ゲームセンターの中へ入った瞬間、様々なゲームの音が俺の耳を
コインの落ちる音、パチンコを打つ音、ゲームのBGMや大勢の人の声。
それらが混じり合って不快な、しかしどこか安心できるような不協和音を響かせている。
「相変わらずアキバのゲーセンはすごいな……。うちの近くにあるのとは桁が違う」
人の数もそうだが、建物も大きく、ゲームの種類も豊富だ。
さすがはオタクの聖地といったところか。
(……ゲーセンとオタクは別に関係ないか)
俺は辺りを見回して先に入って行ったあかりを探そうとしたが……そんなことをする必要はなかったみたいだ。
俺の前方では金髪の女の子が耳を押さえながらしゃがみこんでいる。
「何やってんだよあいつ……」
すぐに彼女のもとへと駆け寄り、声をかける。
「まさかゲーセン来るのも初めてだからこの音にビックリしたとか言わないよな?」
茶化すようにそう言うと、うずくまっていたあかりが顔をこちらに向け、俺を睨んできた。
「そのまさかだけど、なにか悪い?」
「べつに?腐ってもお嬢様なんだなって思っただけだよ」
「誰が腐ってるですって!?」
怒ったあかりが勢いよく立ち上がった。
「それだけ元気があれば大丈夫だよ。ほら、せっかく家から抜け出してきたんだから時間は大切にな」
「言われなくてもわかってるわよ!今日一日とことん遊び尽くすんだから、覚悟しておいてね!!」
あかりは怒りながらクレーンゲームのコーナーへ歩いて行った。
「はいはい、わかりましたよお嬢様」
溜息を吐きながらそう言ったものの、内心ではすごく楽しみにしている俺がいた。
(ゲームもいいけど、たまにはこういうのもいいかもな)
三年もの間ゲームでしかあったことのない相手とこうやって現実で会って遊ぶ。
新鮮で、なにより楽しい。
「どうかしたの?」
一人でニヤニヤしている俺をあかりが怪訝な目で見てきた。
やばっ、この前雫に注意されたばかりなのに・・・。
「な、なんでもない。……ん?それって……」
あかりの背後にあるクレーンゲームの景品には見覚えがあった。
紙とペンを持って何やら悩んでいるような顔をしている猫。
若い女性の間で大流行中のマスコットキャラクターだ。ちなみに名前はナツメ猫という。
たしか雫も好きだったはずだ。
「あぁこれ?可愛いでしょ?!初めてテレビで見た時からずっと欲しかったんだ〜」
一体この猫のどこが可愛いというのか。
女子はたまによく分からないことを言う時があるな。
「よし、じゃあ取ってやるよ」
俺は台へと近づき、財布からお金を出す。
値段は・・・二百円。地味に高いな。
(最近百円のクレーンゲームがめっきり減ったな。これが不景気ってやつか……)
心の中でグチグチと文句を言いながら、俺は百円玉を二枚台に投入する。
本来なら単体で置いてあるものを狙うところだが、俺はあえて山のように積み重なっている部分を狙う。
(昔より値段が二倍も高いんだ。たった一個で満足できるか!!)
不純な思いを掲げながら、俺は慎重にアームを動かしていく。
(よし、ここだ!)
ボタンから手を離すと、下へ下がったアームが猫の山をテッペンから押し潰す。
「あぁっ!ナツメ猫が!!」
隣で何やら騒いでいる奴がいるが、そんなのは気にしない。
人間とは時に残酷な生き物なのだ。
アームはそのまま山を崩し、二匹の猫が奈落の穴へと転落していった。
「よし!一気に二匹ゲット!!」
ご機嫌気分で俺は取り出し口からナツメ猫を取り出し、片方をあかりに渡す。
「……くれるの?」
「当たり前だろ。何のために取ったんだよ」
「そ、そう。それじゃあ……」
マスコットを受け取ったあかりは小さく微笑んだ。
◆◆◆◆◆◆
(いいなぁ、羨ましいなぁ)
和也くんの後を追ってゲームセンターに入ったわたしは、二人の様子を見てそんなことを思った。
あのナツメ猫・・・じゃなくて、彼からのプレゼントなんてわたしでも貰ったことがない。
それにクレーンゲームをしていた彼はとても生き生きとしていた。
彼がゲームを好きなことは知っているが、それでも少し嫉妬してしまう。
(わたしもナツメ猫……じゃなくて、和也くんからのプレゼント欲しいなぁ)
すると二人が再び歩き出した。
慌ててわたしもその後に続く。
なんだか他の人に見られている気もするが、そんなのは気にしない。
恋する乙女は時として勇敢になるのだ。
(あそこは……ぷ、プリクラ!?ちょ、ちょっと早すぎない?!)
プリクラというのは親しい間柄の人同士がやるものだと思っていたが、意外とライトなものなのだろうか。
それとも、既にそのような関係になってしまっているのか。
(とにかく近づいてみないと……)
わたしは二人が入ったプリクラに耳をあてた。
僅かだが、中から声が聞こえてくる。
『ちょっと近くないか?』
『そう?これくらい普通よ』
『初めてゲーセン来たお嬢様に普通を語られたくないんだが』
『うるさいわね。ほら、カメラ見て』
『わかったから、そんなに引っ張るなって』
(なんかすっごくいい感じの雰囲気なんですけど!!)
あんなに楽しそうな彼の声は初めて聞いた気がする。
わたしの前では決して見せない、彼の素顔。
それを他の女の子に見せていることに、わたしはつい苛立ちを覚えてしまう。
『ぷっ、あはははは!なにこれ、変な顔〜』
『お前がやったんだろうが!そっちがその気なら……』
『あっ、私の顔に何書いてんのよ!!』
(どうしてそんなに楽しそうにしているの?和也くん……)
二人の楽しそうな会話を、わたしはただ聞いていることしかできなかった。
◆◆◆◆◆◆
「あ〜楽しかった!」
ゲーセンから出た途端、あかりが背伸びをしながら叫んだ。
どうやら満足してくれたらしい。
(クレーンゲームにプリクラ、コインゲームやFPSまで……。どんだけ満喫してんだよこのお嬢様)
彼女がお嬢様だなんてこのはしゃぎっぷりからは想像もできない。
人は見かけによらないというが、彼女の場合は家柄によらないってとこか。
「そんじゃ、そろそろ飯にするか」
時間はすでに十四時を過ぎている。
こんなに長い時間ゲーセンにいたのは初めてかもしれない。
「いや、今日はもう帰ろうかな」
「えっ?」
さすがにまだ帰るには早いのではないだろうか。
まさかお嬢様は門限までそんなに厳しいのか?
「言ったでしょ、こっそり屋敷を抜け出してきたんだから。そろそろ帰らないと、さすがにあのメイドちゃんが可哀想よ」
そういえばそんなことを言っていたな。
今頃その人は昼食を運んできた先輩メイド達にこってり絞られているのだろうか。
(ってそれはいくらなんでも酷すぎだろ!!)
こんないい加減なお嬢様に振り回されるメイドたちのことを考えると、つくづく気の毒に思う。
「よし、早く帰ってその子に謝れ。いいな?」
「指図されなくてもわかってるわよ。エラそーに」
あかりが拗ねながら駅の方へと歩いて行くのを見て、俺も昼食を食べる店を探そうとする。
「カズくん!!」
突然俺を呼ぶ声が聞こえたので、俺は慌てて後ろを振り返る。
見ると、あかりが両手をメガホンのようにして叫んでいる。
「今度はちゃんと許可をもらってくるから!その時は……」
「あぁ、その時はまたゆっくり遊ぼうな!」
俺も彼女を真似るように、手をメガホンの形にして応える。
それを聞いたあかりはニッコリと笑い、走ってどこかへ行ってしまった。
「まったく、そんなに走って転ぶなよ?お嬢様」
苦笑いをしながらそう呟いて、俺は昼食を求めて再び歩き出す。
◆◆◆◆◆◆
「初めまして、よね?カズくんの彼女さん」
「こちらこそ、会えて光栄です。七瀬財閥のお嬢様、七瀬あかりさん」
葉月がヤンデレに見えてきました……。