第0話
僕の名前は、吉井明久。
高校2年生の春までの1年間、実益のあることを何一つしていないことをここに断言する。異性との交際、学問への精進、肉体の鍛錬、その他もろもろ。ていうか僕自身が極めつけのバカだから学問への精進なんて亀が月に上る以上に無理なことだった。
「はぁ・・・」
このことに関して僕は思った。
責任者はどこにいる?
といっても責任者が出てくるはずもないので、僕はただ黙って少ない貯金をやりくりしながらとあるラーメン屋へと足を運んだ。
「ここが猫ラーメン。僕の命のよりどころ」
猫ラーメンは、猫からだしをとっているという噂の屋台ラーメンだ。嘘か本当かはともかくとして、その味は僕の3日分の食事を一回にまとめられるほどだ。どこにあるかをここでいうと雄二みたいな大バカ野郎が来るかもしれないのでナイショ。
「おいしいな、おいしいな、僕は幸せだな~」
と、その時僕は1年生の初めの出来事を思い出した。
当時僕が、深夜そこでラーメンをすすりながら、たぐいまれなる味に涙とラーメンの味を噛みしめながら揺れ動いていると、隣に一人の男がいるのが見えた。黒づくめの服装にカメラを片手に持っている。
(こいつムッツリーニ?)
僕はその男を文月学園で何度か見かけたことがある。いや見かけるだけではなかった。彼のことはよく知っている。黒づくめだから本当にムッツリーニかどうか話わからない。けど・・・・
「・・・吉井明久。違うか」
「そうだけど」
「・・・文月学園1年生のバカ」
「ヒドイ!」
素性もわからない人からいきなりバカ呼ばわり。因みに革新的な学力低下対策として「試験召喚システム」を導入しているんだ。進学校であるため、クラス発表は個人個人に渡されて、同時に最新技術の「実験場」としても扱われて、しかも多くのスポンサーが付いているため生徒の学費は極めて安く抑えられているビックリ。
何も知らずにここを訪れた人は、どこかの研究所に迷い込んだのかと思ってしまうというのも無理からぬ話だよね。
「・・・俺はムッツリ商会の社長と言ってもいい。よろしく」
「よろしく、僕のは前は」
「・・・吉井明久。さっき言った」
「そうだったね」
そういうと自称ムッツリ商会の社長は、ラーメン屋の向こう側にある参道を指さした。
「・・・俺はお前のことなら何でも知ってる」
するとなんと僕のことを何でも言い始めた。
両親の名前や、姉の名前、しょっちゅうゲロ吐いていつも酸っぱい匂いのする赤ん坊だったこと、小学校時代の渾名、中学校時代の学園祭、高校に入ってからの怠惰で無為な日々。
何でそこまで知っているのか僕にはわからない。
「なんで知ってるの?」
「・・・それはおれがムッツリ商会の社長だから」
その時、強い風が吹いて歩いていた女性のスカートがめくれた。するとムッツリーニは瞬間的な速さで女の人のパンチラを激写した。
「ブハッ!」
そうムッツリ商会の社長が言うと大量の鼻血を吹きだしてラーメンの中に血が大量に侵入した。まさかパンチラに興奮したの?うぶ過ぎるよ!
「・・・人の恋を邪魔する」
「そこまで知ってるの?ていうかそれは雄二が」
「・・・それだけではないはず」
僕の脳裏を、来し方二年のむにゃむにゃが走馬燈のように流れた。よりによって神聖なる猫ラーメンで、棘だらけの思い出に繊細なハートを鷲掴みにされかけ、僕は「ぎゃあああ」と叫びたくなったが男らしく耐えた。
「厭なこと思い出しちゃったよ」
それは1年前なのによく覚えていた。今考えてみればあれは間違えなくムッツリーニ。おそらくHなハプニングでも期待して夜な夜なカメラ片手に歩きまわっていたと思う。まあ僕もそのHな写真を高値で買い取った一人なんだけど。
「そういえばムッツリーニ変なこと言ってたな」
『・・・俺の情報によると2年生になって誰かとの縁を結ぶ運命にある』
『・・・なにかあったらムッツリ商会をよろしく』
当時の僕は何のことかわからなかった。今もわからないけどね。
「縁って何?運命って何?全然わからないよおおおおおおおおお」