ゲームの彼女とリアルの彼女   作:悠木仁

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第6話 それぞれの想い

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした!!」」

 

 

「はい、お粗末様でした」

 

 

 その日の夜、結局夕食は俺たち三人で作ることになり、初めての料理に悪戦苦闘しながらもなんとか肉じゃがを作り上げることに成功するしたのだった。

 三人でといっても、俺と雫は葉月の足を引っ張るだけだったのだが……。

 

 肝心の味だが、自分から申し出ただけあってかなり美味しかった。

 男はおふくろの味が一番だとよく言われているが、実際はそうでもない。

 こんなことを言うと怒られそうだが、お母さんの肉じゃがより遥かに美味しく感じた。

 隠し味に砂糖と醤油を入れると聞いたときはさすがに驚いたが、いつも食べているものよりコクがあった気がする。

 

 

「それじゃあお皿片付けちゃうね」

 

 

 そう言って葉月が椅子から立ち上がろうとしたので、俺は慌てて彼女を止める。

 

 

「いやいや、さすがにそれは俺たちがやるよ。作るのだって結局ほとんど葉月がやったんだから」

 

 

「いやでも……」

 

 

「いいから休んでて?三人分くらいちゃちゃっと終わらせちゃうからさ」

 

 

 雫も俺に続いて葉月を説得しようとする。

ナイスだ妹よ。

 

 

「うーん。あ、それじゃあみんなでやろう!」

 

 

「「えっ?」」

 

 

 葉月の提案を聞いた俺と雫はついお互いの顔を見合わせた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 葉月がどうしても食い下がろうとしないので仕方なく提案を受けてみたものの、やはり三人で洗い物をするというのは無理があったようだ。

 狭い、とにかく狭い。しかも動きにくい。

 これはむしろ効率が悪いのではないだろうか。

 

 

(でもまぁ、こういうのもいいのかな)

 

 

 左から俺、雫、葉月の順に並んでいるが、よくよく考えてみればまるで家族のようだ。

 俺が父親で葉月が母親、雫が娘だ。

 

 

(ということは俺と葉月が夫婦……ぬおおお!急に恥ずかしくなってきた!!)

 

 

 頭の中でそんな葛藤をしているうちに、いつの間にかすべての皿が洗い終わっていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

(どうしよう、つい勢いであんなこと言っちゃったけど……狭いよぉ)

 

 

 異性だとか彼氏だとかそういうのは関係なく、ただ他人の家にお邪魔している立場で家事を手伝わないということに抵抗があったわたしだが、さすがにこれは予想外だった。

 いやよく考えれば―――よく考えなくても、こうなることは予測できたはずなのだ。

どうも彼と話すと頭がよく回らなくなってしまう。

 付き合っていく上で最も大切な『会話』でさえもままならない。

 

 

(これが……恋なの?)

 

 

 一瞬そんなことを思ったが、そんなわけはない。

 会話が出来ない恋なんてあってたまるか。これは単なる自分の落ち度なのだ。

 

 

(わたしがこんなんだから和也くんは……ううん、彼はそんなことをする人じゃない。あれはきっと何かの間違いなんだ)

 

 

 そんなことを考えているうちに、気がつけば洗い物はなくなっていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

(なんで無言なの……!?)

 

 

 さっき兄が自分に頼ってきた時はこれからどうなることかと思ったが、食事中も楽しそうに喋っていたし、私の心配は無用だったかのように思われた。

 その結果がこれだ。

 

 

(カズ兄はよそよそしいし葉月さんは不安そうな顔をしているし……もう、なんなの?!)

 

 

 「一番気まずいのは私だっつーの!!」と叫びたい気持ちを、私は皿を洗っている間ずっと、必死に堪える羽目になったのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 食事の後片付けが終わったところで、夜も遅いので帰ると言う葉月を、俺は家まで送って行くことにした。

 

 

「和也くんは本当に雫ちゃんと仲がいいんだね。羨ましいよ」

 

 

 道中、葉月がいきなりそんなことを言ってきた。

 

 

「そうか?喧嘩ばっかりしてるけど」

 

 

 最近なんか特に酷い。年頃の女の子とでもいうのだろうか、下着姿を見たくらいですぐに怒鳴ってくる。

 別にこっちだって見たかったわけではないし、見たところで実の妹に欲情なんてするわけがないのだ。

 ちなみにそう言ったら頬を思いっきり殴られた。年頃の女の子は扱いが難しい。

 

 

「それでも羨ましいよ。わたしも妹か弟が欲しかったなぁ」

 

 

「葉月にはお姉ちゃんがいたよな?やっぱり年下の兄弟が欲しいのか?」

 

 

「え?あぁ、うん。まあね……」

 

 

「?」

 

 

 急に葉月の元気がなくなったように見えたが、おそらく気のせいだろう。

 その後はしばらく無言が続いたが、駅が見えてきたところで葉月が歩くのを止めた。

 

 

「ここまででいいよ、和也くん。送ってくれてありがとう」

 

 

「え、大丈夫か?よかったら家まで送って行くけど」

 

 

「大丈夫、あとは電車に乗って少し歩くだけだし」

 

 

「そっか。それじゃあ、また明日」

 

 

「うん、またね」

 

 

 別れを告げ、俺たちはそれぞれの家の方へと歩き出した。

 すれ違いざまに見た葉月の顔は、なにやら悲しそうに見えたが、俺が振り返った時には既に彼女は駅に向かって走り出していた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

(聞けなかった……)

 

 

 走っている途中、わたしは自分を責めていた。

 勇気を出すことができなかった自分を。

 

 

 あのメールを開封した時、わたしは件名だけしか見ることができなかった。

 和也くんが階段を登ってくる音が聞こえてきたからだ。

 そして、件名にはこう書かれていたのだ。

 

 

『デートのお誘い』

 

 

 デートのお誘い。その意味が分からないわたしではない。

 ずっと聞こうと思っていた。

 でも、怖くて聞き出せなかった。

 

 

(もしあれがわたしの見間違いじゃなければ……)

 

 

 不安を募らせながら、暗い夜道をわたしは一人で走り続ける。

 

 

 

 

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