英雄伝説 斬の軌跡(凍結)   作:玄武Σ

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今回はVS刺客、VSオーガをいっぺんにやりました。なのでまた長くなっております。


第6話 空・零・閃

ナイトレイドのアジトからいくらか離れた位置、川沿いに突き進む集団があった。彼らがラバックの探知した侵入者だ。

いずれも民族衣装をまとった、褐色肌の人物だ。彼らは異民族、帝国を三方から囲む勢力で、城塞都市を構える北方異民族を始め、帝国への敵対勢力として蔑視されている。しかし、中には帝国が暗殺者として雇ったり、革命軍と同盟を組んでいる西の異民族がいたりと、持ちつ持たれつの関係を結んでいる異民族がいたりもする。今回も前者のパターンで、帝国に金で雇われた暗殺者として送り込まれたようだ。

そんな異民族の男達が川辺を進んでアジトを探す中、ある物を見て歩みを止めた。

 

 

「早速、当たりみてぇだな」

 

刺客の一人が下卑た笑みを浮かべながら呟く。目前に人影を発見し、ナイトレイドのメンバーを発見したと思ったようだ。

 

「さて。ナイトレイド、恨みはねぇがてめぇらぶっ殺せば大金がたんまりともらえるんでな。死んでもらうぜ」

「……残念だけど、できてもそれは無理ね」

「ああ?」

「あたし、ナイトレイドじゃないから」

 

月明かりでその容姿が明らかになった。人物は栗色の長髪をツインテールにまとめ、オレンジを基調とした服に長大な棒を携えた少女、エステル・ブライトであった。棒という殺し屋の武器にしては殺傷力のなさそうな得物を見るに、少なくとも彼女が言うことは本当と思われる。

 

「けど、ナイトレイドのみなさんとは寝食を供にしたから、あんた達みたいなあからさまな悪者を近づけさせやしないわ」

 

そして、エステルは得物の棒を巧みに振り回して、構えを取る。

 

「まあ、そうだとしても……可愛い女じゃねえか」

「胸はあんまりねぇが、肌も髪もそこらの貴族なんかよりいいじゃねえか?」

「だな。生け捕りにして楽しむのも、悪くねえかもな」

「いいとこの貴族様も、高値で買ってくれそうじゃねえか」

 

男達は下卑た笑みを絶やさずに、エステルの容姿を見て口々に言う。

 

「はぁ……本当にこんな悪者しかいないのね、ここは」

 

エステルも遊撃士の仕事柄、いろんな悪人を捕まえている。しかし、ゼムリア大陸ではマフィアですら人身売買に手を出さないため、ここまで低俗な悪人はいなかった。

 

「じゃあまずその子とっ捕まえて、そのままナイトレイドぶっ殺しに行くぜ!」

「「「「「おお!!」」」」」

 

刺客たちは小回りの利く短剣を主武装とし、俊敏な動きでエステルに突撃していく。

 

「……ヨシュアよりずっと遅いわね」

 

エステルは恋人の名前を引き合いにし、手にした棒を左右に素早く振るう。攻撃を喰らった刺客の二人は、大きく吹き飛んで近くの木に激突した。そのまま、男二人は気絶した。

 

「それじゃあ、折角だから名乗らせてもらうわ」

 

突然の事態に唖然とする刺客たちを他所に、エステルは名乗りを声高々に挙げる。

 

 

 

「遊撃士協会所属、A級遊撃士”陽光”エステル・ブライト! 貴方達を逆に拘束させてもらうわ!!」

「なめやがって。やっちまえ!!」

 

エステルの名乗りに対し、残りの刺客たちは近くの木に飛び乗り、そのまま木から木へ飛び移りながらエステルを包囲する。攪乱して一気に殲滅にかかるようだ。

 

 

「無駄よ。捻糸棍!」

 

エステルは棒の先端に気の塊を練り、飛び回っている刺客の一人に向けて放つ。それは見事に命中し、吹っ飛んでそのまま地面に落ちていく。

 

「何!? まさか、帝具使いか!」

「生憎だけど、帝具なんて持ってないし使う気も無いから!」

 

驚いていた刺客の内一人に、エステルは飛び掛かって棒で殴りかかる。思いっきり胴体に攻撃を喰らったうえ、地面に叩き付けられた刺客は、確実に肋や背骨が砕かれたであろう。

 

「次は……ファイアボルト!」

 

今度はARCUSを懐から取り出し、はめ込まれた結晶上の回路をなぞって、そこから火の玉を放つ。それを喰らって、更に刺客の一人が気絶した。

戦術導力器(オーブメント)は本来、七曜石という鉱石を加工した回路クオーツからエネルギーを引き出し、身体能力の強化や擬似的な魔法である導力魔法を用いる、白兵戦の為の戦闘ツールとして作られた。そこに通信機能を備えたエニグマ、アリサの実家が経営するRFグループと共同開発した、連携攻撃のサポートである戦術リンクを実装したARCUSといった具合に機能が拡張されていったものである。

 

「コイツ……本当に帝具持ってねえのか!?」

「だから、持ってないって言ってるでしょ」

 

そして最後の一人の懐に潜り込み、とどめを刺しにかかった。

 

「百裂撃!」

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」

 

エステルは凄まじいまでの連続突きを、最後の刺客に叩き込む。圧倒的な威力に、男はそのまま気絶する。

 

「チョロイチョロイ!」

 

エステルは棒を高速回転させながら、勝利宣言した。

 

「……確かに強いな。だが、甘いところがある」

 

そんな中、エステルの監視をしていたアカメが彼女に声をかけてきた。実力については認めたようだが、そのやり方は許容できないようである。

 

「あたしは殺し屋じゃなくて遊撃士。人を殺すんじゃなくて、守ることが目的だからいいのよ。甘くても、それを貫いて見せるわ」

 

アカメに返事を返しながら、エステルは男達を縄で縛って動けなくする。そして、そのまま男達を引き摺ってその場を後にした。

 

一方その頃

 

「はぁあ!」

「くっ!?」

 

ヨシュアが刺客の何人かを撃破し、残る一人である少女と交戦している。しかし実力差は圧倒的で、少女はヨシュアにナイフを弾き飛ばされ、敗北する。

 

「お願い、殺さないで! 何でも言うことを聞くから!!」

 

少女は涙目になりながら、ヨシュアに対して命乞いをする。本気なのかだまし討ちのためなのかは不明だが、ヨシュアは最初からどうするかは決めていた。

 

「僕はもう好きな人がいるから、それは呑めない」

 

無慈悲な返事を返し、ヨシュアは少女の延髄に剣の柄を叩き込んで意識を狩った。

 

「それに始めから全員、殺す気はないから安心していいよ」

 

そのままヨシュアは倒した刺客全員を縛って、エステル同様引き摺ってその場を去っていった。

 

 

「もう、面倒だから一気に決めるわよ」

 

アリサは短期決戦に持ち込むつもりのようで、すでにARCUSを駆動させてアーツを放つようだ。アリサのスタイル抜群な容姿を見て、エステルの時よりも興奮気味の刺客たちだったが、すぐにそれは絶望と化す。

 

「エクスクルセイド!」

「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!?」」」」

 

アリサが使ったアーツは、地面に金色に輝く十字架を描くと同時に、その一帯を強大な光のエネルギーで埋め尽くし、刺客たちを一掃した。

戦術導力器に取り付けるクオーツは、元となる七曜石の内包するエネルギー毎に七つの属性があり、取り付ける為のスロットの中には属性ごとに縛りをつけたものがある。アリサは火と空の二属性の縛りスロットがあり、内の空は上位三属性という「地水火風」の四属性と根源から異なる特殊な属性で、空間を司る力があった。

 

「まあ、こんなものかしら」

「お嬢様。彼らは私が連行しますので、リィン様の援軍に行ってください」

「私も彼らを連れて行けるように、転移術の準備をしておきます」

「シャロン、エマもありがとう」

 

そのまま、刺客たちの拘束をシャロンとエマに任せてアリサはその場を去っていった。

 

 

 

「リィン、タツミとサヨちゃんは俺が守っておく。代わりに、お前のその心意気を見させてもらうぜ」

「ありがとう、ブラート」

「折角だ、俺のことはハンサムかアニキって呼びな」

「じゃあ、アニキで」

「えっと……俺は遠慮しておくよ」

 

タツミはブラートのアニキ呼びをノリノリで承認しているが、リィンは顔を引きつらせながら拒否する。先日のホモ疑惑から、ブラートと深く繋がることを恐れているようだ。

 

「……気配の数は四つ。戦い方を考えたら、これが妥当か」

 

そして、リィンは台頭したまま刀に手をやり、刺客たちの警戒をする。相手はエステルの時同様、周囲の木々を飛び回って攪乱に入っているようだ。

 

「「「「しゃあああああ!」」」」

 

そして、刺客たちがリィンに飛び掛かっていった。

 

「八葉一刀流」

 

リィン達は呟き、飛び掛かってきた刺客たちの攻撃を回避し、すれ違い際に一人一人切り捨てる。鋭い一閃、それでいて相手が死なない最低限の斬撃を放って行った。

 

「”伍の型”残月」

 

八葉一刀流

ゼムリア大陸東方の出身”剣仙”ユン・カーファイが興した、東方剣術の集大成とも言うべき流派。 八葉の名の通り八つの型(内一つは非常用の無手の型)で構成され、一つでも型を皆伝すれば剣聖の称号を得られる。実はリィンも内戦の後で一つ皆伝を取得しているのだが、それは後の機会にでも語るとしよう。

 

「い、一撃で……」

「剣士としては、最上級か。すでに将軍級はあるかもしれないな」

 

タツミもブラートも、リィンの圧倒的な強さに驚嘆や称賛の意を送る。そんな中、サヨは何かを感じ取っていた。

 

「……近くに微かな人の気配……もう一つはっきりとした気配があって、それに迫ってる?」

「俺、様子見てくる。アニキ、もうちょっとサヨを頼む!」

 

その後、タツミはサヨに気配のする方角を確認し、そこに駆けていく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、サヨが何かの気配を感知した場所にて。

 

「さて。あいつらが仲間になるかは別として、自分達が甘いっていう認識を改めさせてやりますか」

 

ナジェンダに内緒で出てきたマインは、パンプキンを手にリィンとタツミのいる方に駆けていく。

しかし、この時彼女に迫る敵がいたことに、まだ気づいていなかった。

 

「しゃぁああ!」

「!?」

 

いきなり刺客の一人が、正面にいきなり姿を現して奇声を上げながら飛び掛かってくる。咄嗟のことに驚くも、マインはすぐに飛び退いて攻撃の回避に成功した。服装から見るに、刺客ではあるが他の異民族たちとは別の所属と思われた。

 

「へへへ。手配書にはないが、ナイトレイドの仲間っぽいな。ナジェンダ将軍の帝具持ってるのが、いい証拠だ」

「ボスの現役時に会ったことがあるようね……けど、さっき姿を消してたあれは、アンタも帝具持ちってことかしら?」

 

マインはさっきまでの現象に驚いてそう推測する。帝具でないと説明がつかない者であるも、事実であった。

 

「帝具なんかよりも、すげぇ道具を手に入れたんだよ。冥土の土産に見せてやる」

「何する気か知らないけど、隙だらけよ!」

 

しかしマインは気にすることなく、パンプキンを発砲する。出力は低いようだが、少なくとも人一人殺せるだけの威力はあるのが見て取れた。

 

「アースガード!」

 

懐から取り出した何かを掲げると同時に地面から岩が浮き上がり、それがパンプキンの攻撃を防いでしまった。

 

「何、今の……」

「からの、ソウルブラー!」

「がぁあ!?」

 

マインがいきなりの事態に驚いていると、刺客はそれから黒い衝撃波を打ち出してマインに攻撃を喰らわせる。

 

「最近、ある伝手で手に入れた道具でな。帝具と違って誰でも使えるんだぜ、すげぇだろ」

「まさか、あいつらの持ってた……」

 

男の持っていたのは、ARCUSと違いエプスタイン財団が単独で開発した戦術導力器《エニグマ》だったのだ。リィン達は素性と目的をナイトレイドの面々に語る際、ゼムリア大陸の話が嘘でないと証明するため、ARCUSでアーツを使って見せたのだった。そのため、マインもすぐに相手の攻撃の正体に気づいた。

 

「アーツの事を知ってるっぽいが、気付くのが遅かったみたいだな。最後に教えてやるが、さっきはホロウスフィアっつうアーツで姿を消してたのさ」

 

気配を隠した種明かしをし、刺客は膝をついていたマインにとどめを刺そうと剣を抜く。そして、マインに飛び掛かって切り殺そうとする。

 

 

 

「おらぁあ!」

「何!?」

 

しかし、タツミが何処からともなく飛びだし、刺客の攻撃を防いだ。しかもその際、一緒にエニグマも蹴り飛ばしてしまった。

 

「あんた……」

「気づいたのは俺じゃなくてサヨだ。礼が言いたいならあいつにだぜ」

「へぇ……俺もバン族の殺し屋で気配消すの得意だったのに、気付いたのがいたか。そこの坊主も、思い切りいいじゃねえの」

 

刺客の男は、素直にタツミとここにいないサヨの実力を称賛していた。

 

「けど、俺もおまんま喰うために金が要るんでな。邪魔するなら一緒に始末してやるぜ」

「ただ食っていくために金が要るなら、殺し屋じゃなくてもいいんじゃないのか?」

「異民族は帝都市民の大半から迫害されているんだぜ。雇ってもらえるはずねえだろ?」

「だったら、帝国の外にでも行きゃあいいじゃねえか。俺も、これからそうするつもりだから、一緒に来ねぇか?」

「生憎、戦いも殺しも癖になっちまってな。今更、他の仕事に就けそうにねぇんだわ」

 

男はタツミの誘いを蹴って、再度剣を構える。そして、タツミもそれを確認して腰に差していた剣を抜いた。

 

「じゃあ、恨みはないが死んでもらうぜ少年!」

 

刺客の男が真っ先に駆けだし、そのままタツミを始末しようとする。しかし、タツミは剣を構えたまま特に動こうとしていなかった。

 

「あんた、何してるのよ!? 早くしないと……」

 

マインが叫ぶも、タツミは微動だにしない。そして、刺客がタツミのすぐ目の前に迫り剣を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあ!」

 

直後、タツミは瞬間的に踏み抜き、同時に剣を振り下ろす。そして刺客の男がタツミを通り過ぎる。

 

 

「な、なんだと……」

「さっきの残月って技を俺なりにやったけど、上手くいったな」

(レオーネが伸びしろの塊とか言ってたけど、これほどなんて……)

 

タツミが喋り終えると、同時に刺客の男も倒れ伏した。タツミは先程、リィンが使った八葉一刀流の技を模倣して使ったのだ。しかも、初見で力加減の難しそうなカウンター技なのに関わらず、殺さないよう加減もされている。

その圧倒的なセンスに、マインも驚愕していた。

 

「さて……じゃあアニキ、ブラートを呼んでくるから連れて帰ってもらえよ。俺はそのまま置賜させてもらうぜ」

「待ちなさい」

 

タツミが去ろうとすると、マインが呼び止める。

 

「あんた、本気で正道を歩む形でこの国を救えると思ってるの?」

 

先程の話を聞いた限り、帝国を変えるにはナイブから政治的介入をするか革命で外部から一度破壊する、この二つでしか変えられそうにない様に思われた。しかし、タツミは迷わずに答えを出す。

 

「正直、確証は無いな。けど、この道を進もうと、あのままナイトレイドに入ろうと、俺は自分で選んだ道を突き通してやるつもりだ。それじゃあな」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

リィン達がナイトレイドへの刺客たちと交戦したのと同時刻、帝都のとある料亭。

 

「これが、今度の分でさぁ」

「おう、確かに徴収したぜ」

 

隻眼の大男、警備隊長オーガがカエル顔の不気味な男から金貨の詰まった巾着を受け取る。この男が、オーガに普段から賄賂を贈っている油屋ガマルである。顔は心を映す鏡とは言うが、以下にも邪悪という言葉が似合う容姿であった。

この日、オーガは普段通りガマルから賄賂の受け取りと冤罪擦り付けの準備をし、後は事実を知らない人間から信頼を得るために真面目に職務を全うする。これから毎日、少なくとも自分が引退するまでは続くと思っていた。

 

 

 

「オーガと油屋ガマル! 冤罪偽造と賄賂の常習犯として逮捕する!!」

「な、何だ一体!?」

 

いきなり借りている個室に、別地区の担当をしていた警備隊長とその部下達が踏み込んできた。

 

「ガマル、そしてオーガ。隊長職を降りてそのついでに豚箱にぶち込んでやるから覚悟しろ」

「……何のことだ? 今の言い分からして、俺が他人に罪を擦り付けたって、言いてえのか?」

 

しかし、オーガは逃げ切れると踏んだのか、ガマルと違って余裕の表情を浮かべている。だがその隊長がある物を見せて、表情が絶望に染まった。

 

「お前がガマルと、他に何人かから受け取った賄賂の帳簿だ。そして、冤罪を擦り付けるのに目を付けていた市民の住民票一式。すべてお前の直筆だから、言い逃れは出来ないぞ」

「な、何でお前がそれを!?」

 

自分が詰所の金庫に隠していた筈の証拠、それが同業者の手に渡っていることに、驚愕していた。

 

「簡単ですよ。あなたが自分で彼に渡したんですから」

 

そして、その答え合わせをしたのは一人の青年だった。青と白を基調としたジャケットを着た、茶髪の青年。

ロイド・バニングスその人だった。そのバックには、ポニーテールにまとめた銀髪の、同僚兼恋人エリィ・マクダエルの姿もあった。

 

「て、てめぇらは昨日の!?」

 

オーガはロイドに会ったことがあるらしい。そして、オーガの言う昨日のこと。

 

~回想~

 

「あの、警備隊長のオーガさんで間違いありませんか?」

「ああ? 何だ、ガキ?」

 

帝都の巡回中、ロイドに呼び止められたオーガ。そんなロイドの後ろには、エリィとエマの姿があった。

 

「俺のツレが、オーガさんに話があるそうです。本人たち曰く恥ずかしいとのことで、そこの路地で話したいんですが、お時間はいいですか?」

「……俺も仕事があるから、早めにしてくれよ」

 

オーガはいきなり仕事を邪魔されたため、不機嫌そうだった。そんな中で路地に連れてこられたオーガだったが、すぐにそれも収まることとなる。

 

「実は、私達オーガさんのファンなんです」

「それで、これをお渡ししたくて」

 

そう言って、二人が出したのはクッキーの入った袋だった。

 

「甘いものが苦手かもと思ったんですが、これしか贈り物が思いつかなかったもので」

「もしダメだったら部下の方達に渡してもいいので、受け取ってもらえませんか?」

 

エリィとエマに言われ、若干頬を赤らめるオーガ。二人とも背は高めで、尚且つ胸も大きい美人だ。普通の男なら気になって当然だった。

 

「……まあ、こんな美人からの贈り物なんだ。受け取らねえと罰当たるわな」

 

そのままオーガは二人からクッキーを受け取り、エリィが作った物を一枚口に入れる。味もよかったらしく、オーガの不機嫌さは微塵も感じられなかった。

 

 

「あの、もう一つお願いがあります」

「ん、なんだ? 気分がいいから一つくらいなら頼まれてもいいぜ」

 

そんな中、エマから何かを頼まれるオーガ。よほど機嫌がよくなったのか、二つ返事で了承するオーガ。

それを聞いたとたん、エマは眼鏡をはずした。

 

「私の目を見てください」

「目?」

 

そのままオーガは、目測で200セルジュはある巨体だったため、少ししゃがんでエマと目線を合わせた。

しかし直後にエマが目を閉じた。そしていきなりの行動にオーガがキョトンとするも次の瞬間

 

 

 

我が言葉に耳を傾けよ(Audite seimonem meum)

 

直後、エマがそう言って目を開くと、彼女の瞳が蒼から金色に変化していたのだ。その目を見た瞬間、オーガは目を虚ろにしていく。

 

「オーガさん、貴女が悪人から賄賂を受け取ったという証拠、この方に渡してください。そして、それが終わり次第忘れてください」

 

エマがそう言うと同時に、路地の奥から件の別地区の警備隊長が出てきた。彼は以前からオーガの悪事を暴こうとしていたらしく、それを偶然聞いたロイドが協力することとなったのだった。

 

「ああ……わかった」

 

オーガはそのまま虚ろな目で、了承する。そのあっさりとした様子に驚愕しながらも、そのまま

 

「……本当に手に入った。帝具も無しにこんなことが出来るなんて、すごいな」

「私の一族に伝わる、秘伝みたいなものです」

「あと、先日俺が調べたんですがオーガは明日、ガマルから賄賂を受け取るそうです。その時を狙って、現行犯逮捕するのが確実ですね」

「……現行犯逮捕の方が民や部下で、奴の悪行を知らず信頼する者にも有効という訳か。何から何まで、協力感謝する」

「似たような仕事をしてる身として、守るべき市民を陥れる輩が許せないだけですよ」

「……君のような若者が、もっとこの国に居ればよかったのにな」

 

~回想了~

 

「あの後、記憶がねえと思ったら……俺が処刑に陥れたやつに、知り合いでもいたか?」

「いいや。俺じゃなくて、彼女がそうです」

 

ロイドが言った直後、背後から一人の女性が出てきた。それは、以前ロイド達が出会った婚約者の仇がどうこう言っていた女性だ。聞けば、その婚約者はオーガに罪を擦り付けられて処刑されたらしく、逮捕に踏み込めないならナイトレイドに依頼して仇を取ってもらおうと考えていたらしい。そしてその稼ぎ方は、”体を売る”ことだったという。

 

「お前達、オーガとガマルを抑えろ!」

 

隊長に言われるまま、オーガに迫っていく十数人の警備隊員たち。しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃねえ、雑魚どもが!!」

 

オーガは咄嗟に壁に立てかけていた剣を手に取り、それで迫ってきた隊員の半分を切り捨てた。頭頂部から縦に両断、横薙ぎに斬られて上半身と下半身が分離、中には頭だけ、頭を鼻の上からだけ、など様々な形で斬られるが、全員が即死だった。

その圧倒的な強さと無残な死体の数々に、生き残った警備隊員たちは戦慄する。

 

「……後が色々とめんどくせぇが、ここでてめぇらを皆殺しにすりゃ万事解決だ。おめぇと部下どもの腕じゃ、俺には勝てねえだろ」

「それは自覚済みだ……だが、この身を砕こうと貴様を法の下に裁く!」

 

オーガの凄まじい技量と威圧に隊員や女性、ガマルまでもたじろぐ中で隊長は啖呵を切った。やはり隊長だけあって、場数は踏んでいるようだ。それでも腕はオーガに劣るらしいが、メンタルでは少なくとも互角以上と思われる。

 

「何言ってんだおめぇ? 法が悪を裁くんじゃねえ、強者が弱者を裁くんだよバァカ! そして、俺が裁く側の強者ってわけだ!!」

「貴様も帝都の腐敗に飲まれて腐ったわけか……」

 

司法機関の人間とは到底思えないオーガの発言に、隊長は忌々しそうにつぶやく。良識的な人間として、同業者が腐敗政治に染まり切ったことは腹ただしいのだろう。

そんな中、オーガは例の女性に眼をやる。

 

「てめぇ、そんなに俺を貶めたかったみてぇだな。こいつらの始末が終わったら、それがどんな目にあわされるか教えてやる。まずはおめぇの家族を全員、婚約者と同じように冤罪で処刑してやる。で、それが済んでからおめぇ自身を俺の性奴隷にでもしてやるか。タダじゃ殺さねえ、限界まで絶望の淵に立たせてから、生きていくのが惨めに思えるまで悲惨な目に合わせてやる」

 

オーガのその発言は、外道のそれそのものだった。こんな人間が警察機関の関係者、しかも隊長職に就いていること自体、おこがましい事実である。

その発言を聞いて怒りが限界に達しようとしていた警備隊長だったが、彼の前にロイドがいきなり立ちふさがる。

 

「ロイド君、何を……」

「すみません。見てるだけのつもりでしたが、我慢の限界です。それに、あの男の腕じゃその内全滅しそうなので」

 

そう言い、ロイドは腰のホルダーに備えていた武器を手に取る。それは一対のトンファーだった。クロスベル警察で、”防御と制圧”に特化した特殊警棒という触れ込みで実装されている武器である。

ロイドの亡き兄で元警察官”ガイ・バニングス”も同じトンファー使いだったためか、ロイドが一番しっくりくる武器と語っている。

 

「あんたの器はもう知れた。そろそろ大人しくしてもらおうか」

「はっ。帝具使いならともかく、ガキ一人加勢したからってどうにかなるもんじゃねえだろ?」

 

静かな怒りを秘めたロイドだったが、オーガは完全に彼を舐めきっているようだった。しかし、ロイドも相当な修羅場を潜り抜けた猛者であるのは、ゆるぎない事実だ。

 

「オーガさん、アンタ強者が弱者を裁くって、さっき言ってましたよね」

「あ? いきなりどうした、おめぇ??」

「その言葉に賛同するのは不本意ですが」

 

そして、ロイドは間を置いてからオーガに言い放った。

 

 

 

 

 

「だったら、俺がアンタを裁いてもいいってことだよな?」

「てめぇが俺より強いだと!? そんなわけある筈、ねぇだろうが!!?」

 

オーガは激昂し、剣をロイドに向けて振り下ろした。ロイドは咄嗟にトンファーを交差して防ぐが、凄まじい衝撃で足元の床が粉砕された。

 

「……見たまんま、力は凄いみたいだな。だったら、防御より回避の方がいいか……エリィ、みなさんの退避を頼む」

「わかったわ。ロイド、気を付けて」

「ああ。こんな奴、とっとと倒してしまうか」

 

そして今度はロイドがオーガに攻撃する。ロイドのトンファーによる一撃は、鎧越しにも強烈な一撃を叩き込むためオーガも表情を歪めた。

 

「……ロイド君、大丈夫なのか?」

「大丈夫です。ロイドは、あの程度の犯罪者に負けはしませんから」

 

ただ一人その場に残った隊長がエリィに声をかけるが、ロイドへの信頼から

 

「おらぁあ!」

 

オーガは剣を振り下ろすが、ロイドはそれを紙一重で避けて、横腹にトンファーを叩き込む。

 

「はぁあ!」

「ぐっ!?」

 

更にロイドはオーガの顎にも一撃を叩き込む。鋭い一撃で顎を伝って脳を揺らし、脳震盪を起こそうとした。

 

「な、舐めるな!」

 

オーガは耐え抜き、怒りながら剣を横薙ぎに振るうが、ロイドは瞬間的にしゃがんでそれを避け、一気に飛び出す。そしてすれ違い際に背中に攻撃を叩き込む。

そんな中、オーガはあることに気づいた。

 

「て、てめぇ何でさっきから一撃も喰らってねぇんだ!? 俺が、鬼のオーガがおめぇみたいな若造にどうして一撃も喰らわせられないんだ!?」

 

ロイドは、先程から一度もオーガからの攻撃を受けていなかったのだ。

 

「……《螺旋》を極め、《無》を操る者が全ての武術の極みたる『理』に至れる」

「は?」

「あんたの知らない境地がある。俺はそこに片足を踏み込んだとだけ言っておきましょう」

 

ロイドはその言葉と同時に、オーガの顔面に更に鋭い一撃を叩き込む。あまりに強烈な一撃だったため、歯も数本ほど抜けている。そして、ロイドは一気にとどめに入った。

 

「はぁああああああああああ!!」

 

ロイドは怒号を挙げながらオーガに飛び掛かり、ひたすらトンファーで殴打する。軽く数十発は打撃を叩き込んだところで、ロイドはオーガと距離を取る。しかしその直後、ロイドの体を青いオーラのような物が覆い、その様子からオーガも自分にとどめを刺しに来ると判断する。

 

「タイガー……」

「ま、待…」

「チャアアアアアアアアアアアアアアアアジ!!」

 

オーガが命乞いをしようとするも、それが終わる間もなくロイドは飛び掛かる。そしてロイドの纏ったオーラは虎の頭部を形作り、オーガの体を貫く。

 

「あ、がが……」

 

そのままオーガは白目をむき、気絶した。ロイドの完全勝利である。

 

「ふぅ……」

 

軽く息を吐き、ロイドは腰のホルダーにトンファーをしまう。

 

「オーガはもう無力化しました。拘束の方、お願いします」

「あ、ああ。わかった」

 

ロイドの圧倒的な強さを目の当たりにし、隊長も戸惑いつつある。しかし、すぐにロイドの言葉に従って部下達を呼び出し、オーガを連行していった。

その後、隊長はロイドたちと別れて一人考え込む。

 

(彼のような強さと、正道を歩む心意気、話によるとまだ仲間がいるらしい……彼らがいれば、帝国も変わるかもしれない)

 

一人、ロイドたちに期待を募らせていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それじゃあ、私が責任もって彼らを送るから君達は任務に励みたまえ」

「ええ。けど、サヨちゃんはまだ病み上がりなので、手を出さないように」

 

リィンがライダースーツを着た、女性ながら男らしい容姿の人物に念を押す。彼女はエレボニア帝国の四大名門という貴族の息女、アンゼリカ・ログナーだ。本人が自由人な気質の為か、内戦時の様にカレイジャスの操舵士として同行していた。

 

「リィンさん、色々ありがとうございました」

「なるべく早く遊撃士になって手伝わせてもらいます」

「ああ。二人とも、頑張れよ」

 

タツミとサヨへの別れの挨拶を終え、カレイジャスは発進する。そして、リィン達は帝国調査に改めて乗り出すこととなった。




一度、タツミとサヨは原作のストーリーからフェードアウトします。不定期でタツミのゼムリア大陸紀行をやる予定なので、お楽しみいただけたら幸いです。

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