いよいよ、俺ら生徒会は誰も待ってもいない(澪は違うかもしれないけれど)、私立ファラエル学園の入学式がやってきた。
この学園は、全学部の入学式を一括して、普段はただだだっ広いだけの講堂で4月1日に行う慣例がある。よって本日も、4月1日晴天なり。
たいていの生徒はエスカレーター式に学内で進学していくため、この学園に入学する生徒以外は昨日半日かけて会場設営や校門からのアプローチ、各教室の飾りつけを行い、午後は休講、当日は自宅学習日になっている。一部の生徒、生徒会や各役員は、その後も教師に従い当日の流れのおさらいと予行演習という長い長い1日を経て、当日を迎えている。もちろん、俺も例にもれず、校門をくぐった後のアプローチの最終チェックを行っている。この任務は、本来もう一人いたはずだけれど、どうしたことか、一人ぼっちにさせられてる俺。
「ったく、いつもいつもこうして、澪の迷惑は俺が被ることになっているんだ! 絶対、生徒会で決めた”坂下さんへの対応”のことを、一晩寝て忘れてるんだ! ああ・・・・・・、ここで失敗したとなると、坂下さんはおろか、生徒会長を早々から任された澪に火が飛ぶじゃないか・・・・・・澪ったら、ゆくゆくは自分のことになるって、何度説明してもわかったかわかってないか曖昧にしてくるし!」
「なにぎゃあぎゃあ一人で騒いでるのよ、湊。校門まで丸聞こえだったわよ」
「澪! もうそれ全部澪のことだから!」
「なによ! まだ透子ちゃんのことぎゃあぎゃあ言ってんの!? 小さすぎるわよ! 大杉家の男が廃るわよ」
「小さいっていうなら、澪も同じ身長なんだからね!」
「二卵性なのになんであんたはまだそんなに小さいのよ、顔も髪質もそっくりって、一卵性じゃあるまいし」
「俺の身長のことはいま関係ないよね!? 話すり替えるなよ!」
いつもこうして顔を突き合せれば喧嘩。
でもこうでもしてあげないと、湊はすぐにため込んじゃうからね。
吐きどころってのが必要かな、って。
任務を外れたことへの言い訳じゃあないんだけれどね。
ところで。
「透子ちゃん、まだ来ないかな~」
「新入生の言葉の代表生徒、もうじき来てないと。ぎりぎりだよね」
「迷子になってたりしないよねぇ・・・・・・」
「シャレにならんぞ・・・・・・! うちはただでさえすべてがだだっ広いんだから!」
「・・・・・・湊、『だだっ広い』って言葉、好きね」
「そうかな。うちの学園にはぴったりだと思うから多用しちゃうのかな。新入生は何度か迷子になるもんだし。大学部の研究施設もいくつかあるから、動物園回るくらいの気持ちでいないとね」
「あ、あれ、写真の子だよね!」
「え?」
澪が指をさすその先に、その女の子はいた。
よくわからないけれど、澪じゃない女の子がよくするような、品のよさそうな髪形で。
澪じゃない女の子が履くようなローファーで(澪は白いスニーカー派)。
自分のハレの日なのに、遠目にでもわかるくらいに、なんだか浮かない下向きの表情で。
澪が俺の手首を掴んで走り出す。
澪の足の速さは県で争うレベルで、俺は運動は全般不器用で。引っ張られても足が追い付かなくてもつれてしまいそう。
あ、やばい。
こけた。
澪は、校門で警備の入校チェックを受けている坂下さんのもとへ無事たどり着いたようだ。
俺を置いていったことにも気づかずに。
「あああ危ない、止まれない! ちょっと透子ちゃん、どいてぇぇぇ!」
「え、何っ・・・・・・!」
叫んだけれど、スピードを出しすぎたこの足は透子ちゃんというゴールに着いたことも忘れて動きを止めない。
そのまま、入校チェックを終えて歩き始めた透子ちゃんにぶつかりかけたけれど、間一髪、警備員の山下さんが透子ちゃんを避けてくれたおかげで、わたしだけこけて済んでよかった。
「あなた、大丈夫ですか・・・・・・? と、なぜ私の名前を知っていたんですか・・・・・・」
こけた私の傍に来て、スカートの裾を気にしながら屈みこむ透子ちゃんが、私に問う。
この子が、私たちが最初に守るべき、大切な仲間。
「初めまして坂下透子さん。私はあなたを助けるためにいます」
「・・・・・・え」
「澪! 大丈夫か!? スカートめくれてる・・・・・・っ」
「おお、湊、遅かったねぇ。忠告ありがとう。よいしょっと」
「急に全速力で走り出すからこうなるんだよ。全ては良い加減ってのがあってねぇ」
「説教はまた後で、ね。それより今はご案内しないとね!」
「私の高校生活、どうなっちゃうの・・・・・・」
お待たせしました。
大杉姉弟は書いてて楽しいです。指が勝手に喧嘩してくれます。