英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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たぶん、これが年内最後の投稿になります。
では、どうぞ。


第4話 ナイトレイドの日常

ナイトレイドとの交戦直後、サヨはロイドたちによって帝都内の診療所に運ばれた。カレイジャスにも医療スタッフはいたが、ルボラ病はゼムリア大陸に存在しないこの大陸特有の病と思われたためだ。

最初こそ夜中の急患で医師も機嫌を損ねていたが、サヨの容態を見てすぐさま治療に入ることとなった。

 

 

「先生、どうでしょうか?」

「まだ感染して間もないのが幸いしているが、それでもあまりよくない状況だ」

 

ロイドが医師にサヨの安否を確認するが、意志の返答はあまりよろしくない物だった。

 

「単に感染しただけなら薬が効くが、副作用がある。だがこれだけ傷ついている上に碌に食事もとってないから、衰弱していてそれに耐えられるかわからないんだ」

「傷なら私の力で何とかできますけど、体力までは戻せませんし……」

「彼らが身を挺して守った命を、救えないのか……」

 

エマとガイウスが、今目の前で苦しんでいるサヨに対して何もしてやれず、己の無力さに打ちひしがれていた。

 

「ああ、すんません。通してください」

 

そんな中、二つの人影が診療所に入ってきた。一人は逆立った緑の髪の男性、もう一人はシスターの格好をした女性だ。そんな中、ロイドはこの人物を知っているらしく、真っ先に反応を示す。

 

「え!? 貴方がどうして……」

「今はこの子の治療を優先するんで、待って欲しいんや。後で話すから、堪忍やで」

 

特徴的な方言でしゃべる男は、サヨに近づくと彼女の胸に手を置く。

 

 

「我が深淵にて煌めく蒼の刻印よ……」

 

男がいきなり呪文の詠唱を始めると、その背後に青い光を発する不思議な紋章が浮かび上がったのだ。

 

「彼の者を蝕みし病魔を、聖なる輝きのもとに滅さん!」

 

その詠唱が完了すると同時に、サヨの胸に触れていた男の右手から、黄金に輝く光が発せられた。そして、信じられないことが起こった。

 

 

「な!?」

「は、斑点が消えていく……」

「まさか、病の基から消してしまったのか!?」

 

ロイドたちだけでなく医師まで声を上げて驚いた。事実、ルボラ病の兆候である斑点が消えていくとともに、サヨの顔色が良くなっていったのだ。

やがて光が収まると、完全にルボラ病が治ってしまった。

 

 

聖痕(スティグマ)の応用で、体内の病巣を浄化させてもらいましたわ。まだ感染して日が経ってないからもしかしたら、と思ったけど上手くいったな」

「けど、まだ体力とかは戻っていませんから絶対安静と栄養摂取を忘れずにお願いします」

 

聞きなれない単語を口にする男と、ようやく口を開いて補足説明するシスター。

 

「助かりましたけど、なんでケビン神父とリースさんがここに……」

「ああ。それなら、俺と大尉が呼んだんだよ」

 

聞き覚えのある声が代わりにロイドの質問に答え、その声のする方を見るとジンの姿があった。

 

「いないと思ったら、彼らを呼びに行ってたんですね」

「ああ、俺らに遅れてだが星杯騎士団もここの調査に来てたんでな。で、顔合わせの時に二人のいる宿を聞いといたからわざわざ呼びに行ったわけだ」

 

ロイドはジンがエステル達とリベールの異変を解決した仲間で、そのエステル達もケビンと面識があった。なら、ケビンとジンが面識を持っていても可笑しな話ではない。

 

「あの、この方は七曜教会の神父みたいですけど一体……」

「おっと。自己紹介がまだやったな」

 

そんな中、VII組のメンバーがついていけてないことに気づき、ケビン自ら自己紹介を始めた。

 

「七曜教会の封聖省・星杯騎士団所属・守護騎士(ドミニオン)第五位”千の護り手”ケビン・グラハムいいます」

「専属従騎士のリース・アルジェントです。以後、お見知りおきを」

 

星杯騎士団

ゼムリア大陸で広く信仰されている空の女神エイドスを祀る七曜教会。その七曜教会が抱える、紀元前に栄えたという古代ゼムリア文明の遺産”古代遺物(アーティファクト)”の回収を目的とする武装組織である。

そして守護騎士(ドミニオン)とは、何かしらのトラウマにより発現するという聖痕(スティグマ)を有する者に与えられる称号で、最強クラスの騎士である。

話によれば、エプスタイン財団が秘密裏に技術などで協力し合っているという教会にも新大陸とそこにわたる技術の話は持ち込まれ、彼らも時機を見て調査を進めるつもりだったらしい。しかし、帝具という兵器であることが前提の古代遺物が存在し、調査団からその存在を聞かされて急遽調査隊が結成、そのリーダーに守護騎士の一人であるケビンが選ばれたそうだ。

 

「なるほど。騎士団も流石に動いていますか」

「正直、戦力としては申し分ないです。それと彼女の事、ありがとうございました」

「難しい話だけど、要するに味方なんだね」

「フィーちゃん、それは大雑把すぎじゃ……けど、サヨちゃんのことはエリィさんと同じくお礼を言わせてください。ありがとうございます」

「なるほど。バルクホルン殿の同志という訳か……共闘もあり得るようだから、今後もよろしく頼む」

 

その後、医者に口止め料を払い、サヨはしばらく安静にということで預かってもらうことになったので、ロイドたちも交代で泊まることとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「イエヤス……サヨ……」

 

ナイトレイドに連れていかれたタツミは、宛がわれた部屋で落ち込んでいた。幼馴染の内一人が死に、もう一人が今も生死の境を彷徨っているのだ。無理もないだろう。サヨに関しては昨日の内に危篤状態を免れてはいるが、帝都から離れた場所にナイトレイドのアジトがあるため、ロイドたちから現状を聞けていないのでこうなのであった。

 

「心配するな、タツミ。イエヤスは俺の仲間が弔ってくれるはずだし、サヨもロイドたちが腕のいい医者に見せているらしいから、きっと大丈夫だ」

「それよりも、今はあなた自身のことを心配したほうがいいんじゃないかしら?」

 

そんな中、タツミを心配して部屋を訪れていたリィンとアリサが声をかける。

 

「わかってます。けど、それでもまだ心の整理が……」

 

タツミの方もわかってはいるようだが、それでも

 

「……すまない、俺も気が回らなかったみたいだ」

「とりあえずゆっくりでいいから、気持ちの整理をつけておいてね」

「……ありがとうございます」

 

そのままリィン達は部屋を出ていく。しかしその直後、ある人物と接触することとなった。

 

「おいおい、少年はまだ塞ぎ込んでいるのかい?」

 

接触したのは、レオーネだった。そして、そのすぐ後ろにはエステル達の姿があった。

 

「あんた……は、性懲りもなく勧誘に来たんだな。で、エステル達は?」

「あはは……なんかアジトを案内するって聞かなくってさ」

「押しが強すぎるのも問題だと思うけどね」

「まあ、そういうことだな。少年はしばらくかかりそうだからまた今度として、あんたらも気分転換にいいだろ」

 

そんな感じでレオーネはアジト内部を見せる気満々だ。しかもリィンの言葉によれば、タツミだけでなく自分達までスカウトするつもりのようである。

 

 

「まあとりあえず、情報だけでも貰っておこう」

「実際、することもないわけだしね」

 

リィン達はそのまま、レオーネの案内でナイトレイドのアジトを見て回ることとなったのだった。

 

 

 

 

 

しかし真っ先に反対する人物が一人。

 

「冗談じゃないわよ! 何で人質をアジトにうろつかせるつもりなの!?」

 

ピンクの髪をツインテールにまとめた少女、マインだった。何かとこちらに突っかかってくる態度が目立ち、タツミを連れていくことにも反対気味であったため、当然だろう。

 

「どうせならこいつらも仲間にしたいじゃん? 帝具なしで帝具持ちと互角にやり合えるなんて、即戦力だろ」

「でもこいつら、異国から来たのよ。あたし等の最終目的に、すんなり協力してくれるはずないじゃん」

 

最終目的という気になる単語が飛び出すが、それについては聞いても教えてくれそうにないため今は黙っておく。

 

「それに、棒術なんて殺し屋に不向きな戦い方と弓なんて前時代的な武装で、ナイトレイドの仕事が務まるわけないじゃない!」

 

エステルもアリサも、マインが自分達の戦闘スタイルをあからさまにバカにしてきたため、ついムッとする。そして、当然反論に入るのだった。

 

「あのね、殺し屋になるつもりなんて微塵も無いけど一言言っておくわ。棒でも頭とか当たり所が悪かったら、十分人を殺めることだって可能よ。逆に銃でも腕とか脚をただ撃つだけじゃ殺せない。結局、武器じゃなくて戦い方で生き死にが決まる物なんだから、その考えはいただけないわね」

「それに、弓には弓の、銃には銃の長所と短所があるんだからどっちか一方を非難するのは根本的に間違っているわ。例えば、銃なら細かいメンテナンスが必要とかね。実際、エステルの攻撃であなたのパンプキンも整備中なんでしょ?」

 

それを聞かれて、マインも黙ってしまう。帝具で銃というだけあって、パンプキンは精密機械らしく、マイン自身も細かいメンテナンスを日頃から行っているらしい。そこを突かれては、弓を一方的にバカにすることも出来なかった。

 

「ふん! 今回は負けを認めてあげるけど、次はこうはいかないから!!」

 

そのまま憤慨しつつ、マインはリィン達の案内を許すのだった。

 

「悪いな。マインはツンデレなんだ」

「違う!」

「ああ、昔のアリサもそうだったからいいよ」

「って、リィン!!」

「違うって言ってるでしょ!!」

 

マインの反論は結局聞き耳持たれずであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここは会議室。よし、次行こ」

「いや、入ってないだろ」

「だってここの説明なんて要らないじゃんか」

「いや、それにしても今のは雑すぎるわよ」

 

レオーネの雑すぎる説明にアリサがツッコミを入れるも、それを無視して先に進もうとする。

 

「あら? 貴方達は……」

 

すると女性の声がしたのでその方に視線を向ける。そこには、一人の女性がこちらに歩いてくる様子が映った。

 

「あなたは……」

「あ、この間はどうも」

 

東方風の衣装をまとった、紫の髪に眼鏡の女性。先日の襲撃でリィンと刃を交えた、シェーレであった。

 

「確か手配書が出てたよな……シェーレ、で間違いないですよね」

「あ、はい」

 

昨日、リィンと直接戦ったにも拘らず、特に抵抗なく接してくるシェーレ。そんな彼女の持っている物に、つい他のメンバーは目を奪われてしまった。

 

(天然ボケを治す100の方法って……何、その本?)

(あたしも知らないわよ。ヨシュア、どう?)

(いや……僕も流石に、天然ボケが治るものかはわかんないよ)

 

アリサを筆頭に、皆が本の題名に眼を奪われた。

 

「なあ、シェーレ。こいつら、仲間になる決心がまだついてないらしいんだよ。あんたから仲間になりたくなるようなこと、言ってくれねぇか?」

「えっと……そうですね…」

 

レオーネに促されてシェーレが少し考える。そして出てきた一言は……

 

 

「どっち道、アジトの場所を知った以上は仲間にならないと殺されますよ」

「うわ、流石は裏組織。物騒極まりないわね」

 

もはや脅しでしかなかった。そのため、エステルの思ったことは正論でしかなかった。

しかし、それに対してリィンは余裕を含んだ笑みを浮かべる。何事かと思うとシェーレに返事を返してきた。

 

「心配はいらないさ。そうなっても、腕ずくで逃げさせてもらうから」

「………わぉ」

 

少しの沈黙の後、レオーネの口からそれだけが帰ってきた。事実、リィンが奥の手を使えば帝具を持っているナイトレイドにも勝つ見込みはあるし、いざとなればエマの転移術で緊急脱出できる。しかもリィンは、ある物を相棒にしており、その相棒を使えば帝国も勝ち目が薄いため、脱出の手段には事足りないわけであった。。

 

「……気を取り直して、次に行こっか」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここは訓練場という名のストレス発散場だ」

「いや、普通に訓練しましょうよ」

 

レオーネがまたもツッコミどころのある説明をしてきたため、今度はエステルがツッコミを入れる。しかし、それでも真面目に訓練している人物の姿があった。

それは長身で上半身裸の髪型をリーゼントにした青年だった。背はリィン達よりいくらか高く、体もかなり締まって鍛えられているのがよくわかる。髪型の所為でいくらか台無しになっているが、顔も悪くない。

 

「すごい槍裁きね。それにあの背格好は……」

「お、気づいたな。あいつはブラートっつって、鎧着てた奴だよ」

「けど……髪型とかが手配書から変えすぎなんだが………素性を隠すためなのか、やっぱり?」

「いや。単なるイメチェンらしいよ」

 

これがブラートの素顔だったことに驚愕しつつも、その訓練の様子を眺めるリィン達。槍で鋭い刺突や高速での回転を繰り返している。完全に実戦と同じノリで訓練しているため、槍を振るうたびに凄まじい風圧がかかるのがわかった。

 

「なるほど。あれだけできたら、ジンさんと互角に戦えたのも納得ね」

「うん。あれなら執行者クラスはあるんじゃないかな?」

 

エステル達もブラートのことを観察していると、その本人がこちらに気づいて近づいてきた。

 

「お、お前らか。仲間になる決心はついたか?」

「いや。俺達にも仕事があるから、今のところは無理だな。まあ、状況か俺達の心境に変化でも出たら、別だろうな」

「そうか、そこはジンのおっさんと同じみたいだな……まあ、帝国に就く気も無いみたいだし、無理強いも出来ないか」

 

脳筋のように思われたブラートだったが、意外と物わかりもよくてリィン達も感心する。エステルとアリサは彼がジンと戦っているところを見ているため、その人柄もある程度認識しているが、それでも改めて彼が殺し屋をするような人間だとは考えにくかった。

 

「レオーネから聞いてるとは思うが、俺はブラートだ。仲間になるかは別として、アジトにいる間は一緒に過ごすんだし、よろしくな」

「俺はリィンだ。よろしくな、ブラート」

「私はアリサよ」

「エステルよ、よろしく」

「ヨシュアと言います。よろしくお願いします、ブラートさん」

 

そのまま全員が自己紹介をし、一同を代表してリィンがブラートと握手を交わした。

するとレオーネが割り込み、とんでもないことを言いだした。

 

「あ、気を付けろよ。ソイツ、ホモだから」

「ええ!?」

 

その一言を聞いたリィンは、一瞬で手を離して一歩引いてしまう。視線を逸らすと、ヨシュアの顔も心なしか青ざめている。そして、咄嗟にアリサとエステルが二人の前に躍り出てきた。

 

「り、リィンは私の恋人なんだから手を出さないで!!」

「だからってヨシュアに手を出したら、恋する乙女のパワーでぶっ飛ばすから!!」

 

アリサもエステルも恋人を、それもホモに取られるのは嫌だったため、声を荒げながら警告する。

 

「おいおいレオーネ、誤解されちまうだろ? なぁ」

 

なんとブラートは否定も肯定もせず、顔を赤らめながらそんなことを言いだした。これでは冗談なのか本気なのか判別できないため、リィン達は一層ブラートを警戒することとなった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その後、アジトの各施設を案内されて連れてこられたのは、アジト付近の林の中だった。

 

「で、今度は他の仲間の紹介をしようと思うんだ」

「それはいいけど、ここに仲間がいるって……見張りでもしてるのかしら?」

「そうじゃなくって……っと。今にわかるから、静かにしてな」

 

アリサの質問に答えるようとしたら、レオーネから指示が出る。とりあえず従うと、茂みがガサガサと動く。すると、その中から匍匐前進で進む人物が現れた。それは先日、エステルと激闘を繰り広げたラバックだったのだが……

 

「レオーネ姐さんの水浴びの時間はチェック済みだ。今日こそはあの巨乳を拝んでやるぜ…!」

 

小声でそんなことを呟いていた。先日の殺し屋然とした雰囲気と高い戦闘力からは、想像できない姿である。

 

「コイツの日課なんだ。悪く思わないでくれよ」

「ああ、そう。まあ、別にいいんだけど……」

 

戦闘以外は日頃からこうらしく、エステルも苦笑するしかなかった。そしてそんなラバックに、レオーネが蹴りを入れる。しかも吹っ飛んだ先に崖があり、ラバックも落ちそうになるが間一髪で崖際を掴んで助かったのだった。

 

「こいつはラバック。見たまんまのスケベ&バカだけど、仲良くしてやってくれ」

「えっと……うん」

 

レオーネのあんまりな自己紹介とそれで説明がついてしまうラバックの人柄に、エステルは乾いた返事を返す。

そしてその場から離れようとするが……

 

「おい! 誰かいるんだろ、助けてくれよ!!」

 

普段のエステルなら真っ先に助けに行くだろうが、ラバックの人柄だけでなく、いざとなったらクローステールが使える上になくても這い上がれそうな身体能力も見受けられるため、誰も助けようとはしなかった。

まあ、そうでなくても生き延びそうな雰囲気だったが。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「最後の仲間を紹介する。そこの兄ちゃんはよく知ってるだろ?」

「ああ。アカメだね」

 

そういえばいなかったと思いつつ、アカメがいるらしい場所に案内される一同。シェーレもラバックもブラートも、殺し屋を生業としているように思えない(それでいて変な)一面を持っていたため、アカメも先日とは同一人物に思えない一面があるのだろう。ヨシュアはいろんな意味で不安を感じずにいられなかった。

しかし案内されたのは近隣の川で、そこにはアカメの姿が無い。そう思った直後……

 

 

 

「な、なんだ!?」

「魚が飛び出してきた!?」

 

激しい水音と同時に、川から魚が次々と飛び出してきて岸に打ち上げられた。リィンとエステルが声を上げて驚き、アリサとヨシュアも口をあんぐりと開けて固まる。20匹ほど打ち上げられてそれが収まったかと思うと、川の中から水着姿のアカメが這い上がってくる。そして打ち上げられた魚の一匹をおいてあったナイフで捌こうとした直後、リィン達の存在に気づいた。

 

「……お前達か」

「き、昨日はどうも……それ、何?」

「コウガマグロ。警戒心が強いが珍味として重宝される魚だ」

「いや、そうじゃなくって…」

「今日の昼飯を取ってたんだよ。あと、アカメは野生児で色気より食い気なんだ」

 

アカメの様子にヨシュアが唖然としつつ、レオーネが補足説明する。横で聞いていたリィンとエステルも、釣りが趣味なのでアカメの魚の取り方に唖然とする以外になかったのだった。

そんな中で、アカメは手際よくコウガマグロを捌いていく。捌くと言っても鱗や内臓の処理だけで、あっという間に終わらせたそれを丸焼きにし始める。そして残りはそのまま茂みに隠してあった麻袋に詰め始めた。

そしてこちらを見たかと思うと……

 

「お前達、仲間になるのか? もしそうなら、取れたて一番のこれを食べてもいいぞ」

「いや、なるつもりもないし遠慮しておくよ」

「そうか」

 

そう言って、アカメは袋詰めを再開した。それが終わるころに丸焼きがちょうどいい焼け具合になったらしく、レオーネにマグロの詰まった袋を任せて食べながら帰っていった。

 

ちなみに昼食は、アカメがこのコウガマグロで作ったマグロ丼だった。絶品だったらしい。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして昼過ぎのこと。

 

「仲間にあって、サヨちゃんの容態を確認したいんだが……」

 

リィンが提案し、タツミを連れての外出許可を貰えないか交渉する。結果、女子がアジトに残る、一人の人物が監視を担当する、買い出しを手伝う、この三つの条件で許可が得られた。

そして監視をする人物だが……

 

 

 

 

「それでは、よろしくお願いします」

 

一番天然なシェーレだった。最初は彼女の監視で大丈夫なのか、とも思ったが直接戦ったリィンは適任かもしれないと感じた。実際、戦闘に入るとかなり強い上に淡々とこちらの殲滅にかかっていたため、可笑しな真似をしたら確実にこちらの首が飛ぶだろう。

そんな中、まずは仲間との合流をすることになり、ARCUSの通信で合流先を決めてそこに向かうのだった。

 

「リィンさんにヨシュア君、待ってました」

「委員長とノエルさんか。そういえば、ロイドがいないみたいだが……」

「ロイドさんは、ちょっと別件で動いていますので」

 

落ち合ったエマとノエルと挨拶を交わすリィンとヨシュア。そんな中、シェーレの存在に二人も気づく。

 

「えっと、先日はどうも。それと後ろの方は初めてですね。ナイトレイドのシェーレです」

「あ、あはは。そこで堂々と所属を明かすんですね……」

「ええ。どうせ監視付きだと知らされているみたいなので」

 

殺し屋集団にいるにも関わらず、偽名も使わないシェーレにエマもつい苦笑、ノエルも茫然としている。しかしそんな様子はシェーレにはお構いなしなようだった。

 

「じゃあ、改めまして……エマ・ミルスティンです。リィンさんとは学友で、今回は彼の仕事に協力する形で帝都に来ました」

「クロスベル独立国警備隊のノエル・シーカー少尉です。自分も、彼らの任務に同行する形でここに来ました。お見知りおきを」

 

お辞儀をしながら丁寧に返すエマと、敬礼しながら返すノエル。見事に性格や職業に関する情報が出ている。

 

「まずは本題ですが、サヨちゃんは助かります」

「ええ!? それ、本当ですか!?」

「はい。治療も完了したので、後は目を覚ますのを待つだけです」

「サヨ、よかった……二人とも、ありがとうございます。ロイドさん達にも伝えておいてください」

 

流石にケビンについては隠すことにし、いい医者に見せたということにしておく。その後、タツミを連れてサヨのいる診療所に向かう。

その道すがらというと……

 

「なるほど。そこの食材が安いんですか」

「はい。私は普段買い出しに行かせてもらえないんで、又聞きなんですけど」

 

エマとシェーレが妙に仲良くなっていた。確かに二人とも眼鏡で髪が紫、しかも声は似たような性質と共通点も多かったりする。そんな中で、エマは何故殺し屋をしているのか聞いてみることにした。

 

曰く、シェーレは幼い頃から天然がかっていたため、周囲から「頭のネジが外れている」と馬鹿にされ続けていた。そんな自分とも仲良くしてくれた友人がいたが、その友人が元カレに殺されそうになったところを守ろうとして、元カレを殺してしまったのが始まりだったという。その友達とも以降は会わなくなったうえに元カレの仲間が報復に来たが、全員返り討ちにしても何も感じなかったという。そして「頭のネジが外れている」からこそできることがあると考えてフリーの殺し屋を始め、やがてナイトレイドにスカウトされたという。

 

「なんというか……強烈ですね」

「はい。けど、それで人の役に立てるなら憎まれようと報いを受けようと、悔いはないです」

 

そういうシェーレの目には、決意の色が見えた。アカメやブラート、もしかしたらあのラバックですら何かの覚悟があるのかもしれない。

 

「シェーレさんはいい人だから、正直なところ殺し屋はやめて欲しいです。けど会ったばかりの私に、強制する資格はないからとやかくは言いませんが……」

 

エマはシェーレに対して思うところがあるも、シェーレの意思を尊重する。そして、少し間を置いてから一言だけ警告した。

 

「無茶をせず、引きどころも考えてください。あなたが死んで悲しむ人も、少なからずいるはずですから」

「はい。肝に免じておきます」

 

その後、診療所でサヨの容態を確認し、買い出しに向かった。その際、シェーレが人参と大根を間違えるという謎のミスを犯しそうになったが、リィン達が止めたおかげで事なきを得た。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そんな感じで三日後……

 

「まだ、ここのボスは帰ってきてないのか……」

「いい加減、疲れてきたわね……」

 

その後、外出中だというナイトレイドのボスがまだ戻ってきてないため、リィン達も帰れずじまいだった。そんな中で、今回はタツミも伴ってレオーネを探しに行くが……

 

「お~、いいとこに来たな。これ、美味いぜ」

「お前達、何かと世話になったから食べていいぞ」

 

またもアカメが狩った食材を焼いて食べており、レオーネも同伴している。だが、今回はその食材が問題だった。

 

「あれって、まさかエビルバードか?」

「確か、特級って言ってたよな。……食用になるんだな」

 

タツミが言ったように、アカメが食べているのはリィン達がこの大陸で最初に戦った、エビルバードだ。村雨の特性なら仕留めるのは簡単だが、空を飛ぶ相手に剣士が一人で戦える辺り、アカメの実力は相当だと再認識する。

ちなみに、リィン達は料理慣れしてることもあって、ここにいる間に食事当番をやったりして時間を潰していた。世話になったとはそう言うことである。

 

「なあ、あんた達のボスはいつ戻ってくるんだ? いい加減待ちくたびれたんだが……」

「それなら、もう心配無用だ」

 

すると聞きなれない女性の声が聞こえたかと思うと、エビルバードの陰に隠れるようにしていた人物が現れる。声音と胸の大きさで女性と判別できたが、短くそろえた銀髪に黒いスーツ、右目に眼帯で整った顔立ちといった風貌から、かなり男らしい容姿であった。しかし、それ以上に右手が鋼鉄製の鎧に覆われているのが目立つ。服装からアンバランスであったため、おそらくは義手、それも戦闘用と思われた。

 

「お前達がアカメとレオーネが言っていた若者か。私がナイトレイドのボス、ナジェンダだ」




委員長とシェーレは、本編中でもいったように見た目で共通点が多いので絡ませたいと思っていました。
そして、能登&はやみんの声ネタもやりたかったので。

そして、前書きにも書きましたがたぶん今年最後になるので先に言っておきます。
皆さん、よいお年を。

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