俺たちが向かっているゲームセンターは秋葉原駅から10分ほど歩いた先にある。
休日ということもあり、大勢の歩行者を避けながら歩かなければならない。
「秋葉ってこんなに人がいるのね」
途中、あかりが意外そうにそんなことを言った。
「あかりは秋葉にくるのは初めてなのか?」
「うん、あんまり外出したりしないから」
どうやら彼女はインドア派らしい。
さすがに3年も一緒に遊んでいれば大体分かってはいたが、まさかそこまでとは……。
「じゃあ新作のゲームが出たときはどうするんだ?通販じゃ店舗特典付かないだろ?」
彼女はゲームだけでなくアニメやライトノベル(ラノベ)も好きだったはずだ。
店舗特典のポスターやフィギュアにも目が無いものかと思っていたが……。
「あ〜、そういう時はメイドに買いに行かせるから」
「メイド!?」
今メイドって言ったのか!?
メイドっていうと、あれか?
毎朝起こしてくれたりご飯作ってくれたり、家に入るとお出迎えしてくれるっていう……。
「もしかしてあかりって……お嬢様?」
「うーん、本当はあんまり言いたくないんだけど……カズくんならいっか。私は七瀬財閥の実娘なの」
「七瀬財閥?それってあの有名な!?」
七瀬財閥。
日本人なら誰でも聞いたことがあるであろうそれは、歴史上でも異例の多角的財閥と言われている。
スポーツ、化粧用品、家電、造船業や鉄道まで管理しているらしい。
他にも様々な分野で活躍しているらしいが、ニュースで耳にした程度なので俺はよく知らない。
「そうだけど……有名なのは私の両親で、私自身は全然凄くないの」
はしゃぐ俺を見てあかりが不機嫌そうに言った。
確かにそうかもしれないが、あんなに凄い人の娘なのだ。
きっと彼女も相当優秀なのだろう。
「そのこと学校のみんなは知ってるのか?それこそかなりの大騒ぎになりそうだけど」
「大丈夫、私の学校は聖アルブレヒト女学院だから。あそこはお嬢様なんて大して珍しくもないから」
聖アルブレヒト女学院、略して聖女。
ヨーロッパ系の学校で、お嬢様でないと入学すらできないと言われている超名門校だ。
「七瀬財閥の娘で聖女……そんな子と友人だったなんて……」
「だ〜か〜ら〜、そんなに凄くないって。聖女だって外敵から娘を守るために入学させる家がほとんどだし。そんな名家のお嬢様が集まってるんだから、名門って言われるのも当然のことよ」
・・・外敵?
外敵ってなんだ外敵って。
もしかして命とか狙われてんのか!?
「あの、ちなみに外敵っていうのは……」
「え?あぁ、男のことね」
「おとこ?」
「そう、男。生物学的に言えばオス」
なるほど〜、さすがお嬢様だ。
可愛い娘が悪い男に捕まらないための配慮ってわけか。
・・・いやいや、俺も男なんだけど!?
別に手を出すつもりなんてないけどさ、決して世界的に活躍している大企業のお嬢様にお近づきになっていいほどの男じゃないんですけど!?
「あ、カズくんは大丈夫だからね」
俺が内心焦っていると、それに気づいたあかりが配慮してくれた。
どうやら俺と会うことは彼女のご両親に認められているらしい。
「今日のデートことはオフレコだから」
「どこが大丈夫なんだ!?」
人差し指を立てながらウインクなんかしてるがそんなもので誤魔化されるか!!
もしバレたら何されるか……。
「冗談だって、カズくんは大袈裟だなぁ」
相手が相手だ、大袈裟にもなるだろう。
冗談ならべつにいいけどさ。
「新人のメイドに一方的に言いつけて勝手に出てきたけど……」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、なんでもない」
「?」
何かブツブツ言っていたような気がしたのだが・・・まぁいいか。
「あ、あれじゃない?」
するとあかりがいきなり前方を指差した。
その先にあるのは目的のゲーセンだ。
「もう着いたのか。やっぱりあかりと喋ってると時間が経つのが早く感じるな」
ゲームをやっている時もそうだが、やはりソロよりも協力プレイの方が楽しい。
一人だと歩くのもただの作業にすぎないが、二人ならそれだけで遊んでいるような気持ちになる。
「そりゃそうよ。何と言っても、私たちは親友なんだから!」
あかりはニッコリ笑ってそう答えた。
その笑顔に俺は少しドキッとしてしまう。
(親友、か……)
ゲームしか取り柄のない俺に初めてできた親友。
出会いはちょっとアレだったものの、今では俺の大切な人だ。
「これからもよろしくな、あかり」
感謝の気持ちも込めて言ってみたのだが、どうやら彼女には意外だったらしい。
小さな溜息を吐き、さも当然かのように彼女は言った。
「当たり前でしょ。ずっとずっと、私たちは親友よ。だから―――」
直後、俺たちを強い風が吹き付け、彼女の言葉は掻き消されてしまう。
「ごめん、聞こえなかった。だから、何だって?」
「何でもない。そんなことより、はやく中へ入るわよ」
そう言ってあかりは自動扉をくぐってゲーセンの中へ入っていった。
「あ、おい。待てって」
彼女の後を追うように、俺もドアを通って中へ入っていった。