オーバーロード ~アンデッドは生者の夢を見る~ 作:snd_rcv
シャルティア・ブラッドフォールンは夢を見ていた。
アンデッドであり睡眠を不要とするシャルティアが夢を見るというのもおかしな話だが、実際に見ているそれは紛れも無く夢だった。
夢のなかのシャルティアは幸せだった。
夢の舞台はナザリック大墳墓。そこには創造主であるペロロチーノを始めとした至高の四十一人全員が存在していた。
おどけるペロロンチーノに容赦のない一言を放つぶくぶく茶釜の、姉弟漫才ともいえるそれを見て、至高の御方々は腹を抱えて笑っていた。
そんな至高の御方々を見てシャルティアも笑みが溢れる。同僚であるアルベドやアウラたちも笑っていた。本当に幸せだな、とシャルティアは心から感じていた。永遠にこの時間が続いてくれたらな、とも思っていた。
しかし永遠なんてありえない。同時にシャルティアは虚無感を感じていた。これは夢であり現実ではないと知っているからだ。
彩らていた風景は、虚無感が大きくなるに連れて次第に灰色へと変わっていった。
そして最後は砂のように崩れ去り、シャルティア以外は虚無へと変わった。
それでもシャルティアは笑うのをやめなかった。笑いをやめたらこの幸せもなかったものになりそうだったから。
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇
リ・エスティーゼ王国のとある場所にソド村という村がある。人口50人にも満たない小さな村であるが、大きな川が隣接しており、多種類の川魚が採れることで有名だった。
ここで採れる魚はどれも活きが良く身が締まっているため、王族や貴族のなかでもソド村の魚を好むものは多かった。
川では魚だけではなく、下流の川岸で砂金をとれることも有名だが、近年ではほぼ採り尽くされてしまったため、採掘する人は減少している。
そんな川岸に一人の女の子―カトレア・ロマント―がしゃがみ込み、砂を眺めていた。
「あ、砂金発見!」
カトレアは嬉しそうに声を上げながら、眺めていた砂の中から金色に光る一粒の砂を発見し、それを陽にかざした。
「なかなかの大きさ。この大きさなら、3日分の給料てところかな?」
カトレアは砂金を脳内で換金し、生活費と照らし合わせる。
「よしよし、なかなかの収穫ねー。そろそろレンもお腹をすかせて帰ってくるだろうし、家に帰って昼食の準備をしなくちゃね」
本日の収穫への満足と腹を鳴らした弟に思いを馳せ、帰ろうとしたところ、上流に光っているものを見つけた。
場所はカトレアのいる場所からは遠くて、よくは見えないが何か大きなものが陽の光で反射してキラキラしているのがわかった。
「まさか、砂金の大粒!!?? うそ!あの大きさだったら、100日分はあるんじゃないの!?」
金欲で頭がいっぱいになったカトレアは、砂金の大粒と思われるものに向かって川の中を走りだした。
スキップのような軽い足取りであったが、次第にその足取り重くなった。
顔からは笑みが消え、そして次の瞬間それに向かって全速力で走りだした。
そこにはひとりの少女が倒れていた。
どうやら光っていたのは砂金の大粒ではなく、少女の美しい銀髪だったらしい。
その美しさは砂金がただの砂に見えるほどだとカトレアは感じた。
そして銀髪の持ち主である少女の顔を見た時あまりの美しさにカトレアは思わず息を呑んだ。
カトレアと同年代だと思われるその顔には幼さが残っていたが、人形のような綺麗さがあり、観るものすべてを惹きつけるような気品と色気を持ち合わせていた。
「……はっ!見とれてる場合じゃないよ!助けなくっちゃ!」
その美しさに呆けて我を忘れていたカトレアだったが、すぐに正気にもどり川の中から少女を抱え起こした。
少女は想像以上に軽く、カトレアでも軽々しく持ち上げることができた。
そして、カトレアは少女の服がボロボロで、体の至る所に生傷があることに気がついた。
「ひどい傷……。誰がこんなことを。でもなんて可愛いんだろう。どこかのお姫様なのかな?」
カトレアは腕の中の少女の痛々しい姿を見ながら、様々な仮定を考えたが、結局想像はつかなかった。
「とりあえず、家に帰って手当しないと」
カトレアは彼女を抱えたまま、自分の家へと向かった。
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇
夢のなかが虚無感で満たされた時、シャルティアの前に白銀色の騎士が現れた。それは白銀の鎧を全身にまとった騎士だった。
シャルティアはその鎧に見覚えがない。だが、シャルテイアは全身で恐怖を感じていた。こいつにわたしは負けたことがある…と。
しかし、立ち向かわなければならない。守らなければならない。わたしはナザリック地下大墳墓の階層守護者。ナザリックはわたしが守る。
シャルティアは全身全霊をもって白銀の騎士へと攻撃を実行した。
そして、シャルティアの視界からはすべてが吹き飛んだ。
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇
ベッドで眠っている銀髪の少女をレンはずっと眺めていた。
姉であるカトレアに看病するようにと言われたのもあるが、何か神秘的なものを少女から感じていたからだ。
まだ歳が二桁入ったばかりの少年にとっては、容姿も相まって少女がまるで天使のようにに見えていた。
少女を眺めていたら、帰りが遅かった姉への憤りはいつのまにか消えていた。
「本当に天使様なのかな……」
天使様だったら、どうしよう。天使様は何を食べるんだろう。
悪い悪魔にいじめられてこっちに逃げてきたのかな?などと夢想しながら少女のことをレンはずっと眺めていた。
「…うぅ……うん……」
そのとき、レンは声を聞いた。
「…!!あ…!姉ちゃーん!銀髪のお姉ちゃんが起きたよ―!」
少女のかすかな声を聞いたレンは、昼食の準備をしているカトレアを呼びにキッチンへ走った。
カトレアとレンが少女がいる部屋へ戻ってきた時には、少女はベッドから上半身を起こし、部屋に入ってきたカトレアとレンに視線を向けてきた。
少女の赤い瞳には力がなく虚ろとしているが、意識がはっきりしてきているようだった。
「あなた…たちは?」
少女は力なくカトレアたちに尋ねた。
「私はソド村のカトレア・ロマント。カトレアって呼んでね。で、こっちは弟の…」
「レン・ロマントっていいます銀髪のお姉ちゃん!レンって呼んでください!」
「カトレア……レン……」
カトレアたちは簡単な自己紹介をした。
まだ意識は朦朧としているようだが、名前は覚えてくれたようだった。
「それで、あなたの名前はなんていうのかな?」
カトレアは聞きたいことが山程あるがまず一歩、ということで簡単な質問として少女に名前を尋ねた。
「わ…たし……」
「わたしの……」
「わたし…のなまえ…?」
「わ…たし…は…だれ……?」
……どうやら一歩目から盛大にコケてしまったようだ。
時系列的には原作2巻の終わりぐらいからです。