篠栗は至って普通な多重人格者さ   作:黒鷺

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御久し振りです。実に二ヶ月もの間が開いてしまいました。申し訳ないです。
リアルが落ち着いたので、これからはもう少し更新ペースが早くなると信じてます。
更新遅れてすみませんでした。

似非関西弁が更に似非化してます。関西弁難しい。


第三話「特別執行役員になって貰う!」

「ほんだら、ルールは柔道部恒例の阿久根方式な! 無制限十本勝負 対 無制限一本勝負! 阿久根クンに十本取られるまでに、一本でも取れたらジブンの勝ちや人吉クン!」

 

楽しげににこにこ笑っている鍋島先輩の前で、二人の男子が向かいあっている。一人はかなり余裕があるのか相手を見下した表情で、もう一人は冷や汗を浮かべながらも相手をしっかり見据えている。そして篠栗()は、物凄く眉間に皺が寄っているように思う。

 

どっちが勝っても、篠栗()にデメリットしかない試合なんか見て面白い訳ないだろうが!

 

「フン、尻尾を巻いて逃げなかったことだけは褒めてやろう。ああ、でも、しかし、虫に尻尾はなかったか」

 

「なんですか。逃げるってアリだったんですか。先に言ってくださいよ、そういうことは」

 

また嫌味合戦か。もう、篠栗()が知る限り三度目だぞ。何なんだ君達は。いい加減五月蝿いぞ。嗚呼、成る程。ぶんぶん五月蝿い小蠅か、君達。人吉君だけではない、阿久根先輩も篠栗()にとっては、五月蝿い蟲だ。

 

 

「(もう、二人ともやめてーな。さっきから篠栗ちゃんからの殺気が凄まじいのなんのって)」

 

鍋島猫美はにこにことした顔を崩さないように気を付けながらも、般若のような顔をし、殺気を垂れ流している篠栗に冷や汗が止まらなかった。

 

「(なんで二人とも篠栗ちゃんの雰囲気に気付かへんのやろ……」

 

横目で見ると、他の部員達も篠栗の異常な雰囲気に気付いているのか、篠栗から距離を取っているのが見える。会長は気付いては居るんだろう、人吉達の方が重要度が高いせいか素知らぬ振りをしているが。それらに対し、目の前の二人と来たら……。猫美は溜め息を吐きたくなるのをどうにか抑えた。

 

 

「逃げる? そんなものアリなわけがなかろうが」

 

そう言うと、生徒会長は口元付近を隠すように開いていた扇子をパチンッと音を立てて閉じると

 

「誰からの相談でも、誰からの挑戦でも、受け付ける――。如何な内容でも、如何な条件でも! 如何な困難でも、如何な理不尽でも、享受する! それが箱庭学園生徒会執行部だ!」凜っ

 

片目を閉じ、強く美しく言い放った。

 

うん、そんな生徒会には絶対入りたくない。

 

「人吉善吉、私は貴様に負けるなとは言わん。しかし、逃げることは許さんぞ!!」

 

どうぞ、人吉君負けてくれたまえ、と言いたいところだが! 負けたら負けた所で、篠栗()は柔道部に入るのも嫌だ! であるからして、相討ち――即ち、引き分けにしてほしい。まあ、至って普通に不可能だが。

 

「ククク、厳しい上司やねぇ♪」

 

笑いごとじゃあないだろう、鍋島先輩。この篠栗()が、かかっているのだぞ?

 

「ま、ええやん。最後(・・)の命令くらいきいたっても。この勝負が終わる頃には、生徒会庶務はこちらのプリンスに(篠栗ちゃんもな)、人吉クンと篠栗ちゃんはウチのもんになんねんから!(うわあ、篠栗ちゃん青筋浮かべとるやん。怖いわー)」

 

どっちが勝っても、逃げよう。邪魔する者は、武力を以て排除すれば良い。

 

「ふふふふふ……」

 

『(巻き込まれた人が怖すぎる……!)』

 

突然不気味に笑い出した篠栗()に、鍋島先輩含めた柔道部員がその瞬間そう思ったとか、思わなかったとか。

 

 

「(さてと、阿久根先輩も柔道の特待生(チームトクタイ)なんだよな。だったら、地力で適うわけねーし、やるなら短期決戦だ。篠栗もかかってんしな……)」

 

人吉善吉は構え、一気に距離を詰めた。

 

「(一気に決めるぜ。先手必勝!)」

 

「人吉クン。俺は何も、キミのすべてを否定しているわけじゃない。めだかさんについていくために費やしてきた、キミの努力は認めている」

 

瞬間、人吉の視界の天と地が入れ替わった。

 

「だが、努力以外は認めない」

 

後手必殺!!

 

「ガ……ガハァッ!?」

 

息が詰まる。体内から空気が無理矢理吐き出される。

 

「立て、あと九本だ」

 

たった一本されど一本。凄まじい衝撃が駆け巡ったせいで、身体中が痛い。だが、それ意識しないようにして立ち上がる。

 

「キミはめだかさんの前で、何度も何度も虫のようにひっくり返り、醜態をさらして負けるのだ」

 

 

柔道の知識などゼロに近い篠栗()でも分かる綺麗な、いや、綺麗過ぎる一本だった。

やはり特待生だけあって強い。原作だと、それでも最後は人吉君が勝っていた筈だが。もしかしたらもしかするかもしれない。でも、篠栗()は柔道をしたくない。生徒会にも入りたくないが。どちらにしろ、既に原作に巻き込まれてしまっている訳だが……泣きたい。ま、先程決めた通り逃げるが。

 

「あー、さっすが阿久根クン。綺麗な一本やなー」

 

「そうですね。柔道界のプリンスと言われているだけはありますね。素人目に見ても、凄いと思いますし」

 

相変わらずへらへらとしている鍋島先輩の言葉に、篠栗()も同意の言葉を紡ぐ。

 

「阿久根クンやしなぁ」

 

「人吉君は兎も角、篠栗()と阿久根先輩じゃ釣り合わないと思います。ですから、」

 

「おっと、幾ら言うたって取り下げたりなんかせえへんよ? これは決定事項なんやから☆」

 

「そ、うですか」

 

もしかしたら、と思って言ってみたが、やはり駄目か。鍋島先輩相手に至って普通の交渉なんて通用しないのは、分かっていたが……。

 

数度目の、人吉君の打倒される音が響く。

 

今のは、一体何度目なのか。初めの一本以外は鍋島先輩と話していたのもあり、よく見ていないが、人吉君が阿久根先輩(天才)に勝てるとはやはり思えない。そこはまあ、少年ジャンプだから、ご都合主義で逆転さよならホームランが起こるのは分かっているが。分かってはいるんだけど。

 

「天才などいない」

 

不意に、黒神会長の言葉が聞こえた。

 

恐らく、鍋島先輩と天才についてでも議論していたのだろうが、妙にその言葉が耳に響いた。

 

篠栗()は、そうは思わない。天才は居ます。そこかしこに」

 

気が付いたら篠栗()は、反論していた。

 

「篠栗ちゃん……?」

 

「ほう……?」

 

二人が、突然会話に加わった篠栗()に、不審げな目を向けてくる。

 

「鍋島先輩の言っていたことと被るが、至って普通な篠栗()に言わせると、黒神会長や阿久根先輩は勿論の事、反則王な鍋島先輩だって天才ですし、天才な黒神会長に付き合っている人吉君だって一種の天才ですよ。……特に人吉君はとてもじゃないが、至って普通に篠栗()と同じ普通(ノーマル)だとは思えない。いや、まだ(・・)普通(ノーマル)か」

 

後半は、黒神会長に聞こえないように口の中だけで呟く。

 

「貴様は、随分と善吉を買っているのだな」

 

「別にそういう訳ではない」

 

なんだか反射的に語ってしまったが、篠栗()は原作での人吉善吉を知っているが為にあのようなこと言ってしまったのであって、別に他意はないのだ。いや、本当に。というか、人吉君が普通(ノーマル)であったら、他の一般生徒が可哀相過ぎる。

 

ドッ、と再び人吉君が地に打ちつけられた音が響く。一拍置いて、一般部員のざわめきも聞こえてきた。

 

「……九本目。あと一本か」

 

「(もう一本で、決まりや。これで人吉クンと篠栗ちゃんは、ウチのもんや……ッ!)」

 

鍋島先輩の雰囲気が変わったのを感じた。背筋に寒気が走る。まるで狙われた獲物である。これは、そろそろ逃走準備を整えないと拙いか……?

 

「善吉!」

 

その時、黒神会長の声が柔道場に響き渡った。大気がビリリと震えたように思う。すぐ隣で叫ばれたものだから、耳が痛い。黒神会長に近かった左耳を押さえつつ、顔を顰める。

 

「いつ如何なる場合においても決して、私は貴様に負けるなとは言わん」

 

ユラリと黒神会長が立ち上がりつつ言う。

そして、ギュッと握りしめた両手を顎の下あたりに配置する、所謂ぶりっ子ポーズをすると、

 

「だから、――勝って!」

 

うるうるとした瞳で、きゃる~んっという効果音と共に、人吉君に効果抜群の攻撃、否、口撃を繰り出した!

 

「えぇー……」

 

黒神会長の何とも形容しがたい姿を見て、篠栗()は思わず声を漏らす。普段とのギャップによるダメージが高過ぎる。

 

「貴様がいなくなったら、私は、すごく嫌だぞ! 困るぞ! 泣いちゃうぞ!」

 

何だこれ、このいきなりの桃色空間は。まるで漫画だな。……漫画か。

 

黒神会長に動揺した人吉君が態勢を崩し、倒れる……かと思われた時、阿久根先輩に向かって地を蹴った。

 

「お前が泣くとこなんか、見たことねえし、見たくもねえよ!!」

 

人吉君に両足を掴まれた阿久根先輩に焦りが生まれ、そのまま足が宙に浮き、代わりにドッズゥゥンッと背中に衝撃が走った。

 

勝負あったか。凡そ原作通りの展開だったのだろうが……。篠栗()の生徒会入りの話が無ければ! さて、逃げるぞ。皆の注目が二人に向いているうちにな!

 

 

「負けを認める!」

 

まさかの人吉の勝利に辺りが騒然となる。

 

「嘘、やろ……? ホンマに勝ってしもた……。しかし、人吉クンは、なんだって双手刈りをあんなにも綺麗に……!」

 

「綺麗も汚いも、天才も凡人もない。いるのは、ただの懸命な人間だけだ」

 

「……はは、篠栗ちゃんならそのただの懸命な人間こそが、天才だとか言いそうやね。」

 

「ああ、そうだな。ところで、(くだん)の篠栗同級生は何処に居る?」

 

「…………。……逃げたみたい、やね……」

 

猫美が核心を突くと、妙な沈黙が下りた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……探しに行く」

 

「あ、ちょっと、待ってェな」

 

身を翻し、立ち去ろうとした会長の背に声を掛ける。

 

「……なあ、黒神ちゃん。今言うのもアレなんやけど、」

 

「なんだ?」

 

「阿久根クンて、柔道も綺麗やけど字ィも綺麗やって知ってた?」

 

 

 

 

 

 

世の中儘ならないものだ。

 

「はあ……」

 

「溜め息を吐くと、幸せが逃げるというぞ」

 

「問題無い、篠栗()は幸福と引き換えにストレスを発散しただけだ」

 

「む、ストレスが溜まっているのか。私に話してみろ、少しはスッキリするかもしれんぞ」

 

「気にするな」

 

もう一度言う。

世の中儘ならないものだ。

 

柔道の決着が付き次第逃げだしたというのに、あっという間に発見され、リアル鬼ごっこが勃発し、挙げ句捕まった。

 

そして現在、黒神会長と生徒会室にて二人っきりだ。

 

全く、信じたくないね。

 

「して、貴様には副会長に就いて貰いたい」

 

「断る」

 

「な……っ!?」

 

篠栗()が即答すると、黒神会長は信じられないという顔をした。

 

いや、そこで驚くなよ会長。至って普通に嫌に決まっているだろうが。何の為に、逃げたと思っているのか。

 

「……理由を聞いても良いか?」

 

「嫌だから」

 

「たった、それだけか!」

 

「嗚呼」

 

他に何があるという。生徒会入り、原作介入、死亡フラグ。が、嫌だからに決まっているじゃないか。

 

「私は、副会長には貴様が適任だと思っている」

 

「いいや、篠栗()なんかよりよっぽど適任なのが居るだろ。そう、例えば、不知火半袖ちゃん、とかな」

 

篠栗()が、半袖ちゃんの名を出した途端、黒神会長の表情が目に見えて変わった。

 

「要は、会長は生徒会内部に敵が欲しいんだろ」

 

「嗚呼、そうだ。貴様の言う通り、生徒会執行部副会長は、私の対抗勢力であるべきだと考えている。それこそ、不知火のような人間に就いて貰いたい」

 

「じゃあ、ますます半袖ちゃんに頼め。至って普通な篠栗()には、その役は務まらない。それ以前に、篠栗()は君に敵対した覚えはないんだがな」

 

好意を抱いている訳でもないが。

 

「……そうか」

 

「諦めてくれ」

 

「嗚呼、貴様に副会長の席に着いてもらうのは諦めた」

 

「それが良い。それじゃ、かえ――」

 

篠栗()が、帰ろうとしたところ、黒神会長に遮られた。

 

「だから、貴様には代わりに特別執行役員になって貰う!」

 

「……ふざけるな」




変更。執行員→執行役員
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