「おかしい……」
「あん?」
朝、俺が机に突っ伏しながらそう呟くと、前の席に座っていた渡辺がそれに反応する。
「葉月が……」
「あ、別に語らなくていいから」
珍しく俺が悩みを相談しようというのに、渡辺はあっさり拒否した。
いや、拒否してんじゃねぇよ。
仮にも親友だろ。
「どうせノロケ話でも聞かされるんだろ?俺はごめんだね」
「ちげぇよ。今の俺のどこがノロケてるっていうんだ」
「彼女がいるところ」
「……」
何も言い返せなかった。
ちょっと違う気がしないでもないが、確かにその通りかもしれない。
「とにかく、そういうのじゃないんだよ」
そして俺は渡辺に俺が悩んでいる理由を事細かに話した。
それはもうじっくりと、俺の告白から初めてのお家デートまで詳しく語った。
「そこで葉月が言ったんだよ。和也くんは本当に」
「いい加減にしろぉぉぉお!!!」
急に渡辺が叫び出し、俺の話を遮った。
なんだよ、これからがいいところなのに。
「やっぱりただのノロケ話じゃねーか!悩みはどうしたんだよ!?」
しまった。
途中から話すのが楽しくなってしまい、つい関係ないことまで語ってしまった。
非リアの渡辺には悪いことをしたな。
どうやらリア充ってのはそれだけで罪らしい。
「すまん、つい熱くなっちまった」
「はぁ、もういいから。要点だけ言え」
渡辺が呆れた様子でそう言った。
要点だけか、なかなかに難しいな。
簡単に、より短く、俺の言いたいことを渡辺に伝える。
「つらい」
「ぶん殴るぞてめぇ」
俺の回答が気に入らなかったのか、渡辺が拳を構えた。
俺はなんとか彼をなだめようとする。
どうやら簡略化し過ぎたようだ。
それでは真面目に答えてやるとするか。
「葉月が冷たいんだよ……」
昨夜、彼女が帰宅した後にメールを送ってみたところ、返信の内容が素っ気ないように感じられた。
だが、そんなことで落ち込むほど俺はネガティブ思考ではない。
校門前で声をかけても、挨拶をしたっきりそのまま歩いて行ってしまったのだ。
「マンネリ化したんじゃねーの?」
何故だか無性に腹が立つ。
「よし、表へ出ろ」
「冗談だよ、冗談」
拳を構えて勢いよく席を立った俺を、渡辺が慌てて
今は大事な話をしているのだ。
冗談を言っている場合ではない。
「ところでマンネリ化ってなんだ?」
「知らないのに怒ったのか!?」
そんなことは大体口ぶりで察することができる。
これでも一年親友やってんだぞ。
・・・そんなに長くもないな。
「マンネリ化っていうのは……まぁ簡単に言えば、時間が経過して冷めることだな。恋は一時の恥ってやつだ」
「それを言うなら恋は一瞬、だろ?」
恥じてどうするんだよ。
相手に失礼だろ。
「細かいな、どっちだっていいだろ」
「よくはないだろ……まぁいいや。お前に聞いたのが間違いだったよ」
俺がそう言うと、渡辺が色々と文句を言ってきたが、俺はひたすら無視を続けた。
(でも本当にどうしたんだ?……後で聞いてみるか)
多少勇気が要るが、このままでは
手遅れになる前に手を打っておいた方がよさそうだ。
◆◆◆◆◆◆
「あの、和也くん」
昼休み、葉月になんと言えばいいか考えていると、驚くことに彼女の方から話しかけてきた。
「や、やぁ葉月。キョウハイイテンキダネ」
緊張し過ぎてつい片言になってしまった。
彼女も彼女で「う、うん、そうだね。本日はお日柄もよく……」とか言ってるし。
お日柄は天気が良いという意味ではないのだが・・・そんなに混乱しているのか。
「えっと、今朝はごめんなさい。わたし、和也くんのこと無視しちゃって……」
あぁ、そんなことか。
わざわざ謝りに来てくれるなんて・・・ほんと律儀というかなんというか、真面目だなぁ。
「大丈夫、気にしてないから。それより何かあったの?元気がないみたいだけど」
本当はすこぶる気にしていたが、それよりも葉月のことが心配だ。
「……ううん、特になにも」
少し間があったが、彼女がそう言うなら心配はない……のか?
結局振り出しに戻っただけの気もするが。
「一つだけ聞いてもいいかな?」
「ん、どうしたの?」
何を聞かれるのかとドキドキしていたが、それは杞憂に終わった。
質問の内容が至極単純なものだったからだ。
「週末に予定はある?」
デートのお誘いかと思い一瞬心の中で舞い上がったものの、よく考えれば週末には用事があるのだった。
そう、あかりんと遊びに行くという用事が。
「ごめん、先約があって……」
すると、葉月の身体が少し震えたように見えた。
今日はいつもより冷えるもんな。
風邪には要注意だ。
「そう、なんだ……楽しんで来てね!」
満面の笑みでそう言い残し、葉月はどこかへ去って行ってしまった。
(……『楽しんで来てね』?)
……葉月に「友人と遊びに行く」なんて言っただろうか?
それから数日後、相変わらず葉月とはギクシャクとしたままだが、俺は約束の日曜日を迎えたのだった。