玉座の間は4畳半   作:820

25 / 26
いつ以来でしょうか?




足湯の思い出

箱根駅前

 

「ねえねえ、佐藤さんの奥さん。本当に良かったの?」

「いや~ねえ~。商店街の福引で当たった、箱根温泉1泊2日の旅なんだから楽しみましょうよ。」

「今年は商店街も奮発したわね。家族2組招待なんて」

「本当よね。でも…」

「でも残念だったわよねえ。ペロロン堂が火事にあって」

「本当よね。お楽しみが減っちゃったわね。田中さんの奥さん」

「「ふふ、でも火災前に買いだめしていて、よかったわね」」

2人の奥さんの笑みは悪の華。

「「お~い。早く行くぞ」」

「さあ、行きましょう。佐藤さんの奥さん」

「そうね、行きましょうか。田中さんのお奥さん。今晩は、主人の交換なんかしちゃう?」

「もう、佐藤さんの奥さんったら」

 

 

 

 

「それじゃあ、後はお願いしておくわね。花子」

「了解よ。羅奈。じゃあ時間になったら、ここで待っているわ」

車は音もなく走り出す。

 

残されたのはブルーローズの5人。

「じゃあ、私達も偵察ついでに、箱根の街を満喫しましょう。」

 

「お!花子にしては、珍しい事を言うじゃないかよ」

 

「「今日は、姫ボス」」

智亜と智菜は、速攻で姿を消す。

 

「なんで、羅奈は私達の護衛を断ったのだ?」

周囲を警戒しながら、藍が呟く。

 

「そんなもの決まっているだろう。国男がいるからだろう」

蘭子が豪快に笑う。

花子はこめかみを手で押えながら、どう説明すればいいか迷っていた。

「国男は弱いぞ」

 

「「でも、熱血で、硬派」」

どこからか智亜と智菜のこえがする。

 

「弱くてもいいんだよ。お姫様のお楽しみの時間だからな」

「それでいいのか?花子は」

 

「ま、大丈夫でしょう。この街なら」

藍の懸念に素っ気無く答える、花子。

 

「まあ、リーダーがいいって言うなら」

「蘭子はこの後どうするの?」

「あ~、朝食でも食いに行くわ」

「藍ちゃんは?」

「う~ん?」

藍は、少し遠くを見ながら曖昧な返事を返す。

 

 

同時刻

悟は、駅前に設置されている足湯を満喫していた。

 

「モモンガ様、如何なされたのですか?」

急に声を掛けられた悟は振り向く。

そこに居たのは、ジーパンにTシャツというラフな姿の桜花とポンポンを持ったチアリーダー姿のエントマとシズが居た。

【え~と?なぜ?チアリーダー姿?】

悟の思考は停止してしまう。

 

「「フレー!フレー!モ・モ・ン・ガ・さ~ま~」」とエールを掛けた、

エントマとシズはテケテケとポンポンを揺らしながら走り去って行く。

 

「ふふ、姉達がぶくぶく茶釜様から教わりまして、モモンガ様を元気付けると言いまして。失礼でしたでしょうか?」

 

「ははは!いや、少し驚いただけだ。お前の服装と合わせてな」

「これは…やまいこ様が…似合ってないでしょうか?」

桜花は少しハニカミながら悟の方を見る。

「いや、十分に似合っているぞ。桜織(さおり)さん」

「ふふ、ありがとう、悟君」

悟に桜織(さおり)と呼ばれた、桜花の雰囲気が変わる。

 

桜織(さおり)は、悟の横に座り足湯に入る。

 

悟は、桜花が作成された当時を思い出していた。

 

ナザリックを攻略しギルドホーム化した、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーで

メイドを作製する話しになった時、ホワイト・ブリム、ク・ドゥ・グラース、ヘロヘロの3人は悩んでいた。

 

3人を始めメンバーの誰もがメイドの所作について詳しく分かる者が居なかったからだ。

 

「メイド服はジャスティスと言う割にはなんですか?」

 

「ヘロヘロさん、すまない。だが!メイド服はジャスティスだぁ~!」

 

「おりょ?どうしたんすか、3人さん?」

 

「あ!ペロロンチーノさん。いや~、今一般メイドの所作の行動AIを組んでるんですが、

メイドさんって見た事ないからどうしたもんかと」

 

「あ!そんな事っすか、簡単ですよ。よ・る・の・ご・ほ・う・しを…」

 

「き!貴様~!」

ペロロンチーノは、3人によってフルボッコをくらった。

もしフレンドリーファイヤーが規制されてなければ、ペロロンチーノはレベル1にされ、そして全てのアイテムをヘロヘロに溶かされていただろう。

 

フルボッコタイム終了後

「く…せっかく素敵な情報を仕入れて来たのに…」

ペロロンチーノは力尽きるが、その言葉で3人の雰囲気が変わる。

「「「なんだ!情報とは…さっさとゲロしろ」」」

 

「わ…分かりましたから、少し落ち着いて下さいよ」

復活し少し上から目線で話し始めるペロロンチーノ。

「あの~ですね。始まりの街で最近メイド喫茶が出来たのですが…」

 

「「「あ~!あんな似非なんぞ興味などない!」」」

 

「いや、最後まで話しを聞いて下さいよ。俺のフレンドの話しなのですが、その店にどう見ても本職っぽい人が居るって」

 

「「「ほ~、始まりの街なら我々異形種でも行けそうですね」」」

 

「あれ~、皆さんこんな所で何してるんですか?」

 

「「「よし!モモンガさんも行くぞ」」」

 

「え!ちょっと。いきなりなんなんですか?」

現れた瞬間にモモンガは羽交い絞めにされ3人に連れて行かれた。

「あれ?俺は…」

「「「あ~!お前は9階層の便所掃除だ。ペロロンチーノ」」」

 

 

始まりの街

 

「おかえりなさいませ♪ご主人様♪」

「帰ろうか?」

「「そうですね」」

あまりにも露骨過ぎる展開に、ホワイト・ブリム、ク・ドゥ・グラース、ヘロヘロの3人は、回れ右をする。

 

「あの~、皆さん。あの人は?」

モモンガの視線の先のメイドを見る3人。

 

「「「当たりか!」」」

 

「「「当たりですね」」」

 

「「「モモンガさん、あの子を指名して下さい」」」

 

「え!何で俺なんですか?」

 

「「「ギルド長だからです」」」

 

「それって、関係あるんですか?」

 

「「「おおありです」」」

 

「はあ~、わかりましたよ」

モモンガは3人の性格を思い出し、観念してテーブルへ彼女を呼んだ。

 

配膳用ワゴンを押して来た彼女は優雅に一礼する。

「お帰りなさいませ。ご主人様」

その仕草と、テーブルにグラスを配膳していく様を、凝視する4人。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

我に返った4人は

「「「「お、おすすめランチコースをお願いします」」」」

 

「畏まりました。暫くお待ちください」

一礼し去っていく彼女。

 

「「「なんか緊張しますね」」」

周りのメイドとは一線を画す程の凛とした佇まいを見せた彼女に対する3人の感想であった。

そんな中、モモンガは、

【どこかで聞いた声だったな?】

 

数分後、配膳用ワゴンを押して彼女が再度来て、配膳していく。

「失礼いたします。おすすめランチの前菜で御座います」

配膳を終えた彼女は一歩さがった位置で待機する。

 

4人が食べ終わったタイミングで皿を下げ、コースの料理を配膳していく。

 

モモンガたち4人のテーブルだけが別世界の様相を呈する。

 

 

帰り道

「な、何なんですか!あの厳かな雰囲気は」

「俺たちのテーブルだけ別世界でしたよね」

「「「「ふ~!」」」」

4人は気疲れから溜息を吐きながら来た道をトボトボと戻る。

 

 

ナザリック…円卓の間

 

本日のメイド喫茶の件について、ギルド会議が開かれていた。

 

「本日はお集まり頂きまして、有難う御座います」

モモンガの挨拶から会議が始まる。

 

「只今製作中の一般メイドに付いて、我々3人から提案させて頂きます」

代表してホワイト・ブリムが議題を提案する。

 

 

「…以上となります。彼女を当ギルドに招き、所作の動作をデータ化したいと思います」

数十分に渡る、ホワイト・ブリムの説明が終る。

 

「たかがメイドに、これ以上のデータを割くのはどうなんだ?そんな事なら、もっとゴーレムとか…ゴーレムとか…」

「あ!それ却下ね。るし★ふぁー君。第6階層のジャングルとかもっと拡大して欲しいかな?私は」

「それなら、第7階層にもっと罠を」

参加していたギルメンは各々意見を述べていく。

 

会議はいつもの様に、喧々諤々の様相になる。

 

「コホン、モモンガさん。ここはいつものやつでどうですか?」

カツ~ン♪

たっち・みーが自身の剣で床を軽く突き、全員の意識を会議に戻す。

 

「そうですね。え~!それでは皆さんいつもの様に多数決を行います。ホワイト・ブリムさんからの提案に賛成の方は挙手をお願いします」

 

 

始まりの街付近

 

【え~と?ナゼ俺は、こんな事をしてるんだ!】

モモンガは、木から木へ、建物から建物へと、姿を隠す様に移動いていく。

 

【え~と、桜華(さくらはな)さんっていうのか】

そうモモンガはメイドの彼女を尾行しているのだ、それも数日間続けて。

 

モモンガがストーカー紛いの事をしている理由は、あのギルメン会議で多数決を取った後にモモンガの提案で、誰が彼女に依頼するかに移ったのだが。

「では、議題の提案者である。ホワイト・ブリムさん、ヘロヘロさん、ク・ドゥ・グラースさんの3人から誰かという事で…」

 

「「「いや!ここは、ギルマスであるモモンガさんが適任かと」」」

3人が声を揃え発言する。

 

「え!はい?俺?」

 

「それで決定~!」

満場一致でモモンガに決定したのだ。

《アインズ・ウール・ゴウン》ギルド会議、二度目の満場一致であった。

 

 

【下手に声を掛けるのはマズイよな?へたしたらR規定に抵触するかもだし】

モモンガは木の影に隠れながら思案していた。

 

ユグドラシルはR規定に厳しく、声を掛けるという行為が規定に引っ掛かる恐れがあるのだ。

数日のアカウント停止ならましだが、下手をするとアカウント剥奪もあり得るのだ。

 

モモンガは意を決して作戦に移る。

【え~と、タブラさん推薦の…】

モモンガは、彼女を単に追い抜く。

追い抜き様、モモンガは物を落とす。

タブラの作戦は(あ!落ちましたよ!作戦)だった。

 

彼女はモモンガの落とした物を拾い上げると

「あの!落としましたよ」

驚きのあまり、彼女の動きが止まる。

「ほ、骨!?」

 

しかし、その骨から

「ふっ、闇の力が2人を引き付けあったのだな。さあ~今こそ力を解放し2人だけの闇の世界へいざいかん。Gott der Finsternis zu ihm

(闇の神の御許へ)

 

「す、すいません」

速攻でモモンガが、その骨を奪う様に受け取る。

 

我に返る、彼女。

「あら、先日の骸骨さんでしたか」

「あ!はい。有難うごじゃりまする」

シドロモドロになりながら、その骨を肋骨に装着する。

【くっ!なんて細工をしてんだよ!ダブラさん】

 

「すいません。私は、モモンガと言います」

 

「あら、新手のナンパですか?」

 

「ぶほっ!いえ違いますよ」

 

「ふふ、冗談ですよ。骸骨さん」

この時、モモンガのコンソールに謎の審判が現れ、黄色い紙を置いていこうとしていたが

そのままスルーして姿を消していたのだ。

 

【た、助かった】

モモンガは安堵の溜息をつき、話し始めようとした時、景色が一変する。

 

それまで新緑に覆われていた木々が満開の桜になったのである。

 

これは、ゲームの仕様上の演出で数時間ごとに景色が変わるためだ。

 

「初めまして、骸骨さん。私は桜華(おうか)と言います」

桜の花びらが舞い散る中、優雅に一礼し自己紹介する彼女。

その姿に、モモンガは言葉も出なかった。

 

「今日は、いえ今日だけではないですね…どの様な御用で?」

【え!気付かれていた?】

モモンガは、先程まで探知阻害系のスキルにアイテムまで併用していたのだ。

レベルも10そこそこの彼女にばれる筈などないのだが。

 

「なぜ?ばれてたんですか?」

 

「仕える方の機微に即応しなければならないですからね。職業病みたいなものですよ。」

 

「はぁ~凄いですね。実はお願いがありまして…」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「はい、今回我々のギルドのNPC作りでメイドさんを作ろうとなったのですが、我々ではメイドさんの所作などの動きが分からないので実技込みで教えて頂けないかと?」

 

「いいですよ」

 

「えっ!あの~そんな簡単に…我々のギルド名はアインズ・ウール・ゴウンなんですが?」

 

「私の様な者でお役に立てるなら構いませんよ。それに貴方は、私の知っている人に雰囲

気が似ていますから」

 

 

第9階層…円卓の間

製作途中のナザリック地下大墳墓の情報を隠蔽する為に、円卓の間で

桜華(おうか)にレクチャーを受ける事にしたのだが、

やまいこ、ぶくぶく茶釜、餡ころもっちもちの女性陣がログインした瞬間、

桜華の手を掴み転移してしまう。

 

レクチャーやAIの動作組み立てを見学していた、モモンガは慌てて女性陣の後を追って

転移する。

 

 

第6階層

「な、なにを…」

モモンガが言葉に詰まる。

 

すでにそこでは女子会が開催されていたからだ。

 

遠くから眺めるしかないモモンガ。

 

桜華の何気ない仕草に、

「桜織姉ちゃん!」

モモンガは声を出してしまう。

「え?」

女性陣が一斉にモモンガへ視線を送る。

 

「あ!いや!すいません」

モモンガは、慌ててログアウトする。

 

「悟君?」

桜華は小さな声で呟く。

 

 

悟の自室

悟は徐に机の引き出しを開けて1枚の手紙を取り出す。

 

孤児院時代を思い出す悟。

 

悟が入った孤児院は、この時代にしては良心的な孤児院であった。

複合企業体が経営する孤児院では、教育など受けれる訳もなく組織の歯車になれれば良い方である。

悟の入った孤児院は、この時代では珍しい個人経営の孤児院であった。

 

孤児院に入った悟は内向的な性格が災いし孤独な時間を送っていた。

そんな悟にこれとはなしに世話を焼いたのが、年上であった桜織だったのだ。

 

その後の悟は、桜織の後ろを付いて回りなんとか皆の輪の中に入れた。

 

この孤児院には富裕層の老夫婦のスポンサーがついていたので、悟は小学校に続けて通学も出来た。

 

その老夫婦は過去から連綿と続く家格の高い名家だったのだ。

その家格の為に複合企業体の支配層にも一目を置かれていた為に、この孤児院は存続できていた。

 

数年後、桜織はその老夫婦の元にメイドとして引き取られた。

 

悟は、度々孤児院を抜け出し桜織に会いに行っていた。

 

数年後、悟も小学校を卒業し就職して現在に至っている。

 

それからは、毎年桜の花の季節になると桜織から悟に手紙が届いた。

 

その手紙もここ数年配達されることはなかった。

そんな中での再会であった。

 

 

 

第6階層

本日もメイドの所作データを取り終えた、桜織は女性陣とお茶会をしていた。

 

「え!じゃあ、桜華さんはモモンガさんとは昔からの知り合いだったの?」

「え~、これが・・・」

そう言って、桜華は1枚の写真を取り出して見せる。

 

「「「お~!こ…これは!!!」」」

 

その写真は小さな少年が、桜織の手を握り恥ずかしそうにカメラから目線を外している写真だった。

 

「ふふ、こんな写真もありますよ」

 

「「「ぶほっ!こ…これは!!!」」」

 

その写真には、淡いブルーのワンピースを着ている悟が写っていた。

 

「男の娘…男の娘…男の娘…」

「「茶釜ちゃん!茶釜ちゃん!戻ってきて~!」」

 

「皆さん、こんにちは」

そこにモモンガとペロロンチーノが現れた。

 

モモンガは茶釜の異様な雰囲気に気付き、茶釜が手にしている写真を覗き込む。

 

「ちょっ!何ですかこれ?どこで?まさか桜華さん」

 

「ごめんね」

謝る桜華の手を引き移動する。

 

「桜織さん。勘弁してくださいよ」

 

「今日で頼まれごとも終わりだから、皆さんにサービスです」

 

「いや、サービスって。あ~また弄り倒される」

モモンガは頭を抱える。

 

「桜華さ~ん、いきますよ~」

「はい、今行きます」

茶釜達に呼ばれ桜華は踵を返す。

途中で桜華がモモンガに振り返り

「悟君、この場所を、皆さんを大切にしてね」

 

 

円卓の間

「それでは、ギルド会議を始めます。本日の議題は、第8階層の新規の領域についてですが、ご意見のある方は?」

 

「その前に、1つ提案をさせて頂きたいことが」

 

「何でしょうか?弐式炎雷さん」

 

「先日、あの彼女、いやメイドさんを引き連れた茶釜さん達のピクニックを覗かせて頂いたのですが」

 

「炎雷お兄ちゃんのえっち~」

 

「こほん、ホワイト・ブリム君…戦うメイドなぞどうか…な?」

 

「戦うメイド!!!素晴らしい!!!至福の…即実行しましょう」

そう言って、ホワイト・ブリム、ヘロヘロ、ク・ドゥ・グラースの3人が退室していく

その後を追って、弐式炎雷、やまいこも退室する。

 

「え~っと、第8階層の件は?」

「「「「「ギルド長に一任します」」」」」

 

「はあ~、では進行しますね。第8階層の造りは寺院系統にするか、神社系統にするか?」

 

「ふむ、喪服の未亡人も捨てがたいの…」

 

「いやいや、教授。それは…」

 

「いや、ここは正義の巫女服…隙間から触手に浸食される巫女姫…」

 

「お~い!死獣天朱雀さん、ペロロンチーノさん戻ってきてくださいね~」

 

 

「あ!すいません。会社から電話が…結果は再度お聞きしますね」

モモンガがログアウトする。

「皆、少しいいかな?桜華さんの事も含めて話があるんだけど」

 

「何でしょうか?桜華さんをギルメンに迎えるとかですか?」

 

「たっち君、それも正解なんだけど、それは彼女には固辞されたんだわ」

茶釜は歯に物が挟まった感じで言葉を紡ぐ。

 

「それでは、どの様な話になるのでしょうか?」

 

「そうね、第8階層の領域守護者として彼女をモデルにしてみてはどうかな?」

 

「ふむ、彼女に対しての感謝としてですね」

 

「たっち君、それもあるけど一番の理由はモモンガさんに対してかな?」

 

「モモンガさんに対して?その理由をお聞きしても」

 

茶釜は周囲を確認して、コンソール画面も確認し覚悟を決めた表情で話し始める。

 

 

「この話は、まだモモンガさんには内緒でお願いします。私から話しをするから」

 

残っていたギルメンは沈痛の表情で聞いた話しを思い返して、頷く。

 

 

 

数日後

第8階層…新領域お披露目会場

 

「いや~、参りましたよ。あの時の電話で急遽出張って。すいませんでした」

悟の謝罪から始まったお披露目会だが。

悟は、その景色に見惚れていた。

 

ブループラネット、弐式炎雷が一歩前に出て

「ようこそ。桜花領域へ。我らがギルマス殿。」

 

広大な敷地に真っ白な玉砂利が敷き詰められ一本の道になっている、左右には

桜の木が等間隔に植えられ花びらを散らしている。

 

その桜吹雪の中、こちらへと歩んでくる人影に、悟は気付いた。

 

「この子が、ここの領域守護者だよ」

茶釜の声で、モモンガは我に返る。

衣装としての巫女服はハッキリと見えているが、

姿形がぼんやりと霞んでいる。

 

モモンガは、不思議を感じた。

「どうしてなのですか?」

NPCの容姿には拘り過ぎるほど拘るギルメンが中途半端にお披露目するはずがないのだ。

 

「最後は、モモンガさんに決めて貰おうかなって思ってね。」

「私がですが?」

茶釜の真剣な言葉使いに疑問符しか浮かばず狼狽えるモモンガ。

 

いつの間にか、NPCの横には桜華が立っていた。

 

「説明はしていただけるのですか?」

視線を茶釜からNPCの方に向けたモモンガ。

 

「それは…」

茶釜が話始めようとした時

「私から、説明します。」

桜華がモモンガの前に歩を進める。

 

「お骨さん…いえ、悟君。3年前から私の身体はリアルには無いの」

「リアルに無い!」

3年前といえば、桜織から手紙が来なくなった時と一致する。

モモンガは自分の身体が水の中に沈められた様な思考の中にいた。

 

「いえ違うわね、実際には私はリアルに居るの。病院だけどね。この世界特有の病気になったの。」

「そ、そんな!嘘だ…」

「本当の事よ、ご主人様が、孤児で単なるメイドの私の為に安楽処置で開発されたばかりのダイブシステム治療をして頂いたの。だから、今の私の世界はここなの…」

「俺は…、俺は…」

「黙っていてごめんね」

 

「でめ、モモンガさん…」

「いや、私が」

茶釜が話始めるのを、たっち・みーが止める。

「モモンガさん、これを使おうと思うんだが…」

たっち・みーがみすぼらしい腕輪を一つアイテムボックスから取り出す。

「これを使って、桜華さんの肉体を…いや違うな、精神をNPCに宿らせようと思うのだが」

モモンガが、たっち。みーの手の中のアイテムを凝視する・

永劫の蛇(ウロボロス)の腕輪じゃないですか!」

「これを使ってみようかと。滅びを待つ彼女の肉体から精神をNPCに宿らせて。これが上手くいっても彼女が幸せなのか分からないが、彼女は了承してくれたよ」

「でも…これは!アインズ・ウール・ゴウン皆で獲得したアイテム!」

「ギルドの皆は快諾してくれたよ」

拒否感を露わにするモモンガを宥める様にたっち・みーが言葉を続ける。

「このNPCは異形種のみのアインズ・ウール・ゴウンの中で唯一の人間種、不老不死ではあるけど」

 

「モモンガさん、この話しをね、桜華さんにした時にね。彼女は、決めるのはモモンガさんだって首を縦に振ってくれなかったの、私たちは、モモンガさんがログインする前に

永劫の蛇(ウロボロス)の腕輪でとっとと済ましてビックリさせようと思ったのだけどね」

茶釜がテヘペロといった感じで話す。

 

「ギルマス」「モモンガさん」「ギルドマスター」

参加していたギルメンがそれぞれモモンガに声を掛けていく。

 

「み、皆さん…」

モモンガは、顔を上げ桜華に視線を向ける。

「俺が…決めてしまっていいんですか?桜織さん…桜織さんの気持ちは…?」

「悟君、遅かれ早かれ私の命は終わるわ。私は好きよ、リアルにはない

色に満ちたこの世界が…」

桜華は遠くに視線を送る。

「…わかりました」

モモンガは永劫の蛇(ウロボロス)の腕輪を頭上に掲げた。

永劫の蛇(ウロボロス)の腕輪よ…俺は願う!桜華を…桜華の命を…」

腕輪が輝き始め周囲が眩い光に包まれる。

 

 

 

 

 

靴を履いて立ち上がる悟は右手を桜花に差し出す。

 

 

「帰ろうか!我が家に、桜織さん」

 

「はい!」

その手を笑顔で取る桜花

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。