メルディアナ魔法学校の
さすがに半日以上も乗り物に乗っていると疲れます。杖でピューっと飛んで行ければよかったのですが、いくらなんでもそこまでの魔力はありませんし、万が一にも一般人に見つかると厄介です。まあ、認識阻害魔法があるので、そうそう大事には至りませんが。
「わー、すごいや。人がいっぱいだね、イヴ」
「そうですね〜。じゃあ帰りましょうか」
「そろそろ諦めなよ……」
そうは言いますが、ずっと飛行機に乗ったままで身体が硬くなっていますし、ろくにリラックスもできなかったんですよ? なのにまた電車に乗らなきゃいけないんですから、気分も乗らないというものです。も、と言うかは、と言うかですが。
「愚痴ってないでほら、行くよ。電車も時間が決まってるんだから早くしなきゃ」
「はいはい、わかりましたよ。
全く、ネギ君の修行が日本の学校の先生をやることだなんて……。十歳に任せる仕事じゃないと思いますし、そもそも労働基準法は大丈夫なのでしょうか? そのあたりは多分お偉いさん方がどうにかしているのでしょうけど。
何はともあれ、まずは目的地の『麻帆良学園』に行かないとですかね。面倒な。
『学園生徒の皆さん。こちらは生活指導委員会です。今週は遅刻者ゼロ週間。始業ベルまで十分を切りました。急ぎましょう――』
電車を降りるなり、アナウンスが辺りに響きます。どうやら、今週は遅刻しないようにという決まり事のようです。
しかし、時計を見てみれば明らかに遅刻寸前の時刻。周りの人たちもガッツリ『遅刻だー』とか言ってますし、この週間は形骸化しているのでしょう。どこの学校でも、ここは似たようなものですね。
でも、本当に人が多い。通学までの一本道を、人々がごった返して走っていきます。
学園まで直通の、小さな電車らしきものや、スケボーその他諸々。色んなもので通学しているようです。
さらに『移動購買部』と書かれた旗を掲げたバイクの方もいらっしゃります。さらに、走っているそれに注文をし、商品を受け取る剛の者もいました。
これが日本の学校なのですかね? 何かが著しく間違っている気がします。
……っと、私たちも急がなければ遅刻ですね。圧倒されている場合ではありませんでした。
「行きますよ、ネギ君。初日から遅刻では格好がつきません」
「お、珍しくやる気あるんだね」
「いえ、遅刻魔認定されると教師に目をつけられるので。私、イタズラ以外で目をつけられるのは心外です」
「どう考えても後者の方が悪質な気がするんだけど!?」
だって遅刻だと私は何もしてないじゃないですか。何もしてないのに怒られるのは嫌です。何かしてからじゃないと怒られ損です。
「まあとにかく走りましょう。私たちならすぐに着きますよ」
「そうだね!」
足に力を込めて大地を蹴り、麻帆良学園向けて走り始めます。魔法使いは身体に魔力を供給することで、見た目より大きな運動力を発揮できます。
そして、その運動力はその人の持つ魔力量に比例しますので、十歳のネギ君でも十二の私と同じ運動能力を発揮できるわけです。
まあ、実際には二人とも大人と同じぐらいの運動能力を発揮していますが。
と、言いますか、前方にものすごい速い人がいるのですが……。長髪の方はローラースケートを履いているのでわかるのですが、もう一人のツインテールの方は明らかに普通に走っています。魔力は感じませんから、素の運動能力なのですかね? 体力バカっぽいです。
そんな二人の会話が聞こえてきます。聴力も上がるから便利ですよね、魔法使いって。
「やばいやばい! 今日は早く出なきゃいけなかったのに!」
どうやら彼女たちも遅刻のようですね。用事があったようですが、それなら早く出ないといけませんよね。私ならサボりますけど。
「でもさ、学園長の孫娘のアンタが何で新任教師のお迎えまでやんなきゃなんないの?」
「スマンスマン」
気の強そうなツインテガールが、隣にいるほんわか長髪ガールに何か愚痴っています。友だちなのですかね。仲は良さそうです。
「
「そうけ? 今日は運命の出会いありって占いに書いてあるえ」
ふむ。なんとなく話から察するに、新任教師がイケメンか、みたいな話にでもなっていたのでしょう。で、それにツインテが反発していたと。
まあ、確かにおじいさんの友人なら、その人もおじいさんの確率が高いでしょう。本当はここにいる十歳の少年ですけど。あ、まだ十歳ではなかったですね。数えででした。
そして話は占いの話題に。占いの本に書いてあるおまじないを教えてもらったツインテはそれを実行。
高畑先生なる人物の名前を十回言った後、ワンと鳴きました。
公衆の面前で何をしているのか。あの人とはどこか私と同じ匂いがします。少しですけど。
ほんわか長髪も呆れた様子。他のおまじないも教えていましたがツインテはそれを拒否。さすがにこれ以上は恥を晒す気はないようです。つまりません。
っておや? ネギ君はどこに……あー……。
「にしてもアスナ足速いよねー。私コレやのに」
「悪かったわね、体力バカで……ん?」
どうやら余計なお世話をしに行ったようです。とても面白くなりそうなので静観しましょう!
「あのー……あなた、失恋の相が出てますよ」
「え゛……」
やりやがりました。ツインテ絶句してます。
この時点で既に腹を抱えて爆笑したいですが、もう少し我慢します。
「な……し、しつ……って……何だとこんガキャー!」
「うわああ!? い、いえ、何か占いの話が出てたようだったので」
「ブフゥッ!」
無理です。噴き出してしまいました。無知とは恐ろしいですね。ツインテ大激怒です。そりゃそうですが。
あーあー、頭を鷲掴み……って、いくらネギ君が子どもでも、中学生に、しかも片手で持ち上げられるほど軽くはないはずなのですけど……。まあ、やはり体力バカということなのでしょう。問題ありません。
っと、なんだかんだで着きましたね。
ネギ君が初等部がどうのとか勘違いされていますし――無理はないですが――そろそろ助け舟を出すわけがないですよね。このまま放ってお「イヴ助けてー!」けなくなったじゃないですか、面倒な。
とはいえ、名前を呼ばれてしまっては無視もできません。後で何か嫌がらせをして、罪を清算してもらうことにしましょう。
「はいはいお二人さん。気持ちはわかりますが、この子も悪気があったわけではないので、許していただけませんか?」
「へ? 誰、あんた?」
「ああ、申し遅れました。私、イヴ・レッドフォックスと申します。で、そこの鷲掴まれてるのが――」
「おーい、ネギ君! イヴ君! お久しぶりでーす!」
上から男の人の声。聞き覚えのある声です。はて、と周りを見渡します。
校舎の方から聞こえたので、多分あの辺……あ、いました。
「タカミチ、お久しぶりです」
「久しぶり、タカミチー!」
「!? し、知り合い……!?」
「ええ、まあ」
ツインテが驚愕の表情を浮かべて後ずさります。ネギ君も解放されましたし、グッドタイミングです、タカミチ。
「麻帆良学園へようこそ、『ネギ先生』」
タカミチの、多分『先生』という単語に反応したのでしょう。ほんわかさんがびっくりしています。
「え……せ、先生?」
「あ、ハイ、そうです」
ネギ君はコホンと一つ咳払いをして、
「この度、この学校で英語の教師をやることになりました。ネギ・スプリングフィールドです……」
ペコリと頭を下げて自己紹介しました。