魔法先生ネギま! 〜小さな灯は未来を照らす〜   作:林公一

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なんで私も行くんですか

「おーい、イヴ〜」

 

 イギリスはウェールズ。学校の中庭に植えられている、やたら大きな木の影で、本を顔に乗せて眠りこけている者に呼びかける少年。

 名は『ネギ・スプリングフィールド』。この学校、『メルディアナ魔法学校』を今日、飛び級で、首席(・・)で卒業した者だ。

 眼鏡をかけており、肩まである赤い髪を、首のところで結んでいるのが特徴。身の丈以上の杖を背負った十歳(・・)の少年である。

 

「こんなところで何してるの。卒業式終わったよ?」

 

 そう。この今現在も眠りこけている、『イヴ』と呼ばれた者は、卒業式という記念すべき式典であるにもかかわらず、いつもと同じように(・・・・・・・・・)サボタージュをおこなっていた。

 この者も今日卒業するというのに。あるいは、卒業するからかもしれない。

 しかし、そこは生真面目で有名なネギだ。そんな寝坊者を許すわけもなく。

 

「もう! いつまで寝てるのさ! 早く起きてよ!」

 

 ネギが杖を構えて詠唱を始める。魔法発動の儀式だ。

 ネギが詠唱を終えると、風が巻き起こる。その風にあおられて、イヴの顔の上に乗せられていた本が浮き上がり、そして――

 

 ゴンっ、と。

 

 鼻っ柱に本の角が激突した。

 

「――っ!? 〜〜〜〜っ!」

 

 顔を抑えて悶絶するイヴ。よほど痛かったのか、十数秒ほどのたうち回り、そしてようやく起き上がった。

 

「……おや? 誰かと思えばネギ君ですか。卒業式は終わりましたか?」

 

 寝惚(ねぼ)(まなこ)を擦りながら、イヴはネギの方を、その蒼い瞳で見る。その様子を見たネギは、呆れながら言葉を発した。

 

「……どうしてそう平然としているのかな……。とっくに終わってるよ。それと、はいこれ。卒業証書」

 

 ネギは懐から卒業証書を出すと、イヴに手渡した。それを受け取ったイヴは。

 

「ほいっと」

 

「あああああ!? 何やってるの!?」

 

 何の躊躇もなく、即座に燃やした。

 

「それには『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になるための『最終課題』も書いてあるんだよ!?」

 

「いいんですよ。どうせマギステル・マギ(そんなもの)になる気はさらさらないですし。何が楽しくて立派にならなきゃならないんですか。日々をおもしろおかしく過ごせればそれでいいんですよ」

 

 まったくもってやる気のないイヴ。

 学校でもイヴは問題児扱いだった。授業はサボるは、イタズラや騒動は起こすは……。数え始めればきりがないほどやらかしてきているのが、このイヴという者なのだ。

 そのクセ、テストの点だけはきっちりとっていくあたり、余計にタチが悪い。もっとも――

 

「そもそも私、魔法うまく使えませんし」

 

 『魔法(・・)学校』の生徒であるにも関わらず、魔法の成績はあまり芳しくはないのだが。

 

「……まあ、それはそうだけど……」

 

「おや、フォローしてくれないのですか。寂しいですね」

 

 わざとらしく、イヴがよよよと顔を覆うと、ネギは慌てたように訂正する。

 

「い、いや、そうじゃなくて! っていうか、イヴも左手(・・)でなら魔法使えるじゃないか!」

 

 ビシッ、とイヴの左手を指さしてそう言うネギ。慌てた様子を見れたことに満足したイヴは、からからと笑いながら左手を持ち上げる。

 

「これのことですか? ――魔法の射手(サギタ・マギカ)火の一矢(ウナ・イグニス)

 

 イヴが詠唱を始めると、左手の近くに、赤い光球が一つ出現する。それを火の矢として空に放ったイヴは、しかしつまらなそうに答える。

 

「これくらいじゃ、あまり面白くないですもん。右手付近に光球近づけると変な挙動になりますし。それが原因で点数下がったんですよ?」

 

 自身の右手を見ながらため息をつくイヴ。

 イヴは確かに魔法の成績は悪い。しかしそれは、魔法を発動できないことに原因があるのではなく、魔法を発動した後の挙動(・・・・・・・・・・・)に原因があった。

 発動まではうまくいく。しかし、発動した直後に右手が魔法の近くにあると、その魔法がぐにゃりと捻じ曲がり、ひどい時には暴発する。

 それは自身のみにとどまらず、ほかの生徒の魔法にまで干渉するため、イヴはいつも離れたところから魔法の授業を受けていた。

 その性質のため、魔法を使う時は基本左手から発動。右手は極力後ろに下げるという、変な発動方法で落ち着いたわけだが、それでも限界がある。

 矢の数が多くなってくると、いくつかは右手の近くに来てしまうため、イヴが自らに課した矢の限界数は十七本まで。

 それ以上増えると、矢がいくつか暴走してしまうのだ。

 当然、ネギもそれを知っているため、あまり強くは言えないのだが、それはそれとして――。

 

「授業をサボる理由にはならない!」

 

 ビシィッ! と、先程よりも強くイヴを指さした。

 イヴもあからさまな悲しげな表情を解いて、再びからからと笑う。

 

「あはは、バレました? まあそれはいいんですよ。どうせ私は『最終課題』が何か知りませんし、マギステル・マギになる気もありません。ネギ君も私にかまけてないで、さっさと課題をこなしに行ったらどうです?」

 

 手をぷらぷらとさせて、ネギを促すイヴ。むむむと唸ったネギは、一瞬後にはっとした表情を浮かべて、だらだらと汗を流し始めた。

 

「ん? どうしました? 何か悪いものでも食べたんですか?」

 

 様子が変わったネギを見て、のんびりと呼びかけるイヴは、後ろの老人には全く気づかずに――

 

 拳骨を食らった。

 

「――っ!? 〜〜〜〜っ!」

 

 あ、なんかデジャヴ。と、ネギは思った。

 

「全く……。卒業式をサボるだけでなく、証書まで燃やすとはな。問題児、ここに極まれりじゃな」

 

「――ったぁ〜……。あ、学園長ですか、おはようございました」

 

 白く長い頭髪に、同色の長い髭を蓄えた、いかにも賢者らしい出で立ちの老人は、拳骨を受けてもなおへらへらと笑うイヴを見て、深くため息をついた。

 

「わけのわからん言葉を使うんじゃない。ほれ、さっさと旅立つ準備をして、ネギに着いて行きなさい」

 

「え? イヴも僕と同じ課題なんですか?」

 

 学園長の言葉に、イヴではなくネギが反応する。学園長は髭を弄びながら、ニヤリと笑ってその言葉を否定した。

 

「いいや? 行き先はネギ君と同じじゃが、課題は違う」

 

「では一体何をするのですか?」

 

 再びネギが聞くと、学園長は重々しく頷き、こう言った。

 

「イヴ・レッドフォックスの『最終課題』。それは『麻帆良学園で学園生活を真面目(・・・)に過ごすこと』じゃ」

 

「慎んでお断りさせていただきます」

 

「拒否権はない。ネギ君、連れていきなさい」

 

「了解です、おじいちゃん。さあ行くよ、イヴ」

 

「い〜や〜で〜す〜! 私はここでのんびりと過ごすんです〜!」

 

 じたばたと手足を振って抵抗するも、学園長に拘束魔法をかけられてしまい、身体の自由を効かなくされる。

 普通の魔法使いなら、抵抗(レジスト)しようと思えばできるし、この魔法を解除することも可能といえば可能だ。

 しかし、イヴにはそれは当てはまらない。

 イヴは面白さ優先、もっというならイタズラに応用できる魔法を好んで覚えるタイプの子だ。そのため、回復魔法やらの地味な魔法はあまり得意ではないのだ。

 一応使えないこともないが、口の動きすら封じられている今、無詠唱で発動できるほどの熟練度に達していないイヴにできることはなかった。

 

「ん〜〜! ん〜〜〜!!」

 

 本人的には必死に講義しようとしているのだろうが、ダラっと手足を投げ出した状態で唸っている姿は、どう見てもふざけているようにしか見えない。

 ネギはそんなイヴの首根っこを引っ掴んで、イヴの家へと向かって行く。

 

「ほら、おじいちゃん直々に課題を言い渡されたんだから、少しは真面目になりなよ」

 

「んん! ん〜ん〜! ん〜〜〜!!」

 

 必死に声をあげようとするも、やはり口は開かずくぐもった声が出るのみ。

 イヴは確実にネギと一緒に麻帆良学園に行くことになるだろう。

 

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