美雪ちゃんと別れた後、俺と葉月は学校を後にした。恋人同士になってから一緒に帰るのはこれでまだ二回目。二年生になったことで生徒会の仕事がより忙しくなったので、下校時刻が合わないことが増えたのが原因だ。
ちなみに葉月は一年生の頃から生徒会に所属しており、鈴森先輩と共に副会長を務めている。秋に行われる生徒会選挙で、おそらく会長に昇進するだろう。
「そういえば和也くん。用事は済んだの?」
「用事?ああ、九条のことか。それが美雪ちゃんも知らなかったみたいで……」
「そうなんだ、残念だったね。……美雪、ちゃん?」
俺の美雪ちゃんの呼び方に疑問を感じたのか、突然葉月が顔をしかめた。やっぱり初対面でちゃん付けはおかしいのだろうか。
本人は気にしていないように見えたが。
「いや、その……神楽坂先輩もいるから下の名前で呼んだほうがいいかなーって思って」
「ふーん。でもちゃん付けすることはないよね。私も『美雪さん』って呼んでるし。そういえば莉乃ちゃんのこともたしか……」
「いやいや、莉乃ちゃんは幼馴染みたいなものだしさ。それに歳も離れてるから子供をあやすような感覚というか……」
出会ってから一年以上、やっとお互いを名前で呼ぶ関係にまで発展した葉月からしてみれば、俺が他人を名前で呼んでいることが気にくわないのだろう。
「むー……」
頬を膨らませながらこっちを見つめている。怒ってるんだろうが、小動物みたいですごく可愛い。今すぐ家に持ち帰って自室で飼いたい気分だが、さすがにそんな
「えっと……ごめんなさい」
「んー……まあ相手は後輩だし、今回は許してあげる」
少し間があったが、どうやら納得してくれたみたいだ。他人の話をちゃんと聞き分けてくれる女は良い女の証拠だ。やっぱりどこぞのお嬢様とは違うな。
「そうしてくれると助かる。……悪いな、葉月」
「あ、謝らないで!わたしこそこんなことで怒っちゃって……ごめんね。でも……」
「でも?」
「わたしだって、嫉妬くらいするんだからね?だって和也くんはわたしにとって大切な人なんだから……」
「葉月……」
もじもじしながら話しているところがまた可愛らしい。全国の女性の皆様にはぜひ彼女を見習ってほしいものだ。
そういえばさっきも似たようなセリフを聞いたような気がするが、相手が違うだけでこんなにも差が出るのか。
「あ、それじゃあ和也くん、わたしの家ここだから」
そうこうしているうちに、いつの間にか葉月の家に着いてしまったらしい。
名残惜しいが……今日はもう遅いし、遊ぶなら休日でいいだろう。
「おう。それじゃあまた明日」
「うん!ばいばい、和也くん」
こうして一週間ぶりの下校デートは幕を閉じた。
◆◆◆◆◆◆
「ただいま〜」
「遅い!!」
「うえっ!?……ってなんだ、雫か」
玄関のドアを開けて家へ入ると、そこには仁王立ちした雫がいた。もしかしてずっと待っていたのだろうか。
「なんだとはなによ。いい?私はまだ納得してないんだからね!」
「納得って……ああ、あかりのことか」
「……七瀬さんのことはもういいよ。カズ兄も色々考えてるんだなって分かったから」
「そ、そうなのか?」
雫なりに朝の出来事について考えてくれたのか。俺、すっかり忘れてたけどな。
「でもそれとこれとは別。どうして葉月さんと付き合ってたこと黙ってたの?」
ギクッ!と自分の身が震えたのがわかる。一番聞かれたくなかったことを聞かれてしまった。
朝は有耶無耶になってたからなんとかなると思ってたんだけどなぁ。
「恥ずかしかったから……じゃダメか?」
実際、俺が葉月のことを雫に言わなかった理由はそれなのだ。雫にとって見知らぬ人ならまだしも、共通の友人と付き合ったと報告するのは非常に恥ずかしい。
他の理由としては強いて言うなら親にばれたくないから、くらいのものだ。
「ダメ、と言いたいところだけど……分かった。今回はカズ兄を信じる」
「ほ、ほんとか?!」
「こ、今回だけだからね!もう隠し事なんてしないこと。分かった?」
「イエスボス!!」
俺は右手で敬礼をしながらそう言った。
怒られなくてよかったと安堵しつつ、俺は立ち去る雫の様子を見た。もう機嫌は直ったらしい。
「あ、せっかくだからお母さんたちにも言っておかなきゃね」
「おいちょっと待て」
いきなりなんてことを言い出すんだこの妹は。俺の嫌がることを熟知してるのかお前は。
「そうと決まれば善は急げ、だね!お母さーん!!」
「マジでやめろよ雫。おい!おーい!!」
この後俺と雫の追いかけっこが一晩中続くことになるのだが、それはまた別のお話。