雄二と知り合ってから、僕は不毛な争いを繰り広げてきた。僕が一部からなんと呼ばれいてるか知ってる。聞いて驚くなかれ「恋の邪魔者」。なぜかクラスの一部からはものすごく持ち上げられてるんだ。これは気分がいい。
「恋の邪魔者吉井明久万歳!」
あの一件の翌日は僕はクラスのみんなからそうたたえられた。
「そう?よ~し!僕はやるぞ!」
「アキィ・・・あんたって人は」
後ろにはただならぬオーラを出した美波が立っていた。やばい。
「み、美波?」
「なにやってるのよ!」
僕はその後関節技のオンパレード美波から受けた。本当は誰からも称賛されない、称賛されるはずのない茨の道だったからあたまりまえだよね。
「痛い痛い痛い!僕の骨が折れる折れる折れる!ぎょああああああああ」
Fクラスにボキッといういや~な音が響き渡った。
○
それからというもの僕は安い金比羅宮もかくやと部活内に張り巡らされた赤い糸を切って切って切りまくった。こうした工作活動に懸けて雄二は天才的で、冷徹な目で現実を見て、貞操腐乱だかなんだかの夢に浮かれるバカたちに鉄槌を下し続けた。
「バカとは決して僕のことではない」
僕も東に恋する乙女がいれば「あんな変態やめた方がいいよ」といい、西に妄想する男がいれば「美少女は秀吉しかいない」といい、南で恋の火花が散りかけていれば雄二監督の下ですぐさま水をかけてあげ、北ではクラスの奴らとともに常に恋愛不要論を説いた。
参加しなかったのは同じクラスの美波と秀吉と姫路さんだけだった。
「バカね」
「お主らはほんとうに馬鹿じゃのう」
「明久君はおバカです」
三人は口をそろえて僕のことを“バカ”といった。
「僕はバカじゃなああああああい。恋の邪魔者!」
雄二も僕が油を撒く傍から火をつけて周り、有る事、無い事言ってして常に部活内のどこかで修羅場の炎が燃え盛るという雄二好みの環境を作り上げたんだ。
「吉井!坂本!いい加減にしろ!」
鉄人にどれだけ怒られても僕たちはやめなかった。観察処分者の僕は鉄人に目をつけられているから2年になってからはやりづらかったけど。
「お前らは強制退部だ!」
サークルを追われた後も僕たちの活動は緩む事なく、むしろ学校全体にグローバルに展開された。そうして僕たちは、死神の形をした黒いキューピットとして学校全体に名が知れ渡った。
それはもしかしたら僕がバカという以上のものかもしれない。
「これでもうバカ呼ばわりされないぞ」
でも被害者に危うく琵琶湖疏水に沈められそうになったこともある。さすがにアレはやばかった。あとは教室を包囲されてずっとロッカー内に身を潜んでいたことも。
「吉井ーっ!でてこーいっ!お前は完全に包囲されている!」
普段あまり食べてない僕が4日間の絶食の末勝利したんだけどね。
そう僕は負けなかった、負けることができなかった。
だけど負けていたほうが僕もみんなも幸せになれたかもしれない。
「雄二は幸せにならなくてもいい!!!!」
○
ある日の、放課後僕と秀吉は話していた。
「どうしたのじゃ明久よ。なにか悩みでもあるのか?」
こういう時に秀吉は実によい友達だ。雄二ではなく秀吉とつるんでいればよかったと僕は毎晩のように思う。でも雄二とあれだけ親交が深まった今ではこんなこと無意味なんだ。
「いやちょっとね」
「何か悩みがあるのならわしが聞こうぞ」
僕はバカなりに論理的に考えて、秀吉になら相談してもいいと思ったけど、実際何を相談しようかな。
「なんといえばいいかわからなくてね」
「お主の顔は大変もどかしいという顔、不満じゃな。わしが見る限り、お主は才能を活かす環境に恵まれていないと感じている」
「うわあああ凄いじゃん秀吉!どうしてわかるの」
「演劇部に所属しているからな。ある程度は分かるのじゃ」
秀吉の慧眼に僕は早くも脱帽しちゃった。能ある鷹が爪を隠しすぎたせいで、自分でも所在が分からなくなっていた僕の良識と才能を一目で見抜くとは凄い。
「お主は何をいうておるのじゃ?」
「他にはどうすればいいのかな?」
「とにかく好機を逃さないことが肝心じゃ」
「好機?」
「好機とはよい機会と言う事じゃ、明久よ」
「それぐらいは分かるよ」
「好機はいつでもお主の目の前にぶら下がっておるのじゃ。お主はその好機を捉えて行動に出なくちゃ」
僕は驚いた、実に深遠な言葉に。でもそれじゃあ僕自身もよく分からない。決してバカだからわからないんじゃないぞ。
「できれば今すぐ好機をとらえられるように、もうちょっと具体的にわからないかな?」
「明久よ。それは具体的には言いにくいのじゃ。ここでわしが言ってもそれが好機から嫌気に変わったしまうかもしれないのじゃ」
「それはやだな」
「わしとて明久に不遇な思いをしてほしくないのじゃ」
「秀吉ー!」
「わ、わぁ~いきなり何をするのじゃ!」
僕は思わず秀吉に抱きついてしまった。
「ごめん、思わず秀吉があまりも可愛くて」
「わしは男じゃと何で言うたら分かるのじゃ」
「それは無理だよ。秀吉は秀吉なんだから」
「意味が分からぬ。ともかくやってきた好機は逃さぬことじゃ」
僕はまったくもって分からなかったけど、一応頷いておいた。
「まあ焦ることはないと思うぞ」
「ありがとう秀吉!」
僕は深々と頭を下げて、振り向くと、そこには雄二が立っていた。
なぜか雄二はボロボロで、なぜか傍らには緑色の髪の女の人がいた。
「おや君は?もしかして会長のトモダチのトモダチ?」
○
雄二はその緑色の髪の女の人と近くで別れて、僕と二人で近くの激安焼き肉店に向かった。
なぜ焼き肉かというと雄二がどうしてもカルビが食べたいと繰り返すので、文月学園近くの木屋町の二階にて、普段補えない栄養を存分に取ることにした。僕が肉と野菜を交互に食べて椎茸をほおばっている中で、雄二はまるで場僕が馬糞を食べているかのような顔をしていた。
まったく失礼な!
「よくそんな気持ち悪いもの喰えるよな。なんだよその傘の下にあるヒダヒダは」
雄二は椎茸は決して口にせずに、野菜と肉だけ喰ってる。しかもその割合も2:8で肉が多い。そういえば雄二がまともに食事しているのを見たことない。
「ねえ雄二。さっきの女の人は誰?」
「はっ?」
「僕が秀吉と喋ってた時にいた女の人。そして何でボロボロなの?」
「それは翔子が・・・それはいい!あの女はAクラスの工藤愛子だよ」
雄二はそういって、またタン塩を食べた。
「ムッツリーニの知り合いだよ。俺もなんとなく親しくしてるんだよ」
「この破廉恥雄二!なんであんなにモテモテなんだよ」
「お前そりゃ誤解が過ぎるぞ。ちょっと喫茶店に誘われたんだよ」
「喫茶店に?」
「でもあいつが甘いものを食べるとちょっと困ったことが起きてな」
「困ったことって?」
「あいつ保健体育が得意でその中でも実技が得意っていうんだよ」
「ブッ!」
僕は口の中に入れた焼き肉を吐き出しそうになってしまった。
「それでその実技をしようとするんだ」
「雄二が!保健の!実技!そ、そんな!?」
「まあ俺は丁重に断ったけどな」
「えっ?なんで?」
「まあ俺も命が惜しいわけよ」
バカなことを言っているうちに、じうじうと肉が焼けていく。
「じゃあ今度お前が一緒に工藤と食いに行くか」
「い、いいよ僕は。そこまで堕ちたくないし」
「俺は知ってるぞ。お前下賀茂神社で縁結びのお守りやってるだろ」
「な、なんでしってるの!?」
僕は今後の人生をいかに生きていくかという大事な問題を縁結びの神にお願いしたのに、雄二ったら「無駄なこと」と人けりしそうでああ嫌だ。何かを言いそうになって生焼けの椎茸を雄二の口の中に詰め込んでやると、数分黙り込んじゃった。
僕も昔は嬉し恥ずかし、未来への希望を見ていた時期があったのに。
「はぁはぁ・・・もうちょっとましが学校生活を送ればよかったと思ってるだろ」
雄二急に核心着いたことを言ってきた。僕は焼き肉に夢中で聞かないふりをした。
「無理だろうな」
「なんで?どうして?ていうか雄二のせいで楽しい高校生活が台無しになっちゃった」
「それはお互い様だろ。どうせお前はどんな道を選んだって今みたいな有様になっちまうんだ」
「そんなことない!僕はそうは思わない」
「無理だなお前はいかにもそういう顔をしてる」
「どういう顔?365度何処から見てもイケメンな僕の顔なのに」
「実質5度な」
雄二はニヤリと笑った。ますます憎たらしいよ。
「いずれにせよ俺はお前に出会って全力でおまえをダメにするぜ」
「どうして僕にそんな付きまとうの?」
「俺なりの愛だ。俺たちは運命の黒い糸で結ばれてるんだよ」
僕の小さな脳内に恐ろしい幻影が浮かんだ。真っ黒な糸でボンレスハムのようにぐるぐる巻きにされて、暗い日本海溝に沈んでいく一人のイケメンと一人の赤毛の悪魔。僕は戦慄したよ。
雄二はそんな僕を見ながら、愉快にカルビばっかり食べてる。
この大バカ野郎。