現在、
「黒神めだか襲撃計画?」
という重要な話を、一番聞かれてはいけない本人の目の前で語らないだろう。
というか、この先輩はおつむが弱いのだろうか。寄りにもよって、生徒会長の幼馴染の人吉君を誘うとは。人吉君よりかは、
「はあーあ! めんどくせーことになってんなあ!」
「いやめんどくさくなどない。実に心躍る展開だ」
「…………いつからいたの?」
「最初から」凜っ
おや? いつの間にか話が進んでいたようだ。人吉君、今更気が付いたか。遅すぎるぞ鈍すぎるぞ人吉君。
「私が人を好きであればそれでいい」ビシ
言っていることはともかく、何故そのポーズがびしっと決まるのだろうか。私がやったら、痛い目で見られるだけだぞ。
「下剋上を受けて立つのも王の務めだ!」
怖い顔して、決めてくれたことはいいんだが、生徒会長はいつから王になったのだろうか。生徒会長=学園の王 という認識なのか。成る程。
「しかし、盗み聞きとは感心せんな。篠栗同級生」
「……は? 篠栗? うおっ一体何時からそこに!」
人吉君……、本当に気付いていなかったのか……。それにしても、生徒会長、どの口が言うか。聞き捨てならないな。
「君達が来る前からだが? 生徒会長、何を馬鹿げたことを。
「む、私の早とちりだったようだ。疑ってすまんな」
「いや、いい。
「では誤解も晴れた所で、
「嗚呼、またな!」
二人に背を向け、歩みを進めながら、私は思う。なんやかんやで、かなり主要キャラと遭遇はしているが、特にこれといって面倒事には巻き込まれていない。これなら危惧していた生徒会入りにもならなそうだ。まあ、原作一巻辺りの出来事なんて、全然覚えていないから、原作介入もしているか怪しい物だしな。
それにしても、主要キャラと知り合いにこそなっているが、私個人の至って普通な友人は何故出来んのか。謎である。
何故だろう、一体何処で間違えたというのか。
「どうして、
ふむ、少し思い出してみるか。
◇
「善吉、今日は柔道部に行くぞ」バン
そんな生徒会長の声が聞こえたのと、ドタバタと音を立てて生徒会室のドアやカーテンが閉め切られたのと、私が生徒会室前の廊下を通り掛かったのはほぼ同時だった。
「練り上げたこの肉体を衆目にさらすことに、一体何をためらう必要がある?」
嗚呼、また生徒会長が何かやらかしたのか。人吉君も苦労人だな、と思いながら至って普通に通り過ぎようとしたところ生徒会長の言葉で足を止めざる負えなくなった。
「……貴様もそう思うだろう? 篠栗同級生」
……はい? どうして
「むしろ見せたいみたいなこと言ってんじゃねえよ!! ……って、え……? 篠栗? 篠栗なんか、どこに……」
そうそう、それが至って普通の反応だ人吉君。
「廊下に居るぞ。……で、どうなのだ?」
偶々通り掛かった人物に振る方が可笑しいだろう、至って普通に。そして、これは答えなければならない感じなのだろうか? そうなのだろうな……。
はあ、と一つ溜め息を吐いて、私は重い口を開くことにする。
「見せたければ見せれば良い。人の趣味趣向にとやかく言うこともないからな。 しかし、規則を違反してまで見せるのは意味が分からん。仮にも生徒会長だというに。話は変わるが、壁一枚挟んでいるのに、偶然通り掛かった
ガチャッという音がして、生徒会室の窓が開かれた。人吉君が開けたようだ。奥の方に、成る程下着姿の生徒会長が見える。男女二人で、一体“ナニ”をしようというのか……。いや、なんでもない。
「マジで居たのかよ……」
何故、苦い顔をする。私が居てはいけないか。本当に偶々、偶然、通りかかっただけだというに。
「善吉、篠栗同級生も同意したではないか!」
生徒会長は生徒会長で、何で得意気なんだ。後、同意はしていない。それどころか、注意しただろうが。
「いやあれは、同意したっつうより、気にしないってだけじゃ……ってか! さっさと、服着ろよ!」
「……どうでもいいが、君達は何やらやることがあるんじゃないのか?」
「うむ、柔道部部長の鍋島三年生は知っているな? 彼女から目安箱に投書があったのだ」
「では、
「む、何を言っておるのだ篠栗同級生。貴様も一緒に行くのだぞ?」
……は?
「……は?」
「諦めるんだ、篠栗……」
「…………はい?」
いや、何でだ! 諦めろも何も、全く持って意味が分からんぞ!? そんな同情する目で見るくらいならば、助けてくれても良いだろうに。
「鍋島って、
無視か、無視なのか。意外と酷いんだな、人吉君。
「あの人、今部長だったのかよ。けど、話聞く限りあんま悩むってタイプにゃ思えねーぞ?(篠栗の目が怖ぇ……)」
ところで、
「ふむ、部長とは言えもうすぐ引退だからな。そこで、私達に後継者選びを手伝ってほしいそうだ。まあ、何にせよ、
……逃げそびれた。
「柔道部といえば、懐かしい顔にも会えるだろうしな」
今気付いたが、もしかしてもしかしなくとも阿久根先輩加入回か、これ。最悪だ、原作介入なんかしたら、あの人の思惑通りになってしまう。本当に有り得ん。
◇
成る程分からん。何故巻き込まれたのか全く分からん。
「何や、浮かない顔しとんな、ジブン」
「あ、いや……、無関係の筈なのに何故連れてこられたのかと……」
「そんなことかいな、そんなもんウチが頼んだからに決まっとるやん」
「え? それはどういう……」
まともな理由があったというのか? どう思い返しても偶々居たから巻き込まれたようにしか思えんのだが……。いや、もしかして誰でも良かったとか……いや、まさかな。
「虫が! 相変わらず、めだかさんの足を引っ張る仕事に精を出しているらしいな。言っておくが、めだかさんの支持率が100%に達しなかったのはキミのせいだぞ!!」
阿久根先輩、声大き過ぎやしないか。君のせいで、鍋島先輩との会話が途切れてしまったぞ。因みに
「カッ! あんま意地悪言わないでくださいよ。人格者で通ってる柔道界のプリンスが下級生いじめなんて、ファンの女の子が知ったら泣いちゃいますよ?」
人吉君、君もか。君も声が大き過ぎる。大音量の嫌味合戦とか、誰得?
「阿久根クンら、やけに仲悪いんなあ」
「何があったか知りませんけど(知ってるけど)、まさに犬猿の仲って感じですね」
「フン! 俺は心身ともにめだかさんに使える者だ。めだかさんのためになるなら毒蛇の如く嫌われようと望むところだ!」
うわ、この台詞はない。先程、生徒会長に言っていた言葉も含めて、この人心酔しすぎだろう。それと、君は蛇を嫌っているのか? あんなにも気高く美しい蛇を!
「ジブン、顔怖いで……」
「いえ、少し蛇を冒涜する言葉に苛ついただけです」
「……そうかいな(何で冷や汗が止まらないんやろ……)
「カッ! 俺が虫で、アンタが蛇ですか」
「(ウチの隣に死神が居るで……)」
「さて私に言わせれば、柔道は教わるものではなく学ぶものだ」
「それゆえに!」
生徒会長は開いていた扇子をぱちんと閉じ、それを何処かに消した。……何処にやったの扇子。
「まずは鑑定してやろう。貴様達の値打ちをな。我こそはと思う者から名乗り出よ」
何故か天地魔闘の構えをし、にやりと悪魔のような挑戦的な笑みを浮かべ
「全員まとめて一人残らず! 私が相手をしてやろう!!」
言い放った。瞬間、柔道部員全員――鍋島先輩、阿久根先輩除き――に衝撃が走った。多くが、顔をやや青くさせている。
相変わらず、こういう時の生徒会長の威圧感は凄まじい。普段からかなりのものだが、一段と凄まじい。まあ、その威圧感を向けられている訳ではないので、
「よぉし! だったら最初は俺からだ!! 俺は副部長の城南! フツーに考えたら次の部長は間違いなく俺だろうし!」
よくあの威圧感を受けた後に、名乗り上げられるな。そこは素直に感心。
「ヒヒ! それにこれ、うっかりおっぱいとか触っちゃっても、不可抗力ってことでいいんだよな!」
但し、動機が不純すぎる。女の敵だ。無様に散れ。
「勿論だ」
見事な一本。グシャッとかいっていたが。いっそ、そのまま死ねば――
「しかし、伝わらなかったか? 私は
おいおい、嘘だろう? やっているのは柔道だぞ? 全員いっぺんに行っちゃいかんだろう。それじゃあ、生徒会長の思う壺だろうに。
「なあ、篠栗ちゃん」
「はい?」
「篠栗ちゃんは、どない思う?」
どない思う?って、いきなり言われても困る。それに、本来この質問は人吉君に聞くべきなのではないだろうか。こんな、至って普通な生徒会長と特別関わっている訳でもない人間に聞いたって、意味ないんじゃなかろうか。まあ、聞かれたのだから答えるが。
「生徒会長ですか? そうですね……、出来ることを出来るからやっている。といった感じでしょうか」
「お、奇遇やね。実は、ウチもおんなじ意見でな」
そりゃそうだろう。遠く彼方の原作知識から、答えを導き出したんだから。
「化物言われようと。天才呼ばれようと。篠栗ちゃんが言うた通り、あのコは
極端な話は、本当に極端すぎやしないか。しかし、実際問題、不可能を可能にする者は居てしまう訳だ。だからこそ、
「それに比べたら、凡人のクセに天才《バケモン》に付き従っとうジブンの方がよっぽどスゴイやん。なぁ? 部活荒らしの人吉善吉君?」
ふむ、人吉君に移ったか。初めからターゲットは向こうだったんだろうに、何で態々
「………………付き従ってるってのは語弊がありますね。俺は、あいつに振り回されているだけですよ。生徒会だって、ムリヤリ入れられたようなもんです」
おいおい、人吉君。それはない。なんだかんだで自分から入った癖に……。
「そうか、無理矢理だとほざくか。――だったら俺が変わってやろうか?」
また始まったか。嫌味合戦。二人ともくどくどブチブチと長いし、ウザいことこの上ない。
「なんやったらどーや? ここは柔道で決着つけるゆーんは?」
『!?』
二人とも驚いているな。しかし、嫌味合戦を続けられるよりは、柔道勝負の方がよっぽど良いし、尚且つ健康的だ。
「ほんで阿久根クンが勝ったらジブンら交代や。阿久根クンは生徒会に入り、人吉クンは柔道部に入って
「……鍋島先輩、アンタひょっとして最初から、そのつもりで投書したんですか?」
「うん! 人吉クンみたいながんばり屋さんが、ウチは、めっちゃ好きなんよ☆」
流石鍋島先輩。見事に、人吉君がげんなりしているぞ。
「あと追加で、阿久根クンが買ったら篠栗ちゃんも貰い受けるで☆」
「!?」
鍋島先輩、何を言っちゃってくれてんですか!?
「では、善吉が勝てば篠栗同級生は生徒会に入ることにしよう」
「!?」
え? え? 生徒会長まで何を!?
「
「ある訳ないやろ☆」
「なんて理不尽な!」
「……篠栗、ゼッテェ俺が勝つから安心しろよ」
出来るか阿呆!