あの後一部始終を見ていた最上が取材を申し出てきたが、無理やり断って俺はなんとか教室へ辿り着くことに成功した。
しかしそこで待ち受けていたのはクラスメイト達(主に女子)の冷ややかな目だった。
もう呆れに呆れたのだろうか、罵倒が飛んでくるようなことはなかったが、重い空気に包まれながら俺は渡辺のもとへ歩み寄る。
「おはよう渡辺。今日も天気がいいな」
「そうだな、お前さえいなければもっとよかったんだけどな」
どうやらかなり怒っているらしかった。
まぁそりゃ怒るよな。
この前まで一緒に「リア充爆ぜろヒャッハー」とか言ってた同士が二股疑惑かけられてるんだもんな。
「渡辺、違うんだよ。これには深い理由があってだな……」
慌てて弁解しようとするが、しかしそれは渡辺の笑い声に掻き消された。
「冗談だよ。そこそこの付き合いだ、お前に二股かけるほどの度胸がないことくらい知ってるよ」
「そ、そうか。それならよかった」
なんだか馬鹿にされたような気がしないでもないが、許してくれるらしいのでひとまず安心だ。
……いや、安心するにはまだ早いな。
「ところで、葉月はどこに……」
俺がおずおずと尋ねると、渡辺は急に険しい顔になり、無言で遠くを指差した。
その先にいたのは、席に座りながら例の新聞紙を読んでいる葉月だった。
「遺骨は拾ってやる」
「不吉なこと言うなよ!!」
一年生のとき、葉月が本気で怒った時があったが、さすがの俺もあれにはビビった。
怒られてた奴泣きそうになってたもんな。
「いいからさっさと行け。姫宮のやつ、さっきからずっとあんな調子なんだよ」
「え?」
もしかしたらあの記事に相当ショックを受けたのかもしれない。だとしたら早く誤解を解かなければ。
覚悟を決めた俺は、ゆっくりと葉月へ近づいていった。
すると周りがさらにざわつき始める。修羅場でも期待しているのだろうか。
「は、葉月。その記事は全部デタラメだ。俺はただあかりとデート……じゃなくて、遊んだだけなんだ。えっと、あかりとは昔からの知り合いで、だから浮気とかそういうのとはまた違うわけで……」
自分でも何を言っているのかわからなくなってきたが、それでも必死に訴えかける。
「と、とにかく、俺が好きなのは葉月だけだ!だから俺を信じて」
「和也くん」
突然葉月が俺の言葉を遮った。
怒られるのかと思った俺は一瞬死を覚悟したが、頭を上げた葉月の表情はいつも通りの穏やかな顔をしていた。
「大丈夫だよ。わたしはこれっぽっちも疑ってないから」
「怒ってない……のか?」
「うん、怒ってないよ」
「本当に?」
「本当だってば。疑り深いなぁ」
「そ、そうか。よかった……」
どうなることかと思ったが、葉月は俺が想像していたよりも寛大な性格だったらしい。
様子を見ていたクラスメイト達の緊張も解けたようだ。
意外とキレた葉月の恐ろしさを知ってる人って多いんだな。
「ちょっとお手洗いに行きたいんだけど……」
「あ、あぁ!いきなり話しかけて悪かった」
席を立った葉月が教室を出て行ったので、俺は机の上に置いてある新聞紙を手にした。
さっきは慌ただしくてあまり読む時間がなかったのだ。
「それにしても無駄によく撮れてるな。さすが最上……ん?」
よく見ると写真に穴が空いている。ちぎったような何かで突き刺したような……とにかく自然に破れたわけではなさそうだ。
「……葉月がやったのか?」
いや、それはありえない。さっきは許してくれるとか言ってたし、きっと他の誰かがやったんだろう。それか手元が滑っちゃったとか、そんなところだろう。
「おーい、一ノ瀬。雫ちゃん来てるぞー」
そんなことを考えていると、俺を呼ぶ渡辺の声が聞こえてきた。
噂を聞きつけてすぐに駆けつけたのだろう。さすがは雫だな。
「仕方ない。もう一仕事といくか」
正直非常にめんどくさいが、そんなことも言ってられないだろう。
重い足取りで、俺は妹のいる廊下へと向かった。
七瀬あかりの顔の部分だけが破られた新聞紙を、机の上に置いて。