魔法先生ネギま! 〜小さな灯は未来を照らす〜   作:林公一

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決行日ですね

 何かやたらともふもふした感触がありました。

 ぼんやりとした意識の中、本能のままにもふります。もふもふ。

 どこからかいい匂いも漂ってきました。これは何の匂いでしょうか? ともあれ、なんだかとても幸せな気分になれます。

 ああ、夢心地。この世は素晴らしいもので満ちています。これで誰か弄り甲斐のある人でもいれば文句なしなのですが……ネギ君とか。そこまで求めるのは流石に贅沢なのでしょうか。

 ……とか思ってたら向こうの方からネギ君がやってきました。とんでもないご都合主義です。でも私はそんな状況を何の疑問も持つことなく受け入れることが出来ました。流石の適応力です、私。さあ、今日はどんなイタズラを仕掛けてやりましょうかね――。

 

 

 

「起きんかバカ者」

 

「あいたっ!」

 

 ぺしりと額を叩かれて覚醒します。どうやらあの素敵空間は夢だったようです。残念。

 さて、起きはしたものの状況が呑み込めません。一体ここはどこで、私は何をしていたのでしょうか。

 

「覚えていないのか? お前は私の魔法が直撃して吹っ飛ばされたんだ」

 

「ああ、そうでしたっけ? なんか体が痛いと思ったら……おや、茶々丸さん」

 

 後ろに気配を感じて振り向けば、茶々丸さんが濡れタオルを持って立っていました。茶々丸さんが私を介抱してくれていたのですね。

 

「お加減はいかがでしょうか」

 

「ええ、大丈夫ですよ。まだちょっと痛むみたいですけど、これくらいならどうとでも」

 

 メルディアナ学園長のゲンコツに比べれば可愛いものです。

 

「そうですか。それならよいのですが」

 

「はい。よいのです」

 

 そう言って茶々丸さんはキティちゃんの後ろに移動して静かに佇みます。どうやらあの辺が定位置なご様子。その姿はまさに従者。この二人がパートナーとして長く過ごしているのがわかりますね。

 

「さて、それはそうと」

 

 茶々丸さんから視線を外し。

 

「軽く力を見てもらったわけですが、どうでしょう?」

 

 キティちゃんに質問してみます。

 

「ふむ……まあ充分だろう。だがもう中級以上の魔法は使うな。また暴走されては敵わん」

 

「でしょうね。私もそう思いました」

 

 久々におおっぴらに魔法を使えたものですから、ハンデを忘れてちょっとはしゃぎ過ぎちゃいました。これをどうにかするまでは自重しないとです。

 あ、そう言えば。

 

「撃ち合ったついでに、あれが何かわかったりしてませんか?」

 

 最初にチラッと見せた時はともかく、今回はしっかりと撃ち合ったわけでして、百戦錬磨の吸血鬼なら何か手がかりを得てたりしてたりして。

 

「残念ながら何もわからんな。だが闇の魔法(マギア・エレベア)と同種の何かなのは確かだ。ま、封印するのが手っ取り早いな」

 

「そうですか……ちなみにそのマギアってどんなのなんです?」

 

 何度か耳にする単語、闇の魔法(マギア・エレベア)ですがいまいちどんな魔法なのかイメージ出来ません。何やら物騒な響きではありますが。

 

「うーむ……言葉で説明するより見せた方が早いのだが……生憎と巻物(スクロール)もあの筋肉ダルマに取られてしまったしな……。実演するにしても魔力が足りん。何にせよ、ぼーやから血を得るまではお預けだな」

 

「ですかー」

 

 ちょっと興味はあったのですがね。まあそれなら仕方ありません。決行の日まで待つことにしましょう。

 

 

 

 それからもう少し別荘を堪能してからダイオラマ魔法球の外に出ると、既に日は落ちかけて空が赤くなっていました。これ以上は外ですることもないので、寮に帰ることにします。

 シャワーを浴びて髪を吹きながら部屋に戻れば、愛衣ちゃんが勉強をしています。そんないつもの時間でする愛衣ちゃんとのたわいもない会話は楽しいものなのです。

 

「と、いうことで満月の夜は外出するので寮母さんを抑えておいてください」

 

「いや何言ってるんですか!? え!? あの闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)に協力するって言いましたか今!?」

 

 そんな世間話をすると愛衣ちゃんは大層驚きました。八割くらいはわざとなのですけど。

 ともあれ、満月の夜の作戦を滞りなく進めるには寮母さんの存在は邪魔なので、その辺を愛衣ちゃんに誤魔化してもらおうと協力を要請したのです。

 え? 誰にも話さない約束? 先生にバレなきゃいいんですよ。

 愛衣ちゃんならペラペラと話さないでしょうし、話そうものならどうなるかを事細かに優しく説明してあげましたのでに話は穏便に済みました。

 態度でボロが出るのは考慮してませんがね!

 

「悪い子じゃないと思うのですよ、噂に背びれ尾ひれが付きまくってるだけで。本気でヤバそうなら止めに入りますし」

 

 本物の悪ならとうに魔法学校の教師達が成敗しているでしょうし、私個人が関わってみた感想としても完全な悪ではない印象でした。

 だからと言って善人というわけでもありませんが。あの子、根本的には善性を持っていますが基本的には悪人のようです。

 自身が決めたルールを外れることはしませんけど、逆に言えばそのルール内であれば何でもするタイプです。そしてその際に起こる事故や災害といった結果に関しては興味を持たない。

 要するに『手段()選ばない』タイプですね。

 

「……そりゃあ直に関わったあなたが言うならそうなのかもですけど、それでも私は反対です。そもそも止めるって、真祖の吸血鬼を相手に何が出来るんですか」

 

「いや、まさか私が真正面から戦うと思ってます? いくらなんでもそれは無理ですよ。力が抑制されてる今のキティちゃんですら、勝てる人なんて学園内でも数える程度しかいないんじゃないですか? ただの学生の私じゃムリムリです」

 

 タカミチとかぬらりひょんとかならどうにかなるかもですが、そこら辺を引っ張り出すのはキティちゃんとの約束に反しますしね。

 

「じゃあどうやって――」

 

「だから真正面から戦わないんですよ。そんなのはバカのやることです。賢者は効率よく事を運ぶのですよ」

 

 対策も練ってますしね。まあ万が一でもネギ君を逃がすくらいなら出来るでしょう。

 

「……はぁ、わかりましたよ。適当に偽装しておきます。でも今回限りですからね」

 

「ありがとうございます。だから愛衣ちゃん大好きです」

 

「わわっ!?」

 

 愛衣ちゃんの胸に飛び込んでむぎゅーっとします。今回ばかりは邪な感情はなく、純粋に親愛のハグです。

 正直、こんなにあっさりと承諾されるとは思ってませんでした。いくらキティちゃんが悪者じゃないと言おうとも、それは私個人の価値観であり、愛衣ちゃんが今まで抱いていたであろうナマハゲのイメージを覆すには至らない可能性の方がずっと高かったわけです。

 しかし不承不承といったところながらも、愛衣ちゃんの協力を得ることに成功しました。これは最近でも一番嬉しい事です。友情万歳。友情は何よりも尊いのです。

 ちなみに協力が得られなかった場合、可能な限り寮生を昏倒させてから出るつもりでした。都合の悪い記憶を消す魔法もあるのですよ、あまり使いたくないですけど。

 

「では、よろしくお願いしますね」

 

「ぁ……あ、はい、わかりました」

 

 こつんと額と額をくっつけてから体を離します。一瞬残念そうな声を上げたのはどういう意味でしょう? 襲ってもいいのですかね?

 

 

 

 その後、特に事件が起こるでもなく、危険を冒したくないらしいキティちゃんに血を供給しに行くという日課が追加された程度しか、代わり映えのしない毎日が続きました。

 そしてネギ君も無事に3-Aの教師になりまして、そんなネギ君を監視するべく珍しく授業に出たキティちゃんからの通達が。いよいよこの日は来たのです。

 

「……準備はいいか? 銀ギツネ」

 

 満月をバックに、コウモリで編んだ黒装束で身を包むキティちゃんはまさに吸血鬼の出で立ちです。闇夜に煌めく金の髪がとても綺麗です。

 

「いつでもいいですよ。けど、コレなんですか?」

 

「ん? ただの面だが。お前にはピッタリだろう。茶々丸に作らせた」

 

「器用なことですね、あの人」

 

 頭の左側面に付けた白いキツネのお面を弄りながらそんな会話をします。微妙に認識阻害の魔法もかかってますし、これで連れ出せということでしょう。

 

「さて、それじゃあ始めますかね」

 

「頼んだぞ。連れ出すだけでいいからな」

 

「はいはい。お任せ下さいな」

 

 さてさて。今宵キツネに化かされるネギ君は何を思うのでしょうかね?

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