不文律のために学園をでなければならなくなった人は、これまでにいなかった。そんな人は、初めから自分の子を入れるのはもっと身分にあったところと割り切っているからだ。ファラエル学園は、特待生制度や奨学金制度が充実しており、私立ながら貧困家庭の子が貧困家庭のままになってしまう現代の、打開への切り札になっている。
今回の「坂下透子問題」は、超お金持ちの家の養い子の坂下さんが、何故かは知らないが、もっと相応しい学校だってあったはずなのに、ファラエル学園への入学を非常に強く希望していることから始まる。
ファラエル学園の不文律は、裕福家庭に対抗できるためのツールであった。それを知らない生徒はいない。むしろその言葉に惹かれて入学を希望する生徒が多いくらいだ。
だからこそ、坂下さんの素性が皆に知れ渡ってしまったときのことを想像するのは恐ろしい。いじめだろうか、追放運動だろうか。それで済むくらいならまだいいのかもしれない。そこから学園内が荒れてしまうことだって考え過ぎではないだろう。
「・・・・・・そう思わない、澪?」
「うーん・・・・・・難しいな、人の気持ちってそんなふうに理論で通るもんじゃないと思うよ?」
「いつだって、澪はそうだよね。感情論ばっかり」
「人をまとめる、というのは、人の心に寄り添うってことだと私は思うから」
高等部の生徒会室では、いつも通りの姉弟喧嘩が始まる。若菜と織は、ただ見守りつつお茶を飲んだり本を読んだりしている。体のいい傍観者だ。
「だいたい、澪が直情的になるといつも割を食うのは俺なんだから、今回くらい俺の考えを聞いてよ!」
「湊が割を食うのは、頭でっかちでも行動に実を結ばないからでしょ」
「移す前に横入りして考えなしに動くやつがいるからだろ」
「なーによー」
ここまでくると、澪の方が弁が立たなくなってくる。言いたいことが口から出てこなくなったのを見て、湊が一息つく。
「話を元に戻すけど、予め坂下さんの素性をみんなが知った上で彼女と関われるなら、変に勘ぐられることが無くなるかもしれないと思わない?」
「・・・・・・?」
「あー、ごめん、日本語がややこしかった。坂下さんが堂々と胸を張って、協調性を持ってみんなと仲良くできれば、想定される事態にはならないんじゃないかな、っていう提案」
「むむむ」
「川平さんはいいって。別に坂下さんは、真っ当に合格して立派にSクラスに入るんだから、そういう姿勢でいてくれたら、僕らも掟を振りかざす奴らを牽制することができる。でしょ?」
「うん・・・・・・。でも、それをどう坂下さんに伝えればいいの?」
「うーん・・・・・・」