「ねえ、澪、聞いてる?」
「なによ」
「晩ご飯、ハンバーグとシチュー、どっちがいいかって聞いてるの」
「・・・・・・ハンバーグ」
「言うと思った」
「じゃあ、聞かなくていいじゃん!」
「だって、家に帰ってきてからずーっとむすくれてるのはどこの誰だよ」
東京某所、白くて大きな一軒屋に住む、大杉澪湊姉弟は、学校での口論を絶賛引きずり中だった。口には出していないが、態度だけは立派な姉弟喧嘩だ。
「機嫌悪い時は決まって肉食べたがるの、子どもみたいだね」
「表面だけ取り繕って僕は怒ってないのにアピールだけは上手よね」
「「・・・・・・バレてる」」
互いに知りすぎていることにも、ふと漏れてしまった感想が被ってしまったことにも、なんとなくの気まずさを感じて黙り込んでしまう。
「なんで」
「ん?」
「なんでそんなに私のことわかってる、というより、私よりも私のことわかってるのに、私の邪魔をするのは、なんでよおおおお」
あーあ、泣き始めちゃったよ、泣かれると俺辛いんだけどなー。いつもこう。泣かれて結局澪のため良かれと思ったことができなくなって言い負かされて澪通りにやるとなんでか不可能なことがすんなり上手くいくもんだから、納得がいかないよな。あー、今回もこのパターンか。
「澪さーん」
「うぐっ」
「涙でむせるなって。泣いてる人にはハンバーグないですし」
「がーん」
「だから、泣きやめって」
本当に、湊って、このごろ私のこと軽視してるよね。お姉ちゃんなんだけど、わたし。なのに、頭いいし、料理もできるし、私のこと掌の上で簡単にコロコロと動かすし。
「私のこと、女子力低いバカとしか思ってないんでしょ」
「なんでそうなるの」
「だって」
「大杉家には、だって、は禁止」
澪は家訓を武器にされて、ぐうの音も出ないでいると、手を止めていなかった湊が、できたものを皿にそれぞれ盛り付ける。
「人参のグラッセあるから、ちゃんと食べてね」
「・・・・・・た、べる」
「今日は、母さん合宿に行ってるから、余計に家が広く感じるよね。音も響くし、明かりも暗いみたい」
急に雰囲気のかわった湊に、少しおののいてしまう。こういう空気を出すのは、いつも姉弟喧嘩したあとの母さんの得意技だった。
「晩ご飯、美味しく食べるために、ひとまず休戦してくれるかな」
「あっっっっまい!」
背負い投げ、1本。着地点は一段上になった畳の間のさらに毛足の長い絨毯の上。決まった。
「つめが甘いのよ。湊の言うことだから、きっと正しい路線があるんでしょう、その意見には」
「ってー・・・・・・。え、なに」
技を決めた相手が、一段下で手を腰に当てて仁王立ちしてふんぞり返ってる。
「乗ろうじゃない、湊の意見に」
「え」
「ハンバーグーっ! お腹空いた~。いつまで寝っ転がってるのよ、湊」
「はあああああ!?(澪が、俺の言い分を聞いた・・・・・・)」
鍛えてない人が、受身なんて取れないってね。