「九条の弱点だぁ?」
弁当箱に残されたサラダをモシャモシャと食べながら、俺は渡辺に九条の弱点について聞き出していた。
プライドの高いあいつのことだ。弱みの一つでも握って脅せば必ず手を引くだろう。
「なんかないのか?キザだとか、女たらしだとか」
「それただの悪口だろ」
「イケメンだとか、背が高いだとか」
「もう悪口にすらなってねーよ。お前どんだけあいつにコンプレックス感じてんだよ」
自分で言っていてだんだん腹が立ってきた。あいつが男にだけ嫌われてる理由ってやっぱりこれか。
「そういうお前はなにか知ってるのかよ」
「あん?えーっと……いつまでたってもテストで一位になれない……とか?」
「うわっ、ビミョー……」
「お前にだけは言われたくねーよ!!」
あいつがテストで一位になれないのは葉月が原因だ。去年からずっと、彼女は首席をキープし続けている。
彼女から首席の座を奪うというのは極めて困難なことだろう。
「うーん、これじゃ手詰まりだな……」
それからしばらく二人で考え込んでいると、突然渡辺が何かを思い出したかのように言った。
「そういえばお前、生徒会長と仲が良かったよな?」
「ん?なんだよいきなり。そりゃまあ一応知り合いだけど……」
葉月を通じて生徒会の人たちとは何度か顔を合わせているが、そこまで親しい仲になった覚えはない。
にもかかわらず会長の
「風の噂で九条は生徒会長に頭が上がらないって聞いたことがあるような……」
「ふーん。もしかしたら二人の間になにかあるのかもしれないな」
これはどうやらしらべてみるかちがありそうだ。
単純に生徒会長に逆らったら退学処分になりかねないから、とかそんな理由かもしれないが。
「よし、早速放課後になったら聞きに行ってみるよ」
「本気か?デマかもしれないんだぞ?」
「ダメ元で行ってみるよ。どうせ他にアテもないからな」
できれば行きたくないというのが本音だが、まあ仕方ないだろう。
親友と俺のゲーム人生のためだ。
ゲームのためなら俺はなんだってする男さ。
「そういやなんでそんなこと調べてんだ?」
「嫌いな奴の弱点を知るのに理由なんているかよ」
説明が面倒なので投げやりに答えたものの、あながち嘘でもないことに俺は言ってから気づいた。
◆◆◆◆◆◆
放課後、俺は高等部の校舎四階にある生徒会室へと向かった。
途中にある音楽室からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。今年も体育祭で応援曲を演奏 するのだろうか。
そういえば去年の体育祭では葉月や九条のファンクラブの応援が凄まじかったな。
運営委員会の応援団がショボく見えたし。
そんなことを考えているうちに俺は生徒会室へ着いた。茶色で洋風のドアは、よくアニメ
に出てくる高級そうな扉に似ている。
というかこの部屋自体が校長室より上の階にあるんだよな。それでいいのか、学校長。
俺はドアを三回ほどノックした。
「すみません。誰かいませんか」
俺がそう言うと、間も無くドアが開けられた。そこに立っていたのは葉月だ。
そういえば今日は生徒会の仕事があるとかなんとか言っていた気がするが、九条のことで頭がいっぱいだった俺はつい聞き逃してしまったらしい。
「はーい……って、和也くん!?どうしたの?生徒会になにか用?」
「あ、ああ。生徒会というより神楽坂先輩に用があるんだけど……」
「会長?会長ならさっき部屋から出て行ったけど……」
「てことはすれ違ったか……?まいったなぁ」
「葉月さん?どうかした?」
なかなか戻ってこない葉月を心配したのか、部屋の奥から出てきたのは副会長の
堅実で真面目な人で、アグレッシブで後先考えずに行動する神楽坂先輩の世話役として一役を担っている。
「こんにちは、鈴森先輩」
「あら、一ノ瀬くん。こんにちは。何か用?」
「和也くんは会長に用があったみたいなんですけど……」
「吹雪に?ごめんなさい。あの子、行き先を言わずに出て行っちゃったの。帰ってくるかどうかも分からなくて……」
さすが神楽坂先輩。はっちゃけてるなぁ。
てか、帰ってくるかどうかも分からないってどういうことだよ。仕事を放棄したってことか?
「たぶん帰ってこない……ですよね。既に会長の分の仕事は終わってますから」
「はぁ……。あの子、仕事はできるんだけどねぇ」
性格に難あり、か。
神楽坂先輩って仕事できたんだな。腐っても生徒会長ということか。
……別に腐ってはいないな。たぶん。
「和也くんの用事は今日中じゃなきゃいけないの?明日の放課後なら会長もいると思うけど」
「うーん。なるべく……いや、今日じゃないと困るな……」
あかりには今日中に九条と話をつけるって言ってあるからな。先延ばしにするのは望ましくないし、なによりあかりに怒られそうだ。
「困ったわね。……そういえばどうして吹雪を探しているの?」
「九条について聞きたかったんです」
「九条って……一組の九条輝くん?」
葉月が驚きの声を上げた。
どうやら俺と九条の仲が悪いのを知っているらしい。
まあ去年のいざこざは新聞委員会が大々的に報道してたからな。知っていて当然か。
「それなら美雪さんに聞いてみるのはどう?吹雪の妹だし、何か知ってるかも」
「えっ、神楽坂先輩に妹なんていたんですか!?」
あの人絶対一人っ子だと思ってたのに……。
あの人の妹なんて想像もつかないな。
年幼い分姉よりアグレッシブだったりして。
「大丈夫だよ、和也くん。美雪ちゃんはすっごく良い子だから」
「そ、そうか。よかった……」
さりげなく美雪さん『は』って言ったな。
葉月も相当苦労させられてるんだろうなぁ。
鈴森先輩も隣で苦笑いしてるし。
「試しに行ってみたら?たぶん保健室にいると思うから」
「分かりました。一応行ってみます」
「事情はよく分からないけど……頑張ってね。和也くん」
保健室にいるということに若干の違和感を感じながらも、俺は神楽坂妹の所へ向かうことにした。
◆◆◆◆◆◆
階段で一階まで降り、しばらく歩いて保健室へと辿り着いた。
当たり前だが、ここの扉はシンプルな引き戸だ。
早速扉を開け、中へ入る。
「失礼しま……す?」
部屋の中へ入った俺は、驚愕のあまりつい挨拶が疑問形になってしまった。
部屋の中にいたのは、葉月に勝るとも劣らないほどの清楚な雰囲気を醸し出している一人の女子生徒だった。
(まさかこの子が神楽坂先輩の妹ってことはない……よな……?)
いくらなんでもそれはないだろう。こんなに優しそうで可愛い女の子があの人と同じ血を引いているわけがない。というより、そんな理不尽はあってはならない。
「えっと、神楽坂さんはどちらに……」
椅子に座っているその子に恐る恐る尋ねると、ゆっくりとこちらを向き、静かに口を開いた。
「神楽坂美雪でしたら
(なん……だと……)
どうやら本当にこの子は神楽坂先輩の妹らしい。
一体どういう経緯を辿れば神楽坂家からこんなに良い子が産まれてくるのだろうか。
まさか姉を反面教師にして育ったから、とか?
「?」
神楽坂妹が怪訝な顔でこちらを見た。
まあ戸惑うのも無理ないか。
いきなり年上の先輩が自分を訪ねてきて、しかも目の前で葛藤を始めてるんだもんな。
あれ、これ普通にアウトじゃね?
初対面なのにイメージ最悪?
「えっと、俺の名前は」
「知ってます。二年三組の一ノ瀬和也先輩ですよね」
鋭くかつ冷たい声で俺の自己紹介は遮られた。
どうやらこの子は俺のことを知っているらしい。
「FQの全国大会で独奏、二重奏共に三連覇した天才ゲーマー。他にもあらゆるジャンルのゲームで活躍していらっしゃるとか」
お、おう。どうやらこの子は俺のことを知り尽くしているらしい。なんだ?俺のファンなのか?
「姫宮先輩と恋人関係になった途端、聖女の七瀬あかりさんとデートをするような二股野郎」
怖いよ!!なんでそんなに知ってるの?!
ストーカーさんなの!?
てか、二股野郎って……。
「どうしてそんなに俺のことを知ってるんだ?」
若干引き気味になりながらも、俺は彼女に質問をした。
すると突然、ニッコリと笑い、彼女はひっそりと告げた。
「あなたのことなら私はなんでも知っていますよ、先輩」
その声に俺は背筋が凍るような感覚を覚えた。
彼女をジッと見ていると、そのつぶらな瞳に吸い込まれるように感じる。
彼女の周りには不思議なオーラが漂っている。
「キミは一体……」
「冗談です」
「冗談かよっ!!!」
あんなに意味深なこと言ってたくせに冗談で済ませやがったぞこの子。
「新聞委員会の記事で読んだだけです」
「そ、そうか……」
盛大なギャグをかました割には随分と冷静だな。
涼しい顔をしながらこんなイタズラを思いつくとは……。
神楽坂美雪、恐ろしい子っ!!
「それで、私に何か用ですか?保険委員会の仕事があるのでできれば早くして欲しいのですが」
「あっはい。実は九条輝について聞きたいんだけど……」
「九条先輩ですか?」
「そう。二年一組の九条」
「テストの度に二位ばかりとっている?」
「うん。別に好きで二位なわけじゃないと思うけどな」
本人に聞かれたら怒られるぞ。
「高ルックスで女子生徒からモテモテの?」
「ファンクラブもあるらしいな。あんなの都市伝説かと思ってたが」
一介の高校生にファンクラブなんて必要ないと思うけどな、俺は。
羨ましいとかそういうことじゃなくてさ。
「確か祖父がフランスの貴族なんですよね」
「らしいな。なんでわざわざこんな学校に来たんだろうな」
聖女の男バージョンとかないのだろうか。
「そういえばいつも隣にいる女子生徒は」
「もういいから!!お前俺の質問聞く気ないだろ?!」
もう九条の話ですらないし。
確かにあの二人のことも気になるけどさ。
「聞きたいか聞きたくないかで言えば……今すぐ帰って欲しいです」
「全面的に拒絶した!?初対面なのに酷くない?」
「先輩の噂はよく耳にしますから。前々から関わりたくはないと思っていましたが……実際に会ってみて確信しました。私は先輩と一緒にいるべきではないようです」
酷い嫌われようだな。
仮にも姉は俺を気に入ってくれている(?)というのに。
「と、とにかく俺の話を聞いてくれ。追い返すのはその後でも遅くはないだろ?」
「そうですね、分かりました」
どうやら分かってくれたらしい。
これでやっと説明でき……
「とりあえず今日のところは帰ってください」
なかった!!
言葉のキャッチボールが成立しないよ!
俺の投げたボールをバットで打ち返してるよこの子。
中途半端なところで終わってしまい申し訳ないです。
登場したばかりですが美雪ちゃんにも年末年始番外編に出てもらう予定です。