「さて。帝都の現状は気になるけど、辺境の村やその他の町の現状も気になるな」
タツミたちと別れてすぐ、リィン達は話し合った。帝都は先日までに見てきたとおり、生き地獄のような世界だった。
他者への暴虐に快楽を見出した異常性癖者、それを金に眼が眩んで容認する警察機関、私腹を肥やすべくそんな環境を維持し続ける大臣、そんな彼らに憎悪を向ける革命軍を始めとした帝国各地の人間。エレボニア帝国の身分による問題、カルバード共和国の移民問題、それら二大国の緩衝材となっているリベール王国といったゼムリア大陸の諸国。それらの抱える問題が比ではない。いくら独裁者で政治的手腕に優れていると言っても、外部から武力で倒されてしまっては元も子もなかったが、帝具という圧倒的アドバンテージからそれも難しい上に、帝国には最強の帝具使いと言われる、二大将軍が存在しているらしい。内一人は北方異民族を制圧しに遠征に向かっているらしいが、リィン達は真に最強と言われる人外級の強さの人間に会ってきたため、その将軍も匹敵する力を秘めていた場合を見越していた。もしそうだったら、帰還するのも時間の問題になってしまうので、武力での制圧はより難しくなるだろう。これが現在の、帝都の現状であった。
しかしその一方で、タツミをはじめとした帝国に属する町や村の状況は話でしか聞いたことが無かった。辺境で大した特産品のないタツミの故郷は、重税による貧困で喘いでいるというが、たった一つの村について聞いただけでは、詳しい現状はわからなかった。
そういうわけで、リィン達はチームに分かれて帝都と村落の調査に乗り出すこととなった。
そして帝都から数十アージュ離れた地点にて。
「アリサ、あとどの位なんだ?」
「地図によれば、もうすぐの筈なんだけど……あ、見えてきたわ」
大地が夕焼けに染まる中、リィンはバイクで帝都から離れた村の調査に乗り出す。サイドカーに乗せたアリサが地図で確認を取っていると、村の門が視界に入ってきた。
しかし、いざ近づいてみると様子がおかしかった。
「ねえ。村から煙が上がってない?」
「ああ。それにやたらとざわついた声が聞こえる」
尋常じゃない何かが村で起こっていると考え、リィン達はスピードを上げて村へと入り込む。
「な、何これ……」
「盗賊……にしては武装がしっかりしてるな」
村の中では虐殺が行われていたのだ。プレートメイルや機関銃で武装した集団が、逃げ惑う村民に攻撃を繰り返していたのだ。それも、無抵抗な老人や子供だけを狙う、故意に頭や心臓を狙わず即死しない攻撃だけを行う、という悪辣極まりない行為であった。
「八葉一刀流」
リィンは即座にバイクから降り、構えを取って武装集団に視線を集中する。そして、集団が赤ん坊を抱いて逃げる女性に照準を合わせると同時に、リィンが動き出す。
「”弐ノ型”疾風!」
リィンは凄まじいスピードで集団に接近し、すれ違い際に一人に一発ずつ、斬撃を放つ。風の剣聖の異名を持つ元遊撃士、アリオス・マクレインが皆伝した弐ノ型は、その特性から制圧戦に特化している。集団は武器を破壊され、その余波で腕や胸を斬られて戦闘不能に陥る。リィンはそれを確認すると同時に、追われていた女性に駆け寄った。そしてそれに合わせてアリサも女性に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ありがとうございます」
「今から安全な場所に向かいます。その後で他の人の救出を行いますから、他の家族のことも心配しないでください」
「な、何から何まですみ……」
しかし、女性はお礼を言い切れなかった。女性は背中から剣を貫かれ、そのまま切り上げられて死んだのだ。抱いていた赤ん坊もそのまま両断されてしまう。
突然の事態に、飛び散った血飛や脳漿を浴びながらもリィン達は茫然としている。
「君ぃ、折角の僕の楽しみを邪魔しないでくれるかな?」
女性を殺したのは、リィンと同い年と思われる男だった。高そうなアクセサリや刺繍入りの豪華なマントで着飾っている辺り、貴族のようだ。
「アンタが、集団のリーダーか? その身なりなら村なんか潰さなくても食うに困らないんじゃないか?」
「はぁ? 僕は盗賊の真似事をしたいんじゃないよ。僕は狩りをしてるんだからさ」
「狩り?」
男の言い分がわからず、リィン達は困惑する。しかし、男はわざわざその意味を説明した。
「僕は見た通り貴族なんだけど、四男なんて微妙な地位で家督も継げなくて、味噌っかす扱いなんだよ。だから、こうやって愚民共で狩りをして憂さ晴らしをしているのさ」
憂さ晴らし目的で罪もない一般人を虐殺する、アリアの時同様異常性癖の持ち主のようだ。
「……彼らはあんたや他の貴族の為に税金を納め、喰わせるための作物を育てているんじゃないのか?」
「僕には貴族というレッテルがあるし、優秀な部下もいる。その気にさえなれば、辺境から税金も作物も徴収できるし、危険種の狩りに行かせれば肉も食べれる。こんな切っても生えてくる雑草みたいな愚民共、いてもいなくても問題ないのさ」
リィンも情が通じないと思い実益的な話を持ち込むが、それすらも権力でねじ伏せると公言する。若者は、自分が世界の中心になっていると思っているようだ。いや、ナイトレイドの標的となりえる人間は九分九厘そういう者だという方が正しいだろう。
「で、君は僕に時間を無駄遣いさせた。だから、君を狩りの対象として最優先でやらせてもらうよ」
告げると同時に男は指を鳴らし、動ける部下達を全員こちらに近づける。
「この男を最優先で殺せ。僕と競争して、最初に仕留めた者には褒美をやろう」
『は!』
その言葉と同時に武装集団は、リィンに向けて銃を構える。この部下の連中も、目の前の貴族の若者からお零れを貰おうとすることしか考えていない人間が大半だろう。
「秘技……」
リィンは刀を構え、武装集団が攻撃するより前に動き出した。
「裏疾風!!」
直後、リィンは先程と同様に疾風を放ったかと思うと、若者を含めた十数人を切り捨てると同時に横薙ぎに衝撃波を放ち、全員に大ダメージを与えた。
「貴様ら、坊ちゃまと仲間達を!!」
攻撃が届かなかった者達がリィンに銃口を向けるが、それも不発に終わることとなる。
「アルテアカノン!!」
アリサはいつの間にかARCUSを駆動しており、アーツで集団を制圧していった。発動したのは上空に出現した魔方陣から、空属性のエネルギーを放出して地上の敵を一掃する、最上級の空属性アーツだ。
「き、貴様ら…こ、こんなことをして、いいのか?」
集団が倒れ伏しているなか、親玉である若者が声をかけてくる。
「僕は家督を継げないとはいえ、権力はあるんだ。その気になったら、お前らに刺客を向けることも出来るんだぞ」
「……俺はナイトレイドやお前らみたいになる気は無い。だから殺さないし、これ以上何もしない」
「殺さないのか? さっき言ったみたいに、刺客も送ってくるんだぞ。ひょっとしたら、帝具使いかも知れないんだぞ? そこのツレも、手籠めにされたりするかもだぞ?」
男は命に未練が無いのか、リィンを追い詰めることに躍起になっているようだ。しかし、リィンは返事も返さずにそのまま去っていく。
そして、村長と思われる老人に声をかけた。
「……いろいろ言いたいことはあるかもしれませんが、彼らはこのまま放置して村から離れましょう」
「いや。ここで恨みのままにこの男を殺しても、また違う誰かが同じことをするだけでしょう。このわずかな村民だけでも助けてもらって、ありがとうございます」
「じゃあ、この村から離れますから、みなさん移動をお願いします。それと、理解していただけてありがとうございます」
生き残った村民たちは恨みの籠った眼で貴族の若者とその部下達、その彼らを活かしたままのリィン達を睨む。そんな中、村長は恨みを押し殺してリィン達に礼を言い、村長の言葉に思うことがあったのか、恨みを持ちつつも誰もリィン達を非難しなかった。
アリサも村長や村民たちに礼を言い、彼らを先導する。
その後、元の村からいくらか離れた場所にある、村長同士で交流のある村に一晩かけて移動し、そのまま受け入れられるのだった。
「今回も収穫はゼロか」
「帝都の外の人は帝具自体を知らないこともあるみたいだし、無理もないかもね」
朝日が昇る中、バイクで帝都に戻るリィン達は落胆していた。あの後、両村の村長から例の犯罪者の手がかりを得ようと聞き込みをしたが、噂すら聞いたことが無いらしい。
「リィン……ここ、酷い国ね」
「ああ。私欲と恨みに汚れた、真っ黒な世界がこの国に出来上がってしまったんだな」
昨晩の蛮行を思い出し、再び暗い気持ちになってしまう二人。帝都の外にまで及ぶ暴虐に、やるせない気持ちになってしまうのだった。
自分達がどれだけ深い闇に挑もうとしているのかを、否が応でも自覚させられてしまう。
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「娘さんが行方無名?」
「はい。もう消えてから三日が経ちまして……」
リィン達が村の調査に向かったのと同じころ、エステルとヨシュアはスラムで落胆している男性を見つけて声をかけたところ、実の娘が行方不明になっていたという話を聞いた。
曰く、まだ16歳ながらに貴族もうらやむような美貌の持ち主で、それを活かして娼婦として働いていたらしい。エステルはお金のために体を売るという発想につい怒りがこみ上げるが、本人が特に恋愛に興味が無い、そうでもしないと毎日の生活が苦しいということで、取りあえず納得しておく。
「私や妻、まだ幼い弟の為に体を張ってくれて、それでいて日付が変わるまでには帰ってくるんです。そんな子が三日もいないままなんて、やっぱり何かされているかもしれないんです」
スラムとはいえ、帝都に住むから最悪のパターンも想像してしまっているようだ。顔色が次第に悪くなっていく。
「お二人の仕事は何でも屋のような物、でいいんですよね」
「えっと、厳密には違うけど……まあ人助けが仕事だからそんなところですかね?」
「だったら、お願いします!」
エステルから遊撃士の業務内容を聞き、その確認を取ると同時にいきなり土下座を始める。
「娘の行方を捜して、もし生きているなら連れて帰ってください! 最悪の事態も想像していますが、そうなっててもちゃんと葬ってやりたいんです!!」
やはりどんなご時世でも、親が子を心配するのは世の常なのだろう。最悪のパターンを想像しつつも、娘を連れて帰って欲しいという想いが強いことが見て取れた。
「勿論、少なくて申し訳ないですが、お礼もします。だから、お願いします」
そう言って男性は、十枚とわずかな数だが金貨を差し出してきた。男も僅かな生活資金を削り、娘を助けるために何とかしようと考えていたようだ。
「……ここまでされちゃ、手を貸さないわけにいかないね」
「よね。安心してください、おじさん」
ヨシュアと顔を合わせて、二人は結論を出す。そして、男性の差し出した金貨を手に取った。
「遊撃士協会規定の下、民間人を守るためにこの依頼を受けさせてもらうわ」
「!……ありがとうございます!!」
そういうわけで、エステル達は緊急依頼を受けることとなった。彼の生活を考えると受け取らない方がいいかもしれないが、そうしても彼の気持ちを折ってしまうかもしれなかった。また、遊撃士としての折り合いをつける為にも、報酬は受け取るべきという考えもあったためだ。
そして夜
「恐らく、彼女はここで連れ去られたのね」
「エステル、囮なんかやらせてごめん」
「いいってことよ。もし拙いことになっても、ヨシュアが助けてくれるでしょ?」
「ま、まあ……そうなんだけど……」
エステルはその後、例の娘が勤めている娼婦館やその常連客から聞き込みを行った。そして最後に目撃された時間や場所から、連れ去られた場所の目星をつけた。そしてエステルが囮となり、犯人をおびき寄せようという作戦だった。
「ヨシュア、アタシが連れていかれたらそいつらの後を追ってね」
「言わずもがなさ」
最後に言葉を交わした後、ヨシュアは気配を消してエステルを見守る。そしてエステルは、自ら人気のない場所に乗り込んで犯人をおびき寄せる。
「おらぁあ!」
「うぐ!?」
「へへ、こいつは上等な女だぜ。クライアントも満足するだろうな」
(……早速当たりみたいね)
もう犯人が現れたようで、エステルはそれらしい黒服の男に押さえられ、そのまま馬車に乗せられて連れていかれた。
約30分後
「旦那、いい娘を連れてきましたぜ」
「待ちわびたぞ」
エステルが連れてこられたのは、貴族の屋敷と思しき場所で、犯人もまた異常性癖の貴族と思われた。
そして部屋の中にいたのは目つきが鋭い初老の男で、部屋のいたるところに全裸の美しい女性が様々なポーズで立っている。いずれも直立不動であるため人形と思われたが、その割には皮膚の質感が人間のソレだった。
「ほほぅ。胸はそれほどでもないが、髪も肌も目の色も綺麗じゃな。新しいコレクションにピッタリじゃわい」
男の言葉を無視してエステルは辺りを見回すと、少女人形の中に探していた娘の人相書きとそっくりの物があった。どうやら、最悪の事態はすでに起こっていたようだ。
「読めたわ。あなた、女の子連れて行って剥製にしてるんでしょ?」
「ほぉ、よくわかったな。人間、いずれは老いによって美しさを失っていくのは世の常。儂はそれを若いころから嘆いておってのぉ。それを回避するために思いついた、最善策というわけじゃ」
エステルも、流石にこれは度し難かったため、次第に憤怒で表情が染まっていく。
「あなた、本気で言ってるの? それじゃあ、この人達はもう死んで何も感じられないのよ。貴方がそれを全部奪って行ったのよ!」
「美しさを失うのは、女にとって最大の恐怖。儂の妻もそれを嘆いて老い始めた時に自害してしまったのが、何よりの証拠じゃ」
「全員がそういう訳じゃないわよ! 人間、頭の中が全く同じ人なんていないのよ!!」
「じゃが、部分的にも共通している考えの者もおるじゃろう。そういう訳なら、儂は正しいのじゃ」
ああ言えばこう言う。男の心には、エステルの言葉が響くことは一生ないだろう。
「さあ、この娘も毒ガス室に連れて行け。肌に掠り傷でもつけたら、むち打ちじゃぞ」
「わかってますよ。俺だって完成品をまじかで見たいからな」
そのままエステルが連れていかれようとしたその時
「警備隊だ! お前らを逮捕する!!」
「エステル、助けに来たよ!!」
ヨシュアが、ロイドと供にオーガ逮捕に乗り出した警備隊長とその部下を連れて屋敷に乗り込んできた。
「ナイスタイミング!」
「な!? まさか、この女わざと」
よほど自分達に自信があったのか、囮捜査という発想自体が浮かばなかったらしい。男達は警備隊が乗り込んできたことに、酷く狼狽えている。
「人捜しに来たんだけど、どうやらもう手遅れだったみたいね。三日前に誰か攫って、剥製にしたんでしょ」
「あ、ああ。今日完成したばかりで、ここ数年で最高の出来だったんじゃが……」
追い詰められた状況にもかかわらず、男は己の性癖の話をしている。そして、この一言でついにエステルがブチギレた。
「はぁあ!」
「ぶべらっ!?」
エステルはヨシュアに預けていた棒を受け取り、男の顔面に思いっきり叩き付ける。そのまま吹っ飛んだ男は壁に叩き付けられ、気絶した。
「………警備隊のみなさん、こいつらの連衡をお願いします」
「あと、身元の分かる範囲だけでもいいんで、この剥製にされた遺体を遺族に返してあげてください」
「あ、ああ。善処しよう」
「あと、この子はアタシ達が依頼を受けた人の娘らしいんで、アタシ達の手で返させてください」
そして、男と依頼された集団は警備隊に連行され、剥製にされた少女達は遺族に返還された。
翌朝、エステル達は依頼人の下を再び訪れ、遺体を返した。
「どうやら、攫われたその日の内に殺されたらしくて……力が及ばなくて、ごめんなさい」
「いや……実際に目の当たりにすると流石にきついけど、予感はしてたから大丈夫です」
ヨシュアの謝罪に対し、男性はそう返した。もしも予想せずにこの状況を目の当たりにしていたら、ショックはもっと大きかった筈なので、これでもまだマシな方だった。
「それに、犯人は娘の体に傷一つつけていないようで……歪んでいながらも娘の美しさに気を使ってくれただけ充分です」
悲しみの色を残しつつも、無理に笑顔を浮かべる。実際、痛ましい姿で戻ってこなかっただけまともな方だった。
そんな中、エステルはヨシュアと顔を合わせ、直後に男性にあることを告げた。
「それで、ヨシュアと二人で考えたんですけど、依頼料の半分を返そうと思ったんです」
「へ?」
「もともと非公式の依頼なので問題ないですし、娘さんの葬儀代にでも当てていただけたらと……」
「……お言葉に甘えさせていただきます」
そして依頼料の半分を返し、エステル達は去っていった。同じころ、リィン達が抱いたものとやるせない気持ちで。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なるほど。わかりました」
リィンとエステルがそれぞれの事件を解決した朝、ロイド達はジョヨウという小さな村を訪れていた。治安の良さが評判とされている村だが、帝都よりかなり離れた位置にあるため、車で一日かかってようやく到着していた。
「ロイド、どうだった?」
「犯人の一人らしい人物の様相はわかった。けど、その後の行方なんかはわからないままだ」
「!? それがわかっただけでも、一歩前進じゃないですか!」
エリィと運転役として同行していたノエルに告げて、ロイドはその情報について話す。
「子供専門の強姦殺人者が、昔にここで事件を起こしたらしいんだが、そいつは以降行方知れずみたいだ」
そして判明した情報。
犯人は男で、ピエロの格好をした大男だったらしい。犯行内容は、ジョヨウの学校で教師が村を空けている間に生徒を虐殺したらしい。そして村の警備をしていた者も、帝具と思しき球を武器に惨殺した模様だった。しかも、骨も残らず灰になったり、一瞬で体が腐敗したりと、クロスベルで起こった事件と同じ惨状だった。
「完全に黒ですね。だったら、もっと情報があってもおかしくはないんですが……」
「それが、情報が入らない理由が度し難い理由でな」
ノエルの問いに答える形で、ロイドの口から衝撃の事実が語られる。
「ここを統治する領主が、ジョヨウの治安がいいという評判を落とさないために事件を隠蔽して、そのまま調査を放棄してしまったかららしいんだ」
「え!?」
「確かに、評判が落ちたら他の犯罪者が手を伸ばしかねないけど、流石にね」
それでも場凌ぎにしかならないため、根本的な解決にはならない。人道的にも、合理的にもこれはアウトであった。
「あと、最近になって分かったらしいが、犯人の名前はチャンプというらしい」
「名前がわかっただけでも、まあ収穫ね」
「これを基に、何とか見つけて逮捕しないといけませんね」
その後、ロイド達は話し合いに使っていた宿屋で昼食を取ってから、村を後にすることを決めた。帝都からジョヨウまで車で丸一日かかったため、早い内から出発したほうがいいだろう。
「貴方達、例の事件について聞いて回っているけど、帝都の軍人さんか何かかしら?」
「いえ、それが……」
店員の女性に尋ねられ、ロイドは正直に素性や目的を告げた。
「あのピエロに貴方の国も襲われたのね。帝都の人間は正直なところ頼れないから、貴方達に勝手に期待させてもらうわね」
「ありがとうございます」
「で、物は相談なんだけど……」
そして女性は、ある話を切り出した。
「例の教師の方、ですか?」
「はい。その、ラン先生がやっぱり一番堪えていたみたいでね」
女性が切り出した話は、例の教え子を皆殺しにされた教師、ランという青年のその後だった。彼はその後、チャンプへの復讐と事件を闇に葬った帝国を内側から変える、という二つの目的のために村を去って行ってしまったらしい。
「難しいかもしれないけど、ラン先生が手を汚す前に止めて欲しいの。一教師が内政官になるなんて、何かしらの手柄が必要だし、一番手っ取り早いのが武勲だから、軍人になってる可能性もあるから」
「……わかりました。絶対にという約束が残念ながらできませんが、善処させていただきます」
そして食事を終えた後、ロイド達は車で帝都へと戻っていった。