あれから意外と律儀に晩御飯に起こしてくれたことに感謝の意を示し、こっそりとウェールズの畑からパクッ――拝借してきたネギをキティちゃんのお皿にたくさん盛ってあげました。ネギ君を襲うんですからネギを食べて縁起を担ぎ――え? ネギが苦手? 吸血鬼だから? なるほど、なら余計に食べないとですね。苦手意識はいけませんよー。
じゃあせめて火を通せ? いや、ネギ君に火を通すんですか? 通さないでしょう。生の方が効果ありますよ、多分。
キティちゃんの必死の叫びもなんのその。最終的に生のネギを一本丸々口の中に突っ込んであげることで終結しました。目を回して倒れましたけど、まあこれでネギは食べられたことですし縁起は担げたでしょう。とりあえず二階のベッドに運んでおきました。
さて、キティちゃんも寝てしまったことですし、私も明日に備えて寝ることにしましょう。
「マスターがここまで手玉に取られるのは初めて見ました」
茶々丸さんが零します。それはレアな体験をしましたね。そのメモリーフォルダに永久保存して脅しのネタに取っておくといいですよ。
ではおやすみなさい。
「さっさと行け馬鹿者が!」
ほとんど意識も覚醒しないまま、パジャマ姿で外に蹴り出されました。解せぬ。あ、制服も放り投げてきましたね。
本当に律儀です。アイロンまでかけてありました。すげえ。
案の定と言いますか、やっぱり怒ってますね。ま、どうせ昨日一日だけの約束でしたし、最後にイタズラも仕掛けて『あああー!? ベッドの下から大量のカエルが!?』おきましたから心置きなく寮暮らしができます。本当はしたくないですけどね。
さて、これからどうしましょうかね。パジャマ姿でうろつくのはさすがにはばかられますし……いや、やっぱめんどくさいのでこのままで。
学校は論外ですから……このままどこかで日向ぼっこでも――
「来い」
連行されました。おのれヒゲグラ。
『えー、であるからして――』
結局抵抗できずに教室まで連行されました。脱走兵の対策は相変わらず万全のようです。
はあ、つまらない授業。何か事件が起こればいいのに。テロリストさん、どうぞ学校内に侵入しに来てください。ストレスの捌け口にしますから。
なんていう物騒な思想を持つ程度にはつまりません。
『えー、であるからして――』
そもそも、私にこういう授業は今さらなんですよ。私がどれだけ勉強したと思ってるんですか。特に理系。文系はわりとどうでもよかったですが、まあ皮肉を言うために言葉遊び程度にはやりましたかね。
日本語はトップクラスに難しかったですが、響きがきれいで好きです。似たような言葉が多すぎてイライラしましたけど。『シ』と『ツ』なんか何が違うんですか。ほぼ同じでしょう。『お』と『を』も同じ響きで意味が違うって、参考書投げましたよ。今さらですけど、よく私日本語覚えられましたよね。あの頃の自分を褒めたい。
『えー、であるからして――』
どうでもいいですけど、この先生『であるからして』多すぎませんか? 暇潰しにカウントしてたら今で十八回目ですよ。あ、また言った。
「はあ……」
退屈です。いっそ武装解除でも使ってやりましょうか。周り全員ストリップショー。あ、面白そうですね。やってみましょうか。
「
「や、やめてください!」
「まぐっ!?」
突然口を抑えられました。何事ですか!?
『おーい、佐倉。暴力はいかんぞー。席に座りなさーい』
「あ、す、すみません……」
どっと教室に笑いが起こります。ふむ? この子……。
顔を赤くしながら席に着く、私の口を抑えた――いや、詠唱を止めた隣の席の佐倉愛衣さん、でしたっけ。
確かめてみましょうか。
「あの、佐倉さん」
「は、はい? 何でしょう……」
「もしかしてあなた、魔法使いだったりします?」
「!!」
再び口を抑えられました。これはもう確定ですね。ここまで隠す気もない――いや、本人は隠してるつもりなのでしょうが、図星を突かれてバレるまでが早すぎやしませんかね。隠し事には向いてなさそうです。
『佐倉、さっきからどうしたー? もしかして嫌なことでもされてるのかー?』
「い、いえ……大丈夫です……」
そう言ってまたおずおずと席に着く佐倉さん。これは……ちょっと面白いことになるかもしれません。
終業のチャイムが響きます。ようやくこの地獄から解放されました。素晴らしきかな、フリーダムタイム。
さてと。
「ちょいと、そこな佐倉さんや」
「! な、何でしょう……」
わお、警戒されてますねー。仕方ないと言えば仕方ないですが。
まあいいです。こういう大人しいタイプの子はどうとでもなりますから。
「私の言う事を聞かないと脱がします」
「いきなり何ですか!?」
あ、何か間違えました。
「いえ、違います。私、最近ここに来たばかりなので麻帆良内を案内してもらいたいんですよね」
結局あの
「い、いいですけど……どうして私なんです?」
「御しやすそ――親切そうでしたので」
「今、御しやすいって言いませんでしたか!? 日本語を間違えただけですよね!? 本気でそう思ってませんよね!?」
思ってないと言えば嘘になりますね。
「そんな些細なことはいいじゃないですか。じゃ、案内してください」
にっこりと外面の笑顔を貼り付けて、いかにも『純粋そう』に頼みます。
「う……まあ、いいですけど……。じゃあ着いてきてください」
「はーい」
よし、これで一段階目はクリアです。あとは適当に人がいない所で聞き出しますかね。
ネギ君が女性に追いかけられてました。
「何をやってるんですか……」
「? どうかしました?」
「いえ、何でも……ちょっと頭痛が痛くなっただけで……」
「やっぱりまだ日本語は完璧じゃなかったんですね。頭痛が痛いはおかしいですよ。二重表現になっちゃいますので、正しくは『頭痛がする』とかですよ」
「はい、覚えておきます……」
いや、知ってるんですけどね……。さすがに面白いこと大好きの私でも頭抱えずにはいられません。昨日の今日でまた問題を起こしますか……。人のこと言えませんけど。
大方ホレ薬関係でしょうね。今ネギ君がものすごく魅力的に見えてますから。
なんというか、不思議な感じです。魅力的に見えて、なおかつネギ君に親愛以上の感情を持っていると断言できるのに、それを俯瞰している自分もいる感じ。
これも右手の――何でしたっけ? ああ、
「……? あ、あの子ですか?」
あ、まずい。佐倉さんが見ちゃうと……
「……か、かっこいい子ですね……♡」
あーあーあー無駄に強力なホレ薬を! あの子の潜在魔力はどうしてこう問題を起こしたがりますかねぇ!
「……仕方ないですね」
「ああ、素敵な人――あふぅ……」
映画とかでよくある、首をトンとやるあれで意識を奪います。何で私がネギ君のトラブルに巻き込まれないといけないんですか。私は巻き込み専門なんですよ、まったく。
ああもう、本当に――
「めんどうな……」
少なくとも、授業以外では退屈しない日々を遅れそうです。
あ、というか、佐倉さんが魔法使いかどうか聞くのどうしましょうかね。