堕ちた勇者は彼の地にて   作:胸焼け

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本作はエウシュリー様の戦女神シリーズを舞台に、スクウェア(現スクウェア・エニックス)様のライブ・ア・ライブからは同作品のキャラクターの一人、オルステッドを主人公として登場させたクロスオーバー作品となっております。
両作品の世界観など公式で明らかにされていない部分については、作者の妄想で賄っております。ご注意ください。




第1章 らすとかいし
第0話 届かぬ翼


 ――これは既に終わった物語。ありきたりな創作ではなく本当にあった出来事だが、それを知る者は何処にもいない。歴史の一部分にぽっかりと空いた空白と、当時の人々の営みを物語る建造物が唯一の手掛かりとなるだけだ。初めてこの地を訪れた者が見たのは、中世の王国を連想させる石造りの城と城下町の跡だけであり、何故か現地の人間の姿や痕跡を見つけることは出来なかったという。

 過去に何者かの侵略を受けたのか、或いは恐ろしい天変地異がこの王国を襲ったにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というあり得ない現状に、答えの出ない憶測だけが積もるばかりであった。

 一体何が起きたのか、どのような結末を迎えたのか。誰にも語られぬ物語の中でしかし、当時存在したと思われる名も無き王国の跡地からある文献が発掘された。劣化が激しく全てを解読するには至らなかったが、そこにはこんな一説が綴られていた。 

 

 

 東の山に魔王あり……

 邪悪な心、邪悪な力を持ち、邪悪な姿となりて……

 すべてを憎むものなり。

 

 西の山に勇者あり……

 強い心、強い力を持ち、勇ましき姿となり……

 魔王をうちくだかん……  

                 

               

                

               

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ……! まだ終わらぬ!!」

 

 灰色の空に覆われ灰色の大地が広がる、忘れられた一つの世界。

 太陽は何処かへと隠れ、されど世界は闇に覆われることもなく。風は止み、自然の中に生物の気配は感じられず。まるで時が止まっているか、或いは全てが作り物かと錯覚してしまう程、此処は不気味な静寂に包まれている。

 かつてこの世界に存在し、栄華を極めた王国も既に滅びて久しい。人々の営みが失われた彼の地にて、ある男の命の灯火が消えようとしていた。

 

「……私を倒しても……私は生き続ける……」

「知るがよい『オディオ』の意味を!」

 

 響き渡るは戦士達の咆哮。奏でられるは鍔迫り合った対極の信念。

 

 東西に分かれ悠然とそびえ立つ双子の山。その内の片方、かつては魔王山という名を持っていた岩山の、どこか人工的な造りをした洞窟内に複数の人間達がいた。一人ひとりの服装や人種はばらばらで統一感が全く無いのにも関わらず何故か意思の疎通は通じるようで、まるで長年共に戦ってきた戦友同士のように、不思議と息の合った連携で迫りくる異形の怪物達を蹴散らし、今まさに最後の敵たる独りの男を打ち倒したところであった。

 

「な……何故勝てぬ……! これが我々の運命なのか!? 我々とお前達と一体何が違うというのだッ!!」

  

 髪は自らの流した血に濡れ、精悍な顔立ちは本来なら異性を虜にする魅力に溢れているだろうが、今はそこから覗く血走った眼が見る者全てを畏怖させている。

 身に付けている鎧はもはや誰の者なのか判らぬ程の返り血で赤黒く染まり、鎧としての機能が残っているのか思わず疑ってしまうぐらい錆びきっている。

 とうに限界を超えている身体を狂気ともいえる意思の力でここまで動かしてきたが、遂には耐えきれず両手と膝を地面に着き、それでも諦められないのか必死の形相で目の前の人間達に迫らんとする男に対し、彼を打倒した者の内の一人が静かに歩み出て、決意を固めた表情で男へと語り掛けた。 

 

「――――――――――――――――――――」

「…………そうか……私は――」

 

 何か感じ入ることがあったのだろうか。

 男は目の前の人物が語った内容に一瞬考え込むように目蓋を閉じると、急にそれまで張り詰めていた殺意を胡散させる。そして人間達にいくつか言葉を掛けると、力尽きたかのように地面へと倒れこんだ。  

 

 

(……私は……どうすれば良かったのだろうか……)

 

 男の脳裏には、己が魔王と化してからは思い出すことの無かった、在りし日の情景が走馬灯として鮮明に浮かび上がっていた。

 

 かつて王国の危機を救い、年老いて病魔に侵されながらも再び立ち上がり、自らの信念と共に聖剣を託してくれた真の勇者。

 人間の心の弱さ、愚かさを理解しながらも決して諦めず、最期は死と引き換えに自分が進むべき道を示してくれた賢者。

 そして……かつては親友と思っていたがその実、自分のせいで苦しみ、本人に告げられたあの瞬間までその事実に気付くことが出来なかった……運命を狂わせてしまった魔法使い。

 

 

(今更になって……彼等の顔を思い出すとはな……)

 

 既に光の消えた瞳はただ一点を見据えて。弱弱しく伸びる右手は何かを掴もうとするかのように虚空を彷徨う。

 

「すまない……ハッシュ、ウラヌス……ストレイボウ……私は全てを裏切ってしまった……逃げないと誓った筈なのに、真実に耐えきれず目を背けてしまったんだ……」

  

 

 そう呟く間も段々と足元から砂のように己の身体が崩れていく中、男にとっては罪の記録ともいえる美しくも醜い走馬灯の終わりに、ある女性の姿を幻視する。

 

 生涯を通して守ると誓ったヒトであり、家族よりも、誰よりも自分を信じると誓ってくれたヒト。

 

(君は私を今でも恨んでいるのだろうか。――いや、当然だな。こんなこと問うまでもない、か……)

 

 紅い筋がゆっくりと頬を流れる。罅割れ、乾いた口から掠れた声を絞り出す。

 

「……私は、それでも…………君を……して……アリ……シ――――」

 

 しかし彼に残された時間は余りにも短く、全てを告げる直前に身体は完全に砂と化してしまう。最期の瞬間に一体何を想ったのか、もはや答えを知る術は無い。

 いつの間にか目の前にいた人間達は姿を消し、遂にこの世界に存在する人間は一人もいなくなった。そして呼応するかのように灰色の空に太陽が戻り、瞬く間に晴天の青空へと移り変わっていく中、男の残骸は何処からともなく吹いてきた風に乗って、誰も知らない世界の片隅へと消えていった。

 

 

 澄んだ青空と暖かな陽の光に照らされる大地。瑞々しい葉を広げた木々は穏やかな風に揺れ、色鮮やかに咲き乱れる花畑を、蝶や蜜蜂達が自由に飛びまわる。

 

 人間のいない小さな箱庭で、自然の営みだけが静かに育まれている。

 これは既に終わった物語。結末を知る者は……今はまだ、誰もいない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――西暦二〇一X年、日本のT都A区において近隣住民の集団失踪事件が発生。この事件の調査開始から数カ月後に同地域において局地的な地震が観測される。

 この事態に陸軍は災害救助を名目とした部隊の派遣を決定。同日中に救助部隊を投入したが、突如現場に出現した未確認兵器からの攻撃で部隊は壊滅。部隊の総指揮を執っていた陸軍総帥ヤマザキもこの際の戦闘で殉職した模様。未確認兵器のその後の行方は掴めていない。

 後の調査で、ある新聞社への匿名によるリークで発覚し世間を震撼させることとなる、液体人間事件に関連するものだと明らかにされる。

 尚、事件の首謀者と思われる元筑波の天才科学者シンデルマンには陸軍の支援がされていた疑いがかけられたが、陸軍側はこの一連の事件に関する一切の関与を否定。また、事件発生後に最重要人物であるシンデルマン含め主要な容疑者等が相次いで行方不明になったこともあり、事件の真相は未だ解明されていない。

  

 

 

 

 

 

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 ――西暦二一XX年、惑星マシーナにて新種の生命体を確認。宇宙軍はこれを直ちに捕獲し、研究の為ある民間貨物輸送船を一時的に徴用し地球へと輸送を行う。

 しかし航行中に、上記輸送船のメインコンピュータに搭載されていた人工知能「OD-10」が突如、原因不明の暴走を起こす事態が発生。これにより乗組員六名中、四名が死亡し二名が重傷を負うも、乗組員の一員として現場に居合わせた宇宙軍所属ダース伍長の手により、暴走した人工知能はメインコンピュータと遮断され、事態は収束する。

 輸送船が地球に帰還した後、当局の専門機関にて精密検査を行った所、問題である人工知能の思考パターンの複雑さとそれを支える尋常でない学習速度等が、既存の技術レベルを大きく上回るものであるという見解が得られた。

 この結果、各種報道機関へは表向きには単なる航行中の事故として発表し、裏では軍部主導の下、秘密裏に研究開発を進めることになる。

 尚、事故現場の立会人であるダース伍長は、当初の任務であった新種生命体の輸送という目的を失敗した事での責任が一時問われたが、上記事件解決の功績により不問にされる。しかし本人の意思により退院後に宇宙軍を退役し、以後この件に関して言及される事は無かった。

 

 

 

 

 

 

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 ――西暦二XXX年、地球環境の汚染は悪化の一途を辿る。既に頓挫した惑星開発に代わり人類が限られた生存圏の中で環境の改善策を模索する最中、異世界より未知の知的生命体が現れ始める。非常に戦闘能力の高いこれらの生命体に対し人類は危機感を覚え、異世界に対抗するための兵器を造り出す計画を発動。生物を取り込む事で稼動する「ソルガッシュ」、人間の女性を依り代として設計された「機工戦姫」等が開発される。

 その後、異世界より流れ着いた生命体の身体を研究、改造することで計画の最終段階、「機工女神」の開発に成功する。既存の兵器とは比較にならない、正に規格外の性能を誇るこれを人類は人々を守護し導く豊穣の女神と命名し、コストの関係から少数生産に留めながらも更なる研究を進める。

 

 

 

 

 

 

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 ――西暦XXXX年、豊穣の女神は世界の外側を観測している中で自らの世界と性質の似た異世界の存在を掴む。

 荒廃した地球の現状を顧みた結果、人間の手では改善の余地無しと判断し、自然環境の豊かな彼の地に目を付けていた豊穣の女神は人類の救済という目的の下、自らの性質を利用する事で二つの世界を融合させることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ――西XXXXX年__世_融合___歪__発生______異世界_知的_命体________破棄_______大規模戦闘____________未知_体系の観測____________人類__困窮________人_の存続を最優先___________________知的__体とのコンタクト_____成____________機能____停____

 

 

 

 

 

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 ――本来なら決して交わる筈のなかった二つの世界。

 人工的に生み出された女神の手により相反する世界は一つとなり、かつての歴史を終わらせることとなる。

 そしてまた新たな世界の誕生と共に、新たな歴史も創り出される。偶然か必然か、因果の歪みは終幕を迎えた物語のページを捲り、眠っていたモノを呼び覚ます。

 しかしそれは全くの想定外であり、もしかしたらこのことが素晴らしい喜劇となり得るかもしれないし、または更なる悲劇を起こすのかもしれない。 

 定められた脚本から弾かれた魔王(勇者)は白紙の未来で何を見て、何を失い、何を得るのか。

二つの回廊の終わり(ディル=リフィーナ)にて己の答えを探し求めるべく、剣を手に取り三度立ち上がる。

 

 

「ただの人間がこの聖域に足を踏み入れるとは……お主、何者だ?」

「ほう、ずいぶんと活きの良い男だのう。どうじゃ、我と楽しいことをせぬか?」

「美しくも冷たい剣筋、実に見事なものよ。だが惜しいな、これには欠けているものがある。フフフ、だが問題無い! 何故なら我のモノになることで真の輝きと美を得ることが出来る――ってまたんか! 我の話を聞けー!!」

 

 

 道中に出会うは人外の者達。時に剣を交え、時に背中を預け合う。   

 

「よう、お前さんこの辺りじゃ見かけねぇ顔だな。ん、俺か? 俺はこの先のマクルの街でバリハルト神殿の剣士をやってる、イカした男だぜ」

「はいはい、あたしはこの坊やのお姉ちゃんでーす! この子ったら私がいないといつもこうなのよー」

「あなた、何処かであったかしら? ――ごめんなさい、なんでもないわ」

 

 新たな世界で紡ぐ人々との縁、冷え切った心に灯される暖かな絆。

 

 そして……

 

 

「先程はありがとうございます!あの、俺の名前はセリカっていいます。よければあなたのお名前を聞かせてくれませんか?」  

「大袈裟だな、この程度気にしなくていい。……ああ、すまない。私の名は――」

 

 世界の垣根を超えて、運命の女神が二人の勇者(主人公)を邂逅させる。この出会いが一体何を生み出すのか、それは例え神であっても分からないだろう。何故なら、これから真っ白な歴史の一ページを綴るのは旧き神でも現の神でもない、新たな世界に生きる全ての住人達の意思なのだから。

 

 

 今こそ幕を開けよう、誰も知らない物語を。

 

 今こそ語ろう、誰もが知ることとなる物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 LIVE A LIVE 新生編

 

 

 

     『 勇者 』               

 

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