魔法先生ネギま! 〜小さな灯は未来を照らす〜   作:林公一

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吸血鬼っていっても可愛いものです

「で、お前はなぜその力を」

 

「へー、なかなかファンシーな部屋じゃないですか。吸血鬼っていうからもっとおどろおどろしいのを想像してましたが」

 

「だからお前はなぜ」

 

「ふむ、長い時を生きていても趣味は子どもっぽいままだと。あ、うさぎのぬいぐるみ」

 

「いやだから」

 

「あ、何か飲み物とかあります? できれば紅茶だと嬉しいです。ミルクティー」

 

「かしこまりました」

 

「ええい、私を無視するな!」

 

 さて、とりあえずキティちゃんの謎の怒りも収まったようで、家の中に入れてもらうことになりました。

 学園長は『後は任せた』とか言ってキティちゃんに私を押し付けましたし、まあ私としても美少女と二人きりになれるのであれば異存はありません。

 そんなキティちゃんは話を無視されてまたも不機嫌になっています。本当にこの人何百年も生きてるんですかね? それにしては子どもっぽすぎるような……。

 うむ。合法ロリ安定でいいでしょう。素晴らしきかな、合法ロリ。

 

「……何かひどく不快な事を考えてないか?」

 

「まさか。脳内で愛でていただけです。それよりも本題に入りましょう。私の右手について何かご存知ですか?」

 

 ほんのわずか、矢の一本が揺れただけだと思いましたが、キティちゃんはそれを目敏(めざと)く見つけたようです。

 あの時、私が魔法を使った時のキティちゃんの反応は異常なものでした。

 興味心とか猜疑心とか、そういうのではなく純粋な怒り。どこか困惑も混ざっていましたが、その理由はわかりません。

 が、もし私の右手のことを知っているのなら、是非とも教えてもらいたい所存です。これには今まで苦労させられてきましたからね。主に偽装魔法がうまく使えないという点で。

 めちゃくちゃ緻密に魔法式練らなきゃならなくて、その上右手付近は効果が薄くなるとか対価に見合ってません。あのヒゲグラに見つかったのも、多分それが大きな原因です。常に右手を掴まれてましたし。隠密には自信があります。

 まあそんな諸事情はともかく、教えてもらいたいものです。

 言葉を待っていると、一つため息をついて口を開いたキティちゃん。

 

「……お前の右手のそれは、闇の魔法(マギア・エレベア)といってな。私がまだ吸血鬼として活動間もない頃に編み出した技法だ。本来なら膨大な魔力を内に内包している者にしか扱えん上に、莫大なデメリットがあるはずなのだが……」

 

「デメリットって、魔法が変な挙動をすることですか? それだけなら莫大とは言えないんじゃ――」

 

「いや、最悪死ぬ」

 

 絶句です。死ぬんですか、私。

 柄にもなくあんぐり口を開けていると、違う違うとキティちゃんが首を振りました。

 

「何も今すぐってわけじゃない。それにお前は侵食がほとんどないようだしな……。何より、あの時は闇の魔法(マギア・エレベア)だと思ったが、どうも私の知っているものとは違うらしいな」

 

「と、言いますと?」

 

闇の魔法(マギア・エレベア)の真髄は己の魂と肉体を喰わせて、爆発的に出力を上げることだが、その時の挙動が不自然だ。魔法を固定する時に、あんな不安定な状態にはならないはず。というか、そもそも自動で固定を行うようにはならない」

 

 うーん……言ってることがよくわかりません。固定ってなんでしょうかね。要するに素敵パワーって理解でいいです? でも私のは少し違うと。ならなんなんですかね、これ。

 

「要するに?」

 

「不完全版・闇の魔法(マギア・エレベア)ってところだな。もう少し調べてみんとわからん」

 

「なんですかそれは」

 

 ようやく長年の謎が解けるかと思ったらとんだ肩透かしです。しかも不完全って、使えないってことじゃないですか。私はこんなお荷物を背負って生きていかなきゃならないんですか。

 

「ただ」

 

 お先真っ暗な魔法人生に軽く絶望していると、キティちゃんが続きを話し始めます。ん? まだ何かデメリットあります?

 

「もしかしたらその右手をどうにかできるかもしれん。私に協力する気は無いか?」

 

 ……ほほぅ?

 

 

 

 

 

 茶々丸さんが入れてくれたミルクティーを飲みながら話を聞くところによると、どうやらキティちゃんは登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)とかいう呪いをかけられているそうです。

 それは魔法の効力が続く限り、ひたすら学校に登校し続けさせられるというものらしいです。なんですかその地獄は。あ、登校地獄か。

 ともかれ、かれこれ十五年もずっと学校に押し込められているそうです。私だったら耐えられません。死にます。

 でもキティちゃん不死だから死ねません。可哀想に。

 幸いというか、何年学校にいても不審に思われることはないそうですが、それでもきついものはきついでしょう。

 この人はサボろうとしてるらしいですけど、タカミチがどうにか登校させようとしてるせいでサボりにくいそうです。

 で、その呪いを解除する方法が呪いをかけた本人、すなわちサウザンドマスターに直接解いてもらうのが一つ。

 そしてもう一つが、その血縁者の血を大量に吸うことらしいです。

 前者は本人がもう死んでいるために不可能。でも後者は今なら可能です。

 サウザンドマスター――本名ナギ・スプリングフィールドの息子である、ネギ・スプリングフィールドがこの学校に教師として転任してきたからです。

 

「で、私にネギ君の血を吸う手伝いをしろ、と」

 

「その通りだ。お前もその右手の呪いを解きたかろう? いつから罹ったのかもわからんものに煩わされるのは嫌だろう。私の呪いが解けたら、お前の右手をどうにかしてやる」

 

 キティちゃんの『いつから右手がそんな状態になった』との問には『わからない』と答えました。

 実際、物心ついて魔法の勉強をし始めた時からこんな感じでしたし、記憶にある限りでは何か特別なことをされた覚えもありません。

 キティちゃんは『そうか……』とだけ言ってとりあえず納得してくれましたが、私にとっては『何時から』は問題じゃないんです。『解けるか』が問題なのです。

 で、キティちゃんは解けると言いました。正確にはどうにかする、ですが。

 解くにせよ封印するにせよ、これが無くなってくれるなら大助かりです。

 ならば私の返答はこうなるのも仕方のないこと。

 

「了解しました。仕方ありませんよね。私の呪いを解くためなんですから。仕方ありません」

 

「そんな満面の笑みで言われても説得力は皆無だぞ」

 

 決して朝面倒なことに巻き込まれた腹いせではありません。あんな些細なことで私が仕返しするわけがないじゃないですか、ええ。

 

「で、ネギ君襲撃はいつにするご予定で?」

 

「肯定ととって良いようだな。本当ならもう少し準備をしたいから二ヵ月後……つまり今の2ーAが三年に上がった後の満月の夜だ」

 

「そうですか。ではそんな感じで」

 

 二ヶ月後ですか……。少々長く感じなくもないですが、まあ私もまだ日本に慣れてないですし。のんびりいきましょう。

 無駄な行動起こして問題にでもなったら本国に強制送還……あれ? そっちの方がいい?

 

「いいか、勝手な行動はするなよ。もし計画がバレてあのぼーやに警戒でもされたら全ておじゃんだからな」

 

「何もしませんよ、多分。というか、私は何をしたらいいんです?」

 

 協力するとはいえ、具体的に何をどうすればいいのかはよくわかりません。血を吸うってことは、ネギ君を抑えておけばいいのですかね?

 

「気を引いてくれればそれでいい。後は私がやる」

 

 そんなキティちゃんの言葉。まあ元々一人でやる予定だったようですし、それが少し楽になるぐらいの認識なのでしょう。失敗してもいいのなら私も気楽なものです。

 

「ふむ、了解しました。ではお世話になります」

 

「ああ……ん? おい待て、世話になるとはどういう――」

 

「いや、だって私行くところないですし。ここに住みます」

 

「はあ!? おいこらふざけるな! そこまでしてやる義理はないぞ!」

 

 怒りだしてしまうキティちゃん。いや、義理も何も――

 

「一応協力者である私に何かしらの提供はあって然るべきでしょう。私は住まいを求めます」

 

「右手をどうにかしてやると言っただろう! それで十分じゃないのか!」

 

「いや、だってそれ自体は不確定事項ですし、本当に解けるものなのかすらわからないじゃないですか。どちらにせよ、ペラペラと計画を喋ってくれたおかげで、私はあなたに対するカードを持っています。『ネギ君に計画をバラす』というカードを」

 

「うぐっ……! キサマ……!」

 

 おおう、目が怖い。幼女のする目じゃないですよ、それ。本当に百戦錬磨の吸血鬼なんですね、この子。迫力がすごいです。私には関係ありませんが。

 

「安心してください。計画をバラすつもりは毛頭ありませんし、ちゃんと協力もします。ただ、住むところがほしいから脅しの真似事をしてみただけですよ」

 

「……ふん。確かに今の私に戦う力はないが、この茶々丸なら話は別だぞ。お前を無理やり追い出すことだってできるんだ。痛めつけて言う事を聞かせることもな」

 

 ふむ、確かにそれは尤もな話。そうされるのは困りますね。

 

「――なら試してみます?」

 

「あ?」

 

「いえ、だから試してみますかって。やれるものならやってみてください」

 

「ほう……!」

 

 私の挑発じみたセリフに、キティちゃんが青筋を立てて口元をヒクつかせます。いや、だって私だって野宿はゴメンです。寝てる時に叩き出されるより、ここで認可させる方が都合がいいですもん。

 幸い、勝つだけなら多分なんとかなるでしょうし、役に立つか見てもらう意味でも、挑発する価値はあります。

 

「なら表へ出ろ。茶々丸、話はわかったな?」

 

「はい、マスター。ですがいいのですか?」

 

「構わん。そいつが望んだことだ。嫌と言うまで相手をしてやれ」

 

 おお怖い怖い。お手柔らかに頼みたいものです。

 

 

 

 

「勝負は時間無制限で、どちらかが降参するまでとする。異議はあるか?」

 

「魔法使用は?」

 

 手を挙げて質問します。これは聞いておかないと、反則取られて負けとかシャレになりませんからね。というか、仮に使えないと言われても困りますが。

 

「当然ありだ。が、茶々丸を相手にそんな余裕があるかな」

 

 さすがにこちらの手を封殺してくるようなことはありませんでした。

 まあ、理不尽に勝っても言うことは聞かないだろうという思いからでしょう。実際その通りです。そんなことされたら何が何でもキティちゃんの安眠を妨害したくなりす。

 

「それだけか? では――始め!」

 

 試合開始のようです。

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