キティちゃんの声と同時、茶々丸さんが一気に距離を詰めて来ました。おお、速い。
「失礼します」
わざわざ断りを入れてから、パンチとかのわかりやすい物理攻撃じゃなく、まさかのデコピンを放ってきました。
ただ、人の力でも十分に痛いものを、鉄の塊である茶々丸さんにぶち込まれたら痛いじゃすみません。こんなものは避けるに限ります。
「ほっ」
当然というか、私はイタズラの度に逃げ回ってたので、こういう対処には慣れています。デコピンどころかゲンコツですら躱せますから、あまり手加減はしなくても大丈夫だと思います。
でもまあ、わざわざ相手を強くする必要もないでしょう。油断大敵……でしたっけ? そんな感じです。手心を加える向こうが悪いのです。
甘い攻撃を避けながら詠唱開始。それを止めようとさらにデコピンの嵐を繰り出す茶々丸さんですが、のらりくらりと避けまくる私に諦めたのか、距離をとって攻撃に備え始めました。
「ルベル・クラクル・カーバンクル。
風は私は得意じゃありませんから、始動キーが必要なのです。
攻撃力はありませんが、相手を捕縛する魔法としては優秀な戒めの風矢を撃ちます。
11の風の矢が茶々丸さんを狙って殺到しますが、なんか背中からブースターみたいなのが火を吹いて、加速しながらそれを躱していく茶々丸さん。ロボすげえ。
11じゃ仕留められませんか……。どうしましょう、これ。今のでダメなら他の攻撃魔法しかなくなるのですが……。
あんまり荒っぽいのは嫌いです。のんびり気楽にいきたいのです。
「ほう……」
キティちゃんも感心してないで止めてくださいよ。もう終わりでよくないです、これ? 茶々丸さん壊れますよ?
「油断しました。次からは本気で行きます」
「やめてください」
ほらもうスピードがさっきと全然違いますし! すいませんさっき思ったの嘘です撤回です!
なんて思ったところで、言葉にしていないのだから聞こえるはずもありません。でもやっぱりなんか調子に乗ったせいかと思うのです。
怒涛のラッシュが私を襲います。これはさすがに避け切れません。防御魔法もアレしかありませんが……仕方ありません。
「
炎の盾を召喚して攻撃を防ぎます。これ、攻撃を防ぐ度に爆発しますから、近距離戦闘相手だと攻守を兼ねられて便利なのですよね。その度に消耗しますけど。
というか、全く怯まずにラッシュかけるのやめてください。ああ、爆発がモロに直撃している! あんまり傷つけたくないんですってば!
「ああもう!」
無詠唱で風矢を3矢、距離零射撃で放ちます。この距離ならさすがに避けられることはありません。
でも数が少なすぎます。数秒ほどであっさり破られ、再び接近してきました。むぅ、詠唱する暇が無くなりましたね……。
といいますか、そろそろ避けるのも限界です。早すぎるのですよ、茶々丸さん。勘弁してください。
「ハッ!」
「うひゃあ!」
いい今顔を掠めましたけど!? 顔面直撃コースでしたけど今の拳!?
どうしますか――って、やっぱりアレしかないんでしょうねぇ……。
「逃がしません」
「いいえ、逃げますよ」
一度後ろに跳んで距離を開けようとしますが、茶々丸さんは一瞬でその距離を縮めます。
ですが――
「ふっ!」
「――っ!?」
魔力を足に込め、それを一気に開放することで得られるほんの一瞬の加速。先生から逃げるのには重宝しましたよ。
逃げたと思った相手を追ったのに、瞬間移動みたいな速度で向かってくれば、さすがにロボでも処理できないでしょう。
それを使って茶々丸さんの背後に回り込んで
さっきと同じく3矢ですから拘束力は殆どありません。ですがそれはあくまでも3矢での場合です。
「『
特殊術式『
そして発動するのはさっきの戒めの風矢3本。合計6本の風が茶々丸さんを捕らえました。これなら一撃分の時間は稼げます。
茶々丸さんに手を向けて、無詠唱
「あとは
何が何でもどっちかが倒れるまで、なんて事態には出来るだけさせたくありません。これで降参してくれればいいですけど。
どちらにでもなく声を向けましたが、果たして。
「……はぁ。茶々丸、もういい」
「すみません、マスター。油断しました。まさか瞬動術を使えるとは思っていませんでした」
「いい。それは私も同感だからな。まさかこんなガキが瞬動をな……しかも入りと抜きが殆どわからんレベルで使えるとは……。あれは縮地と変わらん」
「その縮地ってのはわかりませんが、『お前は逃げることにかけては世界でも五指に入る』とのお褒めの言葉を預かったことはあります」
「褒められとらんぞ、それは」
額を抑えて呆れながら言うキティちゃん。 はい知ってます。あの教師の呆れた目は明らかに人を褒めるものではありませんでしたし。
ムカついたのでロッカーの鍵に精霊付けて飛ばしときました。無様に鍵を追いかける姿は見物でしたね。ええ、きっちり制裁されましたが。
ともあれ、どうやら終わりのようです。これで一安心。そして寝床も確保。イヴちゃん大勝利。いぇい。
「……はぁ、仕方ない。約束は約束だ。お前にはうちの屋根で寝る権利をくれてやる」
「確かに家ではありますが中に入れてほしかった」
土下座してどうにか家の中で寝ることを許してもらいましたとさ。
「で、怪しまれないように学校には行けと」
「ああ。ぼーやはともかく、教師陣に見つかると何かを画策していると探られかねん。封印されているとはいえ、かつて世界を恐怖に陥れた私と共にいるのは都合が悪い」
「自分で言いますか、それを。まあ、言わんとすることはわかりますが。学校面倒なのですよねぇ……」
そりゃあ確かに、向こうさんはキティちゃんが封印を解きたがっているのを知っているだろうし、ネギ君が来た時点で襲われることも考慮しているでしょう。
なら私が関わっているとバレるのは確かに都合が悪いです。何かしらの方法で物理的に離されかねません。そうなるとネギ君に嫌がらせもできなくなります。それは困ります。あの子には(無駄に)恐怖を味合わせないと。
事情はわかりますが、それで私が納得するかと言えば別です。学校には行きたくありません。どうして大卒レベルの学力があるのに、今更中学校の勉強を……。
「そう言うと思ってじじぃから預かってきたぞ。ほれ」
ピンッと指先で弾かれた手紙を受け取り、中を見るとそこにはこんなことが。
『イヴちゃんへ
メルディアナ魔法学校から通達じゃ。真面目に授業を受けん限りは本国には戻さない、だそうじゃ。本来なら問題を起こせば本国に強制送還じゃが、お主の場合は逆のようじゃのう。ま、頑張りんさい♡ 学園長より』
グシャリ。
「あの両くそじじいが」
「ま、今日は仕方なくここに泊めてやるが、明日からは寮で過ごすんだな。ルームメイトも用意されてるらしいから安心しろ」
「しかも追い出されますか」
せっかくの安寧が! あらゆるしがらみから逃れられると思ったのに! というか、あの手紙無駄に達筆で余計腹立つ!
……はぁ……寮かぁ……。多分見回りとかいますよねぇ……。
あのヒゲグラ……ってことはないでしょうが、あの感じだと他の先生も魔法のことを知っている、ないしは使える可能性が高いです。授業をサボるのが難しくなりましたよ。なんですかこのハードモードは。
ああ、隣で大笑いしているキティちゃんが今は憎い。この人はサボってるクセに。
「どんなに苦労しても絶対に脱走してやる」
「真面目に授業を受ける方が遥かに簡単だと思うのだが、お前にその選択肢はないのか」
断言します。ありません。
一日目にしてこの状況。私が何をしたというのでしょうか。ただ授業をサボりたいだけだというのに。
「まあいい。それよりお前、瞬動をどこで覚えた? まさか自力で覚えたとか言わんだろうな」
「あ、あれそういう名前なんです? さっき縮地って言ってましたけど」
「んあ? ああ、瞬動の最終形がそれだが――ってそうじゃない。どこで覚えたかと聞いている」
「教師から逃げてたら自然と身につきました」
「……規格外のバカだな、お前は」
褒め言葉として受け取ります。
ちなみに、後ほど空中で跳ねてみたらそれも驚かれました。曰く、『虚空瞬動』というワンランク上の技だそうです。
大層な名前付いてますよねぇ。ただ魔力を込めて地面蹴るだけですよ?
「その単純な動作がどれだけ難しいかわかってるのか……。入りはともかく、止まる時に身体がついていかずに吹っ飛ぶだろうに」
「ですから吹っ飛ばないように練習したんですよ。いちいち飛んでたら逃げられませんし。そしたら自然に」
「その努力の方向を別に向けろ」
無理です。興味あることしかできません。
ともかく、今日はいろいろと疲れましたし、早めに寝るとしましょう。ダラダラするのは大好きです。
さすがにベッドを使うのははばかられましたので、一階のソファを使います。
「じゃ、晩御飯ができたら起こしてください。おやすみなさ〜い」
「なっ、おい! 起きろキサマ!」
その後も何かごちゃごちゃ言ってましたけど、私は眠かったのでほとんど聞き流してしまいました。おやすみなさい。