いけど、ここに来たのが運のツキだと思いな!」

 

ラバックは再度クローステールの糸を伸ばし、マインもパンプキンで銃撃を始める。しかし、アリサもエステルも容易くそれを避ける

 

「いきなりどうしたっていうのよ!?」

「ヨシュアが言ってた、今までよりも深い闇ってやつかしら?」

 

とにかく、しばらくは動けそうにないため二人は戦闘を継続することとなった。


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