英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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お待たせしました。残りのメンバーの対戦編ですが、半分くらいその後のやり取りに持って行ってしまいました。


第3話 闇夜の仕置き人・後編

エステル達がナイトレイドと交戦中、アリアを探して回っていたリィン達はというと

 

「やっぱり、倉庫付近にいたか」

「タツミ、来てくれたのね!」

 

ヨシュアは昼間の警備で避難所を兼ねた倉庫の存在を知り、アリアはそこに向かったと推測した。そして向かったところ、案の定アリアはここにいたようだ。

そんな中、一人だけ付き添っていた護衛の男がリィン達に命令を出す。

 

「俺達は倉庫に隠れて警備隊が来るまで待つ!その間、お前たちは敵を食い止めてくれ!」

「って、あんた何を言ってるんだ!? 俺達はいいが、タツミより貴方が行った方が生存率が……」

 

しかし、リィンが言い切る前にアカメが到着。その手には村雨が握られていた。

 

「葬る」

 

村雨を構え、年頃の少女とは思えない跳躍力でアカメは跳んだ。そしてそのまま護衛の男に斬りかかろうとする。

だが、いかんせん状況が悪かった。

ヨシュアが割って入り、村雨による斬撃を防いだのだ。直後にアカメは距離をとり、ヨシュアに対して声をかけてくる。

 

「お前達は標的ではないから、退いたら見逃す。だが、任務の邪魔をするなら後ろの二人もろとも、葬る」

 

アカメはヨシュアに攻撃を防がれたことに対して、特に動揺もしていなかった。格上との戦闘にも慣れている様子で、かなり落ち着いている。

 

「君にも事情はあるだろうけど、彼女たちには聞きたいことがあるから生きていてもらわないと困るんだよ。そうでなくても、人殺しの正当化を職業柄認められないからね」

 

対峙するヨシュアも、自身の得物である双剣を構えながらアカメに返事を返す。しかし直後、ナイトレイド側に加勢が加わった。

 

「アカメ、一家の母親を仕留めるのに成功しました……って、敵がいますね」

 

現れたのは紫の髪にスリットが入ったスカート、眼鏡といったアカメに負けず特徴的な容姿の女性で、手には身の丈ほどある巨大なハサミを持っていた。

 

「あの鋏、文献で見たエクスタスか? 思ったよりも大きい……」

「それに彼女も、手配書が出ていたナイトレイドのメンバーだ。たしか名前は、シェーレだったはずだ」

 

眼鏡の女性、シェーレはリィン達に気づくのに少し遅れたあたり、どこか抜けている様子だった。しかしリィンは彼女が帝具を、それも武器としては到底扱いづらそうな巨大な鋏を使いこなしているあたり、相当な使い手であることに気づいていた。

 

「相手も二人になって、しかも揃って達人級……ヨシュア、戦術リンクを試すけど、いけるか?」

 

警戒し、リィンはヨシュアに連携を求める。しかし、ヨシュアの返答は思いもしない物だった。

 

「リィン、悪いけどアカメは僕一人に任せてくれないか?」

「? どういうことだ?」

「アカメとあのシェーレって人、総合的な強さは互角かもしれないけど、そもそも得意分野が違う。それで、アカメはおそらく僕と同じタイプの戦い方だ」

 

それはつまり、暗殺術。ヨシュアも結社に属していた頃、注ぎ込まれた技術は潜入、諜報、暗殺と破壊工作、その為の薬品と爆薬の調合術、といったものばかりだ。そのため、ヨシュアは並の遊撃士より高い戦闘力を持つも、執行者と呼ばれる結社のエージェントではまだ弱い方なのだという。

アカメも、総合戦闘力は高いはずだが、村雨を持ちながら的確に急所を狙ったあたり暗殺特化だと推測された。

 

「加えて、村雨の致死性を考えると一対一、それも暗殺特化の僕が相手をした方が生存率も高まる。だから、任せてくれないか?」

 

リィンは少し考え、そして結論を出す。

 

「わかった、任せる。ただし、絶対に死ぬなよ。まだ付き合いが短いとはいえ、仲間なんだからな」

「言われなくても僕は死なないさ。少なくとも、エステルを残してはね」

 

余裕を含めた表情で、ヨシュアはリィンに言ってのけた。そしてそのままアカメに猛ダッシュ、同時にアカメもダッシュして、互いの獲物をぶつけあった。

 

「貴方達ナイトレイドにも目的や使命があるんでしょうが、俺達もやるべきことがあるんでね。邪魔させてもらいますよ」

「だったら、私もあなたを始末すればいいだけですから、遠慮なくどうぞ」

 

リィンが抜刀し、構えると同時にシェーレもエクスタスを構える。直後、その目が凄まじく冷たい物に変化し、リィンの警戒心を強める。

 

「タツミとアリアを連れて、早いところ敷地から出た方がいいですよ。出ないと、巻き込まれてしまいますから」

「って、ポッと出で何を仕切って……」

「それと、もう一言」

 

リィンに仕切られて憤慨しそうになった護衛だったが、言い切る前にリィンが小さく告げたある一言で黙るしかなくなった。

 

「保身の為でもいいから、自分達の罪を認めた方がいいですよ」

「!?(こいつら、気付いていて俺達を……)」

 

直後にリィンがシェーレに飛び掛かり、刀を振るう。そしてシェーレもエクスタスでリィンの斬撃を防ぎ、そのまま振りかぶってきた。しかしリィンも警戒していたのか、容易く回避する。しかし、その直後にそのまま納刀してしまった。

 

「弧影斬!」

 

かと思いきや鞘が紫色に光出し、技名を叫んで抜刀すると斬撃がシェーレを目掛けて飛んでいった。シェーレも度肝を抜かれて驚くが、咄嗟にエクスタスでそれを防いでしまった。

 

「……この戦いじゃ俺達は足手まといになる。だからあいつの言う通りに脱出し、俺達で警備隊に知らせに行く」

 

そして護衛の男はタツミとアリアを先導して、その場を離れる。その時の男の顔は、どこか引き締まっていて何かを決心した様子だった。

 

(この家の秘密に気付きつつも、俺やお嬢様を守ろうとしている。心まで腐った、俺達を……覚悟を決めた方がいいかもしれないな)

 

そう思いながら屋敷の出入り口に近づくと

 

 

 

「おっと、逃がさないよ」

 

直後、ナイトレイドの仲間と思われし人物が新たに現れた。長身と豊満な胸の金髪女性だが、ネコ科の動物を思わせる耳と尻尾が生えており、両手も毛におおわれて鋭い爪が生えている。しかし、タツミの顔を見るなり何かに気づく。

 

「ありゃ? まさかそこの少年は……」

「ああああああああああ!? あんたは、俺の金盗ったおっぱ……じゃなくてお姉さん!」

 

どうやらこの女性が、タツミの金をだまし取った犯人らしい。タツミは忌々しそうに彼女の顔を見て叫ぶが、その直後にある人物が現れ、声を上げた。

 

「レオーネ? 何してんだ?」

「って、レクッちまでいる。今来たみたいだけど、何を……」

 

現れたのはレクターだった。女性の名前を知っている辺り、面識があるようだ。

 

「あの、来てくれたのはうれしいですけど……この人とどういう関係で?」

「ああ。スラムでマッサージ師やってて、弾に噂とか情勢聞きに酒奢ってて……」

 

レクターも普段の情報源がナイトレイドのメンバーだとは思っていなかったようで、柄になくキョトンとしてしまっていた。

 

「レクッちが来た辺り、何かに感づいてるみたいだな。それじゃあ、少年に見せたいものがあるんだけど、そいつらと来てくれないかな?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方その頃、アカメと戦うヨシュアはというと

 

「葬る」

 

何度も呟いていたその言葉と同時に、アカメはヨシュアに斬りかかるが、ヨシュアは双剣を交差してそのまま防ぐ。そしてヨシュアはアカメを弾き飛ばし、一気に距離を取った。

 

「絶影」

 

そして技名を呟くと同時に、ヨシュアが凄まじいスピードでアカメに突貫して斬りかかる。だがアカメもスピード主体であるため、身体能力だけでなく動体視力も高く、容易く防いでしまう。そして直後にアカメは蹴りを放つが、ヨシュアも咄嗟に回避する。

 

「そら!」

 

ヨシュアはまたもアカメと距離を取り、何処からか取り出した投擲用のナイフをアカメに目掛けて投げる。2,3本続けて投げたが、アカメはそれも余裕を持って躱してしまった。

その直後、アカメは村雨を振りかぶるがヨシュアはそれを防ぐ。そして、その斬撃の打ち合いが始まった。ヨシュアは二刀流なので手数が多いのだが、アカメはそれと同等の手数で、同等の速度の斬撃を放っていた。相当な手練れであることが、見て取れた。

 

「お前達。先程の様子からここの一家が何かをしているかに感づいているようだが、それでも庇うつもりなのか?」

「ああ。僕達は民間人保護と地域の平和維持を仕事にしているから、理由はどうあれ殺しに加担する君達を止めないといけないんだ」

 

討ちあいはいつの間にか鍔迫り合いになり、そのままヨシュアとアカメは対話に入る。

 

「それだけじゃない。君と直に向き合って、君のことを止めたいと思った」

「?」

「僕も裏の世界、君と同じで手を血で染めることに加担していたことがあった。けど、僕はエステル、別のところで戦っている僕の恋人に会えたことで変われたんだ」

 

ヨシュアは幼少期に起こった惨劇がもとで、結社に引き取られ執行者として鍛えられた。そして、エステルの父カシウスの暗殺に失敗して保護される。そして、そのままブライト家に養子として引き取られた。実はそれすら結社の幹部の一人による謀だったが、そこでエステルに触れたおかげで今の光の道を進むことができた。

アカメは殺し屋稼業を行ってはいるが、その技術は幼少期に培われたものと思われる。おそらく、何か巨大な勢力で教え込まれた物だろう。そのため、ヨシュアはアカメに自分の境遇を重ねたのだろう。

 

「だから、僕は君を闇の中から救いたい。君だって、手を血で染めようとも光の中で生きていい筈なんだ」

 

ヨシュアはアカメに言葉をかける。しかし、アカメは首を横に振り、再び口を開いた。

 

「残念だが、今の私には使命があるし仲間もいる。だから、私は今ナイトレイドを抜ける気はない」

「そうか。けど、今は無理でもいつかはどうにかできると思う。でもそれ以前に、まずは君を無力化させてもらう」

 

そしてヨシュアとアカメは互いに距離を取り、再び激突! かと思われたが

 

「さーちあんど、ですとろい」

 

物騒なことを言う気の抜けた声が聞こえたかと思うと、アカメの足元に銃弾が撃ち込まれた。ヨシュアも突然の事態に戸惑うが、直後に攻撃してきた本人が姿を現す。

 

「取り込み中みたいだけど、タンマ」

「フィー!?」

 

現れたのは、フィーだった。いつの間にか駆け付けた彼女は、短剣と銃が合わさった双銃剣(ダブルガンソード)で発砲したのだ。

 

「すぐに警備隊が来るし、そっちの仲間さんが私達に見せたいものあるらしいって」

「仲間? レオーネか?」

「うん。他のみんなのところに、仲間がいったから」

 

エステル&アリサVSマイン&ラバック

一同の足元に銃撃が行われたかと思うと、一つの人影がエステルとラバックの間に割って入り、攻撃を防ぐ。

 

「全員、戦闘をやめろ!」

「すぐに警備隊が来るから、大人しくして!」

「ロイド君!」

「エリィさん!」

「「誰?」」

 

ジンVSブラート

「邪魔をしてすみません。ですが、今は一刻を争うので、戦闘をやめて欲しい」

「ガイウス、何があった?」

「あんたの仲間か? これまた、相当なやり手みてぇだな」

 

リィンVSシェーレ

「け、剣が飛んできた?」

「委員長、来てくれたのか」

「はい。ちょっと、緊急事態が起きたみたいで」

 

そのまま、屋敷の敷地内にいた面々が倉庫の付近に近寄る。そんな中、レオーネがタツミに声をかける。

 

「少年、君は罪も無い女の子を殺そうとしてるって思ってるみたいだな。けど、これを見てもまだ、そんな事が言えるかな?」

 

そう言ってレオーネが倉庫に近づくが……

 

「まった。近寄らない方がいい」

 

すると、フィーがレオーネに静止をかける。そしてポケットからスイッチのような物を取り出したかと思うと……

 

「イグニッション」

 

そういってスイッチを押したと同時に、扉の留め具が爆発したのだ。そしてそのまま扉が倒れる。

 

「ば、爆薬を仕込んでいたのか?」

「うん、さっきの間に。あと、爆薬は乙女の嗜み」

 

そう言ってフィーはサムズアップをする。かつてVII組の実習中、訳あって捕えられたクラスメイトで帝都知事の息子マキアスを救出する際も、同じようなことを言っていた。

そして、それによって開けられた倉庫を、レクターが覗き見る。

 

「さて、何が入ってるんだ? クスリか危険種か、はたまた人身売買か……!?」

 

中を見た途端、レクターが黙ってそのまま険しい表情になる。

 

「……レオーネ、これは想像以上だな」

「そういうこった。これが、帝都の闇だ」

 

そのままつられて、リィン達も近寄ってみるが……

 

「う!?」

「アリサ、見るな!!」

 

 

あまりの惨状にリィンはアリサの眼を隠そうとするが、間に合わずに吐き気を催してしまう。アリサはどうにか堪えはしたものの、そのまま膝をついて過呼吸に陥る。その倉庫の中に広がっていた光景、それはまさに地獄そのものだった。

天井から吊るされた無数の人間がいたのだ。そのいずれもが四肢が欠損した者、臓物が腹から引きずり出された者、皮膚を残らず剥ぎ取られた者、病にさらされたと思われる者、一人としてまともな状態の人間がいなかったのだ。

倉庫内は拷問器具などが無造作に置かれ、中にいた人々の血が床に赤い池を作っていた。大半が物言わぬ死体と化していたが、そんな状態でも死にきれていない者達がうめき声を上げている。まさに、地獄がそのまま地上に現れたかのような空間が広がっていたのだ。

 

「な、何なのコレ……」

「まさか、ここまで惨い物だったとは……拷問みたいだけど、彼女やその家族は尋問か何かを生業にでもしてたのか?」

 

エステルとヨシュアもあまりの惨たらしさに、思わず呆然とする。身喰らう蛇の暗殺者として、闇の世界に身を置いていたヨシュアでさえも、ここまでひどいものは見たことが無かった。

すると、レオーネがその詳細を語り始める。

 

「残念ながら、そんな崇高なもんじゃないさ。地方から出てきた身元不明の者達を、己の趣味である拷問にかけて死ぬまで弄ぶ。それが、この家の人間の本性だ」

「趣味で拷問、だと?」

「昼間に話だけは聞いたが、そんな馬鹿気た話があるのか……?」

「残念ながら事実だ。さっき殺した護衛達も、黙っていたから同罪ってわけさ」

 

リィンもロイドも、見たことも聞いたことも無い悍ましい現実に、戦慄が走った。ロイドは昼間の処刑された罪人の姿を目の当たりにしていたが、こちらはその何倍も酷かった。あちらはさらし者にするために人としての原型を留め、顔の判別もついていた。しかしこちらは腐敗や白骨化したものが放置されており、顔どころか全身像も判別できず、グロテスクな死体が大半を占めていた。

タツミが真実を告げられて茫然としている中、聞き覚えのある声が中から聞こえてきた。

 

「……タ、ツミ、なの?」

「……サヨ?」

 

声のする方を覗いていると、全裸に剥がれたタツミと同い年ほどの少女が壁に繋がれていた。タツミと名前で呼び合っていることから、タツミが入っていた仲間の一人だと推測された。

そして肝心のサヨだが、長く艶のある黒髪の綺麗な少女だったが、全身に生傷が絶えず、同時に体にうっすらとまだら模様が浮かび上がっている。何かの病に感染しているようだ。

 

「タツミ、よかった。来てくれたの、ね……」

「おい、サヨ!? どうしたんだよ!!」

 

タツミを見て安心した表情を浮かべたサヨは、すぐに気絶してしまう。この状態で意識を保っていたこと自体、もう奇跡と言っていいだろう。そんな中、レクターがサヨのすぐそばにつるされていた死体に眼をやる。

 

「……お前ら、まさかこんな形で再会するとはな」

 

それは男女二人組の亡骸だった。二人とも生首だけで吊るされており、真下には彼らの物と思しき、何十にも分解された人体のパーツが落ちている。この二人が潜入した情報局員で、バックスとミーナという。二人は任務から帰ったら結婚するつもりだったらしく、レクターもついいたたまれなくなってしまった。

アリアが後ろで何か言っているが、今の二人には聞こえていない。

 

「タツミ……来てくれ、たのか。それに……バックスさんの、知り、合いか、あんた?」

 

そんな中、またも声が聞こえてきた。今度は男の物で、見てみるとタツミと同年代の少年だった。こちらも全裸に剥がれ、サヨのそれよりも濃く浮かび上がったまだら模様が目立っていた。明らかにこちらの方が死に体である。

 

「イエヤス!? お前まで、どうしたんだよ!!」

「苦しいのは見て分かるが、話せるなら話してくれ。ここの一家の所業は聞いたが、被害者ならもっと具体的な情報を持っているからな」

 

やはりこちらもタツミの仲間だったようで、そのままイエヤスは真実を話し始めた。

 

「俺とサヨはその女に声をかけられて…メシを食ったら意識が遠くなって気がついたらここにいたんだ。それで、サヨが拷問されて、俺もルボラ病ってのに感染させられて、その経過を観察されたんだ」

 

拷問だけでなく、意図的に病に感染させられ、それを観察する。もはや人間を人間と見ていないとしか思えない状態だ。そんな中、イエヤスは次第に、その瞳に悲しみを浮かべだしていく。

 

「俺らより1日早く連れてこられたバックスさん達が、サヨをあいつから庇ってくれたんだ。そうじゃなかったら、サヨは脚まで切り落とされてたかもしれねえ。けど、俺とこんなところに居た所為で、二日前にルボラ病が感染(うつ)っちまったんだ!」

 

死にかけているとは思えないほど力強く、イエヤスはアリアを指さしていた。そして、自分を責める

 

「二人とも、俺らよりひどい目に合わされても応えてなくって、そこの女がサヨに何かしようとしたら、唾穿きつけたり暴言吐いたりして引き付けてくれて……でもそのせいで、段々拷問がエスカレートしちまったんだ! なのに、サヨがルボラ病になっちまって……二人があんなになってまで守ってくれたのに!!」

 

するとレクターが倉庫の出入り口に近寄り、レオーネに抑えられていたアリアと護衛に真実を問いかける。

 

「嬢ちゃん、そこのいたいけな少年はこう証言してるが、偽りないのか?」

「ああ。俺らも待遇が良かったから拷問のアイデア出しとか、直接手を出したりとかした。仲には一緒に楽しんでいる奴もいたが、俺は保身や稼ぎのために仕方なく、だ。どっちにしても、加担した時点で俺も腐ってるんだがな」

 

レクターの問いかけに対し、護衛の男が自嘲気味に語った。これなら、もはや弁明の余地も無いのは明白だ。

 

「お前さんも部下もこういってんだ。もう、言い訳も出来ねえんじゃねえか? ああ?」

 

レクターも流石に部下に対しての仕打ちはご立腹のようで、汚物を見るような蔑む目つきでアリアに尋ねる。

 

「…………何が悪いって言うのよ?」

「あ?」

 

俯いて黙ったままかと思っていたら、小声でアリアが呟く。レクターが何事かと思っていたら、アリアが彼に向き合ってきた。しかし、その表情は先程の可憐な少女とは似ても似つかないものだった。

 

「お前達は何の取り柄も無い、地方の田舎者でしょ!! 家畜と同じ!! それをどう扱おうがあたしの勝手じゃない!! だいたいその女、家畜のくせに髪サラサラで生意気過ぎ!! 私がこんなクセっ毛で悩んでいるのに!! だから念入りに責めてあげようとしたのに、あんたの部下だっている糞女が邪魔してきたせいで出来ずじまいだったからむしろイライラしてるのよ!! ソイツはソイツで私より肌が白くてきれいだったからむしろ死んで精々するけど、それとこれとは別問題なのよ!!! 男で赤の他人のアナタにはこの苛立ちがわからないからそ私をそんな目で見れるのよ!!!! わかっているの!!!!!!??????」

 

目をカッと開き、瞳孔も狭まり、大口を開けて歯茎も露出し、ひたすら早口で金切り声で唾を飛ばしながら、一方的な罵声を浴びせる。醜悪を通り越して得体のしれない恐怖を感じさせる表情を浮かべたアリアは、まるで聖典に描かれた悪魔のようだった。

 

「な、何を言ってるんだ彼女は?」

「そんな、いくらでも解決法があることで、彼女を殺したっていうの?」

 

あまりの事態に、リィン達も得体のしれない恐怖を感じ取った。かと思っていると、アリアの罵声はリィン達にまで飛んできたのだ。

 

「あんた達だって、初めて見た時からイライラしてたのよ! あんた達、よその国で軍だの警察だのにいるっていってたけど、どうせ保身のためにでっち上げたんでしょ! それに、私よりも胸のデカい金髪に男のくせに私より肌のきれいな糞に、そんな奴ら侍らせて楽しんで!! この間縁談を断られてイライラしてたから、そいつらが死んだらあんた達の番だったのに、ああ残念だわ!!!」

 

あまりにも一方的すぎる憎悪に、リィン達は理解が追い付かなくなる。そんな中、一人の人物がアリアに近づいて行ったかと思うと……

 

 

 

 

 

バチンッ

 

「え?」

「エステル?」

 

それはエステルで、アリアに近づくなり彼女の顔に平手打ちを放っていた。

 

「あなた、さっきから煩いわよ。結論から言わせてもらうけど、あなたはやることが過激すぎるだけで、要するに人に嫉妬してそれを当たり散らしているだけじゃない。そんなことしている暇があるんだったら、もっと自分を磨く努力をするとかあるでしょ? アンタが自分でうらやましいって言って、その人たちを殺したって、あなた自身がその人たちの分だけ綺麗になるわけじゃないんだから」

 

エステルはこの場で、いきなりアリアに説教を始めたのだ。しかも言っていることは至極真っ当だ。

 

「だから、その人と自首して罪を償っちゃいなさい。で、出所したらあたしも綺麗になる手伝いしてあげるから」

 

そう言ってエステルは、なんとアリアに手を差し伸べたのだ。

天真爛漫、思い込んだら一直線、敵対した人間すら毒気を抜かれるほどの明るさ、それらでどんな逆境も乗り越えた彼女は、周囲からこのような呼ばれ方をする。

「太陽の娘」と

そんな彼女に対して、アリアはというと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何よ、偉そうに」

「え? ッ!?」

 

なんと、アリアはレオーネの腕を振りほどいたかと思ったら、隠し持っていたナイフでエステルに斬りかかったのだ。エステルは咄嗟に回避するも、突然の事態に驚愕した。

 

「私は貴族よ、人の持っていないものを全部持っていて当然なの! 髪だって肌だって顔だって、全部人より優れていて当然なのよ!! だからねぇ、私より何かが優れている奴は、それだけで罪人なの!! 田舎者や異国人、異民族は知らないだろうけど、帝都ではそれが当たり前なのよ、お分かり!!!????」

 

とんでもない理論を、先程同様の悍ましい表情を浮かべながら語るアリア。悪魔のようと形容していたが、少なくとも同じ人間とは思えない発言をしてしまっていた。

その様子を見てレオーネは、忌々しそうにつぶやく。

 

「善人の皮を被ったサドだと思っていたけど、もうそれすら通り越したいかれポンチだったわけか……アカメ、もう斬っていいぞ。あんたも、いいかい?」

「ああ、こんなのに仕えていたなんて穢れて当然だ。俺諸共斬ってくれ」

 

護衛の男までもが、自分が斬られることに何の抵抗も感じなくなっていた。そこまで、アリアの本性は得体のしれない恐怖を抱かせたのだろう。そしてアカメが村雨を構えた直後、いきなりタツミが前に出てきた。

 

「待て」

「なんだ? あれを見てもまだ庇うつもりなのか?」

「いや……俺が斬る!!」

 

なんと、そのままタツミはアリアに向かって斬りかかろうとしたのだ。しかし、

 

「うわぁあ!?」

 

なんと、リィンがそれより早くアリアの前に躍り出てタツミを弾き飛ばしてしまった。

 

「タツミ、俺だってその子を殺したいほど憎いと思っている。けど、殺しちゃだめだ」

「リィンさん、なんでですか!? そうでなくても、コイツの所為でまた誰かが犠牲に……!?」

 

反論するタツミだったが、リィンの目を見た瞬間に黙り込んでしまう。

リィンの瞳が、なんと変色していた。もともと赤みがかった紫だったのが、真っ赤な色になっているのである。しかもよく見たら、髪の一部が黒から白になっており、体中から黒いオーラのような物まで発している。しかしそれが元に戻ったり変化したりを繰り返していたため、リィンは自分で憎悪を抑えているようだ。

 

「ダメなんだ。憎しみで、恨みで行動しても悲劇しか生まないんだ。だから、まだ十代で未来のある君は人を怨むのも、手を血で汚すこともしちゃだめだ」

 

3年前、エレボニア帝国で内乱が起こった。鉄血宰相の異名をとるギリアス・オズボーンをリーダーとした、平民による政治的革命を起こさんとする「革新派」、それによって特権を失うと危惧した貴族たちによる貴族派によるものだ。その際、貴族派はオズボーンに恨みを持った人間で構成されたテロリスト集団「帝国解放戦線」を雇い、リーダーがオズボーンを狙撃したことによって内乱が勃発した。

リーダーの名はクロウ・アームブラスト。リィンの一つ上の先輩で、後に親友となる男だ。彼は単位数の都合で留年仕掛けたために、特別措置として臨時でVII組のカリキュラムに参加することとなった。しかし、その単位不足は彼が裏で解放戦線のリーダーとして暗躍していたためである。

クロウはかつて帝国の領土として取り込まれた都市国家ジュライの出身で、祖父がそこの市長を務めていた。しかし、ノーザンブリア公国というおもな貿易先がとある災害に襲われ壊滅状態になり、ジュライも都市機能が停止してしまう。そこに目を付けたオズボーンは巧妙な手口で市長を辞職に追い詰め、鉄道網を敷くための領土としてジュライを吸収してしまった。その後、市長だったクロウの祖父は緊張の糸が切れると同時に死去、唯一の肉親のかたき討ちの為に解放戦線を設けた。

しかし、内乱の末にクロウは亡くなり、撃たれたはずのオズボーンも生存、内乱そのものがオズボーンの掌の上だったと判明した。故に、リィンは憎しみによる行動について否定的となっていたのである。

 

「あんたにもアンタの事情があるっぽいけど、アタシ達も仕事で来ているからこいつは……」

「ちょっと待ちな」

 

するとレクターが、レオーネに静止をかけたかと思うと、突如上空から一体の異形が下りてきた。そして、そのままアリアと護衛を捕まえてしまったのだ。しかも、その片腕にはミリアムが座っている。

 

「俺も仕事でね、コイツからいろいろ話を聞きたいんだよ。本当ならこいつの親父辺りに聞きたかったんだが、もう殺されたから仕方ねえ。ミリアム、頼む」

「了解。僕もバックスたちが殺されたのは憎いけど、仕事だから生かしてあげるよ」

「は、離しなさい! 家畜の分際で……」

「君の命は僕達が握ってるんだから、黙ってなよ。ガーちゃん、行こう」

 

ミリアムが普段からは想像もできないほど冷たい目でアリアを睨んだかと思うと、そのまま異形に命令して移動していく。ミリアムがガーちゃんと呼んだ異形は、正式名称アガートラム。ミリアムの動きに合わせて戦う傀儡で、元は結社の技術工房の一角「黒の工房」で作られた物だ。しかし内乱の間にオズボーンが自身の勢力に加えてしまったため、出向要員だったミリアムは今も情報局にいるのだ。

そしてそのまま、ミリアムはアガートラムと共に飛び去って行ってしまうのだった。

 

 

「タツミ、色々言いたいことはあるだろうけど、まずは君の仲間が先だ」

「って、そうだ! イエヤス!」

 

リィンに促され、そのままタツミは仲間のもとに向かう。サヨは意識こそないがまだ大丈夫そうだが、イエヤスはもう虫の息となっていた。

 

「タツミ、どうやら、限界みたいだわ。もう、ルボラ病も末期、らしくてな……ゴホッ!」

 

話している途中で、イエヤスは吐血する。しかし本人も死期を悟ったようで、何処か落ち着いた表情をしている。

 

「タツミ、サヨを頼、む。それとあ、んた、ありが、とうな……タツミを、人殺しに……しないで、くれ、て……………」

「イエヤス!? イエヤスぅううううううううううううううう!!」

 

リィンの方を向きながら、イエヤスは礼を言う。そして、そのままこと切れたのだった。

仲間の死を悲しむタツミをよそに、レクターはレオーネにある提案を持ち掛ける。

 

「で、あの嬢ちゃんは尋問が終わった後の処遇は自由だ。その後なら、殺すなりなんなりしてくれて構わないぜ」

「う~ん……まあ、あんたらだったら逃がすことも無いだろうし、問題ないか。ただし……」

 

少し悩んだ後、レオーネは答える。しかしその直後……

 

 

「な!?」

「あんたらの仲間、今回邪魔したこの子らを人質に取らせてもらう。せめて、担保としてな」

 

アカメとシェーレが一瞬にしてアリサとエステルの傍まで近寄り、それぞれの帝具を首筋に近づける。リィンとヨシュアが近寄ろうとしたら、今度はラバックがクローステールの糸を張り巡らし、動きを封じてしまった。加えて屋敷の周囲に近づく気配もあるため、警備隊が事態をかぎつけたようだ。

八方房張り状態に陥るが……

 

 

「そうだな。貴方達にも聞きたいことがあるし、行かせてもらう。なんなら、情報量を払ってもいいが……」

「……あたし等の守備範囲外だけど、金額次第かな? アカメ、ブラっち、問題ないか?」

「どちらでもいいが、ボスの指示を仰いだ方がいい」

「だな。俺らも活動資金は欲しいけど、ポリシーに反するしボスの許可もいる。しばらくかかるが、いいか?」

「ああ、問題ない。それじゃあ、しばらく俺達も離れるから、代わりにあのサヨって子を頼む」

 

結果、ジン以外の屋敷に泊まっていたメンバーがナイトレイドに連行されることになってしまった。そしてそんな中……

 

「離せ、俺がイエヤスにサヨを頼まれたんだ! それにイエヤスの墓だって作らねぇと……」

「って、タツミ!?」

 

いつの間にかレオーネがタツミを担いで歩いてくるのが見えた。それにナイトレイド側で真っ先に反応したのが、マインだった。

 

「って、ソイツどうするのよ!?」

「仲間にすんの。妨害されたけど、踏み込みと思い切りの速さから、素質あるからね」

「おい! あんた、俺がさっきタツミに言ったこと……」

「忘れてないよ。ただ、アタシらは金や恨みだけで動いてるわけじゃないから、その辺を少年自身に判断してもらおうと思ってね」

「そういうこった。それに大丈夫だ。――――すぐに良くなる」

 

ブラートが不穏な発言をしたため、タツミはすぐに青ざめる。

 

「えっと……タツミ、君の仲間は任せてくれ。サヨちゃんは医者に見せるし、イエヤス君も俺達で葬っておく」

「ロイドさん……すみません」

 

その後、ナイトレイドはラバックが作った足場で宙を舞い、帝都から離れていった。結果、リィン達だけでなくタツミまでがナイトレイドに連行されてしまう。その後、残されたロイドたちは、エマの転移術で屋敷から遠く離れ、人目のつかない路地に離れることとなるのだった。




リィン達の処遇に無理やり感があるかもですが、ナイトレイドと接点を持たせるための措置として大目に見てください。

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