あの人への手がかりは、『辿る能力』だけ。
不定形な怪物クロと共に、夢の中を巡る旅。
『巡り巡る夢の中
あなたを辿る夢の中
知らぬが仏と知りながら
知ってしまうが人の性
だから私は今日また
あなたの歴史を繰り返す
だけど全ては夢のこと
嘘か真か見た夢は
全ては夢のはずだった』
そこで私は筆を止め、目の前にいる悪い笑顔をした"人型の怪物"の顔を見た。
ムカつくから一発顔面に拳を入れてやる。毎回のことだ。
この怪物に物理的なダメージは全く通らないから、殴っても大丈夫。手応えもないけど。
この"人型の怪物"-クロはいつも私の側にいる。人型と言っても常に人型というわけではない。人の姿で行動することが多いだけでクロは不定形な怪物だ。その気になれば橋になることもできるし、武器にだってなれる。クロ曰く、『黒い霧のようなものを集めてその姿になっている』らしい。
そういうところは、なくてはならないほど心強い能力なのだけれど、問題は性格だ。
いつだろうとどこだろうと私についてくる。たとえ風呂だろうがトイレだろうが、プライバシーなんて関係ないと言った具合についてくる。その上、身体のことでからかってくるのだからタチが悪い。
もう一つ言うなら、気味の悪い笑みだ。口元だけがほぼ常に笑っている。あらゆるものを馬鹿にしたような、壊れたような笑みを見ていると、不安になってくる。
とはいえ、普通に笑う時は笑うし、それなりに面白いやつだったりはする。
「ユメとゲンジツはカミヒトエ。ユメでシねば、ゲンジツでもシぬ。あっちでのデキゴトはユメではない。ワスれるな」
聞き取れないぐらい低い声でクロは言った。相変わらず片言みたいに喋る。尚更聴き取りづらい。しかも、突然意味深なことを言いだすから、理解するのにも時間がかかる。
「わかってる。無理はしない。……それにしても、あっちで折角遠くまで行ったのに、起きたらここっていうのは辛い。進んだ場所で起きられたら、あの人を見つけた時、すぐにあの人と話せるのに……」
「それはムリ。ミサキのノウリョクじゃない」
「あくまで願望だよ。無理なのは2回目でわかった」
クロに『黒い霧のようなものを集めて姿を変える能力』があるとするなら、私には『辿る能力』がある。誰かが通った跡を可視化し、その行く先を知る能力。正直なところクロの能力が便利過ぎて、私の能力が非常にしょぼく感じる。あの人を見つけるために大切な能力だとわかっているものの、どうしてもそう感じてしまう。
「クロは私の能力をどう思う?」
「そうだなァ……ケッしてミバえするノウリョクじゃないが、オレのノウリョクイジョウにカチのあるノウリョクだとオモう。ジブンのモクテキにぴったりアうノウリョクなんてそうそうない」
「そうなの?っていうか、クロはどこまで知ってるの?能力だったりあっちの世界について詳しいけど……」
「んーとなァ、あっちのセカイにイけるニンゲンがナンニンかいて、そいつらがゼッタイにノウリョクをもってるってことぐらいだな。あ、そいつらはコトゴトくシんだよ。カワイソウに」