妹との白熱した口論から早四時間、午前中の授業を終え、昼休みの時間となった。
授業終了のチャイムの音と共に、クラスメイトの何人かが勢いよく教室から出て行ったのが見える。
どうやら今日も始まる……いや、始まったようだ。
この学校には購買―――食料を調達する場所が設けられているが、当然数は限られてくる。そのため、毎日この時間になると食料を求めて獣たちが戦争を始めるのだ。
そんな彼らのことを学生社会では
そしてその闘いの一端をのうのうと眺めている俺は、傍観者に該当することになる。
「あれ、渡辺?」
俺の席は一番後ろで窓際というなんだかラノベの主人公にありがちな場所なので、教室の全貌を見渡すことができる。
なんとなく教室に残ったメンバー、すなわち傍観者仲間を確認してみると、そこには渡部の姿もあった。
彼は決闘者の筈だが……。
今日から傍観者側についた、ということなのだろうか?
気になった俺は渡部へと近づく。
もともと昼食はいつも彼と食べているので、弁当があるならこちらとしても助かる。
戦争から帰還しても昼休みが終わってたなんてざらにあることだしな。
「渡辺、今日は弁当なのか?珍しいな」
「おう、一ノ瀬か……」
こちらを向いた渡辺の顔は真っ青で、まるで生気を吸い取られたような表情をしていた。
「ど、どうしたんだよ?顔色が悪いぞ」
「どうしたもこうしたもあるかよ。授業中に寝ちまって出遅れたんだ」
「ああ、なるほど……」
どうやらこいつは決闘者の天敵の一つ、
「さすがに三分も出遅れれば詰みだ。今日は昼食抜きだな……」
そう言って渡辺は溜息を吐いた。
これが購買戦争の恐ろしさだ。
闘う前から敗北を約束された決闘者達は、空腹に抗いながら
友人として、そんな彼を放ってはおけない。
「渡辺、俺の弁当分けてやろうか?」
「なに?本当か!?」
渡辺にとってはこの上ない申し入れだったのだろう。目を輝かせながら俺の肩にしがみついてきた。
「だって俺たち、友達だろ?これくらい当然だ」
「一ノ瀬……ありがとう。本当に、本当にありがとう……!」
「おいおい、泣くなよ。さあ、こっちへ来い。食べようぜ!」
「ああ!!」
絶望の中の希望。
偉大なる某ジャーナリストが最期に残したこの言葉は、まさに今の状況のようなことを指しているのだろう。
渡辺の手を引き、俺は自分の机へと走り出す。
俺たちの戦いはこれからだ!!
―――――完
「まーたあんたの彼氏が変なこと始めたわよ」
「賑やかでいいじゃない。わたしはあの和也くんも好きだよ?」
「わからないわー……」
◆◆◆◆◆◆
俺の席へ辿り着いた俺たちはさっそく弁当を開け、お互いの食べる分をわけようとする。
しかし突然俺のケータイから着メロが流れ始め、分配は一時中断となった。
「悪いな、ちょっと待っててくれ」
「はいよ。それにしてもお前、その着メロどうにかなんねぇのか?」
「ん?ラブマスターの曲だぞ?」
ラブマスターとは人気急上昇中の二次元アイドルユニットの名前で、彼女達が歌う曲はどれも神曲と
俗に言うアニオタ達の中には三次元のアイドルを毛嫌いしている者も存在する。
そんな彼らを取り込んでしまおうという、ありそうでなかった新企画。それが二次元アイドル、ラブマスター。
オタクアンチな雫でさえ、ラブマスターの曲の素晴らしさには屈するほどだ。
「知ってるよ。だから言ってるんだろ?アニソンにアイドル、二つを兼ね備えたラブマスターはオタク臭丸出しだぞ」
「別にいいだろ、隠してるわけでもないし」
それに俺は既にゲーマーとして全国に知れ渡っているのだ。今更取り繕ってもしょうがない。
ゲーマーでアニオタ。非リア充の代名詞とも呼ばれるその二つの称号は、俺には通用しない。
なんといっても俺には彼女がいるからな!!
「まあお前がいいならいいけどよ……」
そう言った渡辺の顔が何かを懸念するかのような表情をしていた理由を、この時の俺は知る由もなかった。
◆◆◆◆◆◆
教室を出た俺は、教室から離れた比較的静かな場所でケータイを見た。
どうやら電話の主はあかりらしい。
少し時間が経ってしまったので、着信が切れる前にと素早く『応答』のボタンをタップした。
『出るのが遅いのよ!!こっちはもう少しで昼休み終わっちゃうんだから!』
まず一言目がこれだ。
相変わらずおてんばなお嬢様だな。
「耳元で怒鳴るなよ。どうしたんだ?こんな時間に電話なんて」
電話をかけてくること自体稀だが、平日の昼間にかけてくるのは初めてではないだろうか。
日曜日に
『カズくんがあんなメールを送ってくるからでしょ。それにしてもビックリしたわよ。あんたがギルマスと同じ学校だったなんて』
そうだった、すっかり忘れていた。
朝の一件の後、居ても立っても居られなくなった俺はメールで確認をとったのだ。
「あれ、言ってなかったか?」
『言ってないわよ。まあそれは置いといて、二重奏の件だったわね』
「おっと、そうだな。で、本当なのか?」
『そんなわけないでしょ。私もカズくんと組むつもりだったしね』
よかった、と俺は安堵する。
あかりと組みたいというのもあるが、何より彼女を九条に近づかせたくないのだ。
『でももしあいつが本当に私と組みたいと思ってるなら、断るのは難しいかもね』
「ん?なんでだ?」
『なんでって……彼がギルマスだからに決まってるでしょ。断ったりしたら必ず何か仕掛けてくる。私だけじゃなく、私と組んだカズくんも巻き込まれるわよ』
なるほど。プライドの高いあいつのことだ。誘った女に断られたなんてことになったら、きっと報復しようと考えるに違いない。
大会に出たあかりを見て、彼女に興味を持ったりしたら尚更だ。
もしかしなくても、彼女はこういったトラブルを避けるために現実での接触を拒んでいたのだろう。
だとすれば、どうして今になって俺に会ったりしたのだろうか。
「俺は問題ないよ。あいつとは前々から仲が悪いし。それより心配なのは……」
『ギルド、ね。曲がりなりにもあいつはギルマス。メンバーである私たちに逆らう権利はない』
最悪の場合ギルドからの追放。
いや、それ自体は問題ない。
ただ、あのギルドに在籍しているメンバー達に見捨てられるのは少し厳しいものがある。
オンラインゲームに協力プレイは必須だ。
あいつが俺たちとの協力プレイを禁止すれば、これ以上FQを上位プレーヤーとして続けていくのは難しいかもしれない。
それは単純に、ゲーマーとしては避けたい結末だ。
「あいつと少し話してみるよ。それで解決するとは考えにくいけど」
『私もいざという時のために考えておくわ。頼りにしてるわよ、カズくん。それじゃあね』
ブツッと電話が切られた音がした。
ケータイをポケットへしまい、考え事をしながら俺は教室へ戻った。
「おー、遅かったな一ノ瀬。先に食べてたぞ」
「ああ、遅くなって悪いな……って、全然残ってねーじゃねーか!!」
俺の好物がギッシリと詰まっていた筈の弁当箱に残っていたのは、二つのプチトマトとサラダ、そして白米のみ。
「何言ってんだ。ちゃんと半分だろ?」
「肉と野菜で分けてんじゃねぇよ!!俺は草食動物か!?」
「草食系なことに間違いはねぇな」
「そういう問題じゃないだろ!!」
俺たちの友情に亀裂が入った瞬間だった。
前半だけ見ると作品間違えたかな?と思っちゃう内容かもしれませんね。
明日はクリスマス番外編を投稿する予定です。