一年前。
第三回FQ公式大会、
俺と、パートナーである九条は試合会場にいた。四万人以上を収容できるその巨大なドームには、試合開始二時間前にもかかわらず、大勢の人々が押し寄せていた。
世界的人気を誇るゲームなだけあり、マスコミも訪れており、俺たちも何度か捕まってしまったが、どこぞの新聞委員で慣れたおかげか、どうにか逃げ切ることに成功した。
さらに公式の発表によれば、大会の様子はとある動画配信サイトで生放送されるらしい。
「すごい人だね、カズ。こんなにたくさんの人々が僕のために集まってくれたんだ。これは頑張らないといけないね」
「いや別にお前のためじゃないだろ。それに、みんなどうせ
「夢がないなぁカズは。それとも、神童と呼ばれる男にはもう見慣れた光景なのかな?」
「神童って言うな。俺だってこんなにたくさんの人の前でゲームなんてやったことない。だから考えないようにしてんだよ、察しろよ」
ちなみに神童というのは俺の二つ名のようなものだ。といっても、別に選手には二つ名が付けられるとかそういう話ではない。単に俺が様々なゲームでトップを獲ってきた故に自然発生しただけだ。他人から褒められるというのは素直に嬉しいが、二つ名まで付けられるとさすがに気恥ずかしい。
「そうか、それは悪かったね。それじゃあ僕は用があるから失礼するよ。控え室でまた会おう」
「ん?用事ってなんだよ」
「ちょっと、ね」
結局九条は詳しい事は何も言わず、意味深にその場を立ち去っていった。
◆◆◆◆◆◆
「さて、これからどうするか……」
試合開始まではまだ時間がある。スポーツ競技でもなければテストでもないので、今からすることといえばキーボードを磨くくらいのことしかない。さらに俺はそこまでキーボードに愛着を持っているわけでもないので、結局のところ暇になってしまったわけだ。
「おーい。一ノ瀬くーーん!」
すると、どこからか俺を呼ぶ女の子の声が聞こえてきた。
聞き慣れた、いや聞き慣らされたこの声の主は……。
「やっと見つけた!ずっと探してたんだよ?電話にも出ないし」
「よ、よう最上。悪いな、全然気がつかなかった」
実際のところ気づいていた上で無視していたのだが。正直、試合が終わるまでは会いたくなかった。どうせ試合直前のインタビューがこれから始まるのだろう。昨日学校で試合前日インタビューを散々受けさせられたというのに。
「まったくも〜。ま、いっか。決勝戦頑張ってね。応援してるから!」
「お、おう。……お前、試合観て理解できるのか?」
「失礼だなぁ。私だってゲームくらいするよ」
「え、そうなのか?」
意外だ。いや、最上がゲームをすることが、ではなく。
「そうだよ。まあ私もそんなにやる方じゃないんだけどね。さすがにFQほどの国民的ゲームとなると記者としてやらないわけにはいかないっていうか」
「確かに流行に乗り遅れてたら記者なんて務まらないよな」
「そう、そうなんだよ!優秀な記者っていうのは流行に敏感でなくちゃならないんだよね!」
「うんうん。そーかそーか」
最上が記者のなんたるかを熱く語っている間、俺は適当に相槌を打ちながらずっと一つの疑問を抱いていた。
(これもしかしてインタビューないパターンなのか?!いや嬉しいんだけどさ。なんか物足りないっていうか……)
内心困惑している俺をよそに、最上の演説はますますヒートアップしてきた。
「それでね。記者っていうのは時には残酷な心を持つことが大事なの。スクープのためなら相手のことを無視した行動が必要なの。相手が忙しかろうがそんなのは関係ない。だって私たちは記者なのだから!!」
「そーかそー……いや、そこは配慮するべきだ」
「というわけで直前インタビューいってみよーー!!」
(あー、やっぱりこうなるのかー)
この後質問攻めにされた俺だったが、もしかしたら緊張した俺をリラックスさせるための彼女なりの配慮だったのかもしれない、と後から思ったりもした。
―――彼女の真意は未だ誰にもわからない。