あなたのことが、特別で。
だから、どうしてもあなたを無視出来なくて。
だから。
貴方の妨げになるものは全て、この手で排除できたら、と思うのです。
「……ねぇ、なんで避けてるんですか。」
「……べつに、避けていません。」
「いいえ、避けられていると私は感じています。そう感じている限りは、湊は私を避けているということになるのです! ……ふふふ、どう、湊? 私少しは賢く見えたかなぁ??」
「澪、うるさい。そんなんだからみんなうっとおしそうに接してくるんじゃないの。」
ある春の日のゆったりとした休日。
顔の作りが似通った一組の姉弟が、長いソファを独占している。
姉は、ソファの上にうつ伏せに寝転がり、ソファの土台に背を預けている弟にちょっかいをかけ続けている。
一方の弟は、ソファにもたれ掛かりながら、文庫本を読んでいる。しかし、姉のちょっかいに妨げられて、ここ10分ほどページをめくっていない。
こんな二人のいる家は、知る人ぞ知る『大杉家』であり、空手界に名を馳せた大杉孝雄の愛する子供たちである大杉澪、湊姉弟とその母•大杉海帆が住まう、立派な白い一軒家である。かれらの父•大杉孝雄は、現在諸事情により都内の施設に勤めている。
澪は、家の道場にて日々空手道を極めている傍ら、ファラエル学園高等部生徒会長として、校内のあり方を真剣に考えている。
一方湊は、運動ごとには何かと縁が遠く、 学年上位の学力をキープするとともに、同じくファラエル学園高等部生徒会会計として雑務に追われる毎日をすごしているのである。
「あのさ、湊。透子ちゃんのことだけど」
澪が話を切り出すと、そらきたと言わんばかりに湊が口を開く。
「坂下さんの話は、別に家でまでしなくてもいいんじゃない」
「こんな時じゃないとまともに話なんて聞こうとしないじゃない」
「だって坂下さんのせいだ、とは言わないまでも、坂下さんの居場所を最悪のものにしないために動いた結果が僕ら生徒会役員の悪役なんだよ。澪がどう動こうとも、ね」
おもむろに、手にしていた本をテーブルの上に置き、澪の双眸をじっと見つめた。
「みんな、澪のことが好きで大事なのに、その澪の敵のような立ち位置になってしまうんだもんな。こんな不愉快、続けば誰だって坂下さんにやきもちをやくよね」
「やっと、目を合わせてくれたね」
「澪がしつこいからだよ。そんなんだから周りの人に鬱陶しいって言われるんだよ」
「それ、さっきも聞いたよ」
「何度も言わないと忘れるだろ、空手バカなんだからさ」
「バカじゃないですー」
やっと部屋の空気が緩んだ。
春の日差しは二人にとても優しい。