ゲームの彼女とリアルの彼女   作:悠木仁

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【Oside】中等部の日常

 

 

 

「しずくぅ!しずくってばぁ〜!」

 

 

 昼休み、私こと一ノ瀬雫のもとへ駆け寄ってきたのはクラスメイトの桜内莉乃(さくらうちりの)だ。

 莉乃とは小学校の頃からの付き合いで、今も仲良くしている。

 何かがあるとすぐに私に泣きついてくる癖は、中学生になった今も一向に治る気配が見当たらない。

 

 

「またぁ?今度は何やらかしたの?」

 

 

 莉乃に付き合うのもいい加減にうんざりしそうな私は、つい冷たい態度をとってしまった。

 

 

「お弁当を家に忘れてきちゃったんだよぉ」

 

 

「えぇ……お金は?購買で買ってきたらどう?」

 

 

「もってない」

 

 

「……」

 

 

(相変わらずだらしないわね……)

 

 

 自分も兄やお母さんに「だらしない」とよく言われるが、さすがにここまでではない―――はずだ。

 一度二人に彼女の情けない姿を見せてやりたいものだ。

 

 

「しずくぅ、お腹減ったよぉ〜」

 

 

「あぁもう、わかったわよ!私のお弁当分けてあげるから」

 

 

「え、ほんと?やったー!」

 

 

 莉乃が手を挙げながら喜んでいるのを半ば呆れつつ眺めていると、教室のドアが勢いよく開かれた。

 そこに立っていたのは……カズ兄!?

 

 

「お、雫!悪いけどちょっと匿ってくれないか?クラスの奴らに追われててさ」

 

 

(追われていた?)

 

 

 兄が追われることとなった原因はよく分からないが、なるほど。

 汗だくになりながら息を切らしているのはそういう理由か。

 

 

「あ、お兄さんじゃないですか!お久しぶりです。おやおや、なにやら美味しそうなものをお持ちですねぇ?」

 

 

 すかさず莉乃が兄に絡み始めた。彼女は何度も家に招いているので、兄ともいつの間にか仲良くなったのだろう。

 

 

(てか、親友の兄に何してんのあの子……)

 

 

 いくら知り合いとはいえ、会っていきなり食べ物を要求するなんて一体どんな神経をしているのか。

 寛容な兄もさすがにこれは受け入れがたいはずだ。

 

 

「しずく、みてみて!ヤキソバパン貰っちゃった!!」

 

 

(あげたんかいっ!!)

 

 

 甘すぎるよ、甘々だよカズ兄!!

 うちの血筋はこの子に借りでもあるの!?

 

 

「どうしたんだ?そんな顔をして」

 

 

 私の気持ちも知らずに、兄が不思議そうに話しかけてきた。

 

 

「あれ、いいの?」

 

 

 そう言いながら私が莉乃の持っているヤキソバパンを指差すと、「あぁ」と納得したかのように兄が答えた。

 

 

「自分用に買っておいたんだが……全力で走ったせいで食欲がなくなっちゃったんだよな」

 

 

「ふぅん。でも何も食べないと午後の授業もたないんじゃない?」

 

 

「ん、言われてみれば……。でも今から買いに行くのもなぁ」

 

 

(莉乃に返してくれとは言わないのね。まぁ、カズ兄らしいけど)

 

 

 私はバッグの中からお弁当箱を取り出した。ウサギが描いてあるお気に入りの布を解き、フタを開ける。中身は玉子焼きにプチトマトなど、定番でごく普通のラインナップだ。

 私はその中からタコさんウインナーを一つ、箸でつまんだ。

 

 

「はい」

 

 

「……え?」

 

 

 兄が意味がわからないとでも言うかのような顔をした。当然といえば当然だ。いきなり実の妹からウインナーを差し出されたのだから。

 

 

「『え?』じゃないわよ。お弁当分けてあげるから口を開けてって言ってるの!!」

 

 

「あ、あぁ。そういうことか」

 

 

(まったく、こっちだって恥ずかしいんだから…)

 

 

 そしてもう一度仕切り直そうとした次の瞬間、再び教室のドアが大きな音を立てながら開かれた。

 

 

「見つけたぞ、やっぱりここに来てたか!!」

 

 

 そう叫びながら教室へ入ってきたのは兄のクラスメイトの……た渡辺?とかいう人だと思う。

 あの人も兄と同じように汗をかいて息切れしている。

 

 

「渡辺?なんでばれたんだ!?」

 

 

「お前の考えることなんてお見通しなんだよ。さぁ、こっちへこい!!」

 

 

「ふざけんな!捕まったらどんな恐ろしいことになるか…」

 

 

「ほひひはんはひははっはんへふは?(お兄さん何かやったんですか?)」

 

 

 ただでさえやかましい二人の口論に莉乃まで乱入してきた。しかもパンを食べながら話していることが私をさらにイライラさせる。

 せっかくのチャンスを逃したことと莉乃の言動で私の怒りは頂点に達した。

 

 

「うるさぁぁぁぁぁぁぁあい!」

 

 

 私の言葉に教室にいた生徒が一斉に静まりかえった。他の三人もポカンとした顔で私を見ている。

 一時の静けさで冷静になった私は急に大声をあげたことが恥ずかしくなってきた。

 

 

「と、とにかく!ここは中等部なんだから、高等部の生徒は出てって!!」

 

 

「で、でも」

 

 

「問答無用!!」

 

 

 反論しようとする兄の背中を押して無理やり廊下へ放り出すと、再び廊下で逃走劇が始まった。

 兄がいなくなったことを確認し、私が後ろを振り返ると、莉乃がニヤニヤしながらこっちを見ていた。

 彼女は親指を立てて満面の笑みでこう言った。

 

 

「どんまい、しずく!」

 

 

 そして再び私の怒号が教室中に鳴り響いたのだった。

 

 

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